残酷な描写あり
R-15
17話:試運転
アーキバス本部・地下大規模訓練場。広大なドーム状の空間は、普段の戦場シミュレーションとは異なり、今日は静かに、荘厳な雰囲気に包まれていた。
天井の高さが五十メートルを超えるこの訓練場は、壁面に無数の魔力導管が走り、床は黒鋼のプレートで覆われ、中央に三基の巨大な魔導兵装が、威圧的に鎮座している。
それぞれの高さは十五メートルを超え、十字架を模した禍々しくも美しいシルエット。
黒鋼のフレームに、銀と金の魔力回路が複雑に絡みつき、
頂点には巨大なギロチン型の刃——鋭く、冷たく輝くカッターが、静かに、しかし確実に存在感を放っていた。
正式名称は『第三世代式魔導兵装ギロチンカッター特務部隊仕様』。外見だけでも、敵を威圧するに十分な禍禍しさを持つが、その本質は、純粋な戦闘力ではなく、「見栄え」を徹底的に追求した、囮特化型の魔導兵装だった。
ラスティ・ヴェスパーは、三基のうち中央の一基の前に立ち、黒曜石のような瞳を静かに見上げていた。白と青を基調とした上級士官制服が、魔力灯の光を受けて淡く輝き、彼の端正な顔立ちをより冷たく、しかし美しく際立たせている。隣に立つエクシア・ザシアンはプラチナブロンドの長い髪を三つ編みにまとめ、魔力ボディスーツの銀装飾が微かに光を反射しながら、興味深げにギロチンカッターの魔力回路を指でなぞっていた。
サファイアブルーの瞳に、純粋な好奇心と、ラスティの隣でこれを使う喜びが、静かに宿っている。少し離れた場所から、アロラ・バレンフラワーは、黒のコートを羽織り、赤い瞳を細めて観察していた。
指先で軽く血を操り、小さな血槍を回しながら、唇に皮肉めいた笑みを浮かべている。スメラギの声が、訓練場全体に設置された通信機から、穏やかで、しかし確かな響きで流れた。
「ギロチンカッターの最大の特徴は、エフェクト機能だよ。一言で言えば、見栄え重視。戦闘力を直接高めるものではなく、戦いを派手に、圧倒的に派手に演出するための機能」
その言葉と同時に、中央のギロチンカッターが、低い唸りを上げて起動した。轟音とともに、十字架全体が青白い雷光に包まれる。
雷が空を裂き、地面を焦がし、訓練場の空気を電撃で震わせる。轟音と閃光が、ドーム全体を青白く染め上げ、まるで嵐の中心に立っているかのような錯覚を与えた。次の瞬間、左側のギロチンカッターが赤く燃え上がり、巨大な炎の渦が巻き起こる。熱風が吹き荒れ、床の黒鋼が赤熱し、空気が歪むほどの高温が訓練場を支配した。
炎は十字架を舐め、ギロチンの刃を赤く輝かせ、処刑の炎のように、禍禍しく美しい。そして右側のギロチンカッターは、突然、水の奔流を噴き上げた。巨大な水柱が天井まで達し、霧が訓練場全体を覆い、水の壁が十字架を包み込む。
水音が響き、床に水が広がり、雷と炎のエフェクトと混じって、視界を混乱させる幻想的な光景を生み出した。雷、炎、水——三種のエフェクトが同時発生し、訓練場は神話の終末のような、圧倒的に派手な光と音と熱と湿気に満たされた。
ラスティは、静かに息を吐き、黒曜石の瞳を細めた。
「……確かに、目立つ。これほどの派手さなら、敵の視線を完全に奪える。副武装のソル・ブレイカーがあればギロチンカッターに目を奪われた敵を殺しやすい」
エクシアが、目を輝かせ、ラスティの袖を軽く掴みながら呟いた。
「本当ですね。敵の注意を一手に引きつけられます。囮特有の違和感を完全に隠すことが可能です。この光、この音、この熱……すべてが、隊長の道を開くためのもの」
アロラは、くすりと笑いながら歩み寄った。
「本来は、欺瞞情報を展開して敵を混乱させるための機能だけど、今回は純粋に『派手さ』で視線を集める調整ね。雷で驚かせ、炎で威圧し、水で視界を奪う。三基同時なら、70人だろうと100人だろうと、全員の目をここに固定できるわ。
囮としては、完璧だわ」
スメラギの声が、再び穏やかに響く。
「その通り。ギロチンカッターは、戦闘力ではなく、敵の注意を一手に引きつけるための囮特化兵装。三基同時展開すれば、どんな大部隊であろうと、視線を完全に固定できる。その隙に、我々が本命を仕留める。派手さこそが、勝利の鍵だ」
三基のギロチンカッターは、雷、炎、水のエフェクトを繰り返し、訓練場を圧倒的な光と音と熱で満たし続けた。
十字架の刃が、静かに、しかし確実に輝き、処刑を待つかのように、静かに佇んでいる。ラスティは、静かに頷き、
剣の柄に手を置いた。
ただそこに鎮座するだけで、
戦場を支配する派手さと、静かな脅威を約束していた。雷鳴が響き、炎が舞い、水が奔る。
特務部隊の戦いは、この派手な囮から、静かに、確実に、
始まろうとしていた。
◆
アーキバス本部・作戦指揮室。広大な指揮室は、壁一面の巨大モニターが青白く輝き、無数のデータストリームと衛星画像が絶え間なく流れていた。
中央の円形コンソールには、帝都郊外の廃墟都市——奴隷商人の拠点とされるエリア——の詳細地図が投影され、
赤いマーカーが敵の推定位置を点滅させ、青いラインが包囲部隊の進軍ルートを示している。部屋の奥では、複数のオペレーターがヘッドセットを着け、静かにキーボードを叩き、魔力波の監視データを更新し続けていた。
空気は冷たく張り詰め、かすかな機械音と、時折響く通信のノイズだけが、静寂を破る。神祖スメラギは、少年らしい小さな身体を指揮席の革張りチェアに深く沈め、蒼い髪に少し寝癖を残したまま、エメラルドグリーンの瞳をメインスクリーンに固定していた。
胸ポケットの懐中時計を軽く回しながら、
通信機越しに、実動部隊の三人へ穏やかで、しかし確かな声で語りかけた。
「他の包囲部隊からの作戦は、特に知らされていないよ。
目的地に向かって突撃して、治安維持組織としての仕事をする感じかな。奴隷の解放、敵の制圧、証拠の確保——いつもの通り、派手に、確実にやってきて」
通信機の向こう側、夜の帝都郊外を疾走する装甲車の車内。振動とエンジン音が響く中、エクシア・ザシアンは、プラチナブロンドの三つ編みを肩にかけ、魔力ボディスーツの銀装飾を微かに光らせながら、サファイアブルーの瞳をわずかに細めて質問した。
「何故、知らされないのでしょう? 他の部隊との連携が取れないのは、作戦上、不都合ではないのですか?」
スメラギは、懐中時計をカチリと閉じ、穏やかな笑みを浮かべた声で答えた。
「捕まって情報抜かれたら嫌だからだろうね。思考盗聴とか、精神干渉系の能力があるし。奴隷商人の連中は、モンスターを従え、ゲリラ戦法を得意とする。精神干渉系はあって当たり前だよ。だからこそ、『何も知らせない』ことで対策しているんだ」
車内のラスティ・ヴェスパーは、窓の外の闇を眺めながら、ギロチンカッターとソル・ブレイカーの柄に手を置き、静かに補足した。
「他の部隊の存在を知らなければ、捕まっても全体の作戦を漏らさない。我々が知っているのは、自分の任務だけ。敵に精神干渉されても、包囲網の全貌は守られる。古典的だが、効果的な方法だ。エクシアの防御は当てにしているが、万が一だ」
アロラ・バレンフラワーは、後部座席で黒のコートを羽織り、指先で血を軽く操りながら、赤い瞳に皮肉めいた笑みを浮かべた。
「要するに、我々は知らされず突っ込んで、敵を混乱させ、奴隷を解放する。他の部隊も同じく、互いの作戦を知らない。捕まっても全体を漏らさない、完璧な情報隔離ね。精神干渉のリスクを、ゼロに近づけるための、冷徹で合理的な選択だわ」
スメラギの声が、再び穏やかに、しかし少しだけ楽しげに流れる。
「そうだね。君たちは囮でも本命でも、とにかく派手に、確実にやってきて。ギロチンカッターのエフェクトもフル活用して、敵の目を全部引きつけて。奴隷商人の精神干渉がどれだけ効くか、それも含めて、データが欲しいんだ。……もちろん、無事で帰ってきてね」
通信機越しに、三人の静かな、しかし確かな決意が伝わる。ラスティが、低く、力強く応えた。
「……了解。目的地まで、あと十分。到着後、突撃を開始する」
エクシアが、隣で静かに微笑み、ラスティの袖を軽く握った。
「隊長の剣として、どんな精神干渉も、切り裂きます。貴方の理想を、必ず守ります。」
アロラが、くすりと笑った。
「派手にいきましょう。敵の目を、全部こっちに引きつけて、奴隷商人の連中を、完璧に混乱させてあげるわ」
指揮室のメインスクリーンに、実動部隊の位置を示す青いマーカーが、赤い敵勢力域に向かって、静かに、しかし確実に、急速に接近していく。スメラギは、懐中時計をもう一度開き、針の音を聞きながら、穏やかな瞳でそれを眺め、
小さく、誰にも聞こえない声で呟いた。
「……頑張ってね。君たちの光が、帝国の闇を切り裂いてくれることを、祈ってるよ」
夜の帝都郊外で、装甲車のエンジン音が響き特務部隊の突撃が、静かに、しかし確実に、始まろうとしていた。奴隷商人の拠点は、もうすぐ、その光と影に、飲み込まれようとしていた。