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作者: 山のタル
残酷な描写あり
60.それぞれの日々・クワトル&ティンク編1
「ハンター」――それはハンター組合に所属し、ハンター組合に寄せられた依頼を解決するのを仕事にしている人達のことだ。
 依頼の内容は『危魔物の討伐』や『要人の護衛』といった危険なものから、『街道整備』や『城壁修復』といった工事の手伝い、薬草などの『素材採取』、『学校での特別教師』、『両親不在中の子供の御守』、『商店の店番』など多岐多様である。
 
 貿易都市中央の管理区画にある『管理棟』という建物の中にハンター組合の本部がある。本部と言うだけあって、各国各所にある支部とは施設の大きさ、職員の人員数、その全てが比べ物にならないくらい桁違いだ。
 そんなハンター組合本部の中は、掲示板を見て依頼を探したり談笑したりしているハンター達、慌ただしく行ったり来たりする職員達で溢れ、いつも賑やかな活気に満ちている。
 
「見つけたわよティンク! 今日こそ決着をつけましょう!!」
 
 そんな賑やかさを上書きするくらいの、高く響く大きな声がハンター組合の中に轟いた。
 声の主は、長く尖った耳が特徴の少女だった。さらさらと流れる黄金の髪に、赤色を基調として白いレースフリルをあしらった半袖ミニスカートの可愛らしい衣装を身に纏い、先端に透明度の高い巨大なローズ・クォーツが装飾された杖を握り締めていた。
 
「あ、ティナちゃんだ! おはよう!」
「おはようティンク! ……って、挨拶なんてどうでもいいわ! 勝負よ勝負!」
 
 テーブルに座ってクワトルと会話をしていたティンクに向かってビシッと指をさし、ティナと呼ばれた少女は突然勝負を申し込んできた。
 
「ティナちゃんと遊ぶの面白いからいいよー!」
「面白がってるんじゃないわよ!? これは真剣勝負よ! 今度こそ、その余裕ぶった態度をへし折ってやるわ!! 着いて来なさい!!」
 
 ティナは顔を真っ赤にして頬を膨らませながら、ズカズカと歩いてハンター組合から出ていく。
 
「はーい! ちょっと行ってくるねクワトル」
「……ほどほどにしてあげてくださいね、ティンク」
 
 そう言って、ティンクもティナの後に続いてハンター組合を出ていった。
 それと入れ替わるようにして、クワトルの元に四人の人物がやって来る。
 
「……全く懲りてない」
「ティナには悪いけど、今日も勝てないだろうなぁ~」
 
 ティナとティンクのやり取りを見て辛辣なコメントをする、ティナと同年齢の少女が二人。
 
「こらこら二人とも、そんなこと言ったらティナちゃんが可哀そうよ。さあ、ティナちゃんを応援に行きましょう!」
 
 ティナと顔がよく似ているが、少女らしいティナと正反対の母性的な魅力が溢れる女性が、二人の少女にそう言って連れて行く。
 
「……すまないなクワトル。いつもいつも娘のわがままに付き合ってもらって」
 
 最後に二メートルを超える巨体で、頭の左右から下方へ向かい先端が外側上方に向かって生える太い角を持つ男がクワトルに謝罪を入れてきた。
 
「構いませんよ。ティンクも毎回楽しんでいますから」
「そう言ってくれるとありがたい」
 
 男はクワトルに向かって軽く頭を下げる。
 
「それじゃあ俺達も行くか」
「そうですね、ティンクの勇姿を見ておかないと後で怒られますからね」
 
 
 
 管理区画にある『貿易都市警備隊本部』の隣に、円形状の大きな闘技場がある。闘技場は警備隊の所有物で、基本的に警備隊の人達の訓練所となっている。しかし訓練が無い日には一般に開放され、武道大会などのイベントが開催されたり、ハンター達の合同訓練場になったりしている。
 そして今日はハンター達の合同訓練の日で、ハンター達が自分の技を磨いているはず……だったが――
 
「ティンク、今日こそ私が勝つ! 覚悟しないさい!!」
「いつでもいいよ~」
「「「「「うぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
 
 闘技場の中心にはティンクとティナの二人が向かい合って立ち、階段状の観客席には沢山のハンター達が二人のやり取りを見て大いに盛り上がっていた。
 そしてその最前列に、クワトルと例の四人の姿もあった。
 
「毎度毎度、賑やかですね」
「……最早、恒例行事」
「みんな暇なんだなぁ~」
 
 そんな様を見て思い思いの感想を述べるクワトルと二人の少女。
 
「ティナちゃん頑張って~」
「格上の相手と手合わせするのはいい勉強だ。しっかりやられて来い!」
「ありがとうお母さん! それ応援じゃないよね、お父さん!?」
 
 父親の心もとない応援にツッコミを入れ、少し落ち込むティナ。しかしすぐに気合を入れ直し、ティンクを鋭く見据える。
 
「勝負はいつも通り魔術戦よ。お互い魔術を撃ち合い、相手の攻撃を防げなかった方が負けよ」
「いいよー!」
 
 その会話を皮切りにティンクとティナはお互いに距離を取り、杖を構えて臨戦態勢に入る。
 緊迫した空気が流れ、さっきまで騒がしかった観客ハンター達が一斉に静まり返り、闘技場が静寂に包まれた。
 
「――先手必勝! くらいなさい!」
 
 先に動いたのはティナだ。ティナは目の前に魔法陣を同時に三つ展開させる。魔法陣からはそれぞれ、『ファイアボール』、『魔力弾』、『アイスニードル』が飛び出した。
 ティナが発動した魔術は全て、“初級攻撃魔術”に分類される魔術だ。魔力の消費が少ないが、その分威力も小さい魔術である。しかし、Aランクハンターの魔術師であるティナが使えば、それは別次元のものへと昇華される。
 
 高い魔力値を持つティナにとって、初級攻撃魔術で使う魔力は微々たるものでしかない。それを活かしてティナは量で勝負をした。魔法陣からは次から次へと大量の『ファイアボール』、『魔力弾』、『アイスニードル』が飛び出し、途切れる気配が全くない。
 さらに射出された魔術は、通常ではあり得ない速度でティンクに向かって飛んでいく。速度がのった攻撃はその威力を増大する。その結果、ただのひ弱な初級攻撃魔術が“中級攻撃魔術”レベルの威力にまで跳ね上がった。
 中級攻撃魔術レベルの威力になった無数の魔術の雨。それは『大量破壊兵器』と例えても遜色無いものだった。
 
「この一ヶ月あなたを倒すためだけに特訓した技よ! 無数の弾幕……果たしていつまで逃げ切れるかしら!」
 
 逃げ場を無くすように計算された魔術の雨がティンクに襲い掛かる。だが、そんな状況がすぐ目の前に迫る中でも、ティンクの表情に絶望はなかった。むしろ、新しい玩具を手に入れた子供のように目を輝かせて、余裕の笑みすら浮かべている。
 
「流石ティナちゃん! ティンクも負けないよ! それぇ~!」
 
 ティンクは足元に魔法陣を展開して、可愛らしい動作で杖を振る。しかし魔法陣から飛び出した魔術は、可愛らしさとは全く無縁の凶悪なものだった。
 ティンクが振るった杖の軌道を追いかけるように突風が吹き荒れ、ティンクを中心に高速で渦を巻き、あっという間に巨大な竜巻へと姿を変えた。
 ティンクが発動した魔術は『トルネード』。強烈な竜巻を発生させ、範囲内にあるもの全てを吹き飛ばす強力な“上級攻撃魔術”だ。ティンクはそれを防御に用いたのである。
 ティナの放った無数の弾幕は、竜巻の分厚い風の壁に進行を阻まれて勢いを失い、瞬く間に竜巻に巻き取られていった。
 
「うそぉ!?」
 
 逃げるでもなく、打ち落とすでもない。そのあまりにも力業過ぎる対処法方に、ティナも観客席で観ていたハンター達も口を大きくパックリと開き、驚くしかなかった。
 
「今度はこっちの番だよ! いっけー!」
 
 ティンクはそう言うと、竜巻の回転速度と角度を細かく調整して、巻き取ったティナの魔術をそっくりそのままティナの方向に帰るように打ち出した。
 
「えっ? うそっ!? ちょま――」
 
 ズドドドドドドーーーーッ!!!!
 
「きゃああああ!!」
 
 こうして呆気なく勝敗は決し、ティナの一ヶ月の努力は見事に泡と消えた。
 
 
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