第67話 うたまろん
「……お茶ね」
繁蔵との会話が長丁場になるのは蘭も予感していた。なので素直に自分と繁蔵、二人分の茶を淹れる。
「まず今回の目的は3つ、『いつもの恐怖のエナジー集め』『新型強化装甲服ウタマロんの運用試験』そして『蘭のスパイ活動の援護』じゃ」
ひとつひとつの目的に指を折りながら繁蔵は蘭に諭すように語る。
「…でもまさか魔法奉仕同好会とやらのド新人であるお前が、いきなり1人で最前線に躍り出て怪人とプロレスするとは、流石のお爺ちゃんも予想できなかったよ。こういうのって初めは他の先輩に任せて新人は後ろで見学するもんじゃないの? 相手の戦闘能力を探るはずのお前が何で率先して自分の能力晒してんの? バカなの?」
「そ、それはっ… き、急に怪人とか出てきて、現場がパニックになってたから、つい…」
理屈としては繁蔵は正しい。蘭も上手い言い訳が見つからずにしどろもどろになっていく。
「自分の立場を履き違えるなよ蘭。お前はウマナミレイ?として奴らの元に潜入しているんじゃからな? 間違っても『正義や友情の為に』なんていうヘソ茶案件は勘弁してくれよ。怪人だって作るの大変だし安くないんだよ?」
そこまで言って湯呑みの中身を一気に飲み干す繁蔵。どうやら単なる興味本位や嫌がらせで襲撃してきたわけでは無いらしい。
「…わ、悪かったわよ… 私だってせめて事前に一言聞いていればあんな勇み足はしなかったのに…」
「『敵を騙すには何とやら』じゃ。まぁいい。今回は双方に落ち度があったって事で水に流そうではないか。少なくともウタマロんの緊急脱出装置に改善点が見いだせたのはせめてもの収穫じゃて…」
「そ、そうだ! あの丸っこいの… う、『ウタマロん』? ってのは何者なのよ? まぁ大体の予想はついてるけど、もし予想通りなら私も黙って無いからね?」
蘭の中では、あのウタマロんの中に入っていたのは妹の凛ではないか? との疑問が多勢を占めていた。蘭のみならず受験生の凛まで悪事に巻き込むのは、たとえ祖父だとしても許すつもりは無かった。
「ふむ、あれはワシの最高傑作、究極の防護服なのじゃよ。邪魔具によって魔法の影響を受けず、その外装によってありとあらゆる攻撃から身を守る事が可能なのじゃ!」
『よくぞ聞いてくれた!』と言わんばかりに嬉嬉としてウタマロんのスペックを語りだす繁蔵。
「打撃、銃撃、砲撃、斬撃、爆撃、衝撃はおろか、上は50万℃、下は12.65Kまでの熱耐性を持ち、細菌や放射能も完璧に遮断し、中は空気調節機能と共に消臭、除菌機能も兼ね備えた完璧な居住性を誇り…」
「いや、そうじゃなくて… 中の人をね…」
「しかも外部音声を単文に制限しながらも怪人とは脳量子波で通信する事で、敵にこちらの作戦を気取られる事なく怪人に指示を送れる、という優れ機能も取り付けてあって…」
「話を聞けぇっ!!」
激昂した蘭が手刀でテーブルを叩き折る。蘭は自分用の湯呑みは左手に避難させていたので、結果繁蔵の湯呑みだけが床に落ちて2つに割れた。
「なんじゃよ蘭? キレる子供怖いよ… お爺ちゃんの湯呑みとあとテーブルも壊さないで。お前ホルモンバランスが崩れてるから怒りっぽくなったり便秘になったりするんだよ?」
怒気による興奮冷めやらぬ感じでゼェゼェ言っている蘭に冷静にツッコむ繁蔵。本気で蘭が何に怒っているのか気づいてない模様である。
「…着ぐるみの性能とか便秘とかどうでも良いから、アレに入ってたのは誰か教えなさい!」
「なんじゃ、そんな事か。それなら…」
繁蔵が興味なさそうに口を開いた瞬間、地下へと通じるエレベーターが開いて中から件のウタマロんが現れた。正確には顔に当るクリの部分が取り外されて中の人物が露出していた。
「ねぇこれ1人で脱げないんだから助けてよぉ。それに1人だと起き上がるのも一苦労なんだからね? お姉も転がしておいて放置とか酷くない?」
「凛…」
ウタマロんの中の人は、やはり蘭の予想通り妹の凛であった。当たって欲しくない予感が的中してしまった事に大きなショックを受ける蘭。
「凛… アンタなんで…? それに学校は?」
そこまで呟いて蘭は何かを思い出したかの様に繁蔵に詰め寄る。
「まさか凛まで変な改造してないでしょうね?! もしそうなら私今日、殺人犯になるのも厭わないよ?!」
「してないしてない。凛はきれいな体のままじゃよ。受験生なのにそんな酷い事する訳ないじゃろ」
蘭に気圧されながらも首を振って反論する繁蔵。『蘭はもうきれいな体じゃないとでも言うのか』とか『お前が受験生を気遣うのか』とか言いたい事はあるが、とりあえずは妹の無事に安心する蘭。
「そ、そうよ。凛、アンタ受験生なのに着ぐるみ着て遊んでいる場合じゃ…」
大方、蘭と同様に繁蔵に言いくるめられて半強制的に着ぐるみ幹部なんぞをやらされているのであろうと予想した蘭が、凛をたしなめるべく口を開いたのだが、凛は蘭を静かに睨みつけボソリと呟いた。
「お姉には分からないよ…」
繁蔵との会話が長丁場になるのは蘭も予感していた。なので素直に自分と繁蔵、二人分の茶を淹れる。
「まず今回の目的は3つ、『いつもの恐怖のエナジー集め』『新型強化装甲服ウタマロんの運用試験』そして『蘭のスパイ活動の援護』じゃ」
ひとつひとつの目的に指を折りながら繁蔵は蘭に諭すように語る。
「…でもまさか魔法奉仕同好会とやらのド新人であるお前が、いきなり1人で最前線に躍り出て怪人とプロレスするとは、流石のお爺ちゃんも予想できなかったよ。こういうのって初めは他の先輩に任せて新人は後ろで見学するもんじゃないの? 相手の戦闘能力を探るはずのお前が何で率先して自分の能力晒してんの? バカなの?」
「そ、それはっ… き、急に怪人とか出てきて、現場がパニックになってたから、つい…」
理屈としては繁蔵は正しい。蘭も上手い言い訳が見つからずにしどろもどろになっていく。
「自分の立場を履き違えるなよ蘭。お前はウマナミレイ?として奴らの元に潜入しているんじゃからな? 間違っても『正義や友情の為に』なんていうヘソ茶案件は勘弁してくれよ。怪人だって作るの大変だし安くないんだよ?」
そこまで言って湯呑みの中身を一気に飲み干す繁蔵。どうやら単なる興味本位や嫌がらせで襲撃してきたわけでは無いらしい。
「…わ、悪かったわよ… 私だってせめて事前に一言聞いていればあんな勇み足はしなかったのに…」
「『敵を騙すには何とやら』じゃ。まぁいい。今回は双方に落ち度があったって事で水に流そうではないか。少なくともウタマロんの緊急脱出装置に改善点が見いだせたのはせめてもの収穫じゃて…」
「そ、そうだ! あの丸っこいの… う、『ウタマロん』? ってのは何者なのよ? まぁ大体の予想はついてるけど、もし予想通りなら私も黙って無いからね?」
蘭の中では、あのウタマロんの中に入っていたのは妹の凛ではないか? との疑問が多勢を占めていた。蘭のみならず受験生の凛まで悪事に巻き込むのは、たとえ祖父だとしても許すつもりは無かった。
「ふむ、あれはワシの最高傑作、究極の防護服なのじゃよ。邪魔具によって魔法の影響を受けず、その外装によってありとあらゆる攻撃から身を守る事が可能なのじゃ!」
『よくぞ聞いてくれた!』と言わんばかりに嬉嬉としてウタマロんのスペックを語りだす繁蔵。
「打撃、銃撃、砲撃、斬撃、爆撃、衝撃はおろか、上は50万℃、下は12.65Kまでの熱耐性を持ち、細菌や放射能も完璧に遮断し、中は空気調節機能と共に消臭、除菌機能も兼ね備えた完璧な居住性を誇り…」
「いや、そうじゃなくて… 中の人をね…」
「しかも外部音声を単文に制限しながらも怪人とは脳量子波で通信する事で、敵にこちらの作戦を気取られる事なく怪人に指示を送れる、という優れ機能も取り付けてあって…」
「話を聞けぇっ!!」
激昂した蘭が手刀でテーブルを叩き折る。蘭は自分用の湯呑みは左手に避難させていたので、結果繁蔵の湯呑みだけが床に落ちて2つに割れた。
「なんじゃよ蘭? キレる子供怖いよ… お爺ちゃんの湯呑みとあとテーブルも壊さないで。お前ホルモンバランスが崩れてるから怒りっぽくなったり便秘になったりするんだよ?」
怒気による興奮冷めやらぬ感じでゼェゼェ言っている蘭に冷静にツッコむ繁蔵。本気で蘭が何に怒っているのか気づいてない模様である。
「…着ぐるみの性能とか便秘とかどうでも良いから、アレに入ってたのは誰か教えなさい!」
「なんじゃ、そんな事か。それなら…」
繁蔵が興味なさそうに口を開いた瞬間、地下へと通じるエレベーターが開いて中から件のウタマロんが現れた。正確には顔に当るクリの部分が取り外されて中の人物が露出していた。
「ねぇこれ1人で脱げないんだから助けてよぉ。それに1人だと起き上がるのも一苦労なんだからね? お姉も転がしておいて放置とか酷くない?」
「凛…」
ウタマロんの中の人は、やはり蘭の予想通り妹の凛であった。当たって欲しくない予感が的中してしまった事に大きなショックを受ける蘭。
「凛… アンタなんで…? それに学校は?」
そこまで呟いて蘭は何かを思い出したかの様に繁蔵に詰め寄る。
「まさか凛まで変な改造してないでしょうね?! もしそうなら私今日、殺人犯になるのも厭わないよ?!」
「してないしてない。凛はきれいな体のままじゃよ。受験生なのにそんな酷い事する訳ないじゃろ」
蘭に気圧されながらも首を振って反論する繁蔵。『蘭はもうきれいな体じゃないとでも言うのか』とか『お前が受験生を気遣うのか』とか言いたい事はあるが、とりあえずは妹の無事に安心する蘭。
「そ、そうよ。凛、アンタ受験生なのに着ぐるみ着て遊んでいる場合じゃ…」
大方、蘭と同様に繁蔵に言いくるめられて半強制的に着ぐるみ幹部なんぞをやらされているのであろうと予想した蘭が、凛をたしなめるべく口を開いたのだが、凛は蘭を静かに睨みつけボソリと呟いた。
「お姉には分からないよ…」