未来を変えるとは
しん⋯⋯としたリシア家の応接室。
黙々ともくもくしているのはセオス様だけ。
「アメディアに護衛を付けるとは、何故でしょうか」
「ディアだけではありません。このリシア子爵家の皆様を、お護り致します」
「私達もですの?」
お父様とお母様は緊張した面持ちでルセウスを見つめている。
その視線を受けてルセウスが軽く頷いた。
「はい。先日の事がありますから。それに、今日も⋯⋯」
青い顔をしたお父様とお母様が顔を見合わせている。
何か心当たりがあるのかしら?
「ええっと、あの、先日って? 今日って? 何かあったの?」
三人がはっとして私を見た。え? 何かおかしい事聞いた?
──アメディアは王女様に狙われているんだぞ。ボク様、王宮で聞いたからな──
──えええ!? なんですかそれ!?──
頭に直接話しかけてきたセオス様の言葉に私は驚いた。
──お父上もお母上もルセウスもアメディアには内緒だって。ボク様はアメディアの守護神だから護ってたんだぞ。だからもう一個もらうからな──
セオス様は涼しい顔でフルーツタルトをもう一つ手に取りニンマリする
えええ⋯⋯何それ。私だけ、知らないの?
「隠せばもっと危険だと判断しました。子爵、良いですね?」
「ああ、私達より君の方が詳しいだろう。私達にも聞かせてくれ」
ルセウスと両親が揃って私の方を見た。
「今日、私はアレクシオ王太子に王女の件で相談を持ちかけました」
一呼吸置いてからルセウスが語り出す。
私は呆然としたまま話を聞いていた。
──────────────────
「中々やるな、アメディアは」
「相談する相手を間違えました。私はいつこの職を辞しても構いません」
「まてまてまて、お前は本当にアメディアの事となると極端になる」
「分かっているのなら茶化さないでいただきたい」
愉快そうに笑うアレクシオに不敬を働かなかった自分を褒めてやる。
私がアレクシオに相談したのは王女の事。お披露目の夜会から私は王女に付き纏わられる様になっていた。
最初はただ踊ったり話をしたりだけだったのだが、段々と距離が近くなり、肩や腰に手を掛けてくるようになった。
⋯⋯これがアメディアだったらと何度思ったか。
そして、王女は私に付き纏うだけではなくアメディアに嫌がらせをする様になった。
まあ、これはアメディアが上手く躱しているとたった今アレクシオから聞いたばかりで実のところ私も「中々やるものだ」と感心してしまった。
「違う時間の招待状を出しても他の令嬢と一緒に来たり、夜会でお前と引き離そうとしても僕に邪魔をされたり上手くいかないとディーテは荒れているらしい」
「笑い事ではありませんよ」
「愉快じゃないか。あの大人しそうなアメディアが夜会では毎回僕が気付く様に仕向けているんだぞ? この僕に毎回ディーテを回収させるなんてなかなかやるよ。な? 僕と面通ししておいて良かっただろう?」
「ええ、それは感謝してますよ」
しかし、アレクシオは笑顔を消すと真剣な表情になる。
「だが、ディーテの崇拝者達が不穏な動きをしていると報告を受けた」
「不穏ですか」
「これを読め」
一式の報告書を渡されて私は頭に血が上るのを感じた。
そこには図書館の司書、菓子店の店員、某家の令息の名前と姿絵。彼らは王女の崇拝者達。
そして彼らがアメディアを襲おうとしている兆候があると書かれていた。
「⋯⋯何ですかこれは」
「書いてある通りだ。先を読んでみろ。既に行動は起こされている」
ページを捲るとそこにはリシア家の離れの一角から火が上がったが火は突然降り出した雨により大事には至らなかった。しかし放火された痕跡が確認された。「リシア家でボヤ火事。大事には至らず」と。
「リシア子爵は自然発火だと考えている様だが、これはディーテの崇拝者の仕業だ」
「ならば王女を取り調べれば⋯⋯」
「ディーテが手を下した証拠が無い。なにせあいつは崇拝者の前で「憂いた」だけだからな。知らぬ存ぜぬ勝手に動いたと通すだろう。そうなれば⋯⋯わかるな」
「ええ、彼らだけが尻尾切りにされるだけでしょうね。しかも王女は陛下の寵愛が深いですし⋯⋯しかし、私は放置は出来ません」
王族。その上国王の寵愛を一身に受ける王女を追い詰めるには証拠も無ければ状況も不利だ。
だが、このまま何もしない訳には行かない。
「僕が直接動けば王家が分断されてしまう。いずれは陛下を王座から引き摺り下ろすにしても今は時期では無い。僕の騎士を貸す。リシア家とアメディアを警護させるのだ」
「⋯⋯ありがとうございます」
「そう嫌な顔をするな。王族の一員として申し訳ないと感じているよ。それにな、これはディーテの悪行の証拠を得る為でもあるからな」
私はこの話を受けてすぐリシア家へ向かい、その途中でアメディアを見つけた。
──────────────────
「公園で不審な者を見かけました。あれは何度か顔を見た事がある図書館の司書です。帰る途中も何処の家のものか分かりませんでしたが尾行されていました」
火事とか尾行とか全然知らなかった⋯⋯。
前回はこんな事なかったわよね。私がディーテ様の嫌がらせを躱したからリシア家が巻き込まれたの? 私が前回と同じにしないから⋯⋯。
なんでここまでディーテ様は私を嫌うの。
好きな人を手に入れたい。ルセウスの婚約者が憎いのは分かりたく無いけれど少しは分かる。
けれど、どうして⋯⋯私やリシア家を嫌うだけではなくここまで憎むのか。
リシア家は子爵。悔しいけれど王族が一言言うだけで吹き飛ぶ家なのに。
「王女は⋯⋯とても苛烈な方です。こんな事になってしまっているのは王女の性格もありますが⋯⋯王家の事情がそうさせてしまっているのでしょう」
「あのっ! 私が、ルセウス様と婚約を解消すれば、リシア家は──」
「それは嫌だっ!」
「あ、はいっ!」
「あっ、いや、それは本来の解決にはならない」
眼鏡が飛ぶ勢いで身を乗り出したルセウスに思わず返事してしまったけれど、どうしたらいいの。
私はただ聖女になりたく無いだけ。
その為に未来を変えようとする事は私以外の人の未来も変わる。
巻き込んでしまう。
私は今更そんな事に気付いてしまった。
黙々ともくもくしているのはセオス様だけ。
「アメディアに護衛を付けるとは、何故でしょうか」
「ディアだけではありません。このリシア子爵家の皆様を、お護り致します」
「私達もですの?」
お父様とお母様は緊張した面持ちでルセウスを見つめている。
その視線を受けてルセウスが軽く頷いた。
「はい。先日の事がありますから。それに、今日も⋯⋯」
青い顔をしたお父様とお母様が顔を見合わせている。
何か心当たりがあるのかしら?
「ええっと、あの、先日って? 今日って? 何かあったの?」
三人がはっとして私を見た。え? 何かおかしい事聞いた?
──アメディアは王女様に狙われているんだぞ。ボク様、王宮で聞いたからな──
──えええ!? なんですかそれ!?──
頭に直接話しかけてきたセオス様の言葉に私は驚いた。
──お父上もお母上もルセウスもアメディアには内緒だって。ボク様はアメディアの守護神だから護ってたんだぞ。だからもう一個もらうからな──
セオス様は涼しい顔でフルーツタルトをもう一つ手に取りニンマリする
えええ⋯⋯何それ。私だけ、知らないの?
「隠せばもっと危険だと判断しました。子爵、良いですね?」
「ああ、私達より君の方が詳しいだろう。私達にも聞かせてくれ」
ルセウスと両親が揃って私の方を見た。
「今日、私はアレクシオ王太子に王女の件で相談を持ちかけました」
一呼吸置いてからルセウスが語り出す。
私は呆然としたまま話を聞いていた。
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「中々やるな、アメディアは」
「相談する相手を間違えました。私はいつこの職を辞しても構いません」
「まてまてまて、お前は本当にアメディアの事となると極端になる」
「分かっているのなら茶化さないでいただきたい」
愉快そうに笑うアレクシオに不敬を働かなかった自分を褒めてやる。
私がアレクシオに相談したのは王女の事。お披露目の夜会から私は王女に付き纏わられる様になっていた。
最初はただ踊ったり話をしたりだけだったのだが、段々と距離が近くなり、肩や腰に手を掛けてくるようになった。
⋯⋯これがアメディアだったらと何度思ったか。
そして、王女は私に付き纏うだけではなくアメディアに嫌がらせをする様になった。
まあ、これはアメディアが上手く躱しているとたった今アレクシオから聞いたばかりで実のところ私も「中々やるものだ」と感心してしまった。
「違う時間の招待状を出しても他の令嬢と一緒に来たり、夜会でお前と引き離そうとしても僕に邪魔をされたり上手くいかないとディーテは荒れているらしい」
「笑い事ではありませんよ」
「愉快じゃないか。あの大人しそうなアメディアが夜会では毎回僕が気付く様に仕向けているんだぞ? この僕に毎回ディーテを回収させるなんてなかなかやるよ。な? 僕と面通ししておいて良かっただろう?」
「ええ、それは感謝してますよ」
しかし、アレクシオは笑顔を消すと真剣な表情になる。
「だが、ディーテの崇拝者達が不穏な動きをしていると報告を受けた」
「不穏ですか」
「これを読め」
一式の報告書を渡されて私は頭に血が上るのを感じた。
そこには図書館の司書、菓子店の店員、某家の令息の名前と姿絵。彼らは王女の崇拝者達。
そして彼らがアメディアを襲おうとしている兆候があると書かれていた。
「⋯⋯何ですかこれは」
「書いてある通りだ。先を読んでみろ。既に行動は起こされている」
ページを捲るとそこにはリシア家の離れの一角から火が上がったが火は突然降り出した雨により大事には至らなかった。しかし放火された痕跡が確認された。「リシア家でボヤ火事。大事には至らず」と。
「リシア子爵は自然発火だと考えている様だが、これはディーテの崇拝者の仕業だ」
「ならば王女を取り調べれば⋯⋯」
「ディーテが手を下した証拠が無い。なにせあいつは崇拝者の前で「憂いた」だけだからな。知らぬ存ぜぬ勝手に動いたと通すだろう。そうなれば⋯⋯わかるな」
「ええ、彼らだけが尻尾切りにされるだけでしょうね。しかも王女は陛下の寵愛が深いですし⋯⋯しかし、私は放置は出来ません」
王族。その上国王の寵愛を一身に受ける王女を追い詰めるには証拠も無ければ状況も不利だ。
だが、このまま何もしない訳には行かない。
「僕が直接動けば王家が分断されてしまう。いずれは陛下を王座から引き摺り下ろすにしても今は時期では無い。僕の騎士を貸す。リシア家とアメディアを警護させるのだ」
「⋯⋯ありがとうございます」
「そう嫌な顔をするな。王族の一員として申し訳ないと感じているよ。それにな、これはディーテの悪行の証拠を得る為でもあるからな」
私はこの話を受けてすぐリシア家へ向かい、その途中でアメディアを見つけた。
──────────────────
「公園で不審な者を見かけました。あれは何度か顔を見た事がある図書館の司書です。帰る途中も何処の家のものか分かりませんでしたが尾行されていました」
火事とか尾行とか全然知らなかった⋯⋯。
前回はこんな事なかったわよね。私がディーテ様の嫌がらせを躱したからリシア家が巻き込まれたの? 私が前回と同じにしないから⋯⋯。
なんでここまでディーテ様は私を嫌うの。
好きな人を手に入れたい。ルセウスの婚約者が憎いのは分かりたく無いけれど少しは分かる。
けれど、どうして⋯⋯私やリシア家を嫌うだけではなくここまで憎むのか。
リシア家は子爵。悔しいけれど王族が一言言うだけで吹き飛ぶ家なのに。
「王女は⋯⋯とても苛烈な方です。こんな事になってしまっているのは王女の性格もありますが⋯⋯王家の事情がそうさせてしまっているのでしょう」
「あのっ! 私が、ルセウス様と婚約を解消すれば、リシア家は──」
「それは嫌だっ!」
「あ、はいっ!」
「あっ、いや、それは本来の解決にはならない」
眼鏡が飛ぶ勢いで身を乗り出したルセウスに思わず返事してしまったけれど、どうしたらいいの。
私はただ聖女になりたく無いだけ。
その為に未来を変えようとする事は私以外の人の未来も変わる。
巻き込んでしまう。
私は今更そんな事に気付いてしまった。