第112話 すとりーとふぁいと
武装した桜田の子分5人に囲まれた大豪院と鍬形。ここで動いたのは意外にも鍬形であった。
彼は大豪院を庇うように前に出ると、大豪院を背に大の字になって桜田軍団に睨みを効かせる。
「大豪院、お前は逃げろ! こんな奴ら俺一人で蹴散らしてやるさ!!」
なんと彼は己を盾にして大豪院を守ろうとしていたのである。無論口から出た言葉は虚勢100%だ。どんな達人でも素手で武装した5人を相手に立ち回りなど出来はしない。
鍬形の内心に打算が無かったとは言わない。ここで少しカッコイイ所を見せて大豪院の心象を良くしたいとか、桜田本人ならまだしもその取り巻きくらいなら鍬形でも相手に出来るだろうとか、大豪院が参戦して共闘できるなら熱い友情物語の序章になるとかの考えがあったのは確かだ。
だがそれでも鍬形を『浅ましい』と非難出来る人間は居まい。動機が何であれ、危機を前に他人を守ろうと盾になれる人物などそうそう居ない。そういった『決断』と『行動』が出来る時点で鍬形 甲は立派な漢であったと言えるだろう。
「お前が逃げる時間くらいは稼いでやるよ! お前の戦うべき相手はこんなクソみたいな連中じゃないんだ!」
鍬形は必死に大豪院を守ろうとしているのだが、もちろん大豪院は動かない。体だけで無く表情すらも動いていない。
鍬形の男意気をまるで頓着しない無反応ぶりは、敵対している桜田軍団にすらも憐れみを抱かせるに十分だった。
「コントやってんじゃねえんだよっ!」
痺れを切らした桜田軍団の1人が、横に回って鉄パイプで大豪院に殴りかかった。鍬形は健気にもその鉄パイプの攻撃を我が身で受けようと体を捻る。
鉄パイプ等で思いっきり殴られたら、受けた部分は骨折必至である。その痛みと衝撃を予想して鍬形は目を閉じる。
「ガン!」という硬い音がして、打撃に使用された鉄パイプがクルクルと回りながら宙を舞い、やがてカランと地面に落ちた。
鉄パイプは鍬形に当たる直前に、コンクリート壁の様な物に当たって弾け飛んでいたのだ。
もちろん虚空にいきなりコンクリート壁など出現しない。コンクリート壁と思われた物は、鍬形の頭上を越えて差し出された大豪院の右手であった。
鉄パイプで殴られても大豪院は痛そうな素振りを見せない。攻撃を受け止めた手の甲は、人体の中でも骨折しやすい場所なのにも関わらずだ。
そもそも大豪院は今朝の時点で高速の車3台に挟まれて炎上しても、ダメージらしいダメージは受けていなかったのだ。
鉄パイプによる攻撃など、大豪院にとっては文字通り『蚊に食われた様なもの』だったのだろう。
「っの野郎っ!」
別の男が手にした金属バットで大豪院に殴りかかる。その打撃を先程と同様に右手で防ぐ大豪院。
バットを握る様に受け止めた大豪院がそのまま軽く力を入れると、金属バットはまるで粘土細工の様にグニャリと折れ曲がってしまったのだ。
金属バットは本来グニャリと曲がる物ではないし、今回使われた金属バットが特殊な加工がしてあった訳でもない。
「な、何だよコイツ?!」
「わけわかんねーよ!」
「こんなん無理だろ…」
大豪院の右手首から先の動きだけで完全に心を折られてしまった桜田の子分たちは、その場に武器を投げ捨てて一斉に散って行った。
残された大豪院と鍬形、こちらは鍬形が目に涙を溜めていた。
「大豪院… お前が俺を守ってくれたのか…? お前の盾にすらなれないハンパもんの俺を…?」
感動の余り熱い男泣きを見せる鍬形であったが、大豪院は相変わらず鍬形をスルーするかの様にこれといったリアクションを見せず、さっさと踵を返して大通りの雑踏へと戻って行こうとしていた。
☆
「…一体何者なのあいつ?」
物陰からその一切を観察していたマジボラ一行であったが、規格外を通り越して非常識ですらある大豪院の様子に、睦美は半ば呆れた様子で言い放つ。
「魔法無しで金属バットを握り潰すパワーは凄いですねぇ…」
久子でも20〜30倍程に強化すれば、同じ事は出来そうな気がしないでも無い。しかしそれは無論『魔法前提』の話である。
「いや、凄いとかそんなレベルじゃ無いですよ。同じ人間として認めたくないレベルですって!」
久子の呟きに野々村が反応する。大きな声を出したつもりは無かったが、路地裏に存外に響いた野々村の声を鍬形が拾っていた。
「おいおい、何だお前ら?」
鍬形が3人に声を掛ける。ケンカの野次馬の様だが、瓢箪岳高校の制服を着ている上に1人はスマホで撮影をしている様に見えた。こちらから手出しをしてはいないが、ケンカの証拠を学校に提出されると面倒くさい事になる。
「み、見てたんなら分かるだろうけど、俺らは手出ししてないからな…?」
「あ、はい、ちゃんと見てました。貴方達の無罪の証拠です!」
探る様な口調の鍬形の真意を察して野々村がスマホを高く掲げる。その映像は鍬形らの無罪の証拠ではあるが、大豪院の人外めいた能力の証拠でもある。もちろんそんな事は一言も漏らさない野々村。
そして大豪院は我関せずとばかりに彼らとは別方向に歩き出していた。
何となく無視された風で少々イラついた睦美が、そこで大豪院に『イタズラ』を仕掛ける。
彼の足を一瞬『固定』して足をもつれさせて転ばせようと企んだのだが……。
『嘘?! 魔法が効かない…? 大豪院も蘭みたいに邪魔具を持っているとでも言うの? それともまさか…?』
彼は大豪院を庇うように前に出ると、大豪院を背に大の字になって桜田軍団に睨みを効かせる。
「大豪院、お前は逃げろ! こんな奴ら俺一人で蹴散らしてやるさ!!」
なんと彼は己を盾にして大豪院を守ろうとしていたのである。無論口から出た言葉は虚勢100%だ。どんな達人でも素手で武装した5人を相手に立ち回りなど出来はしない。
鍬形の内心に打算が無かったとは言わない。ここで少しカッコイイ所を見せて大豪院の心象を良くしたいとか、桜田本人ならまだしもその取り巻きくらいなら鍬形でも相手に出来るだろうとか、大豪院が参戦して共闘できるなら熱い友情物語の序章になるとかの考えがあったのは確かだ。
だがそれでも鍬形を『浅ましい』と非難出来る人間は居まい。動機が何であれ、危機を前に他人を守ろうと盾になれる人物などそうそう居ない。そういった『決断』と『行動』が出来る時点で鍬形 甲は立派な漢であったと言えるだろう。
「お前が逃げる時間くらいは稼いでやるよ! お前の戦うべき相手はこんなクソみたいな連中じゃないんだ!」
鍬形は必死に大豪院を守ろうとしているのだが、もちろん大豪院は動かない。体だけで無く表情すらも動いていない。
鍬形の男意気をまるで頓着しない無反応ぶりは、敵対している桜田軍団にすらも憐れみを抱かせるに十分だった。
「コントやってんじゃねえんだよっ!」
痺れを切らした桜田軍団の1人が、横に回って鉄パイプで大豪院に殴りかかった。鍬形は健気にもその鉄パイプの攻撃を我が身で受けようと体を捻る。
鉄パイプ等で思いっきり殴られたら、受けた部分は骨折必至である。その痛みと衝撃を予想して鍬形は目を閉じる。
「ガン!」という硬い音がして、打撃に使用された鉄パイプがクルクルと回りながら宙を舞い、やがてカランと地面に落ちた。
鉄パイプは鍬形に当たる直前に、コンクリート壁の様な物に当たって弾け飛んでいたのだ。
もちろん虚空にいきなりコンクリート壁など出現しない。コンクリート壁と思われた物は、鍬形の頭上を越えて差し出された大豪院の右手であった。
鉄パイプで殴られても大豪院は痛そうな素振りを見せない。攻撃を受け止めた手の甲は、人体の中でも骨折しやすい場所なのにも関わらずだ。
そもそも大豪院は今朝の時点で高速の車3台に挟まれて炎上しても、ダメージらしいダメージは受けていなかったのだ。
鉄パイプによる攻撃など、大豪院にとっては文字通り『蚊に食われた様なもの』だったのだろう。
「っの野郎っ!」
別の男が手にした金属バットで大豪院に殴りかかる。その打撃を先程と同様に右手で防ぐ大豪院。
バットを握る様に受け止めた大豪院がそのまま軽く力を入れると、金属バットはまるで粘土細工の様にグニャリと折れ曲がってしまったのだ。
金属バットは本来グニャリと曲がる物ではないし、今回使われた金属バットが特殊な加工がしてあった訳でもない。
「な、何だよコイツ?!」
「わけわかんねーよ!」
「こんなん無理だろ…」
大豪院の右手首から先の動きだけで完全に心を折られてしまった桜田の子分たちは、その場に武器を投げ捨てて一斉に散って行った。
残された大豪院と鍬形、こちらは鍬形が目に涙を溜めていた。
「大豪院… お前が俺を守ってくれたのか…? お前の盾にすらなれないハンパもんの俺を…?」
感動の余り熱い男泣きを見せる鍬形であったが、大豪院は相変わらず鍬形をスルーするかの様にこれといったリアクションを見せず、さっさと踵を返して大通りの雑踏へと戻って行こうとしていた。
☆
「…一体何者なのあいつ?」
物陰からその一切を観察していたマジボラ一行であったが、規格外を通り越して非常識ですらある大豪院の様子に、睦美は半ば呆れた様子で言い放つ。
「魔法無しで金属バットを握り潰すパワーは凄いですねぇ…」
久子でも20〜30倍程に強化すれば、同じ事は出来そうな気がしないでも無い。しかしそれは無論『魔法前提』の話である。
「いや、凄いとかそんなレベルじゃ無いですよ。同じ人間として認めたくないレベルですって!」
久子の呟きに野々村が反応する。大きな声を出したつもりは無かったが、路地裏に存外に響いた野々村の声を鍬形が拾っていた。
「おいおい、何だお前ら?」
鍬形が3人に声を掛ける。ケンカの野次馬の様だが、瓢箪岳高校の制服を着ている上に1人はスマホで撮影をしている様に見えた。こちらから手出しをしてはいないが、ケンカの証拠を学校に提出されると面倒くさい事になる。
「み、見てたんなら分かるだろうけど、俺らは手出ししてないからな…?」
「あ、はい、ちゃんと見てました。貴方達の無罪の証拠です!」
探る様な口調の鍬形の真意を察して野々村がスマホを高く掲げる。その映像は鍬形らの無罪の証拠ではあるが、大豪院の人外めいた能力の証拠でもある。もちろんそんな事は一言も漏らさない野々村。
そして大豪院は我関せずとばかりに彼らとは別方向に歩き出していた。
何となく無視された風で少々イラついた睦美が、そこで大豪院に『イタズラ』を仕掛ける。
彼の足を一瞬『固定』して足をもつれさせて転ばせようと企んだのだが……。
『嘘?! 魔法が効かない…? 大豪院も蘭みたいに邪魔具を持っているとでも言うの? それともまさか…?』