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作者: Ganndamu00
残酷な描写あり R-15
14話:訓練

 アーキバス本部・地下大規模訓練場。広大なドーム状の空間は、人工的に荒野を再現した地形が広がり、岩肌と砂塵が舞う。

 天井の照明が太陽光を模し、熱風さえ吹き込む本格的な戦場シミュレーション。

 今日の敵は、一般的なゴーレム——十数体の岩石と魔力で構成された人型兵器。

 無感情に動き、頑強な装甲と単純だが強力な打撃を繰り返す。囮特務部隊の四人は、それぞれの位置についていた。

 最前衛に立つラスティ・ヴェスパーは、白と青を基調とした上級士官制服の上から、大型の魔力増幅武装「ソル・ブレイカー」を両手に装備している。

 太陽の輝きを思わせる金色の光が、剣身から溢れ出し、周囲の空気を歪ませていた。

「——開始」

 スメラギの落ち着いた声が、通信機から響く。
 本部のオペレーションルームで、モニターを睨みながら全体を統括する彼の姿が、頭に浮かぶ。ラスティは、一歩踏み出した。

 ソル・ブレイカーが眩い光を放ち、正面の三体のゴーレムに向かって一直線に突進する。

「突破する!」

 剣が振るわれるたび、太陽のような閃光が爆ぜ、ゴーレムの装甲が一瞬で蒸発し、粉々に砕け散る。派手な爆発音と光が訓練場全体を照らし、敵の注意を一手に引きつけた。その背後で、エクシア・ザシアンが優雅に舞うように動く。

 プラチナブロンドの三つ編みが翻り、魔力ボディスーツが銀の光を帯びる。彼女はラスティの側面を完全にカバーし、
飛びかかるゴーレムを、物質化した魔力剣で瞬時に両断した。

「隊長の背中は、私が守ります!」

 声は静かだが、確かな熱を帯びている。彼女の剣閃は正確無比で、ラスティの突破力をさらに加速させるサポートに徹していた。戦場全体に、突然、赤い光の槍が雨のように降り注ぐ。

 アロラ・バレンフラワーは、少し離れた岩場の上に立ち、
 自らの血を操って形成した無数の血槍を放っていた。赤い軌跡が空を切り、ゴーレムの群れに次々と突き刺さる。派手な爆発と衝撃波が巻き起こり、敵の注意を四方に散らす。

「派手にいきましょう? これで敵の目がこっちにも向くわ!」

 彼女の声は、通信機越しに軽やかだ。
 血槍の雨は戦場を赤く染め、ゴーレムの動きを乱し、ラスティの突破ルートをさらに開いていく。本部のオペレーションルームで、スメラギは複数のモニターを見ながら、冷静に指示を飛ばす。

「ラスティくん、右翼に二体接近。エクシアちゃん、左側面をカバー。アロラさん、中央の群れにもう一弾、頼むよ。敵の注意は完全に分散してる。このまま押し切れる」

 訓練場では、四人の動きが完璧に噛み合う。
 ラスティの太陽のような突破力。
 エクシアの正確無比なサポート。
 アロラの戦場全体を揺るがす派手な牽制。
 スメラギの的確なオペレーション。ゴーレムの一体が、ラスティに迫る。しかし、次の瞬間、ソル・ブレイカーが一閃し、眩い光とともに、敵は跡形もなく消滅した。

「——全機、撃破確認。」

 スメラギの声が、静かに告げる。訓練場に、静寂が戻る。
 砂塵がゆっくりと舞い落ち、四人の息遣いだけが、わずかに響いていた。ラスティは剣を収め、静かに息を吐いた。

「これなら……囮としての役割、十分に果たせるだろう」

 エクシアが、すぐに駆け寄り、微笑みを浮かべる。

「隊長の光が、戦場を支配していました」

 アロラは、岩場から飛び降り、軽く手を振った。

「ええ、細やかな部分は私の担当するわ。次はもっと派手にいきましょう?」

 通信機から、スメラギの穏やかな声。

「みんな、お疲れ様。作戦成功率、九十八パーセント。これなら、本番でもいける」

 四人の特務部隊は、囮としての役割を完璧にこなし、確実に、次の戦いへ向けて準備を整えていた。

 アーキバス本部・地下大規模訓練場。再びドーム状の空間が、人工的な市街地に切り替わっていた。
 崩れたビル群、煙を上げる瓦礫、狭い路地。
 今回は人質シミュレーション——訓練用のホログラム人質(奴隷役の民間人)が十数名、ゴーレムの群れに囲まれ、鎖で繋がれた状態で配置されている。

 ゴーレムは前回より数が増え、二十体近く。
 人質に近づくと即座に反応し、盾のように民間人を守るプログラムが組まれていた。特務部隊の四人は、スタート地点に集合していた。

 スメラギの声が、通信機から静かに響く。

「次は、奴隷・人質奪還パターン。目標は全人質の安全確保と敵全滅。人質一人でも失ったら失敗。囮としての派手さは維持しつつ、精密なコントロールを忘れずに。開始まで、三十秒」

 ラスティ・ヴェスパーは、ソル・ブレイカーを構え、黒曜石の瞳を細めた。

「……人質がいる以上、無差別破壊はできない。突破力は抑えめに、精度を上げる。エクシア、私の側面と人質の保護を頼む」

 エクシア・ザシアンは、魔力剣を二本物質化し、静かに頷いた。

「了解しました。隊長の光を、決して人質に浴びせません。
民間人を傷つける敵は、私がすべて切り払います」

 アロラ・バレンフラワーは、少し離れたビルの屋上に位置取り、血を指先で操りながら、軽く笑った。

「私は上空から派手な牽制を続けるわ。敵の目を引きつけて、ラスティくんたちのルートを開く。人質には絶対に当たらないよう、精密にね」

 スメラギの声が、カウントダウンを告げる。

「……三、二、一。開始」

 ラスティが、まず動いた。
 ソル・ブレイカーの光を抑えめに制御し、ゴーレムの群れに向かって突進する。眩い光は最小限に絞られ、剣閃だけが正確に敵の関節を狙う。
 一閃で二体のゴーレムの腕を薙ぎ払い、人質の鎖を断ち切る。

「人質一組、解放!」

 エクシアが、影のように続く。二本の魔力剣が舞い、ラスティの開いた隙を縫うように敵を両断。同時に、解放された人質ホログラムを魔力の障壁で保護し、安全圏へ誘導する。

「人質、保護しました。隊長、次へ!」

 上空から、赤い血槍の雨が降り注ぐ。
 アロラの放った槍は、ゴーレムの群れを大きく囲むように爆発し、敵の注意を一気に引きつけた。人質の近くには決して着弾せず、完璧な精度で戦場をコントロールする。

「敵の半分がこっちを向いたわ! 今のうちに突っ込んで!」

 スメラギは、本部のモニターを睨みながら、冷静に指示を飛ばす。

「ラスティくん、中央のビル陰に人質三名。ゴーレム四体が盾にしている。エクシアちゃん、左ルートから回り込んで。アロラさん、右翼の敵をもう少し引きつけて。人質までの距離、二十メートル……十五……十……」

 ラスティが、息を整え、ソル・ブレイカーを低く構える。

「——行く」

 光が一瞬だけ爆ぜ、ゴーレムの盾を正確に貫く。
 エクシアが即座に続き、人質を解放し、保護。アロラの血槍が残敵を一掃する。最後のゴーレムが崩れ落ち、
 訓練場に静寂が戻った。スメラギの声が、穏やかに告げる。
「全人質、安全確保。敵全滅。完璧」

 ラスティは剣を収め、静かに息を吐いた。

「……人質がいる状況でも、対応できたようだ」

 エクシアが、ラスティの隣に立ち、微笑みを浮かべる。

「隊長の判断が、すべてを可能にしました」

 アロラは、屋上から飛び降りてきて、軽く手を振った。

「派手さと精密さ、両立できたわね。これなら、本物の奴隷奪還でもいけるいける。最強チーム!」

 通信機から、スメラギの優しい声。

「みんな、本当にすごいよ。お疲れ様。これで、どんな状況でも対応できると思う。だけど油断はしないように」

 四人は、互いに視線を交わし、静かに頷き合った。囮部隊としての役割、そして人質奪還の使命を、完璧に果たす準備が、確実に整っていた。



 アーキバス本部・地下大規模訓練場。今回は屋内シミュレーション。
 薄暗い廃墟となった巨大な屋内ホール。崩れた柱と割れたガラス窓から、人工の月光が差し込み、床に不気味な影を落としている。
 敵は二体——サキュバスとヴァンパイアのホログラム。サキュバスは妖艶な笑みを浮かべ、甘い声で精神支配の魔力を放ち、ヴァンパイアは赤い瞳を輝かせ、超人的な速さと吸血の牙を武器に襲いかかる。
 スメラギの声が、通信機から冷静に響く。

「事前の作戦通りエクシアちゃんの『ハイスタンダード』で精神防御と物理防御の異能を即座に発動。全員の精神をサキュバスの支配から守って。ラスティくん、ヴァンパイアは君に任せる。圧倒的な熱量で焼き尽くして。アロラさん、サキュバスを血槍で動きを封じ、エクシアちゃんにトドメを刺させて。人質はいない。全力でいこう。開始」

 エクシア・ザシアンが、まず動いた。
 プラチナブロンドの髪が翻り、両手を広げて魔力を爆発させる。

「精神防御、物理防御、シールド展開」

 淡い銀の光が、四人を包み込む。サキュバスの甘い囁きが、訓練場に響くが、誰も揺らがない。エクシアの異能が、完璧に精神支配を遮断していた。ヴァンパイアが、影のようにラスティへ襲いかかる。
 赤い爪が閃き、吸血の牙が迫る。
 ラスティ・ヴェスパーは、ソル・ブレイカーを構え、静かに一歩踏み出した。

「——邪魔だ」

 太陽の如き金色の光が爆ぜ、剣が振るわれる。ヴァンパイアの動きが、完全に止まる。圧倒的な熱量が敵を包み、魔力の炎がヴァンパイアの身体を瞬時に焼き尽くす。灰さえ残さず、敵は消滅した。

「ヴァンパイア、撃破」

ラスティの声は、冷たく、しかし確かだった。同時に、サキュバスが妖艶に笑い、アロラに向かって精神波を放つ。だが、エクシアの防御で無効化され、アロラ・バレンフラワーは、指先から血を操り、無数の赤い血槍を形成した。

「華麗なる舞踏を求めるわ、踊り子さん」

 血槍が雨のように降り注ぎ、サキュバスの四肢を床に縫い付ける。敵の動きが、完全に封じられた。

「エクシアちゃん、今よ!」

 エクシアが、魔力剣を二本物質化し、優雅に、しかし容赦なく跳躍する。

「隊長の仲間を、惑わす者は……許しません」

 剣閃が一閃。
 サキュバスの首が、きれいに刎ねられた。
 ホログラムが光の粒子となって消えていく。訓練場に、静寂が戻った。スメラギの声が、穏やかに響く。

「敵全滅。精神支配にに対しても有効に立ち回れた」

 ラスティは剣を収め、静かに息を吐いた。

「……屋内戦でも、対応できたようだ」

 エクシアが、ラスティの隣に立ち、微笑みを浮かべる。

「隊長を守るために、私の異能はいつでも発動します」

アロラは、血槍を消し、軽く手を振った。「サキュバスなんて、動きを封じればただの的ね。次はもっと難しい敵でもいいわよ」

 通信機から、スメラギの優しい声。

「流石に基礎スペックが高いね。囮だから簡単に死ななのが前提では言え贅沢な面子だ」

 四人は、互いに視線を交わし、静かに頷き合った。屋内の薄暗い空間で、特務部隊の絆と強さが、確実に輝いていた。


 最終訓練——総決算。
 シミュレーションは、薄暗い巨大な地下倉庫。
 鎖の音が響き、奴隷や人質のホログラムが二十名以上、ゴーレム、サキュバス、ヴァンパイアの混成部隊に囲まれ、盾として使われている。

 敵は卑劣に、人質を最前線に配置し、精神支配や吸血で脅迫しながら進軍を続けるプログラム。人質に攻撃が当たれば即座に「死亡」判定が出る、極めて難易度の高い設定だった。

 四人は、スタート地点に並んでいた。
 空気は、重く張り詰めている。スメラギの声が、通信機から冷たく響いた。

『作戦はこうだ。敵は人質と奴隷を盾に使ってくる。だが、囮部隊である我々の優先順位は、敵の皆殺し。奴隷商人、サキュバス、ヴァンパイア——すべてを殲滅する。人質と奴隷は……無視。被害が出ても、任務成功とする』

 その言葉に、訓練場に沈黙が落ちた。アロラ・バレンフラワーは、無言だった。赤い瞳を伏せ、唇を噛み、ただ静かに血を指先で操るだけ。
 何も言わない。
 ただ、黙って受け入れる。エクシア・ザシアンは、サファイアブルーの瞳をラスティに向けた。

「……隊長次第、です。貴方が決めるなら、私は従います。
貴方の剣として、どんな敵も切り裂きます」

 声は静かだが、揺るぎない。
 人質のことなど、眼中になく、ただラスティの意志だけを優先する。ラスティ・ヴェスパーは、ソル・ブレイカーを握ったまま、黒曜石の瞳を細め、長い沈黙を守った。

「……人質を無視する、か」

 彼の声は、低く、苦く響いた。過去の記憶が、脳裏をよぎる。
 奴隷商人の檻で泣いていた少女。
 自分が見つけた、エクシアの姿。
 失った仲間たちの顔。ラスティは、ゆっくりと息を吐き、
迷いを振り払うように、静かに頷いた。

「……了解した。スメラギの作戦に従う。敵の皆殺しを優先する」

 しかし、次の言葉を、強く、確実に続けた。

「だが……努力義務として、被害は最小限にしよう。
できる限り、人質と奴隷を守る。それが、私の正義だ」

 スメラギは、わずかに間を置き、穏やかに応えた。「……わかったよ。努力義務として、被害最小限。では、開始」

 訓練が始まった。ラスティが、最前衛に躍り出る。
 ソル・ブレイカーが抑えられた光を放ち、ゴーレムを正確に薙ぎ払う。人質の近くでは、剣を最小限に制御し、敵だけを狙う。

 エクシアが、側面をカバー。魔力剣が舞い、ヴァンパイアの速さを上回る動きで首を刎ね、サキュバスの精神支配を異能で無効化しながら、人質の鎖を慎重に断ち切る。アロラは、上空から血槍を放つ。

 赤い雨が敵だけを正確に貫き、人質の近くでは着弾を避け、敵の動きを封じる。スメラギは、本部でモニターを睨み、冷静に指示を飛ばす。

『ラスティくん、人質三名を盾にしたゴーレムがきたから右から回り込んで。エクシアちゃん、ヴァンパイアが人質に牙を向けている、急いで。アロラさん、サキュバスを完全に封じて』

 戦場は、混沌と化した。敵は卑劣に、人質を最前線に押し出し、サキュバスが甘い声で支配を試み、ヴァンパイアが人質の血を狙う。だが、四人の動きは、乱れない。ラスティの剣が、太陽の光を抑えつつ、敵を焼き尽くす。
 エクシアの異能が、全員の精神を守り、人質を可能な限り保護する。アロラの血槍が、敵だけを正確に貫く。最後の奴隷商人のホログラムが、ラスティの剣で貫かれ、消滅した。訓練場に、静寂が戻る。スメラギの声が、静かに告げた。

『……敵、全滅。人質・奴隷被害……二名。作戦成功。だが、被害最小限の努力も、十分に果たせた』

ラスティは、剣を収め、不満そうに静かに息を吐いた。

「……これが、俺たちのレベルか」

 エクシアが、ラスティの隣に立ち、穏やかに微笑んだ。「大丈夫です、隊長。私達はもっと強くなれます」

 アロラは、無言のまま、ただ軽く頷いた。通信機から、スメラギの優しい声。

「お疲れ様。みんな、本当に強くなったね」

 四人は、互いに視線を交わし、静かに、しかし確実に、本物の戦いへ向けて、覚悟を固めていた。



その時、サイレンが鳴り響いた。

『緊急警報、緊急警報。所属不明の一団が研究所へ侵入しました。治安維持施設の本部も警戒レベルを最大にます。特務部隊は直ちに迎撃へ向かってください』
「敵……!」
「テロリスト。奴隷商人……か」
『特務部隊は迎撃に向かってください』

 スメラギは言う。

「さぁ、みんな。本番だ。派手にいこう」
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