第54話 めーる
『…お風呂入った。歯も磨いた。トイレも済ませた。髪も梳かした。お化粧… はしないけど乳液とリップくらいは塗ったし、安物だけどコロンも振った。下着も含めてなるべく可愛い服を選んだ。後は… 後はどうすればええんじゃい? そもそもどうしてこうなった?!』
日曜日の街角、挙動不審な少女が1人。
もちろん我らが芹沢つばめである。彼女は今、駅前の待ち合わせ場所で思いびとである沖田 彰馬を待っていた。ちなみに待ち合わせの時間にはまだ1時間近く余裕がある。
☆
事の起こりは唐揚げパーティーを死ぬほど満喫し、残り物を折詰めまでしてもらって超ゴキゲンなつばめが、夜分に帰宅した所からだ。
『貰ってきた残り物が家族の分まであるから、お母さん(土日の料理担当)に貸しを作っておこう。何より魔法の使い過ぎでメッチャ眠い! せっかくだから今日も早く寝てしまおう! そんで明日1日寝ていよう!』
色々と小賢しい事を画策して自室に戻ってきたつばめ。ポケットからスマートフォンを取り出して机の上に置いた時に、ふと思い出した事があった。
『そう言えば沖田くんの連絡先を聞いたは良いけど、メールの1つも送ってないな… 聞いといて何もしないのも失礼かな…?』
今置いたばかりのスマホを再び手に取る。連絡先一覧から沖田の名前を見つけ画面に表示する。彼の電話番号、メールアドレス、連絡用SNSのID、多くの情報が画面に映し出される。
それらは単なる文字列に過ぎないのだが、その一つ一つが沖田の個人情報であり彼の分身でもある。そう考えると無機質な文字列でさえ愛しく、尊く思えてくるのが不思議なところである。
『男の子への初めてのメールって何を言えば良いのかな…? 時候の挨拶とか入れた方が良いのかな…?』
せっかく聞いた沖田の連絡先を全く活用していなかった自分に失望する余り、的はずれな結論に行き着くつばめ。
散々考え抜いた挙句、つばめの送った内容は
《こんばんは。聞いた連絡先が間違っていないか確認の為にメール送りました。届きましたか?》
という極めて事務的な物だった。
女同士のSNSでのやり取りはそれこそ井戸端会議感覚でペラペラダラダラと続けられるのだが、男性相手だとまるで勝手が分からずに慎重にならざるを得ない。
短い文言だが相手を不快にさせてはいないだろうかと、送信済みの言葉を何度も何度も読み返す。
文面を見返す事10回を過ぎた頃だろうか、突然つばめの手に持つスマホがメール着信のコールを鳴らす。
期待はしていたが予想外でもあった事態に、つばめは慌ててスマホを取り落としそうになる。
「おっとっと… あ、沖田くんからだ…」
沖田からの着信を知らせるポップアップがとても眩しい。いや、実際の画面の光量は大した事は無いのであくまで比喩表現だ。
《問題なく着いてるよ。今日は何してたの?》
《〜着いてるよ》で終わると思い込んで《届いていたなら良かったです。おやすみなさい》と返す気マンマンだったつばめは、沖田からの回答を促す返信にドギマギしてしまう。
「わ! わ! 何か質問きた?! えとえと… 《今日は部活の先輩が歓迎パーティを開いてくれたので、めいいっぱい楽しんできました!》…これでいいかな…?」
恐る恐る返信するつばめ。すると1分も経たずに沖田から返信が来る。
《いいなぁ、サッカー部なんてパーティどころかシゴキの連続で1年生はロクにボールを蹴らせても貰えないよ》
沖田の愚痴(?)に心を曇らせるつばめ。彼にサッカー部を勧めたのは他ならぬつばめなのだから、沖田が苦しんでいるのならそれはつばめの責任だ。
《あ、もしかしてサッカー部に入った事、後悔してる…? わたしのせいだよね…?》
この後に沖田からの恨み言が返ってくるかも知れなかったが、つばめはそう答えずには居られなかった。
《いやいや、運動部なんてどこもそんなもんだし気にしてないよ。それよりも走り込みが多くて、予想以上に靴の傷みが酷いのが悩みかな?笑》
沖田に気を遣わせてしまった気がして、またも恐縮してしまうつばめ。
『何て返そうかな…?』と思っていると、突然電話の着信が入る。またしても驚いてスマホをお手玉するつばめ。
「も… もしもしもし…?」
動揺して『もし』が増える。
「あ、ゴメン。いちいち文字打つの面倒くさくてさ。電話しちゃったけど良いかな?」
相手はもちろん沖田だ。否などあるはずもない。
「う、うん、大丈夫だよ。電話してくれて嬉しい…」
ちょっと彼の事を思い出せればそれで十分だったのに、まさか先方から電話してもらえるとは… つばめの眠気はとうに吹っ飛び、心臓バクバクで電話応対している状態である。
「ところでつばめちゃんは、明日の予定って何かあるかな?」
「え?!」
何だ? 何の話だ? 明日の予定なんて何も無い。
「あ、明日は… え、えーと、ちょっと新しい運動靴でも見に行こうかなぁ、なんて…」
恋する乙女として当然『今日は疲れたので明日は1日寝ています』などと言える訳もなく、沖田の靴ネタに合わせて出任せで大ぼらを吹くつばめ。
「本当に? じゃあさ、明日一緒に靴を見に行かない? 俺、デザインセンス無くていつも馬鹿にされるんだよね。だから女の子の意見も取り入れようかと思ってさ」
当然そういう流れになる。
日曜日の街角、挙動不審な少女が1人。
もちろん我らが芹沢つばめである。彼女は今、駅前の待ち合わせ場所で思いびとである沖田 彰馬を待っていた。ちなみに待ち合わせの時間にはまだ1時間近く余裕がある。
☆
事の起こりは唐揚げパーティーを死ぬほど満喫し、残り物を折詰めまでしてもらって超ゴキゲンなつばめが、夜分に帰宅した所からだ。
『貰ってきた残り物が家族の分まであるから、お母さん(土日の料理担当)に貸しを作っておこう。何より魔法の使い過ぎでメッチャ眠い! せっかくだから今日も早く寝てしまおう! そんで明日1日寝ていよう!』
色々と小賢しい事を画策して自室に戻ってきたつばめ。ポケットからスマートフォンを取り出して机の上に置いた時に、ふと思い出した事があった。
『そう言えば沖田くんの連絡先を聞いたは良いけど、メールの1つも送ってないな… 聞いといて何もしないのも失礼かな…?』
今置いたばかりのスマホを再び手に取る。連絡先一覧から沖田の名前を見つけ画面に表示する。彼の電話番号、メールアドレス、連絡用SNSのID、多くの情報が画面に映し出される。
それらは単なる文字列に過ぎないのだが、その一つ一つが沖田の個人情報であり彼の分身でもある。そう考えると無機質な文字列でさえ愛しく、尊く思えてくるのが不思議なところである。
『男の子への初めてのメールって何を言えば良いのかな…? 時候の挨拶とか入れた方が良いのかな…?』
せっかく聞いた沖田の連絡先を全く活用していなかった自分に失望する余り、的はずれな結論に行き着くつばめ。
散々考え抜いた挙句、つばめの送った内容は
《こんばんは。聞いた連絡先が間違っていないか確認の為にメール送りました。届きましたか?》
という極めて事務的な物だった。
女同士のSNSでのやり取りはそれこそ井戸端会議感覚でペラペラダラダラと続けられるのだが、男性相手だとまるで勝手が分からずに慎重にならざるを得ない。
短い文言だが相手を不快にさせてはいないだろうかと、送信済みの言葉を何度も何度も読み返す。
文面を見返す事10回を過ぎた頃だろうか、突然つばめの手に持つスマホがメール着信のコールを鳴らす。
期待はしていたが予想外でもあった事態に、つばめは慌ててスマホを取り落としそうになる。
「おっとっと… あ、沖田くんからだ…」
沖田からの着信を知らせるポップアップがとても眩しい。いや、実際の画面の光量は大した事は無いのであくまで比喩表現だ。
《問題なく着いてるよ。今日は何してたの?》
《〜着いてるよ》で終わると思い込んで《届いていたなら良かったです。おやすみなさい》と返す気マンマンだったつばめは、沖田からの回答を促す返信にドギマギしてしまう。
「わ! わ! 何か質問きた?! えとえと… 《今日は部活の先輩が歓迎パーティを開いてくれたので、めいいっぱい楽しんできました!》…これでいいかな…?」
恐る恐る返信するつばめ。すると1分も経たずに沖田から返信が来る。
《いいなぁ、サッカー部なんてパーティどころかシゴキの連続で1年生はロクにボールを蹴らせても貰えないよ》
沖田の愚痴(?)に心を曇らせるつばめ。彼にサッカー部を勧めたのは他ならぬつばめなのだから、沖田が苦しんでいるのならそれはつばめの責任だ。
《あ、もしかしてサッカー部に入った事、後悔してる…? わたしのせいだよね…?》
この後に沖田からの恨み言が返ってくるかも知れなかったが、つばめはそう答えずには居られなかった。
《いやいや、運動部なんてどこもそんなもんだし気にしてないよ。それよりも走り込みが多くて、予想以上に靴の傷みが酷いのが悩みかな?笑》
沖田に気を遣わせてしまった気がして、またも恐縮してしまうつばめ。
『何て返そうかな…?』と思っていると、突然電話の着信が入る。またしても驚いてスマホをお手玉するつばめ。
「も… もしもしもし…?」
動揺して『もし』が増える。
「あ、ゴメン。いちいち文字打つの面倒くさくてさ。電話しちゃったけど良いかな?」
相手はもちろん沖田だ。否などあるはずもない。
「う、うん、大丈夫だよ。電話してくれて嬉しい…」
ちょっと彼の事を思い出せればそれで十分だったのに、まさか先方から電話してもらえるとは… つばめの眠気はとうに吹っ飛び、心臓バクバクで電話応対している状態である。
「ところでつばめちゃんは、明日の予定って何かあるかな?」
「え?!」
何だ? 何の話だ? 明日の予定なんて何も無い。
「あ、明日は… え、えーと、ちょっと新しい運動靴でも見に行こうかなぁ、なんて…」
恋する乙女として当然『今日は疲れたので明日は1日寝ています』などと言える訳もなく、沖田の靴ネタに合わせて出任せで大ぼらを吹くつばめ。
「本当に? じゃあさ、明日一緒に靴を見に行かない? 俺、デザインセンス無くていつも馬鹿にされるんだよね。だから女の子の意見も取り入れようかと思ってさ」
当然そういう流れになる。