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作者: ちありや
第43話 こたえ
 束の間ではあったが沖田との逢瀬を成功させたつばめは、上機嫌で保健室へと向かっていた。

「失礼します…」

 クラスの朝礼にはまだ少し余裕があったので、昨日心配をかけた不二子やマジボラの面々に早めに挨拶をしておきたかったのだ。
 とは言っても、睦美や久子のクラスを知らないし、何より彼女らは時間に関係なくマジボラ活動をしており、実質不登校の様なものである。

 従って、比較的所在のはっきりしている不二子にひとまずのターゲットを絞った訳である。

「あら、おはよう芹沢さん。その、何て言うか… 大丈夫…?」

 不二子も不二子で昨日つばめを傷付けた事を懸念していたのだろう、如何にも『睡眠不足です』という酷い顔をしていた。

「わたしは大丈夫です。それより先生の方が病んでる顔してますよ?」

 つばめは敢えて元気いっぱいの笑顔を不二子に見せる。その笑顔に当てられて、今度は逆に不二子が両手で顔を隠す。

「あんまり顔を見ないで、恥ずかしいから。これでも結構心配してたのよ? …それで、心の整理はついたのかしら?」

「はい! まだ時間的な余裕があるなら、余裕のあるうちはマジボラを続けようと思います。何だかんだ言ってもわたしの『能力』って結構便利なんで…」

 昨日のプロレスの件で、つばめの魔法は自分自身にも効果がある事が立証された。
 体の損傷か痛みかのどちらかは残るので、他人に掛けた場合の半分の効果しか望めないとは言え、医学ではその半分すらも消せない場合が多いのだ。

「…そうね。医者として、そして女性としても貴方の能力ってとても羨ましいと思うわ。ね、芹沢さん、貴女この機会に医学を勉強してみない?」

「あー、いえ結構です。勉強嫌いだし…」

 この辺の返しはつばめらしいと言えるだろう。

「そ、そう…? まぁいずれにせよ元気になって良かったわ。今だから言えるけど、昨日はあの後、先輩も久ちゃんも沈んじゃってお通夜みたいだったから…」

「そうだったんですか… それはすみませんでした…」

 素直に頭を下げるつばめ。不二子も否定の意味を込めて手を振る。

「貴女が悪い訳じゃないわ。大体先輩が無茶振りしたから貴女が怪我した訳だし。て言うか危ない事はちゃんと断りなさいよ? あの人その辺ナチュラルに気が回らないんだから」

「はい、気をつけます…」

 そこで始業前のチャイムが鳴り、会話時間の終了を告げる。退出支度を始めたつばめに不二子が「あ、そうそう」と前置きを入れる。

「あと、今度時間のある時で良いからまた来てちょうだい。貴女の能力で『何が出来て、何が出来ないのか?』を確かめてみたいの」

「は、はぁ、考えておきます…」

 歯切れの悪い返答をするつばめ。不二子が悪人では無いのは十二分に理解しているのだが、あの・・睦美を相手取って長年やり合ってきた海千山千の古強者だ。
 睦美とは別の意味で『どんな無理難題をふっかけて来るか分からない』不気味さは払拭出来ていなかった。

「私なぜかどうにもあの娘には警戒されているみたいね…」

 つばめを見送った不二子は無自覚に豊満な胸を抱えながら腕を組み、1人呟いた。


 さて、ありふれた授業風景やありふれた親衛隊との影のバトル、ありふれた購買争奪戦などを経て、放課後のマジボラ部室、昨日は心痛な面持ちで退出していったつばめが元気に部室へと入ってきた。

「おはようございまーっす(午後)! 芹沢つばめ復活しましたーっ!」

 つばめの笑顔を見て睦美と久子、そして今日は居るアンドレも揃って顔に笑みを浮かべる。

「お帰り、つばめちゃん。大体不二子ちゃんから聞いたけど、マジボラに残ってくれるんだって? 良かったぁ…」

 久子の心から嬉しそうな声につばめにも嬉しさが分け入ってくる。

「ご心配をおかけしました。とりあえずヤバくなる前に辞めさせて貰えればオッケーです。当面は山崎先生と相談しつつ活動していこうと思います」

「そうだね、それが良いよ。ね? 睦美さま?」

 久子の振りに、椅子に腰掛けていた睦美も『好きにしなさい』と手をヒラヒラさせた。

「つばめくんの復帰は嬉しいニュースだね、良かった良かった」

 アンドレも睦美らから詳しく事情を聞いているようだ。ここで「変態が治らなくなったら僕を是非!」と自分を売り込んで来ないあたり、常識人なのか本当につばめが圏外なのか。

「今日の『稼ぎ』は午前中にパパっとやっておいたから、午後は昨日の続きで新人勧誘に行くわよ。つばめ、当たりは付いてるんでしょうね?」

「あ、はい。御影くんはやっぱり女子バスケ部に入部したそうです」

「よし、今日は女子バスケ部に向かうわよ。アンタらいくさの準備はいい?!」

 睦美の檄に「おーっ!」と腕を上に上げる久子。

 一方つばめは『またプロレスさせられるんじゃないでしょうね? 今度は即逃げるようにしとかなきゃ…』と経験から得た対処法を頭の中で反芻はんすうさせていた。
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