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作者: ちありや
第130話 ちゃばん
「そろそろ暖かくなってきたとは言っても、さすがにビキニはまだ寒いんじゃないの、ウマナミちゃん?」
 
 市民公園に集まったマジボラの睦美、久子、綿子とシン悪川興業の蘭、そして蛇の様な特徴を持つ怪人が対峙する。
 睦美こと『ミラクルハーモニアス』が、蘭こと『ウマナミレイ?』に対して挑発的な言葉を投げる。
 
 確かに今まではレオタードを纏っていたウマナミレイ?であったが、今回の装いは黒のビキニに変更され、肩と腰には何やら装甲と武装を兼ね備えた様な機械が装着され、戦闘力が上がっている事が窺えた。
 それはそれとして、季節は未だ晩春であり、睦美の言葉通り町中でビキニ姿を晒すのは些か早計であろうと思われる。
 
「よ、余計なお世話よ! それにパワーアップした私は最早『ウマナミレイ?』では無いわ。新たに『ウマナミ改』と生まれ変わったのよ。覚えておきなさい!」
 
「…蘭ちゃん楽しそうですねぇ」
 
 蘭の口上を聞いた久子が睦美に耳打ちする。
 シン悪川興業の総裁プロフェッサー悪川によって盗聴されている可能性が高い為に、蘭はこの場はあくまで『ウマナミレイ?』もとい『ウマナミ改』として振る舞う事を事前に睦美らに告げていた。
 
 仮面で顔を隠しているウマナミ改の正体が蘭である事も含め、事情が全く分からぬままに連れて来られていた綿子も、初めて見るシン悪川興業の怪人と、何故か見覚えがある様な気がする仮面の女幹部に興奮を隠せないでいた。
 
「あれがマジボラの敵なんですね?! お芝居とかじゃなくて本当に戦うんですね?!」

 現状ほぼほぼお芝居ではあるのだが、形だけでも一戦は交える必要があろう。30m程の距離を取って睨み合う両陣営。
 
 一方蘭も頭の痛い状況に陥っていた。
『なんでよりにもよってここに綿子を連れてくるかなぁ…? シャベリ魔の綿子にウマナミ改わたしが蘭だってバレたら、速攻でつばめちゃんにもバレちゃうでしょ! それにあの子、明日試合なんじゃないの?!』
 と言う事である。蘭もこの場で正体を明かす訳にはいかなくなってしまったのだ。
 
『さて、どうしたものか…?』
 
 とりあえずすぐ横には蛇の、正確にはコブラの怪人が居るので、それを綿子にけしかけて綿子の注意を引き、その間に自分は睦美らと戦う振りをしながらこの後の打ち合わせをしようと思い立つ。
 
「約束通り綿子は後ろに控えてな。ヒザ子がヘビ怪人、アタシがゴリ子をやるよ!」
「ハイですぅ!」
 
 睦美と久子が二手に分かれて蘭たちを強襲する。
 
『おいぃ! 何もかんも台無しぃっ!』
 
 心でツッコむ蘭に対して一直線に飛び込んできた睦美は、『本当に芝居なのか?』と疑わせる程の本気の一太刀を繰り出してきた。
 睦美の攻撃を予期していた蘭も肩アーマーから新武装の力場バリアを展開し受け止める。
 
「あの、スミマセン先輩、綿子がいると色々邪魔なんで下げてもらって良いですか?」
 
「何でよ? せっかく女子レスに頭下げて (下げてない)連れてきたんだから使わなかったら勿体ないでしょ?!」
 
『駄目だ、まるで話が通じない…』
 
 ここはやはり相手の体力を一定量減らさないと『説得』コマンドが現れないスパ○ボ方式なのであろう。そう観念した蘭は睦美に向けて腕を振り上げた。
 
 ☆
 
 一方コブラ怪人と久子の戦いも熾烈を極めていた。
 コブラ怪人は無数の毒蛇コブラを召喚し、口から毒液を吐き出し、蛇を模したデザインの両腕を伸ばして噛みつき攻撃を仕掛けてくると言う、今までの怪人の集大成的なコンセプトを持つ強敵であった。
 
『動きを止めれば足元に蛇が攻撃してくるし、左右の動きは両手が伸びて挟み込んで来る。上に跳んだら口から吐く毒液で迎撃される… ちょっと本気で強いかも…』
 
 危機感を抱く久子。近距離パワータイプの久子にとって『近寄らせず中距離で攻撃してくる』戦術を採ってくる相手が一番厄介だ。
 
 敵の攻撃を回避しながら反撃の糸口を探る久子であったが、なかなかに相手も隙を見せない。
 そしてコブラ怪人の方も、繰り出す攻撃を全て久子にヒラリヒラリと躱されて決定打を与えられずに膠着状態となっていた。

 ☆
 
「だらぁっ!!」
 
 蘭の気合いの一撃ゴリラパンチは睦美の正面、心臓めがけて叩き込まれた。回避が間に合わずに咄嗟に剣で受ける睦美。
 そして蘭の攻撃力は睦美の愛刀『乱世丸』を根本からポキリと真っ二つにした。
 
「なっ…?!」
 
 睦美にも意外な事であったのだろう、本気の驚きの顔を見せ、更に愛刀の喪失に茫然自失となる。
 蘭の『説得コマンド』を出すなら今をおいて他にあるまい。
 
「あの、近藤せんぱ…」
 
「アンタぁ… よくも大事な『乱世丸』をぶっ壊してくれたわねぇ?!」
 
 怒髪天を衝く勢いで怒りの表情を見せる睦美。説得どころかダメージによるハイパー化によって交渉の道は絶たれてしまった。
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