残酷な描写あり
58.それぞれの日々・サムス編5
『――成る程ねぇ~。ご主人様の為に資金を稼ぎに来たら、八柱に目を付けられるなんて……サムスも大変ね』
僕の素性を聞いたユノの感想は、あっさりしたものだった。ユノは大変だと言うが、僕はそう思っていない。
確かに八柱に目を付けられたことは厄介ではあるが、それは貿易都市を経営している八柱にとって、僕達のような不確定要素が脅威になり得る可能性がある以上、僕達を監視するのは当然の行動だと言える。
しかし僕達は、そもそも八柱と敵対する意思はない。ならば、僕達の情報を漏らさないように注意しつつ普通に仕事をして生活していれば、そのうち僕達を害の無い存在と判断して監視も無くなるだろう。
そう、なにも気負う必要はない。普通に生活しているだけでいいのだ。
『でも、サムスのご主人様には少し興味があるわね。サムスほどの力を持つ者が主人と仰ぎ仕える人物、是非一度会ってみたいわ!』
僕としては、セレスティア様の元にユノを連れて行きたくはない。
『魂の色が見える』というユノの能力は底が知れず、ユノ自身の力がどれくらいあるかも不明な現在、セレスティア様に会わせるのは危険が大きい。
……だかしかし、僕はそこに交渉の余地があると見た。
「よければ、主人の元に案内しましょうか?」
『いいの? 是非お願いしたいわ!』
よし、垂らした餌に獲物が食い付いた!
「ただし、いくつか条件があります。まず、主人に危害を加えないこと。これは絶対条件です。もし破ったりしたら、僕は全力をもってあなたという存在をこの世から消し去ります」
『おお、こわいこわい……。分かった、絶対に手を出さないと約束するわ』
ユノもこの条件は確実に呑まなくてはいけないことは理解したようで、簡単に了承してくれた。
「では次ですが、ユノが知る限りの八柱と貿易都市の情報を教えてください」
『それに答える前に、私からも聞いていいかしら? どうしてその情報が必要なの? サムスはそれを知ってどうするつもりかしら?』
「簡単なことですよ。一方的に僕達だけが調べられているこの状況が、実に不愉快で不公平なんです。……やり返さない道理がありますか?」
『ふふふ、あはははは! いいわ! 確かにその通りだわ!』
ユノは本を大きく開いて、大声で愉快そうに笑う。
『分かったわ、それも約束しましょう! ただし、その条件は私に友人を裏切れと言っている様なもの。だからここはお互いに一方的な約束じゃなくて、サムス達も私に協力するっていう交換条件にしない?』
ユノの言い分も尤もだ。僕はユノに『友を裏切り協力しろ!』という、非人道的な行為をさせようとしている。ユノもそんな条件を簡単に飲めるほど常識は捨てていないようだ。
だからこそ、お互いに利害のある協力関係を結ぶことで、非人道的な行為に少しばかりの正当性を持たせようとしていたのだろう。
「分かりました、そうしましょう。それで、ユノの要望はなんですか?」
『私の要望はとっても簡単、私の師匠を探すのを手伝ってほしいだけよ!』
詳しい話は主人に会ってからということにして、セレスティア様に連絡を取り許可を得た僕は、ユノを連れて屋敷に戻って来た。
応接室に入ると、既にセレスティア様とアインが中で待っていて、帰宅した僕を出迎えてくれた。
「セレスティア様、ただいま戻りました!」
「お帰り、サムス」
僕はセレスティア様と向かい合う形でソファーに腰掛ける。
「さて、帰って来て早速だけど、詳しい話をお願いするわ」
「はい。まずは先程連絡したときに報告した“ユノ”を紹介します」
僕は懐から一冊の本を取り出し、机の上に置く。
セレスティア様の背後に立つアインの目が鋭くなり、警戒モードに入る。ユノは手を出さないと約束してくれたが、どこまで信用できるか分からない以上、警戒しすぎて損はない。
無論、僕もユノが変な事をしようとしたら、いつでも動ける様に構えている。
『……このような姿で失礼します。初めましてセレスティアさん、私はユノと申します。お見知りおきを』
僕の時とは明らかに違う、へり下った態度でセレスティア様に挨拶をするユノ。
「初めまして、この屋敷の主のセレスティアよ。こちらこそよろしく。……それにしても、なんだかサムスから聞いていた雰囲気とは随分違うわね?」
「僕相手の時は、もっと余裕のある話し方をしてませんでしたか?」
『あのね、私は元々警戒心が強い方なの。格上を相手に余裕ぶった口調をするほど馬鹿じゃないわ!』
ユノはそう言って僕を睨み付ける。……いや、ユノは本の姿で目がないから、睨み付けていたかどうかの確証はないが、何となくそんな気がした。
「へぇ~。私が格上だと言う理由は、『魂の色が見える』っていう能力によるものかしら?」
そんなユノの言葉にセレスティア様は興味を持ったようで、前屈みになってユノに顔を近づける。ユノからすれば蛇に睨まれた蛙の状態だろう。
『はい、そうです。魂は植物だろうが動物だろうが、それが生き物であるなら必ず存在している物です。魂は生き物という存在の核となる部分ですので、魂の色を見ればその生き物がどういう存在なのか、大抵分かります』
「なるほどね……。それで、私の魂は何色だったのかしら?」
『……残念ながら、セレスティアさんの魂の色は見えませんでした』
セレスティア様の魂の色を見たから、セレスティア様を格上だと認識したと思っていた僕達は、ユノの言ってることが理解できなかった。
小首を傾げる僕達をみて、ユノは付け足すように説明する。
『私の能力はどんな生き物の魂でも見ることが出来ますが、ひとつだけ例外があります。それは生物としての次元が私より高い場合です。その時に見えるのは何もない漆黒で、魂の形もその色も見えません。セレスティアさんは間違いなくその例外です!』
若干熱の籠った声色で話すユノの説明を、真剣な表情でセレスティア様は聞いていた。
「……その例外を知っているということは、私以外の例外に遭遇したことがあるのよね?」
『はい、二人います。一人は私の師匠、もう一人は師匠の友人である伝説の竜種です。セレスティアさんは私が見た三人目の例外というわけです。……ただ、セレスティアさんの場合はその二人と違って、漆黒ではなく濃い霧がかかったようなもやもやした白でした。魂が見えないのでセレスティアさんが例外なのは間違いありませんが、こんな見え方をしたのは私も初めてで、何を意味しているのか正直分かりませんでした……』
「……まぁ、それに関しては思い当たる節があるけどね。それよりも、竜種か……まさか、ね……」
セレスティア様は何かに気付いたようで、ユノに質問をする。
「ユノ、あなたの師匠の捜索を協力してほしいって事だったけど、その師匠の特徴や名前を教えてくれないかしら? ……もしかしたら私、その師匠を知ってるかもしれないわ」
『ほ、本当ですか!?』
セレスティア様の言葉を聞いて、ユノは興奮した口調で早口に語り始めた。
『師匠は本当に偉大な魔術師でした! あらゆる魔術を研究し、叡智を蓄え、そこから新しい魔術を次々に生み出す! その妙技はまさに『神業』と表現する以外なく、人々から『魔術の開祖』と呼ばれ、敬われていました! 私はそんな師匠の唯一の一番弟子、そして運命の人として師匠を敬愛し、常に傍で支え――』
「分かった分かった! その師匠がどれだけ凄いかは十分に分かったから、師匠の名前を教えてくれないかしら?」
『ハッ!? ……も、申し訳ありませんセレスティアさん! 師匠のことを話せると思ったら、少々興奮してしまいました……』
最初に会った時から思っていたが、ユノはどうやら少々の度合いを履き違えているようだ。その師匠限定で……。
『師匠の名前でしたね。師匠の名前は、“ミューダ”といいます。聞き覚えはありませんか?』
僕の素性を聞いたユノの感想は、あっさりしたものだった。ユノは大変だと言うが、僕はそう思っていない。
確かに八柱に目を付けられたことは厄介ではあるが、それは貿易都市を経営している八柱にとって、僕達のような不確定要素が脅威になり得る可能性がある以上、僕達を監視するのは当然の行動だと言える。
しかし僕達は、そもそも八柱と敵対する意思はない。ならば、僕達の情報を漏らさないように注意しつつ普通に仕事をして生活していれば、そのうち僕達を害の無い存在と判断して監視も無くなるだろう。
そう、なにも気負う必要はない。普通に生活しているだけでいいのだ。
『でも、サムスのご主人様には少し興味があるわね。サムスほどの力を持つ者が主人と仰ぎ仕える人物、是非一度会ってみたいわ!』
僕としては、セレスティア様の元にユノを連れて行きたくはない。
『魂の色が見える』というユノの能力は底が知れず、ユノ自身の力がどれくらいあるかも不明な現在、セレスティア様に会わせるのは危険が大きい。
……だかしかし、僕はそこに交渉の余地があると見た。
「よければ、主人の元に案内しましょうか?」
『いいの? 是非お願いしたいわ!』
よし、垂らした餌に獲物が食い付いた!
「ただし、いくつか条件があります。まず、主人に危害を加えないこと。これは絶対条件です。もし破ったりしたら、僕は全力をもってあなたという存在をこの世から消し去ります」
『おお、こわいこわい……。分かった、絶対に手を出さないと約束するわ』
ユノもこの条件は確実に呑まなくてはいけないことは理解したようで、簡単に了承してくれた。
「では次ですが、ユノが知る限りの八柱と貿易都市の情報を教えてください」
『それに答える前に、私からも聞いていいかしら? どうしてその情報が必要なの? サムスはそれを知ってどうするつもりかしら?』
「簡単なことですよ。一方的に僕達だけが調べられているこの状況が、実に不愉快で不公平なんです。……やり返さない道理がありますか?」
『ふふふ、あはははは! いいわ! 確かにその通りだわ!』
ユノは本を大きく開いて、大声で愉快そうに笑う。
『分かったわ、それも約束しましょう! ただし、その条件は私に友人を裏切れと言っている様なもの。だからここはお互いに一方的な約束じゃなくて、サムス達も私に協力するっていう交換条件にしない?』
ユノの言い分も尤もだ。僕はユノに『友を裏切り協力しろ!』という、非人道的な行為をさせようとしている。ユノもそんな条件を簡単に飲めるほど常識は捨てていないようだ。
だからこそ、お互いに利害のある協力関係を結ぶことで、非人道的な行為に少しばかりの正当性を持たせようとしていたのだろう。
「分かりました、そうしましょう。それで、ユノの要望はなんですか?」
『私の要望はとっても簡単、私の師匠を探すのを手伝ってほしいだけよ!』
詳しい話は主人に会ってからということにして、セレスティア様に連絡を取り許可を得た僕は、ユノを連れて屋敷に戻って来た。
応接室に入ると、既にセレスティア様とアインが中で待っていて、帰宅した僕を出迎えてくれた。
「セレスティア様、ただいま戻りました!」
「お帰り、サムス」
僕はセレスティア様と向かい合う形でソファーに腰掛ける。
「さて、帰って来て早速だけど、詳しい話をお願いするわ」
「はい。まずは先程連絡したときに報告した“ユノ”を紹介します」
僕は懐から一冊の本を取り出し、机の上に置く。
セレスティア様の背後に立つアインの目が鋭くなり、警戒モードに入る。ユノは手を出さないと約束してくれたが、どこまで信用できるか分からない以上、警戒しすぎて損はない。
無論、僕もユノが変な事をしようとしたら、いつでも動ける様に構えている。
『……このような姿で失礼します。初めましてセレスティアさん、私はユノと申します。お見知りおきを』
僕の時とは明らかに違う、へり下った態度でセレスティア様に挨拶をするユノ。
「初めまして、この屋敷の主のセレスティアよ。こちらこそよろしく。……それにしても、なんだかサムスから聞いていた雰囲気とは随分違うわね?」
「僕相手の時は、もっと余裕のある話し方をしてませんでしたか?」
『あのね、私は元々警戒心が強い方なの。格上を相手に余裕ぶった口調をするほど馬鹿じゃないわ!』
ユノはそう言って僕を睨み付ける。……いや、ユノは本の姿で目がないから、睨み付けていたかどうかの確証はないが、何となくそんな気がした。
「へぇ~。私が格上だと言う理由は、『魂の色が見える』っていう能力によるものかしら?」
そんなユノの言葉にセレスティア様は興味を持ったようで、前屈みになってユノに顔を近づける。ユノからすれば蛇に睨まれた蛙の状態だろう。
『はい、そうです。魂は植物だろうが動物だろうが、それが生き物であるなら必ず存在している物です。魂は生き物という存在の核となる部分ですので、魂の色を見ればその生き物がどういう存在なのか、大抵分かります』
「なるほどね……。それで、私の魂は何色だったのかしら?」
『……残念ながら、セレスティアさんの魂の色は見えませんでした』
セレスティア様の魂の色を見たから、セレスティア様を格上だと認識したと思っていた僕達は、ユノの言ってることが理解できなかった。
小首を傾げる僕達をみて、ユノは付け足すように説明する。
『私の能力はどんな生き物の魂でも見ることが出来ますが、ひとつだけ例外があります。それは生物としての次元が私より高い場合です。その時に見えるのは何もない漆黒で、魂の形もその色も見えません。セレスティアさんは間違いなくその例外です!』
若干熱の籠った声色で話すユノの説明を、真剣な表情でセレスティア様は聞いていた。
「……その例外を知っているということは、私以外の例外に遭遇したことがあるのよね?」
『はい、二人います。一人は私の師匠、もう一人は師匠の友人である伝説の竜種です。セレスティアさんは私が見た三人目の例外というわけです。……ただ、セレスティアさんの場合はその二人と違って、漆黒ではなく濃い霧がかかったようなもやもやした白でした。魂が見えないのでセレスティアさんが例外なのは間違いありませんが、こんな見え方をしたのは私も初めてで、何を意味しているのか正直分かりませんでした……』
「……まぁ、それに関しては思い当たる節があるけどね。それよりも、竜種か……まさか、ね……」
セレスティア様は何かに気付いたようで、ユノに質問をする。
「ユノ、あなたの師匠の捜索を協力してほしいって事だったけど、その師匠の特徴や名前を教えてくれないかしら? ……もしかしたら私、その師匠を知ってるかもしれないわ」
『ほ、本当ですか!?』
セレスティア様の言葉を聞いて、ユノは興奮した口調で早口に語り始めた。
『師匠は本当に偉大な魔術師でした! あらゆる魔術を研究し、叡智を蓄え、そこから新しい魔術を次々に生み出す! その妙技はまさに『神業』と表現する以外なく、人々から『魔術の開祖』と呼ばれ、敬われていました! 私はそんな師匠の唯一の一番弟子、そして運命の人として師匠を敬愛し、常に傍で支え――』
「分かった分かった! その師匠がどれだけ凄いかは十分に分かったから、師匠の名前を教えてくれないかしら?」
『ハッ!? ……も、申し訳ありませんセレスティアさん! 師匠のことを話せると思ったら、少々興奮してしまいました……』
最初に会った時から思っていたが、ユノはどうやら少々の度合いを履き違えているようだ。その師匠限定で……。
『師匠の名前でしたね。師匠の名前は、“ミューダ”といいます。聞き覚えはありませんか?』