残酷な描写あり
21.鉱山の異変5
ストール鉱山、それは数ある鉱山の中でも採掘される鉱石の量と質が共に群を抜いて最大最高の鉱山で、マイン領のメイン産業の一つを支える重要な場所である。
そんなストール鉱山で働く鉱夫の人数は当然多い。
ストール鉱山都市とストール鉱山の距離は片道約30分だが、重労働の鉱山で働く鉱夫達には、毎日のその距離を往復することは地味にキツいものがある。
そのため大半の鉱夫達は、鉱山の直ぐ側に建てられた鉱夫達専用の宿舎を利用している。さらに、宿舎と同じ場所には鉱山警備隊の駐屯地があり、鉱山の安全を守っている。
その他にも鉱夫達の生活に不便が無いように、宿舎周辺の環境は整えられており、ちょっとした村の様相を呈していた。
そんな宿舎と鉱山の入り口の間には、開拓された広い広場がある。
この広場だが、普段は鉱山から採掘された鉱石の保管や管理をする場所になっていて、沢山の鉱石が山積みにされて置かれている。しかし、今は一部の鉱石が広場の中央に集められているだけで、それ以外の鉱石は何処かに片付けられていた。
そして、積み重なるように集められた鉱石の周りには数人の人影が集まっており、その数人の後ろ、宿舎側の方には沢山の兵士達が集まっていた。
「セレスティア殿、言われた通り、集めれるだけの鉱石を集めました!」
セレスティアにそう報告したのは、ストール領地軍・騎士団長のヴェスパだ。ヴェスパは女性でありながら高い才能と戦闘技術を兼ね備えていて、若くして領地軍最高地位の騎士団長に任命された実力者だ。
肩まで伸びる癖のある朱色の髪にスレンダーな身体つき、ピンッと伸びる背筋に愛用の細剣を携える立ち姿は美しく凛々しいものがあった。
「ありがとう。助かるわ」
セレスティアの目の前には、ヴェスパ達が集めた大量の鉱石が積み上げられている。
セレスティアがこれほど沢山の鉱石を集めさせたのは、昨日の会議でティンクが発言した内容が発端だった。
◆ ◆
「魔獣を誘き出す、ですか。……面白い案ではありますが、残念ながらそれは採用出来ません」
「どうして?」
「確かに数を活かした戦いなら、それは定石でとても有効な手です。ですが、今回の相手は魔獣という災害です。ただ数が多いだけで勝てる相手ではありません。魔獣を相手に数を利用した戦いをするならば、魔獣の情報を正確に把握した上での攪乱戦法で戦うのが得策でしょう。しかし、今回は魔獣が出現したと言ってもまだその姿は確認されておらず、情報も何一つありません。そのような状況で魔獣を誘き出して戦おうとしても、手探りで戦うことになり被害が増えるのは明らかです。なので被害を最小限にする為には、誘き出すよりも少人数の部隊を沢山運用し、鉱山にいるであろう魔獣の捜索とその情報を収集し、確実に倒せる対策をした別動隊を向かわせて一気に倒す。これが確実な戦法なのです!」
ティンクの案をそう言って否定したカールステンは更に続けて、ティンクの案のもう一つの問題点を指摘する。
「それにその案にはもう一つ、大きな問題点があります。そもそもどうやって魔獣を誘き出すかです。鉱山のどこに居るかも分からない魔獣を、誘き出す方法があるのか? これは難しい案件に思えますが、答えはいたって単純です。それは『誰も知らない』です。魔獣を誘き出す、又は狙った場所に誘導するなんて、魔獣に関するどんな文献にも記されていません。何故かと言えば、そんな事をした前例が一切無いからです。つまり、ティンクさんの案は『魔獣を誘き出す』という前提から問題があるので、採用はできな――」
「いいえ、誘い出す方法ならあるわ」
カールステンがティンクの案を採用出来ない理由を説明していたが、それを遮りそう断言したのは他の誰でもないセレスティアだった。
このセレスティアの発言にはカールステンだけでなく、その場にいた誰もが驚いた表情でセレスティアに顔を向けることになった。
「そ、そのような事が本当に可能なのですか!?」
「ええ、まだ試したことは無いけれど、私とティンクの力を使えば理論上は可能よ」
「……本当に、出来るのですね?」
セレスティアの強気の発言に会議室がざわめきだした中、今まで会議の様子を伺うだけだったマイン公爵がセレスティアにそう問いかけた。
セレスティアはそれに対して、ニッと笑みを見せて答える。
「まあそれ相応の準備が必要だけど、出来ると思うわ。なんだったら、魔獣が鉱山から出て来たら、そのまま私達が先陣を切って戦ってもいいわよ?」
「……分かりました。今回の作戦はセレスティア殿にお任せることにします」
「なっ、マイン様!?」
カールステンの抗議を手を上げて制し、マイン公爵はカールステンの目を真っ直ぐ見つめ言葉を返す。
「カールステン、別に私は貴方の作戦を否定するわけでは無いわ。カールステンの作戦はあらゆる事を配慮した最善の作戦だと思う。だけど、魔獣の事に関して私達は何も知らなすぎる。もしかするとカールステンの想像していた以上の事態が起きるかもしれない。そうなったら、もう私達では対処出来なくなってしまう。その点セレスティア殿は魔獣に関しては私達より遥かに詳しいし、戦闘能力に関しても申し分ないと私が保証するわ。そのセレスティア殿が出来ると言っているのだから、ここは任せてみるべきだと私は思う」
何か言いたげな顔をしたカールステンだったが、四大公の一人で、マイン領の当主で、自分の主君であるマイン公爵がここまで自信を持って言っていることを否定できる訳がなく、カールステンは出そうとした言葉を飲み込む他なかった。
「……分かりました。マイン様がそこまで仰るのなら、私からは何も言うことはありません。全て貴女の仰せのままに」
「ありがとうカールステン。皆もそれでいいわね?」
マイン公爵は会議室にいた全員に向かいそう問いかけたが、そもそも作戦立案を任されていた参謀長のカールステンが折れた事によってマイン公爵の意見に反対できる者がいる訳もなく、全員がマイン公爵の問いに不安ながらも頷き返して同意を示した。
「よし、それではこれより、セレスティア殿とティンクの『魔獣を誘き出す』という案を元にして、新しく作戦を練り直すわよ!」
こうして、魔獣を鉱山から誘き出して討伐するというティンクが提案した作戦が、正式に採用されることになったのだった。
そんなストール鉱山で働く鉱夫の人数は当然多い。
ストール鉱山都市とストール鉱山の距離は片道約30分だが、重労働の鉱山で働く鉱夫達には、毎日のその距離を往復することは地味にキツいものがある。
そのため大半の鉱夫達は、鉱山の直ぐ側に建てられた鉱夫達専用の宿舎を利用している。さらに、宿舎と同じ場所には鉱山警備隊の駐屯地があり、鉱山の安全を守っている。
その他にも鉱夫達の生活に不便が無いように、宿舎周辺の環境は整えられており、ちょっとした村の様相を呈していた。
そんな宿舎と鉱山の入り口の間には、開拓された広い広場がある。
この広場だが、普段は鉱山から採掘された鉱石の保管や管理をする場所になっていて、沢山の鉱石が山積みにされて置かれている。しかし、今は一部の鉱石が広場の中央に集められているだけで、それ以外の鉱石は何処かに片付けられていた。
そして、積み重なるように集められた鉱石の周りには数人の人影が集まっており、その数人の後ろ、宿舎側の方には沢山の兵士達が集まっていた。
「セレスティア殿、言われた通り、集めれるだけの鉱石を集めました!」
セレスティアにそう報告したのは、ストール領地軍・騎士団長のヴェスパだ。ヴェスパは女性でありながら高い才能と戦闘技術を兼ね備えていて、若くして領地軍最高地位の騎士団長に任命された実力者だ。
肩まで伸びる癖のある朱色の髪にスレンダーな身体つき、ピンッと伸びる背筋に愛用の細剣を携える立ち姿は美しく凛々しいものがあった。
「ありがとう。助かるわ」
セレスティアの目の前には、ヴェスパ達が集めた大量の鉱石が積み上げられている。
セレスティアがこれほど沢山の鉱石を集めさせたのは、昨日の会議でティンクが発言した内容が発端だった。
◆ ◆
「魔獣を誘き出す、ですか。……面白い案ではありますが、残念ながらそれは採用出来ません」
「どうして?」
「確かに数を活かした戦いなら、それは定石でとても有効な手です。ですが、今回の相手は魔獣という災害です。ただ数が多いだけで勝てる相手ではありません。魔獣を相手に数を利用した戦いをするならば、魔獣の情報を正確に把握した上での攪乱戦法で戦うのが得策でしょう。しかし、今回は魔獣が出現したと言ってもまだその姿は確認されておらず、情報も何一つありません。そのような状況で魔獣を誘き出して戦おうとしても、手探りで戦うことになり被害が増えるのは明らかです。なので被害を最小限にする為には、誘き出すよりも少人数の部隊を沢山運用し、鉱山にいるであろう魔獣の捜索とその情報を収集し、確実に倒せる対策をした別動隊を向かわせて一気に倒す。これが確実な戦法なのです!」
ティンクの案をそう言って否定したカールステンは更に続けて、ティンクの案のもう一つの問題点を指摘する。
「それにその案にはもう一つ、大きな問題点があります。そもそもどうやって魔獣を誘き出すかです。鉱山のどこに居るかも分からない魔獣を、誘き出す方法があるのか? これは難しい案件に思えますが、答えはいたって単純です。それは『誰も知らない』です。魔獣を誘き出す、又は狙った場所に誘導するなんて、魔獣に関するどんな文献にも記されていません。何故かと言えば、そんな事をした前例が一切無いからです。つまり、ティンクさんの案は『魔獣を誘き出す』という前提から問題があるので、採用はできな――」
「いいえ、誘い出す方法ならあるわ」
カールステンがティンクの案を採用出来ない理由を説明していたが、それを遮りそう断言したのは他の誰でもないセレスティアだった。
このセレスティアの発言にはカールステンだけでなく、その場にいた誰もが驚いた表情でセレスティアに顔を向けることになった。
「そ、そのような事が本当に可能なのですか!?」
「ええ、まだ試したことは無いけれど、私とティンクの力を使えば理論上は可能よ」
「……本当に、出来るのですね?」
セレスティアの強気の発言に会議室がざわめきだした中、今まで会議の様子を伺うだけだったマイン公爵がセレスティアにそう問いかけた。
セレスティアはそれに対して、ニッと笑みを見せて答える。
「まあそれ相応の準備が必要だけど、出来ると思うわ。なんだったら、魔獣が鉱山から出て来たら、そのまま私達が先陣を切って戦ってもいいわよ?」
「……分かりました。今回の作戦はセレスティア殿にお任せることにします」
「なっ、マイン様!?」
カールステンの抗議を手を上げて制し、マイン公爵はカールステンの目を真っ直ぐ見つめ言葉を返す。
「カールステン、別に私は貴方の作戦を否定するわけでは無いわ。カールステンの作戦はあらゆる事を配慮した最善の作戦だと思う。だけど、魔獣の事に関して私達は何も知らなすぎる。もしかするとカールステンの想像していた以上の事態が起きるかもしれない。そうなったら、もう私達では対処出来なくなってしまう。その点セレスティア殿は魔獣に関しては私達より遥かに詳しいし、戦闘能力に関しても申し分ないと私が保証するわ。そのセレスティア殿が出来ると言っているのだから、ここは任せてみるべきだと私は思う」
何か言いたげな顔をしたカールステンだったが、四大公の一人で、マイン領の当主で、自分の主君であるマイン公爵がここまで自信を持って言っていることを否定できる訳がなく、カールステンは出そうとした言葉を飲み込む他なかった。
「……分かりました。マイン様がそこまで仰るのなら、私からは何も言うことはありません。全て貴女の仰せのままに」
「ありがとうカールステン。皆もそれでいいわね?」
マイン公爵は会議室にいた全員に向かいそう問いかけたが、そもそも作戦立案を任されていた参謀長のカールステンが折れた事によってマイン公爵の意見に反対できる者がいる訳もなく、全員がマイン公爵の問いに不安ながらも頷き返して同意を示した。
「よし、それではこれより、セレスティア殿とティンクの『魔獣を誘き出す』という案を元にして、新しく作戦を練り直すわよ!」
こうして、魔獣を鉱山から誘き出して討伐するというティンクが提案した作戦が、正式に採用されることになったのだった。