第4話 ほけんしつ
『へぇ、あの人達退学になっちゃうんだ? そしたら彼女達の部活とかにも入らなくて済むよね』
彼女らはなんでも学内の備品を大量に破壊したそうだ。細かい事は分からないが、まぁ今となってはつばめには関係ない。
安堵の息を漏らすつばめ。1度しかない高校1年生の青春時代、あんな得体の知れない連中に関わっている暇は無いのだ。
熱心に掲示板を眺めるつばめに声を掛ける人物がいた。
「ねぇねぇブーメランちゃん、さっきの自己紹介ウケたよ。あたしは新見 綿子。よろしくね」
いきなり人をブーメラン扱いするこの娘、入学したてなのにもう既に制服を着崩して、ちょっとギャル入っている印象だ。
「…えと、確かに持ちネタ披露したけど、いきなり『ブーメラン』呼びは勘弁して欲しいかな…?」
つばめは己の希望を告げる。いや希望と言うか一般常識ではあるのだが。
「えー? カワイイじゃん『ブーメラン』。じゃあ『ブー』と『メラン』ならどっちが良い?」
どっちもイヤだよ。何でよりにもよってその二択なのよ…? ゲッソリとするつばめ。
「いやあの… 普通に『つばめ』って呼んで良いよ…?」
「オッケーつばめ! あたしも『わたこ』で良いよ。どう? 帰りにお茶していかない?」
「あ、うんと… ゴメンネ。今日はちょっと… また誘ってくれると嬉しいな」
今日はちょっと『今から男に会いに行くから』とは言えないつばめ。
「そっか、んじゃカラオケ行かない?」
『何でそうなるんだよ?! お茶をピンポイントで断った訳じゃねぇんだよ。どこに行くにも付き合えないって意味だよ気づけよ!』
つばめは心の中で思いっきりツッコんで、顔だけは笑顔で笑ってみせた。頬が少し引きつっていたかも知れない。
「あの、保健室に行く用事があるので、それもまた今度で…」
そそくさと退散を試みるつばめ。わざとらしく腹を擦って見せる。
「あー、オッケーお大事に。また明日ね〜」
別につばめは腹痛でも何でも無いのだが、女子同士の何かを察した綿子も手を振って帰って行った。
さて、目指す保健室に到着した。例の『沖田くん』はまだ居るのだろうか? とドキドキしながら扉の前で深呼吸をするつばめ。
「失礼します…」
意を決して扉を開く。入って奥が養護教諭の机、左手に数床のベッドが置かれている。
その中の1つ、手前のベッドに茶髪のサラサラヘアーを風になびかせた男子生徒が腰掛けていた。間違いない、今朝出会ったイケメンの彼である。
彼は今朝、全速力で校門の鉄門扉に激突しており、彼の左の頬には門扉の跡がクッキリと浮き出ていた。痛々しくもあるがコミカルでもある。
「やぁ、君は朝の子だね。君も怪我をしたのかい?」
ぱぁ という擬音が付きそうな爽やかな彼の笑顔。顔の左半分に格子模様が付いてなければとても見栄えのする場面である。
『自分も大怪我しているのにわたしの事を心配してくれるんだ? 沖田くん超優しいっ!』
感激するつばめ。その気持ちのまま、ややフラついた足取りで彼に歩み寄る。
「あの、怪我したって聞いたからお見舞いに来たの。わたし1年C組の芹沢つばめって言います」
「芹沢さんだね。俺は『沖田 彰馬』。クラスはえぇっーと…」
言い淀む沖田、校門で斃れた彼は、当然自分のクラスを知らない。
「あの、沖田くんはC組、私と同じ1年C組だよ! これからよろしくね」
精一杯の笑顔を浮かべて媚を売… もとい沖田に親愛の情を送るつばめ。
沖田もつばめの想いを分かっているのかいないのか、歯を光らせて満面の笑顔を返す。
「こちらこそよろしくね。芹沢さんみたいな可愛い娘と同じクラスなんて新学期早々縁起が良いよ」
『え? 可愛い? マジで? これもう両思いじゃね?』
と顔をニヤつかせて浮かれるつばめ。入学初日からバラ色の青春が展開される幸運に、見た事の無い、いや信じた事すら無い神に感謝する。
「具合は良くなった? あら、お客様…?」
つばめの後ろから妙齢の女性の声がする。振り向くとウェーブのかかった長髪をなびかせてとんでもない美人が保健室に入ってきた。
ブラウスの上に白衣を羽織り、下は短めのタイトスカートにベージュピンクのストッキング。
スリーサイズはざっと見た感じ、バスト99cm ウエスト55cm ヒップ88cm程はあるだろう。
「新入生かしら? 私はこの学校の養護教諭の山崎 不二子よ。よろしくね」
謎の女性はつばめと目を合わせ、優しい微笑みを浮かべる。
山崎教諭としてはその笑顔に悪意は存在しなかったが、つばめの目にはいきなり高次元から現れた超越者の冷笑にしか映らなかった。
顔! 胸! 腰! 尻! 艶っぽさ! そして脳みそ! つばめは全てにおいて負けている。唯一勝てる要素は『若さ』くらいのものだ。
陰鬱な気持ちに包まれるつばめを他所に、山崎教諭は沖田に近づき、熱を測るように彼の額に細い指を当てる。
屈んだ山崎教諭のブラウスの開いた胸元から豊かな胸がチラチラと自己主張を繰り返す。その胸は沖田の視線をガッチリ掴んで離さない。
「い、いやぁ、山崎先生みたいな綺麗な人に看病してもらえるなんて新学期早々縁起が良いですよ」
だらしなく目尻を下げて答える沖田。イケメンキャラ台無しであるが、彼も若い男子である。大目に見てほしい。
ショックを受けたのはつばめである。先程自分に向けた口説き文句(?)をいけしゃあしゃあと別の年増女に言っている。
『沖田くんの浮気者! もう知らない!』
溢れる涙を抑えきれないつばめが、『もういたたまれない』とばかりに無言のまま保健室を後にする。
悲劇のヒロインの体で廊下に出たつばめだが、何者かにその肩をポンと叩かれた。
『もしかして沖田くんがわたしを追いかけて来てくれた?!』
一縷の望みを抱いて振り向いたつばめの見たものは、邪悪な笑みを浮かべてつばめを見つめる近藤睦美だった。
彼女らはなんでも学内の備品を大量に破壊したそうだ。細かい事は分からないが、まぁ今となってはつばめには関係ない。
安堵の息を漏らすつばめ。1度しかない高校1年生の青春時代、あんな得体の知れない連中に関わっている暇は無いのだ。
熱心に掲示板を眺めるつばめに声を掛ける人物がいた。
「ねぇねぇブーメランちゃん、さっきの自己紹介ウケたよ。あたしは新見 綿子。よろしくね」
いきなり人をブーメラン扱いするこの娘、入学したてなのにもう既に制服を着崩して、ちょっとギャル入っている印象だ。
「…えと、確かに持ちネタ披露したけど、いきなり『ブーメラン』呼びは勘弁して欲しいかな…?」
つばめは己の希望を告げる。いや希望と言うか一般常識ではあるのだが。
「えー? カワイイじゃん『ブーメラン』。じゃあ『ブー』と『メラン』ならどっちが良い?」
どっちもイヤだよ。何でよりにもよってその二択なのよ…? ゲッソリとするつばめ。
「いやあの… 普通に『つばめ』って呼んで良いよ…?」
「オッケーつばめ! あたしも『わたこ』で良いよ。どう? 帰りにお茶していかない?」
「あ、うんと… ゴメンネ。今日はちょっと… また誘ってくれると嬉しいな」
今日はちょっと『今から男に会いに行くから』とは言えないつばめ。
「そっか、んじゃカラオケ行かない?」
『何でそうなるんだよ?! お茶をピンポイントで断った訳じゃねぇんだよ。どこに行くにも付き合えないって意味だよ気づけよ!』
つばめは心の中で思いっきりツッコんで、顔だけは笑顔で笑ってみせた。頬が少し引きつっていたかも知れない。
「あの、保健室に行く用事があるので、それもまた今度で…」
そそくさと退散を試みるつばめ。わざとらしく腹を擦って見せる。
「あー、オッケーお大事に。また明日ね〜」
別につばめは腹痛でも何でも無いのだが、女子同士の何かを察した綿子も手を振って帰って行った。
さて、目指す保健室に到着した。例の『沖田くん』はまだ居るのだろうか? とドキドキしながら扉の前で深呼吸をするつばめ。
「失礼します…」
意を決して扉を開く。入って奥が養護教諭の机、左手に数床のベッドが置かれている。
その中の1つ、手前のベッドに茶髪のサラサラヘアーを風になびかせた男子生徒が腰掛けていた。間違いない、今朝出会ったイケメンの彼である。
彼は今朝、全速力で校門の鉄門扉に激突しており、彼の左の頬には門扉の跡がクッキリと浮き出ていた。痛々しくもあるがコミカルでもある。
「やぁ、君は朝の子だね。君も怪我をしたのかい?」
ぱぁ という擬音が付きそうな爽やかな彼の笑顔。顔の左半分に格子模様が付いてなければとても見栄えのする場面である。
『自分も大怪我しているのにわたしの事を心配してくれるんだ? 沖田くん超優しいっ!』
感激するつばめ。その気持ちのまま、ややフラついた足取りで彼に歩み寄る。
「あの、怪我したって聞いたからお見舞いに来たの。わたし1年C組の芹沢つばめって言います」
「芹沢さんだね。俺は『沖田 彰馬』。クラスはえぇっーと…」
言い淀む沖田、校門で斃れた彼は、当然自分のクラスを知らない。
「あの、沖田くんはC組、私と同じ1年C組だよ! これからよろしくね」
精一杯の笑顔を浮かべて媚を売… もとい沖田に親愛の情を送るつばめ。
沖田もつばめの想いを分かっているのかいないのか、歯を光らせて満面の笑顔を返す。
「こちらこそよろしくね。芹沢さんみたいな可愛い娘と同じクラスなんて新学期早々縁起が良いよ」
『え? 可愛い? マジで? これもう両思いじゃね?』
と顔をニヤつかせて浮かれるつばめ。入学初日からバラ色の青春が展開される幸運に、見た事の無い、いや信じた事すら無い神に感謝する。
「具合は良くなった? あら、お客様…?」
つばめの後ろから妙齢の女性の声がする。振り向くとウェーブのかかった長髪をなびかせてとんでもない美人が保健室に入ってきた。
ブラウスの上に白衣を羽織り、下は短めのタイトスカートにベージュピンクのストッキング。
スリーサイズはざっと見た感じ、バスト99cm ウエスト55cm ヒップ88cm程はあるだろう。
「新入生かしら? 私はこの学校の養護教諭の山崎 不二子よ。よろしくね」
謎の女性はつばめと目を合わせ、優しい微笑みを浮かべる。
山崎教諭としてはその笑顔に悪意は存在しなかったが、つばめの目にはいきなり高次元から現れた超越者の冷笑にしか映らなかった。
顔! 胸! 腰! 尻! 艶っぽさ! そして脳みそ! つばめは全てにおいて負けている。唯一勝てる要素は『若さ』くらいのものだ。
陰鬱な気持ちに包まれるつばめを他所に、山崎教諭は沖田に近づき、熱を測るように彼の額に細い指を当てる。
屈んだ山崎教諭のブラウスの開いた胸元から豊かな胸がチラチラと自己主張を繰り返す。その胸は沖田の視線をガッチリ掴んで離さない。
「い、いやぁ、山崎先生みたいな綺麗な人に看病してもらえるなんて新学期早々縁起が良いですよ」
だらしなく目尻を下げて答える沖田。イケメンキャラ台無しであるが、彼も若い男子である。大目に見てほしい。
ショックを受けたのはつばめである。先程自分に向けた口説き文句(?)をいけしゃあしゃあと別の年増女に言っている。
『沖田くんの浮気者! もう知らない!』
溢れる涙を抑えきれないつばめが、『もういたたまれない』とばかりに無言のまま保健室を後にする。
悲劇のヒロインの体で廊下に出たつばめだが、何者かにその肩をポンと叩かれた。
『もしかして沖田くんがわたしを追いかけて来てくれた?!』
一縷の望みを抱いて振り向いたつばめの見たものは、邪悪な笑みを浮かべてつばめを見つめる近藤睦美だった。