R-15
女の子らしい夢
午前七時。あたしは病院のベッドの上で目が覚ました。部屋ではお父さんとお母さん、そして亮君とその両親があたしの目覚めを待ち構えてくれていた。まずは亮君のお父さんがあたしの手を強く握って、
「本当にご苦労さまでした。」
と労いの言葉をかけてくれた。そして亮君があたしの頭をポンポンとしてくれてあたしを褒めてくれた。
「優江。大変だっただろう。どうもありがとう。」
と。みんな笑顔であたしに祝福の言葉をかけてくれた。今までこんな経験したこと無いからちょっとくすぐったかったな。だけどなにより嬉しかったのは褒められることじゃなくて、無事にふうわを産めたたことだ。あれ。そういえばふうわは今どこにいるの?
「ふうわちゃんは今、赤ちゃん用の保護室にいるのよ。」
あたしの気持ちを察してお母さんがそう教えてくれた。一刻も早くふうわに逢いたい。そして抱きしめてあげたい。あたしの世界で今、一番愛しいあの子を。
しばらくすると医者が部屋に入ってきてあたしの体の診察を行った。十分くらいの簡単な検査だったが、母体に問題は無いと告げられた。 あたしは医者にふうわの様子を聞いてみた。産まれた直後だから今日と明日は専用の部屋で様子をみるが、タイミングをみて逢うことはかなうらしい。そして、ふうわも体に特に問題は無いらしい。母子ともに健康に出産出来たということが分かって心からホッとした。あたしも数日入院が必要だが、院内の庭くらいは散歩することを許された。
この病院は地元でも有名な大きな総合病院だけあって庭もかなりの広さのものだった。病室の窓から外を覗くとあたしの大好きな桜の木が丁度満開になっているのが見えた。今年のお花見はここからの景色で十分だと思わせる程見事な景色だった。芝生の緑色と桜の桃色のコントラストが非常に美しかった。あとはそうだな。赤があるともっと綺麗になるような気がした。例えばチューリップ?あたしの好きな色だけで染めたらきっとこの庭ももっと綺麗になるのにな。
あたしはこの病院に10日程入院しなければならなくなった。若年での出産ということと、出産前の体調の悪さを考慮してそれだけの時間、事後経過観察をしようと先生からの進言であった。病室は両親が気を使ってくれて個室の部屋を借りることになった。これで何者にも気を使わずに経過観察に臨めるよ。明日の昼過ぎには、ふうわを抱くことも許されているのであたしのテンションは相当上がり気味だった。無事にふうわを産むことが出来たあたしには身のまわりの全てのことが大きな喜びに感じられた。それがかなうか否かにあれだけ悩まされていたのだから。
だけど、ふうわを産み落としたあたしには次から次へと欲が湧いてきた。ふうわを抱きたい。ずっと抱きしめていたい。ふうわと会話がしたい。今日一日あったことをたくさんお話してもらいたい。一緒に御飯が食べたい。笑顔が見たい。お母さん大好きって言ってもらいたい。ふうわがいるとどんどん夢が広がっていく。楽しいこと、嬉しいこと、ときにはちょっぴり悲しいこと、たくさんあると思う。だから出来るだけ長くふうわと一緒の時間を過ごしたい。そう思えば思うほどあたしは死を余計に意識せざるをえなかった。無事にふうわを産むことが出来たのだが、あたしの記憶ではもうあたしの死期がすぐそこまで来ているはずなのだ。いや、もしかしたら過去に夢で見てきたあたしの残りの寿命の終了の時期を乗り越えてここまで来ているのだとうか。そうであればこの先ももっともっと長生きが許されるのかもしれない。これまでにも同様の期待を持ったことがあったが、今回はきっとそうに違いないと信じることが出来た。あたしはふうわを身籠ることで、運命を変えられたのだ。にわかには信じられないことかもしれないが、あたしはそれを信じた。そう信じさせるだけのポジティブなエネルギーが、今のあたしにはみなぎっていたのだ。あたしはきっと死というおそろしい運命から解放されたのだ。これからずっとふうわと一緒にいられる、そう信じて心に言い聞かせた。その証拠にあたしは悪夢を見なくなったのだ。そう言えば今まであたしの身の回りを常に包み込んでいた不安感も恐怖感も今日は全く感じない。あたしはふうわの誕生とともに生まれ変わったのだ。
少し休んだら外に散歩に行こう。この晴れやかな世界の空気を思う存分吸ってこよう。お父さんとお母さんはあたしの入院に必要なものを取りに自宅に戻っていた。帰って来たらあたしからふたりへお礼を言わなければならない。あたしという存在をここまで育ててくれたことをありがとうと伝えなければならない。ああ。今日はなんて素晴らしい日なのだろう。ふうわも無事に産まれ、あたしの心もいつもの暗い気持ちがまるで顔を出すこともなく、明るい気持ちで過ごせている。これからは亮君と一緒に力を合わせてふうわを幸せな子供に育てていこう。そして、両親にもこれまでなにもしてあげられなかった分を取り返すくらい親孝行をしてあげよう。
少し休んだらあの綺麗な庭を歩いてこれからのふうわとの時間についていっぱい考えよう。まずはどんなおもちゃを買ってあげようか。どんな本を読んであげようか。未来はやけに明るかった。眩しいくらいに。あたしはあの夜からこんなにも自分の未来を妄想することなど無かった。幸せなあたし、幸せな家庭を想像すると自然と笑顔になった。これも全部ふうわのお蔭だね。ありがとう、ふうわ。お返しにあなたのことをいっぱい幸せにするからね。あなたのパパと一緒ならそれは難しいことでも、大変なことでもないわ。3人で一緒に楽しい家庭を築いていこうね。
「本当にご苦労さまでした。」
と労いの言葉をかけてくれた。そして亮君があたしの頭をポンポンとしてくれてあたしを褒めてくれた。
「優江。大変だっただろう。どうもありがとう。」
と。みんな笑顔であたしに祝福の言葉をかけてくれた。今までこんな経験したこと無いからちょっとくすぐったかったな。だけどなにより嬉しかったのは褒められることじゃなくて、無事にふうわを産めたたことだ。あれ。そういえばふうわは今どこにいるの?
「ふうわちゃんは今、赤ちゃん用の保護室にいるのよ。」
あたしの気持ちを察してお母さんがそう教えてくれた。一刻も早くふうわに逢いたい。そして抱きしめてあげたい。あたしの世界で今、一番愛しいあの子を。
しばらくすると医者が部屋に入ってきてあたしの体の診察を行った。十分くらいの簡単な検査だったが、母体に問題は無いと告げられた。 あたしは医者にふうわの様子を聞いてみた。産まれた直後だから今日と明日は専用の部屋で様子をみるが、タイミングをみて逢うことはかなうらしい。そして、ふうわも体に特に問題は無いらしい。母子ともに健康に出産出来たということが分かって心からホッとした。あたしも数日入院が必要だが、院内の庭くらいは散歩することを許された。
この病院は地元でも有名な大きな総合病院だけあって庭もかなりの広さのものだった。病室の窓から外を覗くとあたしの大好きな桜の木が丁度満開になっているのが見えた。今年のお花見はここからの景色で十分だと思わせる程見事な景色だった。芝生の緑色と桜の桃色のコントラストが非常に美しかった。あとはそうだな。赤があるともっと綺麗になるような気がした。例えばチューリップ?あたしの好きな色だけで染めたらきっとこの庭ももっと綺麗になるのにな。
あたしはこの病院に10日程入院しなければならなくなった。若年での出産ということと、出産前の体調の悪さを考慮してそれだけの時間、事後経過観察をしようと先生からの進言であった。病室は両親が気を使ってくれて個室の部屋を借りることになった。これで何者にも気を使わずに経過観察に臨めるよ。明日の昼過ぎには、ふうわを抱くことも許されているのであたしのテンションは相当上がり気味だった。無事にふうわを産むことが出来たあたしには身のまわりの全てのことが大きな喜びに感じられた。それがかなうか否かにあれだけ悩まされていたのだから。
だけど、ふうわを産み落としたあたしには次から次へと欲が湧いてきた。ふうわを抱きたい。ずっと抱きしめていたい。ふうわと会話がしたい。今日一日あったことをたくさんお話してもらいたい。一緒に御飯が食べたい。笑顔が見たい。お母さん大好きって言ってもらいたい。ふうわがいるとどんどん夢が広がっていく。楽しいこと、嬉しいこと、ときにはちょっぴり悲しいこと、たくさんあると思う。だから出来るだけ長くふうわと一緒の時間を過ごしたい。そう思えば思うほどあたしは死を余計に意識せざるをえなかった。無事にふうわを産むことが出来たのだが、あたしの記憶ではもうあたしの死期がすぐそこまで来ているはずなのだ。いや、もしかしたら過去に夢で見てきたあたしの残りの寿命の終了の時期を乗り越えてここまで来ているのだとうか。そうであればこの先ももっともっと長生きが許されるのかもしれない。これまでにも同様の期待を持ったことがあったが、今回はきっとそうに違いないと信じることが出来た。あたしはふうわを身籠ることで、運命を変えられたのだ。にわかには信じられないことかもしれないが、あたしはそれを信じた。そう信じさせるだけのポジティブなエネルギーが、今のあたしにはみなぎっていたのだ。あたしはきっと死というおそろしい運命から解放されたのだ。これからずっとふうわと一緒にいられる、そう信じて心に言い聞かせた。その証拠にあたしは悪夢を見なくなったのだ。そう言えば今まであたしの身の回りを常に包み込んでいた不安感も恐怖感も今日は全く感じない。あたしはふうわの誕生とともに生まれ変わったのだ。
少し休んだら外に散歩に行こう。この晴れやかな世界の空気を思う存分吸ってこよう。お父さんとお母さんはあたしの入院に必要なものを取りに自宅に戻っていた。帰って来たらあたしからふたりへお礼を言わなければならない。あたしという存在をここまで育ててくれたことをありがとうと伝えなければならない。ああ。今日はなんて素晴らしい日なのだろう。ふうわも無事に産まれ、あたしの心もいつもの暗い気持ちがまるで顔を出すこともなく、明るい気持ちで過ごせている。これからは亮君と一緒に力を合わせてふうわを幸せな子供に育てていこう。そして、両親にもこれまでなにもしてあげられなかった分を取り返すくらい親孝行をしてあげよう。
少し休んだらあの綺麗な庭を歩いてこれからのふうわとの時間についていっぱい考えよう。まずはどんなおもちゃを買ってあげようか。どんな本を読んであげようか。未来はやけに明るかった。眩しいくらいに。あたしはあの夜からこんなにも自分の未来を妄想することなど無かった。幸せなあたし、幸せな家庭を想像すると自然と笑顔になった。これも全部ふうわのお蔭だね。ありがとう、ふうわ。お返しにあなたのことをいっぱい幸せにするからね。あなたのパパと一緒ならそれは難しいことでも、大変なことでもないわ。3人で一緒に楽しい家庭を築いていこうね。