残酷な描写あり
5-2 妖退治
「日和、今日は私が送るわ」
放課後になり、ぞろぞろと教室から人がはけていく。
そんな中、流れに逆らって話しかけてきたのは波音だった。
ちなみに弥生は既に「じゃあね日和、また明日ね!」と笑顔で帰った後だ。
「そうなの? じゃあ、よろしくお願いします」
「ええ。それに……私の方からも日和に教えないといけないことがあるから、早く行きましょ」
「うん」
波音と共に教室を出て、玄関へ向かう。
靴を履き替え玄関を抜けてから、ふと疑問を感じた。
「教えないといけないことって?」
「まだ日和にはきちんと紹介してない奴がいるでしょ?ほら、そこに」
波音が指差した先。
校門にはここからはかなり離れた男子校の制服に身を包んだ、見覚えのある少年の後ろ姿が見えた。
「……あ、羽根の子」
「あ、手帳のお姉さんだ。今日も会いましたね」
こちらに気付き、くるりと回った少年は明るい笑顔を見せる。
爽やかで、なんと眩しいことだろう。
「今日も会いましたね、じゃないのよ。今から日和を家に送るから見回りのついでに自己紹介すんのよ」
「あっ、なるほどそういう事かあ」
波音の睨みにも怯む事なく、少年は手のひらを叩く。
そして納得したように大きく頷くと、日和の前に歩み出て丁寧に頭を下げた。
「何度かお会いしてますが……僕、『小鳥遊び』に『夏の樹木』で小鳥遊夏樹です。この制服で分かると思いますが、今は中学3年です」
「あ……私は金詰日和です。すごく丁寧ですね、よろしくお願いします。えっと……風を扱うんでしたっけ?」
夏樹は礼儀正しく頭を下げるので、合わせて頭を下げる。
更に自己紹介はなんとも分かりやすく、随分としっかりした子だなと日和は驚いた。
「はい、そうです。……あれ、僕言いましたっけ?」
「私が軽く紹介しといたのよ」
「さすが波音さん口が軽――げふん」
「聞こえてるわよ……?」
わざとらしく咳をする夏樹に波音の鋭い視線が刺さる。
その姿に日和は思わずくすっと笑った。
「ふふ、仲良しなんですね」
「……」「……」
「……何かあったんですか?」
「昔、ちょっとね」「気にしなくて大丈夫です……」
日和からすると二人は以前も一緒に居たし、随分と仲が良さそうに思っていた。
それなのに何故か質問の返しには、互いに視線を大きく外して詳しくは教えてくれなかった。
何があったのかは聞ける空気ではないが、なんとも不思議な二人だ。
「さ、さあ、とりあえず行くわよ!」
妙な空気に耐えられなかったか、波音は気を取り直すように真っ先に日和の家の方面へと足を向ける。
その背に日和、夏樹と後に続いていく。
道を歩き始める、夏樹は日和の顔を覗いて口を開いた。
「そういえば金詰さん、羽根はどんな状態ですか?」
「あっ……おじいちゃん探す時はもう黒くて……あれ、もっと酷くなってる」
「うわぁ、すごい」
日和は思い出すように生徒手帳を開くと、羽根は焦げた様に黒く、毛羽立っていた。
その変化に夏樹は棒読みのような感情の篭っていない感嘆詞を吐き出した。
「まあ、あれじゃ仕方ないわよね……」
ため息交じりに波音は言う。
祖父は襲われたのに自分が大丈夫だったのは、もしかしてこの羽根のおかげだったのだろうか。
以前『悪霊退散』と準えたが、強ち間違いでも無かったのかもしれない。
「この羽根はもう、浄化できませんね。新しいものと交換します」
夏樹は日和から羽根を受け取り、ポケットから新たな羽根を取り出し、差し出す。
羽根の交換は既に二度目。
流石に疑問が口に出ない訳が無く、日和は不思議そうに首を傾げた。
「ありがとう。ちなみに、この羽根はどんな効果があるの?」
「前に厄除け、と言いましたが……厳密には、妖避けです。この羽根には僕の力を織り交ぜているので、持っているだけである程度は近付けさせないようにしてます」
「へぇ、そんな事出来るんだ……」
「とは言っても、この地域は比較的強い妖ばかりなので……それこそ『女王』相手となれば無意味ですけどね」
「女王……?」
突然現れた『女王』という言葉。
妖と女王が結びつかず、日和は首を傾げる。
中世のドレスを纏ったお貴族様のイメージが脳内に浮かんだが、流石に違うだろうと全力で振り払った。
「前に師隼様がさり気無く言いましたが、『その人間に成りすまして、その後を人として生きることもできる』程の力を持った妖を、僕達は女王と呼んでいます」
「まぁ、そもそも妖なんて2,3日に1回出れば十分よ。その内の女王なんて一握りなんだから」
夏樹の言葉に補足を入れる形で波音が口をはさむ。
それでも出てくる回数としては多いのではないだろうかと感じるのだが、どうなのだろう。
「2,3日に一回……」
「一匹の時や複数いる時だってあるわよ。基本は夕方……早くて今の時間からはもう出てくるんじゃないかしら」
突然、前を歩く波音の足が止まった。
そして「ほらね」と波音が後ろへ振り向いた瞬間、灰と焦げ茶が気持ち悪い混ざり方をしている色味の鷹が1匹、空から滑空してきている。
「金詰さんこっち!」
「とりあえず殴るわよ!!」
日和が空の生物を認識するよりも早く、夏樹は瞬時に日和の体を道路脇に寄せる。
同時に波音は手に火を携え、降ってくる鷹に右・左と1撃ずつ殴りつけた。
「あれが、妖……?」
「結界、張ります!」
「焔、装衣換装!」
日和がその姿を凝視する間に夏樹は指で地面に印を描き、波音は鷹を睨みつけながら焔を呼び出し全身を燃やす。
波音に殴られた鷹は地面に一度強く叩きつけられたが、それでもふらふらとしながらも力強く空へと還り、体勢を立て直している。
そして再度空から滑空を始め、「風琉、僕も行くよ」と夏樹が声を上げた。
「さあ…かかってきなさい!!」
祖父を探していた時と同様、焔の服を身につけていた波音は戦闘の構えを取る。
一方の夏樹の衣服も制服から分厚そうなコートに変わってマフラーを靡かせている。
それも、祖父が死んだあの夜の姿。
日和の中で改めて、あの少年が夏樹だったのだと認識した瞬間だった。
「夏樹は風であいつを叩き落としなさい。あとは私が焼くわ」
「はい!」
掛け声に合わせ、夏樹は近くまで槍のように滑空をしてきた鷹に向けて腕を振り上げる。
すると轟、と音を立てた風によって滑空の道を遮られた鷹は、大きな翼を動かし再び舞い上がった。
空が自分にとって優勢な場所だと感じているのだろうか。
鷹は体勢を戻し再び滑空の姿勢に入る。
しかしその気を見計らったかのように、夏樹は何かを掴んで引くように腕を動かした。
その動きがどんな効果を齎すのか。
その意味が日和にはよく分からなかったが、鷹は背中から押さえられたように翼を広げたまま高速で落ちてくる。
そこへ真下に待機した波音が肩幅弱に手を広げた。
その中心に火球を作り出し、落下してきた鷹に叩きつける。
「っせええええええい!!!」
大きな掛け声と共に鷹は一瞬で火だるまになり、霧状になって消えていく。
たった一瞬の出来事。
短い時間だったが、それは言葉を失ってしまう程で、圧巻だった。
息の合った二人の連係プレーを前にして、術を使って戦う姿を初めて見た日和には全てが新鮮でしかない。
二人の換装が解けるまで、日和は二人の姿をただじっと見ていた。
「ふぅ、まだ雑魚だったわね」
波音の一言共に、まるで炎が掻き消えるように波音の衣服が解け、制服に戻った。
燃えていた手を払うように叩いた波音は腕をぐっと伸ばす。
同じくして柔らかな風がふわりと吹いて夏樹も制服姿に戻り、日和の顔を覗いた。
「金詰さん怪我はありませんか?」
「え……あ、はい、大丈夫です。今のが、妖ですか?」
「そうね。あれはまだよく目にする方だけど。鳥型だけじゃなく、狼とか熊とか色んなものが居るわ」
「そうなんですか……! 今の服の方は?」
「あれは装衣換装といって、僕達の式の衣服を身に包む――云わば術士のための鎧ですかね」
「術士の為の鎧……あ、じゃあ――」
「――竜牙と咲栂は別よ。というかやっと貴女の事を理解したけど、興味出たら質問攻めにしてくるのはやめなさい」
波音はだんだんと声のトーンが上がっていく日和の両肩に両手を置き、落ち着かせる。
はっ、と我に返ったように、自身が興奮していた事に気付いた日和は「あはは……」と乾いた笑いを浮かべて「すみません」と謝った。
「言ったでしょ? 竜牙と咲栂は特別な式なの。あの人達は式自体の力が強いからそのまま主の体を媒介にして動く憑依換装になるの。貴方はいつも、竜牙で見てるでしょ」
人差し指を立て説明する波音に、日和は「へえ……」と声を上げ……首が傾く。
「あれ? という事は、置野君は……」
「……まあ、察しの通りね」
「ど、どこか遠い場所にいるんだと思ってました……」
「あの姿だと町も歩けないでしょ?してるのは巡回という名の警備だけど。まあ、あの正也はこっちの仕事を優先しちゃう性格だから学校の事気にしなくてよくなったって思ってるでしょうね」
「そう、なんだ……」
「正也さんは僕達の中では一番ベテランなんですよ。玲さんも負けず劣らずですが」
***
再び歩き出した波音と日和、夏樹が術士について話している頃、玲と竜牙で周囲を警戒していた。
「――くしゅっ」
「竜牙がくしゃみするなんて珍しいね。今の中身が正也なのは分かってるけど、式がくしゃみするのって初めて見たよ」
「……なんか寒気がした」
「どうせまた波音が噂しているんだよ」
「……波音のすぐに喋る所は苦手」
腕をさすり、嫌そうな顔をする竜牙は大きくため息を吐く。
その姿に玲は笑いながらスマートフォンを手にした。
「あ、波音達の所で一匹鷹型が出たのを倒したみたいだよ」
「そうか。……久しぶりに動くから、腕が鈍ってそうだ……」
竜牙はそう言って手を握って開く動きを繰り返す。
それに対しても、玲はくすくすと笑って小さく呟いた。
「竜牙に任せれば良いのに……」
放課後になり、ぞろぞろと教室から人がはけていく。
そんな中、流れに逆らって話しかけてきたのは波音だった。
ちなみに弥生は既に「じゃあね日和、また明日ね!」と笑顔で帰った後だ。
「そうなの? じゃあ、よろしくお願いします」
「ええ。それに……私の方からも日和に教えないといけないことがあるから、早く行きましょ」
「うん」
波音と共に教室を出て、玄関へ向かう。
靴を履き替え玄関を抜けてから、ふと疑問を感じた。
「教えないといけないことって?」
「まだ日和にはきちんと紹介してない奴がいるでしょ?ほら、そこに」
波音が指差した先。
校門にはここからはかなり離れた男子校の制服に身を包んだ、見覚えのある少年の後ろ姿が見えた。
「……あ、羽根の子」
「あ、手帳のお姉さんだ。今日も会いましたね」
こちらに気付き、くるりと回った少年は明るい笑顔を見せる。
爽やかで、なんと眩しいことだろう。
「今日も会いましたね、じゃないのよ。今から日和を家に送るから見回りのついでに自己紹介すんのよ」
「あっ、なるほどそういう事かあ」
波音の睨みにも怯む事なく、少年は手のひらを叩く。
そして納得したように大きく頷くと、日和の前に歩み出て丁寧に頭を下げた。
「何度かお会いしてますが……僕、『小鳥遊び』に『夏の樹木』で小鳥遊夏樹です。この制服で分かると思いますが、今は中学3年です」
「あ……私は金詰日和です。すごく丁寧ですね、よろしくお願いします。えっと……風を扱うんでしたっけ?」
夏樹は礼儀正しく頭を下げるので、合わせて頭を下げる。
更に自己紹介はなんとも分かりやすく、随分としっかりした子だなと日和は驚いた。
「はい、そうです。……あれ、僕言いましたっけ?」
「私が軽く紹介しといたのよ」
「さすが波音さん口が軽――げふん」
「聞こえてるわよ……?」
わざとらしく咳をする夏樹に波音の鋭い視線が刺さる。
その姿に日和は思わずくすっと笑った。
「ふふ、仲良しなんですね」
「……」「……」
「……何かあったんですか?」
「昔、ちょっとね」「気にしなくて大丈夫です……」
日和からすると二人は以前も一緒に居たし、随分と仲が良さそうに思っていた。
それなのに何故か質問の返しには、互いに視線を大きく外して詳しくは教えてくれなかった。
何があったのかは聞ける空気ではないが、なんとも不思議な二人だ。
「さ、さあ、とりあえず行くわよ!」
妙な空気に耐えられなかったか、波音は気を取り直すように真っ先に日和の家の方面へと足を向ける。
その背に日和、夏樹と後に続いていく。
道を歩き始める、夏樹は日和の顔を覗いて口を開いた。
「そういえば金詰さん、羽根はどんな状態ですか?」
「あっ……おじいちゃん探す時はもう黒くて……あれ、もっと酷くなってる」
「うわぁ、すごい」
日和は思い出すように生徒手帳を開くと、羽根は焦げた様に黒く、毛羽立っていた。
その変化に夏樹は棒読みのような感情の篭っていない感嘆詞を吐き出した。
「まあ、あれじゃ仕方ないわよね……」
ため息交じりに波音は言う。
祖父は襲われたのに自分が大丈夫だったのは、もしかしてこの羽根のおかげだったのだろうか。
以前『悪霊退散』と準えたが、強ち間違いでも無かったのかもしれない。
「この羽根はもう、浄化できませんね。新しいものと交換します」
夏樹は日和から羽根を受け取り、ポケットから新たな羽根を取り出し、差し出す。
羽根の交換は既に二度目。
流石に疑問が口に出ない訳が無く、日和は不思議そうに首を傾げた。
「ありがとう。ちなみに、この羽根はどんな効果があるの?」
「前に厄除け、と言いましたが……厳密には、妖避けです。この羽根には僕の力を織り交ぜているので、持っているだけである程度は近付けさせないようにしてます」
「へぇ、そんな事出来るんだ……」
「とは言っても、この地域は比較的強い妖ばかりなので……それこそ『女王』相手となれば無意味ですけどね」
「女王……?」
突然現れた『女王』という言葉。
妖と女王が結びつかず、日和は首を傾げる。
中世のドレスを纏ったお貴族様のイメージが脳内に浮かんだが、流石に違うだろうと全力で振り払った。
「前に師隼様がさり気無く言いましたが、『その人間に成りすまして、その後を人として生きることもできる』程の力を持った妖を、僕達は女王と呼んでいます」
「まぁ、そもそも妖なんて2,3日に1回出れば十分よ。その内の女王なんて一握りなんだから」
夏樹の言葉に補足を入れる形で波音が口をはさむ。
それでも出てくる回数としては多いのではないだろうかと感じるのだが、どうなのだろう。
「2,3日に一回……」
「一匹の時や複数いる時だってあるわよ。基本は夕方……早くて今の時間からはもう出てくるんじゃないかしら」
突然、前を歩く波音の足が止まった。
そして「ほらね」と波音が後ろへ振り向いた瞬間、灰と焦げ茶が気持ち悪い混ざり方をしている色味の鷹が1匹、空から滑空してきている。
「金詰さんこっち!」
「とりあえず殴るわよ!!」
日和が空の生物を認識するよりも早く、夏樹は瞬時に日和の体を道路脇に寄せる。
同時に波音は手に火を携え、降ってくる鷹に右・左と1撃ずつ殴りつけた。
「あれが、妖……?」
「結界、張ります!」
「焔、装衣換装!」
日和がその姿を凝視する間に夏樹は指で地面に印を描き、波音は鷹を睨みつけながら焔を呼び出し全身を燃やす。
波音に殴られた鷹は地面に一度強く叩きつけられたが、それでもふらふらとしながらも力強く空へと還り、体勢を立て直している。
そして再度空から滑空を始め、「風琉、僕も行くよ」と夏樹が声を上げた。
「さあ…かかってきなさい!!」
祖父を探していた時と同様、焔の服を身につけていた波音は戦闘の構えを取る。
一方の夏樹の衣服も制服から分厚そうなコートに変わってマフラーを靡かせている。
それも、祖父が死んだあの夜の姿。
日和の中で改めて、あの少年が夏樹だったのだと認識した瞬間だった。
「夏樹は風であいつを叩き落としなさい。あとは私が焼くわ」
「はい!」
掛け声に合わせ、夏樹は近くまで槍のように滑空をしてきた鷹に向けて腕を振り上げる。
すると轟、と音を立てた風によって滑空の道を遮られた鷹は、大きな翼を動かし再び舞い上がった。
空が自分にとって優勢な場所だと感じているのだろうか。
鷹は体勢を戻し再び滑空の姿勢に入る。
しかしその気を見計らったかのように、夏樹は何かを掴んで引くように腕を動かした。
その動きがどんな効果を齎すのか。
その意味が日和にはよく分からなかったが、鷹は背中から押さえられたように翼を広げたまま高速で落ちてくる。
そこへ真下に待機した波音が肩幅弱に手を広げた。
その中心に火球を作り出し、落下してきた鷹に叩きつける。
「っせええええええい!!!」
大きな掛け声と共に鷹は一瞬で火だるまになり、霧状になって消えていく。
たった一瞬の出来事。
短い時間だったが、それは言葉を失ってしまう程で、圧巻だった。
息の合った二人の連係プレーを前にして、術を使って戦う姿を初めて見た日和には全てが新鮮でしかない。
二人の換装が解けるまで、日和は二人の姿をただじっと見ていた。
「ふぅ、まだ雑魚だったわね」
波音の一言共に、まるで炎が掻き消えるように波音の衣服が解け、制服に戻った。
燃えていた手を払うように叩いた波音は腕をぐっと伸ばす。
同じくして柔らかな風がふわりと吹いて夏樹も制服姿に戻り、日和の顔を覗いた。
「金詰さん怪我はありませんか?」
「え……あ、はい、大丈夫です。今のが、妖ですか?」
「そうね。あれはまだよく目にする方だけど。鳥型だけじゃなく、狼とか熊とか色んなものが居るわ」
「そうなんですか……! 今の服の方は?」
「あれは装衣換装といって、僕達の式の衣服を身に包む――云わば術士のための鎧ですかね」
「術士の為の鎧……あ、じゃあ――」
「――竜牙と咲栂は別よ。というかやっと貴女の事を理解したけど、興味出たら質問攻めにしてくるのはやめなさい」
波音はだんだんと声のトーンが上がっていく日和の両肩に両手を置き、落ち着かせる。
はっ、と我に返ったように、自身が興奮していた事に気付いた日和は「あはは……」と乾いた笑いを浮かべて「すみません」と謝った。
「言ったでしょ? 竜牙と咲栂は特別な式なの。あの人達は式自体の力が強いからそのまま主の体を媒介にして動く憑依換装になるの。貴方はいつも、竜牙で見てるでしょ」
人差し指を立て説明する波音に、日和は「へえ……」と声を上げ……首が傾く。
「あれ? という事は、置野君は……」
「……まあ、察しの通りね」
「ど、どこか遠い場所にいるんだと思ってました……」
「あの姿だと町も歩けないでしょ?してるのは巡回という名の警備だけど。まあ、あの正也はこっちの仕事を優先しちゃう性格だから学校の事気にしなくてよくなったって思ってるでしょうね」
「そう、なんだ……」
「正也さんは僕達の中では一番ベテランなんですよ。玲さんも負けず劣らずですが」
***
再び歩き出した波音と日和、夏樹が術士について話している頃、玲と竜牙で周囲を警戒していた。
「――くしゅっ」
「竜牙がくしゃみするなんて珍しいね。今の中身が正也なのは分かってるけど、式がくしゃみするのって初めて見たよ」
「……なんか寒気がした」
「どうせまた波音が噂しているんだよ」
「……波音のすぐに喋る所は苦手」
腕をさすり、嫌そうな顔をする竜牙は大きくため息を吐く。
その姿に玲は笑いながらスマートフォンを手にした。
「あ、波音達の所で一匹鷹型が出たのを倒したみたいだよ」
「そうか。……久しぶりに動くから、腕が鈍ってそうだ……」
竜牙はそう言って手を握って開く動きを繰り返す。
それに対しても、玲はくすくすと笑って小さく呟いた。
「竜牙に任せれば良いのに……」
憑依換装(正也・玲)
術士の体に式神を憑依させるので見た目が式神になる。
その間術士は式神に力を送るだけで、式神との意志疎通以外何もできない。
妖と戦えるかは術士の送る力と式神の能力次第。
装衣換装(波音・夏樹)
術士の体に式神の衣服を纏わせるので式神と同じ服になる。
攻撃を食らっても式神の衣服なのである程度ダメージが軽減される。
式神の服を着てるからって式神が扱えない訳ではないので、挟撃や式神に戦いを任せて自分は他の事をするのも可能。
術士の体に式神を憑依させるので見た目が式神になる。
その間術士は式神に力を送るだけで、式神との意志疎通以外何もできない。
妖と戦えるかは術士の送る力と式神の能力次第。
装衣換装(波音・夏樹)
術士の体に式神の衣服を纏わせるので式神と同じ服になる。
攻撃を食らっても式神の衣服なのである程度ダメージが軽減される。
式神の服を着てるからって式神が扱えない訳ではないので、挟撃や式神に戦いを任せて自分は他の事をするのも可能。