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作者: 川崎俊介
ホワイトリスト
「ホワイトリストとブラックリストがあるらしいな」

「何の話?」

 ホテルの一室でゴロゴロするアルハスラは、面倒そうに返してきた。

「要するに、ウィスパリングフェアリー社が絶対に殺したい奴らのリストと、こいつらだけは見逃してやってもいいってリストの二つがあるってことだ」

「へぇ。高値で売れそうだね」

「あぁ、実際、ウィスパリングフェアリー社は、ホワイトリスト入りできる権利を高値で取引しているらしい」

「悪趣味な商売ね」

「だが打開策はある。世界樹の苗木を利用すればいい」

「話が見えないんだけど」

「いずれ分かるさ」

 俺でかめのバッグから小さな水槽を取り出した。中には株分けしてきた世界樹の苗木が、浮かんでいた。

 これは、異世界放浪時代に、世界樹の麓で取引されていたものだ。世界樹は神聖な植物だが、こんな風に商売に利用されてしまっているのだ。

 そういえば、ちょっと根っこを切り出すだけだというのに、法外な値段を請求されたな。

 まぁ、本物であることは確認済みなので良いが。

「それを使うのね。方法は大体想像はついたわ」

 意外なことに、アルハスラは興味を示さなかった。なんだ。解説してやろうと思ってたのに。

「ところで、ウィスパリングフェアリー社は、どうやってそんな大規模集団自殺を引き起こしているのかな?」

「サブリミナル効果的なあれじゃないか? 特定の動画を投稿して、深層心理に暗示をかけるとか」

 俺は昔漫画で読んだそんなギミックを思い出したので、そのまま話してみた。

「へぇ、現世じゃそんな技術まであるのね。私らの世界じゃ、魔法使った方が早そうだけど」

「魔法で数千万単位の人間は殺せないだろ。魔力がもたない。SNSと心理学を駆使した高度なトリックだな」

「まだそうだと決まったわけじゃないでしょ」

 アルハスラは苦言を呈してきた。

「まぁ集団自殺の仕掛けは何でもいい。要は、自殺してしまっても復活できるようにすればいいだけなんだからな」

「あー、やっぱそうやるのね」

 アルハスラは勘がいい。大体俺のやろうとしていることも読まれているようだ。
「ともかく、この苗木を植えられるところまで移動しよう。東京湾がいいな」

「列島の中心に近い琵琶湖の方がよくない?」

「いや、人口が集中している場所の方がいい。早速向かうぞ」

 俺たちはホテルを出ると、人気のない場所まで移動した。魔法を使うからだ。

「よし、アイオロス。頼む」

 風を操り、俺はアルハスラと共に沿岸まで飛び立った。

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