第117話 さくせん
「どうもお待たせしました。一体何事ですか…?」
蘭からのメールの後、明日からの作戦に備えて帰宅した野々村と入れ違う様に、少ししてから職員会議を終えたアンドレがマジボラ部室へとやって来た。
睦美と久子から大豪院に感じた違和感と、週末のシン悪川興業への対応についての説明を受ける。
「なるほど。出撃の件は了解しましたが、僕では細かい手加減は出来ないし、それに感謝のエナジーを集める事も出来ませんがそれでもよろしいので…?」
「…そうね、今回は背に腹は替えられないわ。本当はそこまでして人助けする義理も無いんだけど、やらなきゃやらないで情報を寄こしてきた蘭がヘソを曲げるかも知れないからね」
捨鉢にも見える睦美の態度だが、アンドレには睦美の言葉がそのままの言葉通りではない事が透けて見えた気がした。
「…睦美様は変わられましたね。以前ならこんな話に首を突っ込む事すら考えられなかった。今年の新入生さまさまですね」
楽しそうに茶化すアンドレを無言で睨みつける睦美。顔が少し赤くなっているのは夕焼けの光が差し込んだせいだろうか?
「はっはっは、そういう事ならば是非とも噂の『ウマナミレイ?』ちゃんとやらをこの目で拝見したいものですね」
「もうアンドレ先生、蘭ちゃんは高校生で未成年だから、イヤらしい目で見るのはご法度ですからね?」
女王様スタイルのウマナミレイ?との遭遇を思い浮かべて顔がニヤけるアンドレに久子が釘を差す。
「まぁ蘭はともかく、大豪院を誘き寄せられれば、そっちの対応をお願いしたいのよね」
「ふむ、噂の転校生ですね。僕もまだ本人とは直接会ってないんですよ。睦美様や久子くんの感じた何かの正体が分かれば良いですけどね」
「分かってると思うけど、もし大豪院が魔王の手先だったり、アタシらの害になる様な存在だったら…」
「その時はこの『近衛騎士アンドレ』に全てお任せを。ユア、ハイネスマジェスティ…」
アンドレが仰々しく片膝を付き睦美へ礼を示す。睦美はそんなアンドレをわざと無視する様に視線を逸らし、久子へと語りかける。
「配置も考えないといけないわね。とりあえず御影、新見と大豪院が援軍に来ると想定して、現場の指揮はアタシとアンドレで別れましょう。あとはどう振り分けるか…?」
「アンドレ先生の所に大豪院君を配置して…」
「僕を蘭くんの所に配置して…」
「ヒザ子採用、アンドレ却下」
久子とアンドレはほぼ同時に声を発したが、睦美はその両方を上手く聞き分けて、個々に返事を伝えた。
「敵の幹部と怪人には魔法が効かないのよ。だからあの丸っこいのはアンドレが対処して。蘭は上手い事ひと芝居打って誤魔化すでしょうけど、もし万が一あちらがヤル気なら最悪物理で抑えるわ」
「ふむ、残念ですが了解です… では蘭くんの方に睦美様と久子くん、もう片方に僕と大豪院くんが行くとして、あとの2人は?」
「御影の方が能力的にも性格的にもアドリブが効くからアンドレの方に回しましょう。新見はアタシ達と一緒の方が余計な事をしなくて良いでしょ。それに誰か1人でも魔法少女が居れば、アンドレの所でも感謝エナジーは集められるしね…」
淡々と作戦が決まっていく。睦美の戦術眼の是非は判断するべくも無いが、この決断の速さは組織のトップとしては極めて有能である。
「千代美ちゃんはどうします?」
「んー? 野々村は双方の連絡係をやってもらえば良いわ。どうせ戦えないんだし後方に控えててもらいましょ。そういう役が居るのと居ないのとでは部隊の運用効率がガラリと変わってくるからね」
睦美にとっては野々村の処遇は大して興味は無いらしい。ただ、無いなりに適材適所を瞬時に考えられるこの決断の(以下略)。
「あとは人の多いショッピングモールに現れた敵を、比較的人の少ない場所に誘導出来れば御の字ね。例えば近所の高校のグラウンドとか…」
そう呟く睦美の顔は、敵を撃退する事よりも、如何にしてつばめを巻き込むかに重点を置いて考えを巡らせている様に見えた。
☆
家への帰途で、歩きながら野々村は明日以降の作戦を脳内で組み上げている所だった。
「まずあの大豪院と一緒にいた男の子の素性と所在を調べないとね… その後で交渉に使える様に動画を少し修正した方が良いのかも…」
などと浄化された筈のダーク野々村が再び動き出したかのような独り言をブツブツと呟きながら歩いている所に、声を掛けてくる者がいた。
「ちょっと、野々村。あんた一体どういうつもりなの?!」
野々村の前を塞ぐように現れたのは、野々村のかつての同志である『沖田親衛隊』、武田 陽子、和久井 倫子 木下 望美の険しい顔をした3名であった。
蘭からのメールの後、明日からの作戦に備えて帰宅した野々村と入れ違う様に、少ししてから職員会議を終えたアンドレがマジボラ部室へとやって来た。
睦美と久子から大豪院に感じた違和感と、週末のシン悪川興業への対応についての説明を受ける。
「なるほど。出撃の件は了解しましたが、僕では細かい手加減は出来ないし、それに感謝のエナジーを集める事も出来ませんがそれでもよろしいので…?」
「…そうね、今回は背に腹は替えられないわ。本当はそこまでして人助けする義理も無いんだけど、やらなきゃやらないで情報を寄こしてきた蘭がヘソを曲げるかも知れないからね」
捨鉢にも見える睦美の態度だが、アンドレには睦美の言葉がそのままの言葉通りではない事が透けて見えた気がした。
「…睦美様は変わられましたね。以前ならこんな話に首を突っ込む事すら考えられなかった。今年の新入生さまさまですね」
楽しそうに茶化すアンドレを無言で睨みつける睦美。顔が少し赤くなっているのは夕焼けの光が差し込んだせいだろうか?
「はっはっは、そういう事ならば是非とも噂の『ウマナミレイ?』ちゃんとやらをこの目で拝見したいものですね」
「もうアンドレ先生、蘭ちゃんは高校生で未成年だから、イヤらしい目で見るのはご法度ですからね?」
女王様スタイルのウマナミレイ?との遭遇を思い浮かべて顔がニヤけるアンドレに久子が釘を差す。
「まぁ蘭はともかく、大豪院を誘き寄せられれば、そっちの対応をお願いしたいのよね」
「ふむ、噂の転校生ですね。僕もまだ本人とは直接会ってないんですよ。睦美様や久子くんの感じた何かの正体が分かれば良いですけどね」
「分かってると思うけど、もし大豪院が魔王の手先だったり、アタシらの害になる様な存在だったら…」
「その時はこの『近衛騎士アンドレ』に全てお任せを。ユア、ハイネスマジェスティ…」
アンドレが仰々しく片膝を付き睦美へ礼を示す。睦美はそんなアンドレをわざと無視する様に視線を逸らし、久子へと語りかける。
「配置も考えないといけないわね。とりあえず御影、新見と大豪院が援軍に来ると想定して、現場の指揮はアタシとアンドレで別れましょう。あとはどう振り分けるか…?」
「アンドレ先生の所に大豪院君を配置して…」
「僕を蘭くんの所に配置して…」
「ヒザ子採用、アンドレ却下」
久子とアンドレはほぼ同時に声を発したが、睦美はその両方を上手く聞き分けて、個々に返事を伝えた。
「敵の幹部と怪人には魔法が効かないのよ。だからあの丸っこいのはアンドレが対処して。蘭は上手い事ひと芝居打って誤魔化すでしょうけど、もし万が一あちらがヤル気なら最悪物理で抑えるわ」
「ふむ、残念ですが了解です… では蘭くんの方に睦美様と久子くん、もう片方に僕と大豪院くんが行くとして、あとの2人は?」
「御影の方が能力的にも性格的にもアドリブが効くからアンドレの方に回しましょう。新見はアタシ達と一緒の方が余計な事をしなくて良いでしょ。それに誰か1人でも魔法少女が居れば、アンドレの所でも感謝エナジーは集められるしね…」
淡々と作戦が決まっていく。睦美の戦術眼の是非は判断するべくも無いが、この決断の速さは組織のトップとしては極めて有能である。
「千代美ちゃんはどうします?」
「んー? 野々村は双方の連絡係をやってもらえば良いわ。どうせ戦えないんだし後方に控えててもらいましょ。そういう役が居るのと居ないのとでは部隊の運用効率がガラリと変わってくるからね」
睦美にとっては野々村の処遇は大して興味は無いらしい。ただ、無いなりに適材適所を瞬時に考えられるこの決断の(以下略)。
「あとは人の多いショッピングモールに現れた敵を、比較的人の少ない場所に誘導出来れば御の字ね。例えば近所の高校のグラウンドとか…」
そう呟く睦美の顔は、敵を撃退する事よりも、如何にしてつばめを巻き込むかに重点を置いて考えを巡らせている様に見えた。
☆
家への帰途で、歩きながら野々村は明日以降の作戦を脳内で組み上げている所だった。
「まずあの大豪院と一緒にいた男の子の素性と所在を調べないとね… その後で交渉に使える様に動画を少し修正した方が良いのかも…」
などと浄化された筈のダーク野々村が再び動き出したかのような独り言をブツブツと呟きながら歩いている所に、声を掛けてくる者がいた。
「ちょっと、野々村。あんた一体どういうつもりなの?!」
野々村の前を塞ぐように現れたのは、野々村のかつての同志である『沖田親衛隊』、武田 陽子、和久井 倫子 木下 望美の険しい顔をした3名であった。