残酷な描写あり
12.再び都市へ
私達が貿易都市に行ってから数週間が経った。
あと1年で無くなろうとしている屋敷の資金を稼ぐため、ニーナ、サムス、クワトル、ティンクの四人は貿易都市に出稼ぎに行き、そして順調にその成果を上げている。
ニーナは『美化清掃員』と『宿屋従業員』という二つの仕事を掛け持ちし、どちらも既にエース級の働きをしている。
サムスは『管理棟雑務員』という仕事量の多い仕事をしているが、仕事内容的にサムスの得意分野だった為、こちらも難なく仕事を順調にこなし信頼を獲得しているそうだ。
ティンクとクワトルの方は、無事ハンター試験に合格してハンターデビューを果たした。更にそのハンター試験の結果が優秀だったそうで、いきなり『Cランク』認定されて「将来有望か?」とハンター界隈でちょっとした話題となっているらしい。依頼も順調にこなしているようで、この調子ならランク上げも予定より早く出来そうとのことだった。
一方私は、貿易都市にある工房は大方見て回ったので、今は屋敷に戻って研究を再開している。
今している研究の内容は、カグヅチさんが作った短剣のように素材以上の性能を錬金術でも引き出すことが出来るかどうかというものだ。
ミューダはカグヅチさんが作ったあの短剣を「武器ではなく、芸術作品の様な物」と評価していたが、実はそうではない。
ミューダがそのような評価をした理由は、鉄にしては軽過ぎる短剣の重量だった。基本的に短剣などの武器は鉄か、それより重たく頑丈な鋼で作製される。
しかしあの短剣は鉄にしては軽過ぎるのだ。だからミューダは短剣が武器用ではなく、芯に木材を使用してその表面を鉄でコーティングした装飾品を目的とした芸術作品の様な物だと分析したのである。
しかしあの短剣は私の錬金術で解析すると、全て鋼を使って製作されていることが分かったので、あの短剣は間違いなく武器として使える代物なのは間違いない。
そしてこれは更に詳しく解析したことで分かったのだが、あの短剣の強度は素材である鋼以上だったのだ。
しかし常識的に考えて、素材である鋼以下の軽さや強度になることはあり得ない。
まさに不可解な点はそこなのだ。
短剣の素材は間違いなく鋼のはずなのに、何故か鋼以上の性能を持っている。その原理の謎は私の錬金術をもってしても未だ解けずにいた。
正直言って研究は今、完全に手詰まり状態だ。
錬金術であれこれ思い付く限りの事は試してみたが、鋼を鋼以上の性能の物に昇華させることができないのだ。
せっかく新しい研究テーマを見つけたというのに、私は解決策を見いだせず、研究が早速頓挫しそうになっていることに頭を悩ませていた。
(やっぱり解決の鍵はミューダの言っていた『極稀な鬼闘術』なのかなぁ……。やっぱりもう一度カグヅチさんと会って、話を聞いた方が良いのかもしれないわね。そうすれば何かヒントを得られるはず……)
私は椅子にもたれながら、カグヅチさんと会う算段を思考し始める。
次に会う時は何か話をする約束をしていたから、何か話題を持って行かなければならないのだが……一体何が良いだろうか?
頭を捻らせてそんな考えを巡らせていると、突然左腕に嵌めていた腕輪が赤く点滅し始めた。
腕輪には透明で小さな水晶が一つはめ込まれており、水晶から腕輪を一周するように魔術文字が刻まれている。赤く点滅しているのは魔術文字の方だ。
突然の事で少し驚いたが、私は水晶に指を乗せて指先から水晶に魔力を少し流す。
「――あ、ああ~。もしもし、ミーティア様ですか~? お久しぶりです。メールです~」
すると、腕輪からおっとりした声が聞こえてきた。
この独特の喋り方は、貿易都市の労働組合で求人募集を出す時に担当をしてくれたメールという女性の声だ。
遠く離れた貿易都市に居るはずのメールの声が何故腕輪から聞こえるかというと、魔術文字が刻まれたこの腕輪型の魔道具のお陰だ。
この腕輪は『ミリニアの腕輪』という魔道具だ。
ミリニアの腕輪は魔術回路で繋がった対となる二つの腕輪同士であれば、どれだけ遠く離れていても腕輪同士接続され、会話を可能にするというとても便利な魔道具だ。
私が持っているミリニアの腕輪は、労働組合で求人募集を出した際にメールから手渡された物である。
ただし私が受け取ったミリニアの腕輪は少し特別製らしく、貿易都市側からの一方的な接続しかできない作りになっているそうだ。
というのも、私が受け取った腕輪は組合からの『連絡用のミリニアの腕輪』だからだ。
話しは逸れたが、このミリニアの腕輪を手渡された時に「募集希望者が来たらこちらから連絡しますね~」とメールが言っていたことを思い出した。
つまりメールから連絡が来たということは、ついに私が出した求人に募集希望者が来たという事だ。
そして私の思った通り、メールは「募集希望者が来たので、直接顔合わせをして採用するかを決めてもらいたいです~。なので貿易都市まで来てほしいので、大まかな到着する日時を教えて下さい~」と言ってきた。
(よし、これでまた一つ計画が進むわね! ……そうだ。どうせ貿易都市に行くなら、ついでにカグヅチさんの所に顔を出すのもいいかもしれないわね。となれば――)
私はしばらく考えた後、4日後に労働組合に行くとメールに伝えた。
「了解しました~。労働組合にいらした時は受付で私を指名してください~。それでは、4日後にお待ちしております~」
その言葉を最後にメールからの回線は切れ、赤く点滅していた腕輪の魔術文字はその光力を失った。
「さて、準備に取りかかりましょうか。――色々ね」
そして4日後――。
私は約束通り貿易都市にやって来た。メールに言われた通りに、労働組合の受付でメールの事を指名してしばらく待つ……。
「ミーティア様~。大変お待たせしました~」
受付の職員が呼びに行ってからものの数分でメールが小走りで走って来た。
大きな丸眼鏡とおっとりした特徴的な口調、背中まで伸びる金髪は頭の後ろで三つ編みに纏められて歩く歩調に合わせて尻尾のように左右に揺れている。それとは正反対の上下に揺れる胸が今日も周りの男性の視線を釘付けにしている。
メールは私の前までやって来ると、頭を下げて一礼する。
「募集希望者は既に個室で待たせています~。さあ、こちらへどうぞ~」
私はメールに前回と同じく個室に案内される。ただし今回案内されたのは、前回の時とは違う個室だった。
コンコン――
「モランさん~、ミーティア様がお見えになられましたよ~! さあどうぞ、ミーティア様~」
メールはそう言って扉を開けると一歩下がり、私を中に誘導する。メールに促されて個室に入った私は中を見渡す。
中は前回入った個室と全く同じ内装だった。おそらく全ての個室が同じ作りになっているのだろう。
ただその中で、前回と違う所が一つあった。先客が一人いた事だ。
「は、はじめまして。私、“モラン”と言います! よろしくお願いします!!」
椅子から勢いよく立ち上がり、深く頭を下げて自己紹介をしてきたのは少女だった。
短く切り揃えられふわっと膨らむ綿毛のような栗色の髪を、白い羽の髪飾りでツインテールにしている。丸い眉毛、小さく丸い目、身長は私より少し低い。
これら全てが絡み合うことで、その少女にはどこか小動物を連想させる様な可愛さがあった。
しかしその小動物的な可愛さよりも、このモランと名乗った少女を大きく決定的に特徴付けるものが存在していた。
それはモランの背中から生えている、モランの上半身と同じくらいの大きさがあり、髪色と同じ栗色の二枚一対の翼だ。
あと1年で無くなろうとしている屋敷の資金を稼ぐため、ニーナ、サムス、クワトル、ティンクの四人は貿易都市に出稼ぎに行き、そして順調にその成果を上げている。
ニーナは『美化清掃員』と『宿屋従業員』という二つの仕事を掛け持ちし、どちらも既にエース級の働きをしている。
サムスは『管理棟雑務員』という仕事量の多い仕事をしているが、仕事内容的にサムスの得意分野だった為、こちらも難なく仕事を順調にこなし信頼を獲得しているそうだ。
ティンクとクワトルの方は、無事ハンター試験に合格してハンターデビューを果たした。更にそのハンター試験の結果が優秀だったそうで、いきなり『Cランク』認定されて「将来有望か?」とハンター界隈でちょっとした話題となっているらしい。依頼も順調にこなしているようで、この調子ならランク上げも予定より早く出来そうとのことだった。
一方私は、貿易都市にある工房は大方見て回ったので、今は屋敷に戻って研究を再開している。
今している研究の内容は、カグヅチさんが作った短剣のように素材以上の性能を錬金術でも引き出すことが出来るかどうかというものだ。
ミューダはカグヅチさんが作ったあの短剣を「武器ではなく、芸術作品の様な物」と評価していたが、実はそうではない。
ミューダがそのような評価をした理由は、鉄にしては軽過ぎる短剣の重量だった。基本的に短剣などの武器は鉄か、それより重たく頑丈な鋼で作製される。
しかしあの短剣は鉄にしては軽過ぎるのだ。だからミューダは短剣が武器用ではなく、芯に木材を使用してその表面を鉄でコーティングした装飾品を目的とした芸術作品の様な物だと分析したのである。
しかしあの短剣は私の錬金術で解析すると、全て鋼を使って製作されていることが分かったので、あの短剣は間違いなく武器として使える代物なのは間違いない。
そしてこれは更に詳しく解析したことで分かったのだが、あの短剣の強度は素材である鋼以上だったのだ。
しかし常識的に考えて、素材である鋼以下の軽さや強度になることはあり得ない。
まさに不可解な点はそこなのだ。
短剣の素材は間違いなく鋼のはずなのに、何故か鋼以上の性能を持っている。その原理の謎は私の錬金術をもってしても未だ解けずにいた。
正直言って研究は今、完全に手詰まり状態だ。
錬金術であれこれ思い付く限りの事は試してみたが、鋼を鋼以上の性能の物に昇華させることができないのだ。
せっかく新しい研究テーマを見つけたというのに、私は解決策を見いだせず、研究が早速頓挫しそうになっていることに頭を悩ませていた。
(やっぱり解決の鍵はミューダの言っていた『極稀な鬼闘術』なのかなぁ……。やっぱりもう一度カグヅチさんと会って、話を聞いた方が良いのかもしれないわね。そうすれば何かヒントを得られるはず……)
私は椅子にもたれながら、カグヅチさんと会う算段を思考し始める。
次に会う時は何か話をする約束をしていたから、何か話題を持って行かなければならないのだが……一体何が良いだろうか?
頭を捻らせてそんな考えを巡らせていると、突然左腕に嵌めていた腕輪が赤く点滅し始めた。
腕輪には透明で小さな水晶が一つはめ込まれており、水晶から腕輪を一周するように魔術文字が刻まれている。赤く点滅しているのは魔術文字の方だ。
突然の事で少し驚いたが、私は水晶に指を乗せて指先から水晶に魔力を少し流す。
「――あ、ああ~。もしもし、ミーティア様ですか~? お久しぶりです。メールです~」
すると、腕輪からおっとりした声が聞こえてきた。
この独特の喋り方は、貿易都市の労働組合で求人募集を出す時に担当をしてくれたメールという女性の声だ。
遠く離れた貿易都市に居るはずのメールの声が何故腕輪から聞こえるかというと、魔術文字が刻まれたこの腕輪型の魔道具のお陰だ。
この腕輪は『ミリニアの腕輪』という魔道具だ。
ミリニアの腕輪は魔術回路で繋がった対となる二つの腕輪同士であれば、どれだけ遠く離れていても腕輪同士接続され、会話を可能にするというとても便利な魔道具だ。
私が持っているミリニアの腕輪は、労働組合で求人募集を出した際にメールから手渡された物である。
ただし私が受け取ったミリニアの腕輪は少し特別製らしく、貿易都市側からの一方的な接続しかできない作りになっているそうだ。
というのも、私が受け取った腕輪は組合からの『連絡用のミリニアの腕輪』だからだ。
話しは逸れたが、このミリニアの腕輪を手渡された時に「募集希望者が来たらこちらから連絡しますね~」とメールが言っていたことを思い出した。
つまりメールから連絡が来たということは、ついに私が出した求人に募集希望者が来たという事だ。
そして私の思った通り、メールは「募集希望者が来たので、直接顔合わせをして採用するかを決めてもらいたいです~。なので貿易都市まで来てほしいので、大まかな到着する日時を教えて下さい~」と言ってきた。
(よし、これでまた一つ計画が進むわね! ……そうだ。どうせ貿易都市に行くなら、ついでにカグヅチさんの所に顔を出すのもいいかもしれないわね。となれば――)
私はしばらく考えた後、4日後に労働組合に行くとメールに伝えた。
「了解しました~。労働組合にいらした時は受付で私を指名してください~。それでは、4日後にお待ちしております~」
その言葉を最後にメールからの回線は切れ、赤く点滅していた腕輪の魔術文字はその光力を失った。
「さて、準備に取りかかりましょうか。――色々ね」
そして4日後――。
私は約束通り貿易都市にやって来た。メールに言われた通りに、労働組合の受付でメールの事を指名してしばらく待つ……。
「ミーティア様~。大変お待たせしました~」
受付の職員が呼びに行ってからものの数分でメールが小走りで走って来た。
大きな丸眼鏡とおっとりした特徴的な口調、背中まで伸びる金髪は頭の後ろで三つ編みに纏められて歩く歩調に合わせて尻尾のように左右に揺れている。それとは正反対の上下に揺れる胸が今日も周りの男性の視線を釘付けにしている。
メールは私の前までやって来ると、頭を下げて一礼する。
「募集希望者は既に個室で待たせています~。さあ、こちらへどうぞ~」
私はメールに前回と同じく個室に案内される。ただし今回案内されたのは、前回の時とは違う個室だった。
コンコン――
「モランさん~、ミーティア様がお見えになられましたよ~! さあどうぞ、ミーティア様~」
メールはそう言って扉を開けると一歩下がり、私を中に誘導する。メールに促されて個室に入った私は中を見渡す。
中は前回入った個室と全く同じ内装だった。おそらく全ての個室が同じ作りになっているのだろう。
ただその中で、前回と違う所が一つあった。先客が一人いた事だ。
「は、はじめまして。私、“モラン”と言います! よろしくお願いします!!」
椅子から勢いよく立ち上がり、深く頭を下げて自己紹介をしてきたのは少女だった。
短く切り揃えられふわっと膨らむ綿毛のような栗色の髪を、白い羽の髪飾りでツインテールにしている。丸い眉毛、小さく丸い目、身長は私より少し低い。
これら全てが絡み合うことで、その少女にはどこか小動物を連想させる様な可愛さがあった。
しかしその小動物的な可愛さよりも、このモランと名乗った少女を大きく決定的に特徴付けるものが存在していた。
それはモランの背中から生えている、モランの上半身と同じくらいの大きさがあり、髪色と同じ栗色の二枚一対の翼だ。