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作者: ちありや
第41話 そうだん
 モヤモヤしたまま風呂から上がったつばめであったが、未だ結論は出ないままでいた。

『これもう1人でウジウジ考えてもキリがないヤツだ。こういう時にはちょっと気分転換して別な事を考えた方が後から良いアイデアが出るもんだよ、うん』

 これが当面のつばめの結論だ。不二子によれば体の変容にはまだまだ時間的余裕はあると言う。ならば無理して今すぐ答えを出す必要は無いのでは? と思えたのだ。

 綿子やこれから声を掛ける予定の少女達に、魔法による不妊化を告げるかどうかも、つばめの独断で決めていい問題でも無い。
 不二子やアンドレを含めたマジボラ全員で話し合って、大人の意見を取り入れて(つばめ以外は全員成人しているのだ)、より現実的な対応をしていけば良いのだ。

 問題を棚上げする事で一時の心の平穏を得たつばめが考えた事は、

『そもそも相手も予定も無いのに妊娠の心配をする必要は無いんだよ… 相手、相手か… 沖田くん今何してるのかな…? すごく会いたいな…』
 であった。

 つばめの思いびと、沖田彰馬。一応本作のヒーロー的な存在なのではあるが、現在より遡って20話以上セリフが無く、10話以上も出番らしい出番が無い不遇な人物である。

 普通ならここで沖田にメールを送るなり電話をかけるなりの展開になるのであろうが、生憎つばめはまだ沖田の連絡先を知らない。

 従って『会いたいけど会えない、声も聞けない』という、ある意味とても青春ぽい事をしているのだが、現代っ子のつばめにはもどかしくていても立っても居られない状況でもあった。

『そうだ! 沖田くんは部活の朝練で早めに学校に行っているはず。ならば明日早めに家を出て朝から沖田くんに会いに行こう。彼の声を聞けば不安も吹っ飛ぶ気がする!』

 思うが早いか夕飯も摂らずにベッドに潜り込むつばめ。『朝、1秒でも長く寝ていたい』を信条とする娘が早起きを決意し実行しているのだ。愛の力恐るべし、と言った所だろう。

 翌朝、珍しく目覚まし時計の鳴る直前に目が覚めたつばめは、部屋のカーテンを開け朝日を全身に浴びて「う〜ん」と体を伸ばす。
 とても健康的なシーンである。直後に腹が『ぐぅ』と鳴らなかったなら、であるが……。

 身支度を整え2階の私室から出る。階下では台所で妹のかごめが朝食を作っていた。

「お姉ちゃんこんな時間にどうしたの? 朝ご飯まだ出来てないよ?」
「昨夜もご飯も食べずに寝てたみたいだけど具合でも悪いの?」

 妹と母親から同時に声が掛かる。つばめは静かに微笑んで

「具合は大丈夫。朝はトーストだけ貰っていくよ」

 と答えた。そのつばめらしからぬ落ち着いた雰囲気に、母親と妹は密かに恐怖したという。

 まだ4日目ではあるが、すっかり慣れた通学路、すっかり慣れた口元のトースト、すっかり慣れた暴走ドライバー、高校生活は抵抗感無く既につばめの生活の一部となっていた。

 いつもの様に焦りながらではなく、のんびりと歩きながら食べるトーストもまた格別であった。それ以前にエチケットとして歩き食いするな、という話でもあるが今のつばめにはどうでもいい事だった。

 学校に入るとすぐ校庭がある。サッカー部以外にもいくつかの運動部が早朝練習をしており、始業前にも関わらずかなりの賑わいを見せていた。
 サッカー部は2、3年生はドリブル練習、1年生は持久走をやっているらしかった。校庭を走る沖田を見つけてつばめは心を踊らせる。

 外枠からしばらく沖田を見つめていたつばめ。表情こそ聖女の如く穏やかであるが、心の中は『やっぱり落ち込んだ時にはイケメン観察に限るわね』だったのは秘密である。

 練習を終え、水飲み場での水分補給に群がるサッカー部1年生。
 つばめを見つけた沖田はつばめに走り寄り、

「おはよう、つばめちゃん。今日は早いね」

 と爽やかな笑顔を向ける。前髪がサラサラなびき、笑顔からこぼれた白い歯がキラリと光る。

 つばめの心のモヤモヤを、陽光が差す様に晴らしてくれる沖田に、更なる好意を重ねながらつばめも微笑みを返す。

「おはよう沖田くん。着替え終わったらで良いから少し話せるかな…?」

 つばめの問いに一瞬怪訝な顔をした沖田だったが、すぐに笑顔を取り戻し、「うん、良いよ!」と明るく答えた。


「お待たせ。で、話って何?」

 早々に着替えを済ませた沖田がつばめの元にやってきた。
 ほんのり漂う沖田の汗の匂いにドキリとするつばめ。今まで父親を始め男の汗の匂いなどに良い印象を持った事など無かったが、沖田の匂いと考えるとそれすらも愛おしく思える。
 そんな自覚していなかった自分の変化に驚きを隠せないつばめ。

「あ、あのね… もし、もしもの話ね。沖田くんが『サッカーを続けていたら、将来結婚しても子供が作れなくなっちゃう』としたら、どうする…?」
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