残酷な描写あり
141.寝耳に水3
それから私とエヴァイアは、それぞれの事情について話し合った。
共存関係を約束した以上、お互いが今抱えている事情を共有している方がいい。
その話をイワンさんも聞いてしまっているけど、特に問題はない。
私とイワンさん、つまり貿易都市とは『大工房計画の協力関係』を結んでいる。これは互いに利益を生み出す関係性である以上、信用を失う行為は自らの首を絞めることになる。
一方で私とエヴァイア、つまりブロキュオン帝国とは『互いの力を尊重した共存関係』を約束している。これはお互いに利益を生み出すことは少ないが、何かが起きた時にお互いの力、もしくは権力を頼って相互協力をしてもらうことが出来る。
因みにオリヴィエとの関係もこれと同じだ。
結局のところ何が言いたいかというと、イワンさんにしてもエヴァイアにしても私という存在が間にいる限り、お互いに下手な干渉をしてしまえば私の知ることになり私の心情を悪くしてしまう可能性があるということだ。
つまり私という緩衝材が、貿易都市とブロキュオン帝国に間接的な協力関係を形成させているのである。
なので互いの事情を知ったところで、それを利用することは出来ない。
まあそういう訳で、私達は三者三葉の事情を共有したところでようやく本題を切り出すことができた。
「それで、どうして私とイワンさんを呼び止めたの?」
そもそもこうして三人でいる現状は、エヴァイアが会議の後に私とイワンさんを呼び止めたことが発端だ。
その後に私の事で話が逸れてしまい、まだ呼び止めた理由を聞けていなかった。
「そのことだけど、さっきの会議について君達二人に少し意見をもらいたいんだ」
「意見って言われても、会議で方針は決定していたじゃない?」
先程まで行われていた会議ではサピエル法国に対してどう対応するかを話し合っていて、最終的に現在ムーア王国の首都に攻め込んでいるサピエル法国軍を撃退する為に進軍することで決定したはずだ。
そしてその決定に従って、今現在大急ぎで進軍の準備が進められているはずである。
なのに今更私とイワンさんの意見を聞きたいだなんて、不可思議にもほどがあった。
「確かに決定はしたし、僕自身もあの場で集まった情報で考えれば、あの決定が最適だったと思っているさ。……でもね、僕の直感があの決定を納得していないのさ。
自分で言うのもあれだけど、僕の直感は外れた例がないのさ。だからおそらく、いや確実に、正しい選択に辿り着く為の何か大切な情報が不足していると思うんだ」
「なるほど、だから改めて儂達の意見を聞きたいという訳なのですな?」
「そういうことさ」
エヴァイアの言いたいことは分かった。
クワトルの報告だと、エヴァイアは『超感覚』という、五感を自在に調節できる力を持っているらしい。さっきから言っている直感は、この力によって感じたものなのだろう。
……これは私の推測だけど。エヴァイアの『超感覚』はおそらく、五感で感じるもの以外にも、別の何かを感じ取れる力を持っているのではないだろうか? 例えて言うなら、俗に言う『第六感』、もしくは『本能』というやつだ。
エヴァイアの頭脳は『超感覚』により磨き上げられ、超人レベルの代物に進化していると思われる。
あらゆる種類の情報をすり合わせ、最終的にそれが正しいか正しくないかを直感で判断しているのではないだろうか?
……私はここまで推測して、エヴァイアの非常識ぶりに身震いした。
何故ならそれは、正確に何が起こるか分からないにしても、自分がどんな選択をしどんな行動すれば正しい答えに辿り着くかを本能的に導けるということに他ならない。
……それは最早、『大雑把な未来予知』と呼ぶに相応しい力である。
だがしかし、それが分かったとしても私の言う事は決まっている。
「でも意見って言われても、私は素人だし会議で決定した内容に不満も無かったけど……」
イワンさんならともかく、戦争経験のない私が新しい意見なんて思いつけるわけがない。
そう思ったけど、イワンさんも私と同意見のようだった。
「すみませんが儂も、会議で決めたことが現状の最適解だっと思いますぞ……」
「……そうか。君達二人なら何かに気付くのではないかと期待していたのだけど……」
エヴァイアは眉を垂らして明らかにガッカリしていた。
「その~……役に立てなくてごめんなさい」
「面目ございませんぞ……」
私とイワンさんは何故か反射的に謝っていた。
「いや、二人が悪いわけじゃないさ……。時間を取らせて悪かったね。僕はも少しここで考えを巡らせてみるよ」
「分かりましたぞ。ではお先に失礼します」
私とイワンさんはエヴァイアに会釈をしてから、会議室を後にした。
「……そういえばイワンさん、どうして私を会議に同席させたの?」
会議室を出て、私は中々聞けなかった疑問をイワンさんに投げかけた。
「ああそれはですな、セレスティア殿に大工房計画の経営者として現状をしっかりと把握して欲しいと思いましてな。
大工房は先程始動したばかりです。軌道が安定してからはカグヅチ達に任せれば良いでしょうが、それまでの間はセレスティアさんの力添えが必須なのですぞ」
貿易都市は今度の戦争でブロキュオン帝国とプアボム公国に支援を約束している。大工房は戦争に必要な武器や防具等の生産量を高める為に計画である。
私がこの計画に絡んだ理由は、大工房が生み出す利益の一部を私の研究費に充てること。そしてもう一つは貿易都市側との関係を強く繋げることが目的だったからだ。
元々の予定では大工房計画は約一週間後の開戦に向けて動くはずだったはずなのに、サピエル法国の急襲により明日には出撃することになってしまった。
面倒だけど、成り行きだったとはいえ大工房の経営者となってしまった以上、大工房計画を出鼻から頓挫させるわけにはいかない! 私の計画の為にも!
「分かったわイワンさん。それで、まずはどうするべきだと思う?」
「そうですな……とりあえずカグヅチ達の所に戻りましょう。何をするにしても、まずはカグヅチ達に先程の会議で決まったことを伝えてなくては始まりませんぞ」
イワンさんの言う通り、私とイワンさんがどうこう決めたところで実際に働くのはカグヅチさん達、鍛冶師の人達だ。
彼等にも現状を理解してもらい、その上で明日までに出来ること、それ以降に出来ることについて意見を出し合い動いてもらわないといけない。
時間がないなら尚更だ。
「そうね。じゃあ急ぎましょう」
そうして私とイワンさんはカグヅチさん達が待っている会議室に行って、出撃が急遽明日になることが決まったことを伝えた。
勿論カグヅチさん達は突然の決定に驚いていたけど、時間が無いことを理解すると急ぎ早に話を進めてくれた。
結局時間的に今から生産を始めても間に合わないということで、とりあえず貿易都市が各工房が所持している武器防具の在庫を全て買い取ってそれを帝国軍に提供することになった。
会議が終るとカグヅチさん達は新しい武器防具の生産の為にそれぞれの工房に急いで戻って行き、イワンさんは貿易都市警備隊に各工房の在庫を集めるように命令しに行った。
そして私は武器防具生産の為の素材を取りに屋敷に戻り、イワンさんが手配してくれた警備隊の人達に素材を受け渡した。
そうして現状で各々が出来る事を最速で行ったことにより、何とか明日までに供給が間に合う目処をつけることが出来た。
即席だったけど皆が同じ目的を持って動いたことで、何とか大工房計画の初動を躓かせずに済ませることが出来たのは運が良かったと思う。
……しかし結果的に言えば、それは空回りでしかなかった。
何故なら翌日、エヴァイアの命令で出撃が取り止めになったからだ。
共存関係を約束した以上、お互いが今抱えている事情を共有している方がいい。
その話をイワンさんも聞いてしまっているけど、特に問題はない。
私とイワンさん、つまり貿易都市とは『大工房計画の協力関係』を結んでいる。これは互いに利益を生み出す関係性である以上、信用を失う行為は自らの首を絞めることになる。
一方で私とエヴァイア、つまりブロキュオン帝国とは『互いの力を尊重した共存関係』を約束している。これはお互いに利益を生み出すことは少ないが、何かが起きた時にお互いの力、もしくは権力を頼って相互協力をしてもらうことが出来る。
因みにオリヴィエとの関係もこれと同じだ。
結局のところ何が言いたいかというと、イワンさんにしてもエヴァイアにしても私という存在が間にいる限り、お互いに下手な干渉をしてしまえば私の知ることになり私の心情を悪くしてしまう可能性があるということだ。
つまり私という緩衝材が、貿易都市とブロキュオン帝国に間接的な協力関係を形成させているのである。
なので互いの事情を知ったところで、それを利用することは出来ない。
まあそういう訳で、私達は三者三葉の事情を共有したところでようやく本題を切り出すことができた。
「それで、どうして私とイワンさんを呼び止めたの?」
そもそもこうして三人でいる現状は、エヴァイアが会議の後に私とイワンさんを呼び止めたことが発端だ。
その後に私の事で話が逸れてしまい、まだ呼び止めた理由を聞けていなかった。
「そのことだけど、さっきの会議について君達二人に少し意見をもらいたいんだ」
「意見って言われても、会議で方針は決定していたじゃない?」
先程まで行われていた会議ではサピエル法国に対してどう対応するかを話し合っていて、最終的に現在ムーア王国の首都に攻め込んでいるサピエル法国軍を撃退する為に進軍することで決定したはずだ。
そしてその決定に従って、今現在大急ぎで進軍の準備が進められているはずである。
なのに今更私とイワンさんの意見を聞きたいだなんて、不可思議にもほどがあった。
「確かに決定はしたし、僕自身もあの場で集まった情報で考えれば、あの決定が最適だったと思っているさ。……でもね、僕の直感があの決定を納得していないのさ。
自分で言うのもあれだけど、僕の直感は外れた例がないのさ。だからおそらく、いや確実に、正しい選択に辿り着く為の何か大切な情報が不足していると思うんだ」
「なるほど、だから改めて儂達の意見を聞きたいという訳なのですな?」
「そういうことさ」
エヴァイアの言いたいことは分かった。
クワトルの報告だと、エヴァイアは『超感覚』という、五感を自在に調節できる力を持っているらしい。さっきから言っている直感は、この力によって感じたものなのだろう。
……これは私の推測だけど。エヴァイアの『超感覚』はおそらく、五感で感じるもの以外にも、別の何かを感じ取れる力を持っているのではないだろうか? 例えて言うなら、俗に言う『第六感』、もしくは『本能』というやつだ。
エヴァイアの頭脳は『超感覚』により磨き上げられ、超人レベルの代物に進化していると思われる。
あらゆる種類の情報をすり合わせ、最終的にそれが正しいか正しくないかを直感で判断しているのではないだろうか?
……私はここまで推測して、エヴァイアの非常識ぶりに身震いした。
何故ならそれは、正確に何が起こるか分からないにしても、自分がどんな選択をしどんな行動すれば正しい答えに辿り着くかを本能的に導けるということに他ならない。
……それは最早、『大雑把な未来予知』と呼ぶに相応しい力である。
だがしかし、それが分かったとしても私の言う事は決まっている。
「でも意見って言われても、私は素人だし会議で決定した内容に不満も無かったけど……」
イワンさんならともかく、戦争経験のない私が新しい意見なんて思いつけるわけがない。
そう思ったけど、イワンさんも私と同意見のようだった。
「すみませんが儂も、会議で決めたことが現状の最適解だっと思いますぞ……」
「……そうか。君達二人なら何かに気付くのではないかと期待していたのだけど……」
エヴァイアは眉を垂らして明らかにガッカリしていた。
「その~……役に立てなくてごめんなさい」
「面目ございませんぞ……」
私とイワンさんは何故か反射的に謝っていた。
「いや、二人が悪いわけじゃないさ……。時間を取らせて悪かったね。僕はも少しここで考えを巡らせてみるよ」
「分かりましたぞ。ではお先に失礼します」
私とイワンさんはエヴァイアに会釈をしてから、会議室を後にした。
「……そういえばイワンさん、どうして私を会議に同席させたの?」
会議室を出て、私は中々聞けなかった疑問をイワンさんに投げかけた。
「ああそれはですな、セレスティア殿に大工房計画の経営者として現状をしっかりと把握して欲しいと思いましてな。
大工房は先程始動したばかりです。軌道が安定してからはカグヅチ達に任せれば良いでしょうが、それまでの間はセレスティアさんの力添えが必須なのですぞ」
貿易都市は今度の戦争でブロキュオン帝国とプアボム公国に支援を約束している。大工房は戦争に必要な武器や防具等の生産量を高める為に計画である。
私がこの計画に絡んだ理由は、大工房が生み出す利益の一部を私の研究費に充てること。そしてもう一つは貿易都市側との関係を強く繋げることが目的だったからだ。
元々の予定では大工房計画は約一週間後の開戦に向けて動くはずだったはずなのに、サピエル法国の急襲により明日には出撃することになってしまった。
面倒だけど、成り行きだったとはいえ大工房の経営者となってしまった以上、大工房計画を出鼻から頓挫させるわけにはいかない! 私の計画の為にも!
「分かったわイワンさん。それで、まずはどうするべきだと思う?」
「そうですな……とりあえずカグヅチ達の所に戻りましょう。何をするにしても、まずはカグヅチ達に先程の会議で決まったことを伝えてなくては始まりませんぞ」
イワンさんの言う通り、私とイワンさんがどうこう決めたところで実際に働くのはカグヅチさん達、鍛冶師の人達だ。
彼等にも現状を理解してもらい、その上で明日までに出来ること、それ以降に出来ることについて意見を出し合い動いてもらわないといけない。
時間がないなら尚更だ。
「そうね。じゃあ急ぎましょう」
そうして私とイワンさんはカグヅチさん達が待っている会議室に行って、出撃が急遽明日になることが決まったことを伝えた。
勿論カグヅチさん達は突然の決定に驚いていたけど、時間が無いことを理解すると急ぎ早に話を進めてくれた。
結局時間的に今から生産を始めても間に合わないということで、とりあえず貿易都市が各工房が所持している武器防具の在庫を全て買い取ってそれを帝国軍に提供することになった。
会議が終るとカグヅチさん達は新しい武器防具の生産の為にそれぞれの工房に急いで戻って行き、イワンさんは貿易都市警備隊に各工房の在庫を集めるように命令しに行った。
そして私は武器防具生産の為の素材を取りに屋敷に戻り、イワンさんが手配してくれた警備隊の人達に素材を受け渡した。
そうして現状で各々が出来る事を最速で行ったことにより、何とか明日までに供給が間に合う目処をつけることが出来た。
即席だったけど皆が同じ目的を持って動いたことで、何とか大工房計画の初動を躓かせずに済ませることが出来たのは運が良かったと思う。
……しかし結果的に言えば、それは空回りでしかなかった。
何故なら翌日、エヴァイアの命令で出撃が取り止めになったからだ。