残酷な描写あり
139.寝耳に水1
会議室の中は騒がしくなっていた。
といっても、ここは先程鍛冶師達が集まっていた会議室ではなく、現在ブロキュオン帝国軍の為に用意された別の会議室だ。
鍛冶師達との会議中にもたらされた報告を聞いたあと、イワンさんと一緒に私はこの会議室にやって来た。……というより、イワンさんにほぼ無理矢理連れて来られたと言った方が正しい。
私は今は商人として貿易都市に来ていたはずなのに、どうしてこうなったのか……?
「サピエル法国軍は今どの辺りだ?」
「私が王都を出た時には、もう既に王都の眼前まで来ておりました!」
「それはいつの事だ?」
「三日前になります!」
「バカなッ!? いくらなんでも早すぎる!」
「急ぎ救援に向かうべきだ!」
「だが、救援しようにも我が軍はまだ完全に集まっておらず準備不足だ!」
「それがどうした? 神などと言う曖昧な存在に頼っている軟弱者共には、今の戦力でも十分だろう!」
「それはいくらなんでも軽率な考えだ。連中がこれほど早く軍を動かせている事実から見ても、サピエル法国は我々よりも更に早い段階で戦争の準備を進めていたことは明らかだ」
「その通り。それに、救援に向かうのであれば最大戦力で向かうのが定石だ! 下手に少ない戦力で行こうものなら、戦闘が長期化して損害が増える原因になるだけだ」
……とまあ、さっきからこのような感じの軍事的な話し合いが続いていて、私が会話に入れる隙間はない。
本当に、どうして連れて来られたんだろうか……?
会議室にいる面々は上質な軍服や鎧から判断して、ブロキュオン帝国軍と貿易都市警備隊、そして援軍を要請しに来たムーア王国軍の上層部の人達だと思う。
その中に一人、ポツンと商人服を着た私が混じっている。……うん、明らかに場違いだ。
本来なら私はこの場に居て良い人種ではないのに、貿易都市警備隊の総隊長であるイワンさんが連れて来たものだから、私の存在は詮索を受けることなくスルーされた。
余計な受け答えをしなくて済んだのでそれ自体はよかった事なのだが、……しかしそんなことよりも、俄然厄介な懸念事項が一つあった。
それは私の対面、つまり上座に座る人物だ。
その人物は軍関係の人物が集まっているはずのこの場において、ある意味私と同様に周りと服装が合っておらず、違う意味で浮いた存在感を放っていた。
しかし私と違うことは、この場に居ても違和感がない事だろう。
その人物は全身を鮮やかな深紅の礼服でコーディネートしていた。深紅の礼服は様々な宝石と金色の豪華な刺繍に彩られ、一目見ただけでその高級さを直感的に理解できる物だった。
おそらく、上級貴族なんて足元にも及ばない存在の人物であることは一目瞭然であった。
青年の様な若々しい顔、特徴的な長い耳、黄金のように輝く短めの髪、宝石の様な深紅の瞳。
……見覚えのある人物だ。そして、私が現状で一番絡まれたくない相手であった。
そう、その人物は、ブロキュオン帝国皇帝“エヴァイア・ブロキュオン”その人である。
エヴァイアは話し合いには混じろうとせず、会話にだけ耳を傾けている。
そして視線は私の方を向いており、そのまま固定されたかのように微動だにしていない。
チラッと目が合った。
ニコッと微笑を返された。
……今すぐこの場を立ち去りたい……。
私の今の心境はその一点のみだった。
――それから更に時間が過ぎた。
会議室に時計が設置されていなかったから正確な時間は分からないけど、体感では1時間以上は時間が過ぎていたと思う。
ずっと意見を言い合うだけの会議を静かに傍聴していたエヴァイアが、ここにきてようやく口を開いたのだ。
「さて、そろそろ意見も出尽くしたことだし、僕なりの見解を述べさせてもらうよ!」
エヴァイアはそう言うと、これまで出された意見の利点と欠点を次々と述べていき、最後に纏めと言わんばかりに作戦を決定した。
「サピエル法国が既に動き出している以上、これ以上後手に回ることは極力避けるべきだろう。
なので僕達はまず、ムーア王国の首都に攻め寄せているサピエル法国軍を撃退する為に、現在貿易都市に集合している全軍で出撃する!
目標はあくまでムーア王国の救援だが、同時にこれはサピエル法国との最終決戦となるだろう! 出撃は明日、早速だが各員急いで出撃の準備を進めてくれ!」
「「「はいッ!!!」」」
エヴァイアの号令と共に、会議室にいた人達がそれぞれの役割を果たす為に会議室を飛び出して持ち場に駆けて行った。
ブロキュオン帝国の皇帝であるエヴァイアがムーア王国と貿易都市の軍部の人に一方的に命令しているけど、誰もそれに異議を唱えることなくスムーズに行動していた。
多分私がここに来る前に指揮系統をどうするか等がしっかり話し合われていたのだろう。
まあ何にしても、とりあえず会議は終った。
殆ど発言もすること無くただ居ただけで、どうして連れて来られたのか最後まで分からなかったけど、これでようやくこの場を去ることができる。
連れてこられた理由は気になるけど、それは後でイワンさんと二人きりになった時にでも聞けばいいだけだ。
まずはここから、エヴァイアに絡まれる前にさっさと逃げないと!
私は素早く立ち上がり、会議室を後にする人達の流れに乗るように歩き出した。
「ああそれと、イワンとそちらのお嬢さんはここに残ってくれないかい? 個人的に話したいことがあるんだ!」
そう言ったエヴァイアの目は、私を逃がすまいと私を凝視していた。
……世の中はどうしてこうも厳しい道ばかりを、私に用意してくれるのだろうか……?
全く大きなお世話だ……。
といっても、ここは先程鍛冶師達が集まっていた会議室ではなく、現在ブロキュオン帝国軍の為に用意された別の会議室だ。
鍛冶師達との会議中にもたらされた報告を聞いたあと、イワンさんと一緒に私はこの会議室にやって来た。……というより、イワンさんにほぼ無理矢理連れて来られたと言った方が正しい。
私は今は商人として貿易都市に来ていたはずなのに、どうしてこうなったのか……?
「サピエル法国軍は今どの辺りだ?」
「私が王都を出た時には、もう既に王都の眼前まで来ておりました!」
「それはいつの事だ?」
「三日前になります!」
「バカなッ!? いくらなんでも早すぎる!」
「急ぎ救援に向かうべきだ!」
「だが、救援しようにも我が軍はまだ完全に集まっておらず準備不足だ!」
「それがどうした? 神などと言う曖昧な存在に頼っている軟弱者共には、今の戦力でも十分だろう!」
「それはいくらなんでも軽率な考えだ。連中がこれほど早く軍を動かせている事実から見ても、サピエル法国は我々よりも更に早い段階で戦争の準備を進めていたことは明らかだ」
「その通り。それに、救援に向かうのであれば最大戦力で向かうのが定石だ! 下手に少ない戦力で行こうものなら、戦闘が長期化して損害が増える原因になるだけだ」
……とまあ、さっきからこのような感じの軍事的な話し合いが続いていて、私が会話に入れる隙間はない。
本当に、どうして連れて来られたんだろうか……?
会議室にいる面々は上質な軍服や鎧から判断して、ブロキュオン帝国軍と貿易都市警備隊、そして援軍を要請しに来たムーア王国軍の上層部の人達だと思う。
その中に一人、ポツンと商人服を着た私が混じっている。……うん、明らかに場違いだ。
本来なら私はこの場に居て良い人種ではないのに、貿易都市警備隊の総隊長であるイワンさんが連れて来たものだから、私の存在は詮索を受けることなくスルーされた。
余計な受け答えをしなくて済んだのでそれ自体はよかった事なのだが、……しかしそんなことよりも、俄然厄介な懸念事項が一つあった。
それは私の対面、つまり上座に座る人物だ。
その人物は軍関係の人物が集まっているはずのこの場において、ある意味私と同様に周りと服装が合っておらず、違う意味で浮いた存在感を放っていた。
しかし私と違うことは、この場に居ても違和感がない事だろう。
その人物は全身を鮮やかな深紅の礼服でコーディネートしていた。深紅の礼服は様々な宝石と金色の豪華な刺繍に彩られ、一目見ただけでその高級さを直感的に理解できる物だった。
おそらく、上級貴族なんて足元にも及ばない存在の人物であることは一目瞭然であった。
青年の様な若々しい顔、特徴的な長い耳、黄金のように輝く短めの髪、宝石の様な深紅の瞳。
……見覚えのある人物だ。そして、私が現状で一番絡まれたくない相手であった。
そう、その人物は、ブロキュオン帝国皇帝“エヴァイア・ブロキュオン”その人である。
エヴァイアは話し合いには混じろうとせず、会話にだけ耳を傾けている。
そして視線は私の方を向いており、そのまま固定されたかのように微動だにしていない。
チラッと目が合った。
ニコッと微笑を返された。
……今すぐこの場を立ち去りたい……。
私の今の心境はその一点のみだった。
――それから更に時間が過ぎた。
会議室に時計が設置されていなかったから正確な時間は分からないけど、体感では1時間以上は時間が過ぎていたと思う。
ずっと意見を言い合うだけの会議を静かに傍聴していたエヴァイアが、ここにきてようやく口を開いたのだ。
「さて、そろそろ意見も出尽くしたことだし、僕なりの見解を述べさせてもらうよ!」
エヴァイアはそう言うと、これまで出された意見の利点と欠点を次々と述べていき、最後に纏めと言わんばかりに作戦を決定した。
「サピエル法国が既に動き出している以上、これ以上後手に回ることは極力避けるべきだろう。
なので僕達はまず、ムーア王国の首都に攻め寄せているサピエル法国軍を撃退する為に、現在貿易都市に集合している全軍で出撃する!
目標はあくまでムーア王国の救援だが、同時にこれはサピエル法国との最終決戦となるだろう! 出撃は明日、早速だが各員急いで出撃の準備を進めてくれ!」
「「「はいッ!!!」」」
エヴァイアの号令と共に、会議室にいた人達がそれぞれの役割を果たす為に会議室を飛び出して持ち場に駆けて行った。
ブロキュオン帝国の皇帝であるエヴァイアがムーア王国と貿易都市の軍部の人に一方的に命令しているけど、誰もそれに異議を唱えることなくスムーズに行動していた。
多分私がここに来る前に指揮系統をどうするか等がしっかり話し合われていたのだろう。
まあ何にしても、とりあえず会議は終った。
殆ど発言もすること無くただ居ただけで、どうして連れて来られたのか最後まで分からなかったけど、これでようやくこの場を去ることができる。
連れてこられた理由は気になるけど、それは後でイワンさんと二人きりになった時にでも聞けばいいだけだ。
まずはここから、エヴァイアに絡まれる前にさっさと逃げないと!
私は素早く立ち上がり、会議室を後にする人達の流れに乗るように歩き出した。
「ああそれと、イワンとそちらのお嬢さんはここに残ってくれないかい? 個人的に話したいことがあるんだ!」
そう言ったエヴァイアの目は、私を逃がすまいと私を凝視していた。
……世の中はどうしてこうも厳しい道ばかりを、私に用意してくれるのだろうか……?
全く大きなお世話だ……。