残酷な描写あり
137.プアボム公国へ2
「それで、状況は!?」
「はい。敵影は現在第二騎士団から少し離れた場所に陣を張っている模様です。
宵闇で敵影の正体と正確な数は不明ですが、見える松明の数からおそらく50~100名程の小部隊と推測されます。
これ以上の事は、今第二騎士団が偵察をしているところです」
シェーンが持ち帰った情報は多いとは言えなかった。多分事態の緊急性を察して、最低限の情報だけを持ってきてくれたのだろう。
だけど、流石シェーンだ。持ってきてくれた情報は不明瞭ながらも、判断材料としては上等である。
敵影の数は正確には分からないものの、50~100の少数ということだ。例えもう少し数が多かったとしても、今日の宵闇で少ない松明で移動できるとなればせいぜい300が限界だろう。
普通これ程の小部隊なら奇襲という運用方法が考えられるが、離れた場所だが見える場所にわざわざ陣を張ったことを考慮すれば、その可能性はほぼゼロとみていい。
奇襲をするときに事前にわざと姿を見せる理由がないし、目前に陣を張ったりもしない。
その敵影は敵かもしれないが、もしかしたら敵ではない可能性がある。
正体が分からないから、シェーンはとりあえずの呼称として「敵影」と言っているのだろう。
「どういたしますか?」
「そうだな……」
僕は少し考えて情報を整理してから、自分の考えを伝えた。
「その謎の敵影の行動は、敵にしては不可解だ。何者なのかを知る必要がある。
まずは第二騎士団に伝令を出して情報を手に入れよう。その間に僕達第一騎士団は即時出立の準備をする! 急ぎ全員に通達せよ!
その後は伝令からの情報にもよるが、当初の予定どおりプアボム公国へ急行する!」
「「「「「はッ!」」」」」
シェーン達は急いで各分隊に出立の準備をさせに駆け出した。
「待てシェーン」
僕はシェーンだけ呼び止めた。
シェーンには振り返り僕の近くへやって来る。
「何でしょうかルーカス様?」
「謎の敵影について、シェーンはどう思っている?」
出立準備の命令をしてからこんなことを聞くのもおかしな事だが、状況が不明な現状では、僕よりも直接第二騎士団に行って現場を見てきたシェーンの意見も聞いておきたい。
謎の敵影の正体が何であれ、僕達はすぐに行動を開始しなければならないことは確実だ。
しかしその中でも行動を間違えるわけには行かない。
意見は多いに越したことはない。
「そうですね。ルーカス様のお考え通り、敵だとしたら行動が不可解です。
そして目視で確認できる距離にわざわさ陣を張ったということは、今のところ少なくとも向こうに敵意はないのでしょう。第二騎士団の方もそれを理解していたようで、比較的落ち着いて対処を進めていました。
しかしだからといって、味方だとは言い切れません。味方であるならわざわざ離れた場所で陣を張らずに、第二騎士団と合流するはずですから」
「すると今はまだ中立ということか」
「はい」
シェーンの意見は的確に的を得ている。
となれば、そちらの対処は第二騎士団に任せた方がいいだろう。
「では対処は第二騎士団に任せるとしよう。伝令にはその旨も伝えるように――」
「ルーカス様!」
その時、一人の兵士が息を切らせながらこちらに走って来た。
鎧に付けられたエンブレムで、その兵士がすぐに第二騎士団の兵士だと分かった。
今、第二騎士団の兵士がここに来る理由は一つだけだ。
「敵影の正体が分かったのか!?」
「はい、敵の総数はおよそ200! それを率いているのは王都に襲来した“王権派”のクランツ公爵とウルマン伯爵です!
そして今、その二人が直接第二騎士団の陣に来てルーカス様に面会を求めております! 大至急お知らせしなくてはならないことがあるとの事です!」
「「――ッ!?」」
兵士の報告を聞き、僕とシェーンは目を合わせた。そしてお互いに頷いた。
僕達の考えは同じようだ。
「分かった。すぐにそちらに向かうと伝えてくれ」
「ハッ!」
兵士はすぐに立ち上がると、再び急ぎ足で第二騎士団の方へと走っていった。
「シェーン予定変更だ。出立準備は分隊長の4人に全て任せて、僕達は第二騎士団の方へ行くぞ!」
「はい、ルーカス様!」
分隊長の4人に出立準備を完了させておくように伝えると、僕とシェーンは急いで第二騎士団の夜営地へと急いだ。
第二騎士団の夜営地に到着すると、すぐに兵士に第二騎士団の後方、つまり敵影のいる方へと案内された。そこには三人の人物が対面していた。
第二騎士団・団長のマリエルとクランツ公爵とウルマン伯爵だ。
三人の周囲は多くの兵士達が囲っており、クランツ公爵とウルマン伯爵に対する警戒の強さが表れていた。
「ルーカス様が参りました!」
兵士の言葉に反応し、三人が一斉に僕の方へと視線を向ける。
「そのままでいい」
立ち上がろうとする三人を手で制して、僕は空いていた場所に腰かける。
「お二方、よく来てくれた」
「「ははっ!」」
二人は揃って頭を下げた。
そこには敵意はなく、むしろ忠誠心のようなものが感じ取れた。
「ルーカス様もご無事で何よりです」
「それで僕に知らせることとは何だ?」
「現在の王都の現状についてです。王都は既に陥落し、現在は“王権派”貴族達が占拠しています」
クランツ公爵話した内容は驚愕するに値するものだった。
「王都が陥落しただと!? バカな! いくらなんでも早すぎる!?」
「あの堅牢な城壁が簡単に突破されたとは思えませんが……」
マリエルとシェーンが驚くのも当然だ。
王都の周囲は堅牢な城壁で囲われており、それを突破するのは容易なことではない。
「信じられないかもしれませんが、私とクランツ公爵がここにいることがその何よりの証明です」
「……なるほど」
「……確かにそうだな」
僕とシェーンはウルマン伯爵の言葉の意味を理解し、王都が陥落したという信じがたい話を納得せざるを得なかった。
「どういう事ですかルーカス様?」
マリエルは僕達がなぜ納得しているのかが分からないようだった。
……いやまて、そういえばマリエルは知らないんだった。なら納得できなくても当然だ。
「マリエルには話してなかったな。実はクランツ公爵とウルマン伯爵は僕達の味方だ」
「なんですって!? でも彼らは――」
「――“王権派”に属しているはず。と言いたいのですかな?」
マリエルの言葉をクランツ公爵が遮って奪い取った。
思考を読まれたせいなのか、マリエルは悔しそうな表情をする。
「確かに私とウルマン伯爵は“王権派”に属していました。……数日前の話ですがね」
「しかし今私達は“新権派”……と言うよりはムーア王国のより良い未来を考えている者と考えてください」
二人の言葉を聞いてもマリエルは納得しがたいといった顔をしている。
無理もない。“王権派”として王都に攻めてきたはずの二人の言葉をすぐに信用しろと言う方が難しい。特にマリエルは普段から騎士団勤めの為、クランツ公爵とウルマン伯爵と話す機会すらないのだから。
ここは僕が助け舟を出すしかないだろう。
「マリエル、二人の言っていることは本当だ。サピエル法国への宣戦布告が決まった直後の会議の後で、父上とカンディ殿が二人を内密に呼び出し、こちら側に引き入れていたからな」
「本当ですかルーカス様?」
「僕とシェーンもその場にいてその交渉を見ている」
シェーンは同意する様に頷く。
それを見たマリエルは流石に納得せざるを得なかったようで、素直に引き下がった。
「はい。敵影は現在第二騎士団から少し離れた場所に陣を張っている模様です。
宵闇で敵影の正体と正確な数は不明ですが、見える松明の数からおそらく50~100名程の小部隊と推測されます。
これ以上の事は、今第二騎士団が偵察をしているところです」
シェーンが持ち帰った情報は多いとは言えなかった。多分事態の緊急性を察して、最低限の情報だけを持ってきてくれたのだろう。
だけど、流石シェーンだ。持ってきてくれた情報は不明瞭ながらも、判断材料としては上等である。
敵影の数は正確には分からないものの、50~100の少数ということだ。例えもう少し数が多かったとしても、今日の宵闇で少ない松明で移動できるとなればせいぜい300が限界だろう。
普通これ程の小部隊なら奇襲という運用方法が考えられるが、離れた場所だが見える場所にわざわざ陣を張ったことを考慮すれば、その可能性はほぼゼロとみていい。
奇襲をするときに事前にわざと姿を見せる理由がないし、目前に陣を張ったりもしない。
その敵影は敵かもしれないが、もしかしたら敵ではない可能性がある。
正体が分からないから、シェーンはとりあえずの呼称として「敵影」と言っているのだろう。
「どういたしますか?」
「そうだな……」
僕は少し考えて情報を整理してから、自分の考えを伝えた。
「その謎の敵影の行動は、敵にしては不可解だ。何者なのかを知る必要がある。
まずは第二騎士団に伝令を出して情報を手に入れよう。その間に僕達第一騎士団は即時出立の準備をする! 急ぎ全員に通達せよ!
その後は伝令からの情報にもよるが、当初の予定どおりプアボム公国へ急行する!」
「「「「「はッ!」」」」」
シェーン達は急いで各分隊に出立の準備をさせに駆け出した。
「待てシェーン」
僕はシェーンだけ呼び止めた。
シェーンには振り返り僕の近くへやって来る。
「何でしょうかルーカス様?」
「謎の敵影について、シェーンはどう思っている?」
出立準備の命令をしてからこんなことを聞くのもおかしな事だが、状況が不明な現状では、僕よりも直接第二騎士団に行って現場を見てきたシェーンの意見も聞いておきたい。
謎の敵影の正体が何であれ、僕達はすぐに行動を開始しなければならないことは確実だ。
しかしその中でも行動を間違えるわけには行かない。
意見は多いに越したことはない。
「そうですね。ルーカス様のお考え通り、敵だとしたら行動が不可解です。
そして目視で確認できる距離にわざわさ陣を張ったということは、今のところ少なくとも向こうに敵意はないのでしょう。第二騎士団の方もそれを理解していたようで、比較的落ち着いて対処を進めていました。
しかしだからといって、味方だとは言い切れません。味方であるならわざわざ離れた場所で陣を張らずに、第二騎士団と合流するはずですから」
「すると今はまだ中立ということか」
「はい」
シェーンの意見は的確に的を得ている。
となれば、そちらの対処は第二騎士団に任せた方がいいだろう。
「では対処は第二騎士団に任せるとしよう。伝令にはその旨も伝えるように――」
「ルーカス様!」
その時、一人の兵士が息を切らせながらこちらに走って来た。
鎧に付けられたエンブレムで、その兵士がすぐに第二騎士団の兵士だと分かった。
今、第二騎士団の兵士がここに来る理由は一つだけだ。
「敵影の正体が分かったのか!?」
「はい、敵の総数はおよそ200! それを率いているのは王都に襲来した“王権派”のクランツ公爵とウルマン伯爵です!
そして今、その二人が直接第二騎士団の陣に来てルーカス様に面会を求めております! 大至急お知らせしなくてはならないことがあるとの事です!」
「「――ッ!?」」
兵士の報告を聞き、僕とシェーンは目を合わせた。そしてお互いに頷いた。
僕達の考えは同じようだ。
「分かった。すぐにそちらに向かうと伝えてくれ」
「ハッ!」
兵士はすぐに立ち上がると、再び急ぎ足で第二騎士団の方へと走っていった。
「シェーン予定変更だ。出立準備は分隊長の4人に全て任せて、僕達は第二騎士団の方へ行くぞ!」
「はい、ルーカス様!」
分隊長の4人に出立準備を完了させておくように伝えると、僕とシェーンは急いで第二騎士団の夜営地へと急いだ。
第二騎士団の夜営地に到着すると、すぐに兵士に第二騎士団の後方、つまり敵影のいる方へと案内された。そこには三人の人物が対面していた。
第二騎士団・団長のマリエルとクランツ公爵とウルマン伯爵だ。
三人の周囲は多くの兵士達が囲っており、クランツ公爵とウルマン伯爵に対する警戒の強さが表れていた。
「ルーカス様が参りました!」
兵士の言葉に反応し、三人が一斉に僕の方へと視線を向ける。
「そのままでいい」
立ち上がろうとする三人を手で制して、僕は空いていた場所に腰かける。
「お二方、よく来てくれた」
「「ははっ!」」
二人は揃って頭を下げた。
そこには敵意はなく、むしろ忠誠心のようなものが感じ取れた。
「ルーカス様もご無事で何よりです」
「それで僕に知らせることとは何だ?」
「現在の王都の現状についてです。王都は既に陥落し、現在は“王権派”貴族達が占拠しています」
クランツ公爵話した内容は驚愕するに値するものだった。
「王都が陥落しただと!? バカな! いくらなんでも早すぎる!?」
「あの堅牢な城壁が簡単に突破されたとは思えませんが……」
マリエルとシェーンが驚くのも当然だ。
王都の周囲は堅牢な城壁で囲われており、それを突破するのは容易なことではない。
「信じられないかもしれませんが、私とクランツ公爵がここにいることがその何よりの証明です」
「……なるほど」
「……確かにそうだな」
僕とシェーンはウルマン伯爵の言葉の意味を理解し、王都が陥落したという信じがたい話を納得せざるを得なかった。
「どういう事ですかルーカス様?」
マリエルは僕達がなぜ納得しているのかが分からないようだった。
……いやまて、そういえばマリエルは知らないんだった。なら納得できなくても当然だ。
「マリエルには話してなかったな。実はクランツ公爵とウルマン伯爵は僕達の味方だ」
「なんですって!? でも彼らは――」
「――“王権派”に属しているはず。と言いたいのですかな?」
マリエルの言葉をクランツ公爵が遮って奪い取った。
思考を読まれたせいなのか、マリエルは悔しそうな表情をする。
「確かに私とウルマン伯爵は“王権派”に属していました。……数日前の話ですがね」
「しかし今私達は“新権派”……と言うよりはムーア王国のより良い未来を考えている者と考えてください」
二人の言葉を聞いてもマリエルは納得しがたいといった顔をしている。
無理もない。“王権派”として王都に攻めてきたはずの二人の言葉をすぐに信用しろと言う方が難しい。特にマリエルは普段から騎士団勤めの為、クランツ公爵とウルマン伯爵と話す機会すらないのだから。
ここは僕が助け舟を出すしかないだろう。
「マリエル、二人の言っていることは本当だ。サピエル法国への宣戦布告が決まった直後の会議の後で、父上とカンディ殿が二人を内密に呼び出し、こちら側に引き入れていたからな」
「本当ですかルーカス様?」
「僕とシェーンもその場にいてその交渉を見ている」
シェーンは同意する様に頷く。
それを見たマリエルは流石に納得せざるを得なかったようで、素直に引き下がった。