第97話 ばんど
「変態!」
保健室の中で変態するつばめ。顕現したマジカルスワローに対しその場にいた不二子、蘭、野々村の3人は『やっぱり魔法少女はピンクだよね。つばめちゃん主役っぽくて良いなぁ』と異口同音な感想を抱く。
ちなみに今更だが現役時代の不二子のカラーは『紫』であった。
「じゃあ実演頼むわ」
不二子の言葉につばめが頷く。頭頂に右手を遣り「つばめブーメラン!」とアホ毛をしごくように一気に振り抜く。
すると昨日と同様に、つばめの手の動きに合わせて頭から白い餅の様な物体がビニョーンと伸びて宙を舞い、振り終わる頃には再び収縮しつばめの頭に戻って行った。
その光景を経て保健室に不二子、蘭、野々村、女3人の軽い悲鳴が響く。『意外にキモい。思ってたのと違う』的な共通認識で間違いない。
「い、今の何なの…?」
唖然とする不二子につばめは憤る。
「それを聞きに来たんですよぉ! 『つばめブーメラン』やるの地味に恥ずかしいんですからね?!」
怒りと羞恥で顔を赤くしたつばめが不二子に詰め寄る。
「そ、そんなこと言われても… 私だってこんなの見るの初めてですもの、ちょっと動揺しちゃったわよ…」
「そんなぁ…」
せっかく張り切って必殺技を出したのに、宴会芸どころか気持ち悪がらせただけで終わってしまうとは……。
「でも先程の物体は芹沢さんの頭のバンドから伸びていた様に見えました。変態バンドは手首や指にフィットするかと思えば、全身を覆う程に増殖する事もあります。今ぐらいの変化なら造作もないのでは?」
野々村がメガネを光らせながら発言する。不二子ですら悲鳴を上げていた状況で、自身も声を上げながらも比較的冷静に全体を見ていたのだ。伊達にジャーナリスト志望な訳では無かった。
ちなみに蘭は『私、虫とか微生物とか苦手なんだよなぁ… 繁蔵の作る怪人もそんなんばかりだったし嫌だったなぁ… あーあ、つばめちゃんには悪いけど早く帰りたいなぁ…』と思っていた。
「バンドかぁ… そう言えば今まで気にしてなかったけどこのバンドってどういう仕組みになってるんですかねぇ…?」
「あぁ、変態バンドに関しては昔一度、睦美センパイが丹精込めて編み棒で手作りしてるのを見た事があるわ。だから出来たてはマフラーみたいに大きいの。そして出来上がりにセンパイが呪文を唱えると普段のハチマキ大の布片になるのよ。不思議よねぇ」
つばめの問いに、どうにか冷静さを取り戻した不二子が話題に復帰する。
「『このバンドの製法は王族にしか習得できませんの。いつか多くの仲間と国を取り戻す為に頑張って作りませんと!』とか言ってたから、あの時に結構作り貯めしてたんじゃないかしら…?」
不二子の昔語りに声を無くす3人。やはりお嬢様言葉と睦美のイメージ格差が大きかった為だろう。基礎知識のあったつばめですら一瞬固まったほどだ、何も知らない他の2人へのパンチ力は相当な物であった。
結局変態バンドについては『よく分からない』との結論で落ち着いた。あの睦美がその実態を詳しく教えてくれるのか? という点も含めてこの場では保留にするしか無かったのだ。
「とりあえず芹沢さんの新技は『頭のバンドが変形した』って事で良いのかしら? 私もそんなパターン初めて見たし、何故そんな能力(?)が身についたのかも謎…」
「き、きっとつばめちゃんの『生命』の能力でバンドに命が宿った! とかなんじゃないですか… ねぇ?」
考え込んで動きを止めた不二子に『もうそういう事で良いじゃない』という気持ちを込めて、早く帰りたい蘭が思考加速を促した。
蘭の言葉にその場の3人の視線が集中する。直後に今度はその3人で視線を交わし『まさかねぇ』という気持ち共有してアハハと笑い合う。
「いやいや蘭ちゃん、ネタは面白いけどさすがにそれは無いよ。こんなのに命が…」
『こんなの』のタイミングでつばめが頭のバンドに手を触れた時に、つばめの頭の中に響く声があった。
《是。我、取得、生命、自我》
声質は成人男性、それも壮年以降の落ち着いた雰囲気の声だ。もし幻聴で無ければ、この場にいる不二子、蘭、野々村の何れとも別の声だ。
『サーッ』という血の気が引く音が聞こえる程につばめの顔が一気に青ざめる。
「ね、ねぇ、今誰か何か言った? 聞こえた? 蘭ちゃんの後に…?」
誰も何も言ってない。3人はつばめの態度を訝りながらも、無言で頭を振る。
つばめは青い顔のまま、恐る恐る再び頭のバンドに手を伸ばし触れる。
「あ、あの… 先程わたしに話しかけてきたのは貴方… ですか…?」
《是。我、要望、会話…》
「めっ! 変態!! ラーリっ!!」
急いで変態を解き頭からバンドを外すつばめ。長距離を走ってきた後の様にゼェゼェと息が荒い。
つばめの尋常ならざる事態にざわつく3人。何かとてつもなく異常な事が起きている様子なのだが、つばめ以外にはそれが伝わっていない。
「しゃ、しゃ、喋りましたぁっ! このバンドがぁっ!!」
つばめは手にした変態バンドを、捕えた獲物を誇る様に不二子に突き出した。
「……」
「……」
「……」
そして3人は一様に、そんなつばめの事を『可愛そうな子』を見る目で見つめていた。
保健室の中で変態するつばめ。顕現したマジカルスワローに対しその場にいた不二子、蘭、野々村の3人は『やっぱり魔法少女はピンクだよね。つばめちゃん主役っぽくて良いなぁ』と異口同音な感想を抱く。
ちなみに今更だが現役時代の不二子のカラーは『紫』であった。
「じゃあ実演頼むわ」
不二子の言葉につばめが頷く。頭頂に右手を遣り「つばめブーメラン!」とアホ毛をしごくように一気に振り抜く。
すると昨日と同様に、つばめの手の動きに合わせて頭から白い餅の様な物体がビニョーンと伸びて宙を舞い、振り終わる頃には再び収縮しつばめの頭に戻って行った。
その光景を経て保健室に不二子、蘭、野々村、女3人の軽い悲鳴が響く。『意外にキモい。思ってたのと違う』的な共通認識で間違いない。
「い、今の何なの…?」
唖然とする不二子につばめは憤る。
「それを聞きに来たんですよぉ! 『つばめブーメラン』やるの地味に恥ずかしいんですからね?!」
怒りと羞恥で顔を赤くしたつばめが不二子に詰め寄る。
「そ、そんなこと言われても… 私だってこんなの見るの初めてですもの、ちょっと動揺しちゃったわよ…」
「そんなぁ…」
せっかく張り切って必殺技を出したのに、宴会芸どころか気持ち悪がらせただけで終わってしまうとは……。
「でも先程の物体は芹沢さんの頭のバンドから伸びていた様に見えました。変態バンドは手首や指にフィットするかと思えば、全身を覆う程に増殖する事もあります。今ぐらいの変化なら造作もないのでは?」
野々村がメガネを光らせながら発言する。不二子ですら悲鳴を上げていた状況で、自身も声を上げながらも比較的冷静に全体を見ていたのだ。伊達にジャーナリスト志望な訳では無かった。
ちなみに蘭は『私、虫とか微生物とか苦手なんだよなぁ… 繁蔵の作る怪人もそんなんばかりだったし嫌だったなぁ… あーあ、つばめちゃんには悪いけど早く帰りたいなぁ…』と思っていた。
「バンドかぁ… そう言えば今まで気にしてなかったけどこのバンドってどういう仕組みになってるんですかねぇ…?」
「あぁ、変態バンドに関しては昔一度、睦美センパイが丹精込めて編み棒で手作りしてるのを見た事があるわ。だから出来たてはマフラーみたいに大きいの。そして出来上がりにセンパイが呪文を唱えると普段のハチマキ大の布片になるのよ。不思議よねぇ」
つばめの問いに、どうにか冷静さを取り戻した不二子が話題に復帰する。
「『このバンドの製法は王族にしか習得できませんの。いつか多くの仲間と国を取り戻す為に頑張って作りませんと!』とか言ってたから、あの時に結構作り貯めしてたんじゃないかしら…?」
不二子の昔語りに声を無くす3人。やはりお嬢様言葉と睦美のイメージ格差が大きかった為だろう。基礎知識のあったつばめですら一瞬固まったほどだ、何も知らない他の2人へのパンチ力は相当な物であった。
結局変態バンドについては『よく分からない』との結論で落ち着いた。あの睦美がその実態を詳しく教えてくれるのか? という点も含めてこの場では保留にするしか無かったのだ。
「とりあえず芹沢さんの新技は『頭のバンドが変形した』って事で良いのかしら? 私もそんなパターン初めて見たし、何故そんな能力(?)が身についたのかも謎…」
「き、きっとつばめちゃんの『生命』の能力でバンドに命が宿った! とかなんじゃないですか… ねぇ?」
考え込んで動きを止めた不二子に『もうそういう事で良いじゃない』という気持ちを込めて、早く帰りたい蘭が思考加速を促した。
蘭の言葉にその場の3人の視線が集中する。直後に今度はその3人で視線を交わし『まさかねぇ』という気持ち共有してアハハと笑い合う。
「いやいや蘭ちゃん、ネタは面白いけどさすがにそれは無いよ。こんなのに命が…」
『こんなの』のタイミングでつばめが頭のバンドに手を触れた時に、つばめの頭の中に響く声があった。
《是。我、取得、生命、自我》
声質は成人男性、それも壮年以降の落ち着いた雰囲気の声だ。もし幻聴で無ければ、この場にいる不二子、蘭、野々村の何れとも別の声だ。
『サーッ』という血の気が引く音が聞こえる程につばめの顔が一気に青ざめる。
「ね、ねぇ、今誰か何か言った? 聞こえた? 蘭ちゃんの後に…?」
誰も何も言ってない。3人はつばめの態度を訝りながらも、無言で頭を振る。
つばめは青い顔のまま、恐る恐る再び頭のバンドに手を伸ばし触れる。
「あ、あの… 先程わたしに話しかけてきたのは貴方… ですか…?」
《是。我、要望、会話…》
「めっ! 変態!! ラーリっ!!」
急いで変態を解き頭からバンドを外すつばめ。長距離を走ってきた後の様にゼェゼェと息が荒い。
つばめの尋常ならざる事態にざわつく3人。何かとてつもなく異常な事が起きている様子なのだが、つばめ以外にはそれが伝わっていない。
「しゃ、しゃ、喋りましたぁっ! このバンドがぁっ!!」
つばめは手にした変態バンドを、捕えた獲物を誇る様に不二子に突き出した。
「……」
「……」
「……」
そして3人は一様に、そんなつばめの事を『可愛そうな子』を見る目で見つめていた。