第50話 かんしゃ
「…はい、コウモリ怪人、さっさとやっちゃって」
恐ろしくテンションの低い指示を怪人に出すウマナミレイ?。昨日祖父より無断で改造手術された事に対して、怒りと諦めの混ざった複雑な感情を抱えて、この『若干の花見客の残る河川敷の公園』という戦場に現れた訳である。
ちなみにゴリラの能力を付与されたウマナミレイ?、もとい増田蘭ではあるが、外見的には何ら変わった所はない。一見した所、至って普通の『コスプレした女子高生』である。
もちろんその『能力』を解放すれば、マウンテンゴリラに伍する膂力を発揮する事が可能であるし、外見も「あ〜、あの子はゴリラの怪人なんだな」と第三者に説明無しに理解させる程の変化も可能だ。やらないが。
「キーッ!」
コウモリ怪人の叫びと共に、脇に広がる翼をバタつかせる。するとそこから現れた小型のコウモリが道行く人々に噛み付いて生き血を吸い出したのだ。
噛み付かれた人達は必死にコウモリを剥がそうとするが、噛んだ牙から溶血性の毒薬を注入していたのか、傷口からの出血がなかなか止まらない。
痛みは予防接種の注射針くらいなので大した事は無いのだが、「怪人に襲われて、怪我した血が止まらない」というのはなかなかに恐ろしい体験である。
ここでシン悪川興業の戦略として肝心なのは「恐怖を集める事が本懐であり、民衆を殺害してしまっては意味が無い」という点にある。
恐怖感や嫌悪感を煽り立てて恐怖エナジーを発生させてこそ意味のある作戦行動であり、過剰な暴力描写や残酷描写を避けて、本作品が子供にも読める健全作品に仕上がっている所以でもあるのだ。
そして、その被害者達の発する『恐怖エナジー』がウマナミレイ?の手に持つ水晶球と思しき物体に続々と吸い込まれていく。
「おぉ、結構いい感じでエナジー溜まっていくじゃない、感心感心」
球体の中に水を張っていく様に徐々に溜まっていくエナジーを見つめながら、ようやくエンジンが回ってきたのかウマナミレイ?もみるみる上機嫌になっていく。
なにせ多目に回収していけば、蘭がゴリラの呪縛から逃れられる可能性が高まるのだ。己の未来の為にもイジケている場合では無い。
「待ちなさいっ!!」
桜の花舞い散る河川敷で、妙齢の女性の勇ましげな声が響く。もちろん我らが睦美、そしてその他2名である。
ちなみに緊急事態である為に、綿子や御影に連絡する暇は無かった。
「出たわねヘンテコ魔女軍団。邪魔しないでよウザったい!」
「アンタこそ人が寛いでいる時に事件起こすんじゃないわよ、このチビッコレオタード!」
「『チビッコ』言うな! このオバハンが!」
ウマナミレイ?は足元の石を拾ってゴリラパワーで睦美に投げつける。超スピードで飛来する石を前に、左手を軽く上げ「★✼✦」と呟く睦美。
すると石は睦美の手の直前でピタリと動きを止める。睦美の『固定』の能力だ。睦美が盾にしていた左手を払う様にゆっくり動かすと、止まっていた石も手に連動して動き、やがて力無く地に落ちた。
理力に導かれた騎士の様な芸当に驚きを隠せないウマナミレイ?。
『マジ? こいつら一体何なの? 前回のクモ怪人はオレンジ色のチンチクリンに殴り飛ばされて未だ行方不明だし、あの青いオバサンも凶器を振り回すだけのアブナイ人かと思いきや、念動力ぽい力を持ってるみたいだし… 何もせず意味有りげに佇んでいるだけのピンク色も、いかにも決戦兵器って感じで不気味だわ…』
「あの女幹部には魔法が効かないから今回はヒザ子があいつ担当で。アタシはコウモリを殺るわ。つばめは負傷者の救護を」
睦美の指示で三方に別れるマジボラ。
コウモリに噛まれた腕を押さえて、10歳くらいの少女が泣きながら流れる血を止めようとしている。他にも多数の被害者が逃げ切れずにその場に留まっていた。
「大丈夫? 痛くない?」
つばめは心配そうに少女に駆け寄る。仕草と口調は紛れもなく聖女の様な慈愛に満ちたものであったが、その実体は「傷と痛みのどちらを取るか? またどれくらい痛いのか?」の情報収集である。
「痛みはほとんど無いんだけど、血が止まらなくて…」
自らの流れる血に恐怖しながら辛そうに語る少女。つばめは大仰にゆったりと腕を振る動作をして、小さな声で「東京特許許可局許可局長」と呟いた。少女に見せるカッコイイ場面で、呪文の文言でズッコケさせる訳にはいかないのだ。
魔法は問題無く発動し、少女の怪我は跡形もなく回復する。つばめの選択は『痛みを引き受けるヴァージョンB』であったが、事前の情報収集のおかげか感じた痛みは極めて軽い物だった。
「うそ… 凄い… お姉さんありがとう!」
傷を治された少女の瞳がキラキラと輝く。今目の前で起きた奇跡を信じられずに、それでも目の前のつばめの行為が夢では無いと理解しているが故の、超常の者への畏敬の念だ。
少女からの感謝エナジーが、つばめの変態バンドを通じて睦美の胸の宝石へと送信されていくのが感じられる。
前回のクモ怪人の時の様な『失敗したけど気持ちだけは嬉しかったよ』的な微量な物ではなく、はっきりと『ありがとう!』の気持ちが伝わるエナジーだ。
『あ、これメッチャ気持ち良いかも…』
自分や身内に使う魔法では無く、ましてやマッチポンプでも無く、純粋に他人の為に魔法を使い、そして感謝される。まさしく「魔法奉仕」である。
そしてこの他ではあり得無い特別感、万能感につばめはかつて無いほどの気持ちの昂ぶりを覚えていた。
恐ろしくテンションの低い指示を怪人に出すウマナミレイ?。昨日祖父より無断で改造手術された事に対して、怒りと諦めの混ざった複雑な感情を抱えて、この『若干の花見客の残る河川敷の公園』という戦場に現れた訳である。
ちなみにゴリラの能力を付与されたウマナミレイ?、もとい増田蘭ではあるが、外見的には何ら変わった所はない。一見した所、至って普通の『コスプレした女子高生』である。
もちろんその『能力』を解放すれば、マウンテンゴリラに伍する膂力を発揮する事が可能であるし、外見も「あ〜、あの子はゴリラの怪人なんだな」と第三者に説明無しに理解させる程の変化も可能だ。やらないが。
「キーッ!」
コウモリ怪人の叫びと共に、脇に広がる翼をバタつかせる。するとそこから現れた小型のコウモリが道行く人々に噛み付いて生き血を吸い出したのだ。
噛み付かれた人達は必死にコウモリを剥がそうとするが、噛んだ牙から溶血性の毒薬を注入していたのか、傷口からの出血がなかなか止まらない。
痛みは予防接種の注射針くらいなので大した事は無いのだが、「怪人に襲われて、怪我した血が止まらない」というのはなかなかに恐ろしい体験である。
ここでシン悪川興業の戦略として肝心なのは「恐怖を集める事が本懐であり、民衆を殺害してしまっては意味が無い」という点にある。
恐怖感や嫌悪感を煽り立てて恐怖エナジーを発生させてこそ意味のある作戦行動であり、過剰な暴力描写や残酷描写を避けて、本作品が子供にも読める健全作品に仕上がっている所以でもあるのだ。
そして、その被害者達の発する『恐怖エナジー』がウマナミレイ?の手に持つ水晶球と思しき物体に続々と吸い込まれていく。
「おぉ、結構いい感じでエナジー溜まっていくじゃない、感心感心」
球体の中に水を張っていく様に徐々に溜まっていくエナジーを見つめながら、ようやくエンジンが回ってきたのかウマナミレイ?もみるみる上機嫌になっていく。
なにせ多目に回収していけば、蘭がゴリラの呪縛から逃れられる可能性が高まるのだ。己の未来の為にもイジケている場合では無い。
「待ちなさいっ!!」
桜の花舞い散る河川敷で、妙齢の女性の勇ましげな声が響く。もちろん我らが睦美、そしてその他2名である。
ちなみに緊急事態である為に、綿子や御影に連絡する暇は無かった。
「出たわねヘンテコ魔女軍団。邪魔しないでよウザったい!」
「アンタこそ人が寛いでいる時に事件起こすんじゃないわよ、このチビッコレオタード!」
「『チビッコ』言うな! このオバハンが!」
ウマナミレイ?は足元の石を拾ってゴリラパワーで睦美に投げつける。超スピードで飛来する石を前に、左手を軽く上げ「★✼✦」と呟く睦美。
すると石は睦美の手の直前でピタリと動きを止める。睦美の『固定』の能力だ。睦美が盾にしていた左手を払う様にゆっくり動かすと、止まっていた石も手に連動して動き、やがて力無く地に落ちた。
理力に導かれた騎士の様な芸当に驚きを隠せないウマナミレイ?。
『マジ? こいつら一体何なの? 前回のクモ怪人はオレンジ色のチンチクリンに殴り飛ばされて未だ行方不明だし、あの青いオバサンも凶器を振り回すだけのアブナイ人かと思いきや、念動力ぽい力を持ってるみたいだし… 何もせず意味有りげに佇んでいるだけのピンク色も、いかにも決戦兵器って感じで不気味だわ…』
「あの女幹部には魔法が効かないから今回はヒザ子があいつ担当で。アタシはコウモリを殺るわ。つばめは負傷者の救護を」
睦美の指示で三方に別れるマジボラ。
コウモリに噛まれた腕を押さえて、10歳くらいの少女が泣きながら流れる血を止めようとしている。他にも多数の被害者が逃げ切れずにその場に留まっていた。
「大丈夫? 痛くない?」
つばめは心配そうに少女に駆け寄る。仕草と口調は紛れもなく聖女の様な慈愛に満ちたものであったが、その実体は「傷と痛みのどちらを取るか? またどれくらい痛いのか?」の情報収集である。
「痛みはほとんど無いんだけど、血が止まらなくて…」
自らの流れる血に恐怖しながら辛そうに語る少女。つばめは大仰にゆったりと腕を振る動作をして、小さな声で「東京特許許可局許可局長」と呟いた。少女に見せるカッコイイ場面で、呪文の文言でズッコケさせる訳にはいかないのだ。
魔法は問題無く発動し、少女の怪我は跡形もなく回復する。つばめの選択は『痛みを引き受けるヴァージョンB』であったが、事前の情報収集のおかげか感じた痛みは極めて軽い物だった。
「うそ… 凄い… お姉さんありがとう!」
傷を治された少女の瞳がキラキラと輝く。今目の前で起きた奇跡を信じられずに、それでも目の前のつばめの行為が夢では無いと理解しているが故の、超常の者への畏敬の念だ。
少女からの感謝エナジーが、つばめの変態バンドを通じて睦美の胸の宝石へと送信されていくのが感じられる。
前回のクモ怪人の時の様な『失敗したけど気持ちだけは嬉しかったよ』的な微量な物ではなく、はっきりと『ありがとう!』の気持ちが伝わるエナジーだ。
『あ、これメッチャ気持ち良いかも…』
自分や身内に使う魔法では無く、ましてやマッチポンプでも無く、純粋に他人の為に魔法を使い、そして感謝される。まさしく「魔法奉仕」である。
そしてこの他ではあり得無い特別感、万能感につばめはかつて無いほどの気持ちの昂ぶりを覚えていた。