残酷な描写あり
R-15
第百五九話 トサカの賊将
義渠県首府の武霊城へ到着するも、敵の援軍として、遂に板楯族が姿を現す。白起は復讐を果たす為、自らも槍を手に取り突撃する。
白起は武霊城まで兵を進めるも、騎兵中心の強行軍では、城を包囲することは出来なかった。辺境の城である分、城壁は低くて脆い為、攻め落とせることは不可能ではなかった。
しかし、白起が危惧したのは城を攻めることについてではなかった。
「司馬靳見えるか、あの群れが」
「あれが……板楯族ですか……!」
そこには、義渠涼の様に、動物の毛皮をまとった集団が、およそ三万、武霊城へ向かっていた。
「武安君殿、どの様に布陣しましょう。幸い、我が軍の騎兵は揃っています。抗う力はあります」
「そうだ。だが正面で板楯族を迎え打てば、武霊城の義渠の兵に背後を襲われる」
「少数の歩兵で、城と騎馬のあいだの壁になりましょう。幸い、歩兵は続々と到着しています!」
「そうだな。退けば、次に武霊城を下す時には、兵の損害が増えることは火を見るより明らかだ」
白起は騎兵二万を率いて、突撃の陣を敷いた。一方司馬靳もまた、歩兵五千で迎撃の陣を敷き、命懸けで白起の背後を守ることに徹した。
板楯族は意気揚々と、甲高い奇声を上げ、秦兵の士気を削いだ。同時にその奇声は、自らの士気を上げ、彼らを強くした。
白起は、司馬靳を信用していた。後方から義渠の兵に襲われることはないだろうと信じていた。それは、司馬靳が確かに将として、力をつけていることだけでなく、蒙驁や蒙武も、背を守ってくれているからであった。
今この戦いだけは、秦軍の頭である総帥としてでもなく、宮廷の重鎮である武安君としてでもなく、ただ一人の将軍として、板楯族を撃ち破るつもりでいた。
白起は、独り言を呟いた。草を戦(そよ)がせる風が、血が滾る体に当たり、気持ちよかった。
「私は秦将白起だ。秦人にとって、貴様らは不倶戴天の敵である。この戦いで、私は秦兵の信用を取り戻す。私は秦将として、ここに立っているのだ! 哀れな少年起ではなく、秦将として、そなたの首を討ってやる!」
睨み合いの中、先に軍を動かしたのは、白起であった。
「突撃だ! トサカの賊将を討ち取れい! !」
秦兵は意気揚々と、統率の取れた動きで吶喊した。その動きに呼応して、遠くの方で、板楯族も吶喊を始めた。
両軍の騎馬が動きだし、全面衝突した。斬っては斬られを繰り返し、両軍の兵は倒れていった。
白起は、王と記された旗が、トサカの男がいる敵本陣まで迫っているのを確認した。
しかし白起のすぐ側まで、敵が迫っているのも分かっていた。
親衛隊長は叫んだ。
「国尉様! お下がりください!」
「下がれぬ! 大将が背を向けて逃げれば、瓦解する!」
白起は自らも槍を手に取り、馬上で敵と斬り合っていた。将軍となってから、武器を手に取り敵と戦うことは、初めてであった。
「戦略から考えれば、実力が互角では敗ける! 押すのだ! 押すのだ!」
白起の親衛隊は白起を囲みながら、白起の意向に従って、白や秦と記された旗を掲げながら、先陣を切って突撃した。
突撃した白起は、王の旗を掲げる部隊が、本陣まで攻め入っている姿が見えた。
「あともう少しだ! 全軍! 奮起せよ! !」
白起は馬の腹を蹴り、敵軍本陣まで突撃した。
本陣の中は敵味方が入り乱れる混戦だが、見覚えのある男が、トサカの男と懸命に斬り合う姿が見えた。
その瞬間、白起は叫んだ。
「王翦! 私も行くぞ!」
白起はトサカの賊将の背後まで進み、賊将の横腹を刺した。しかし、賊将は尚も力強く剣を振るい、王翦の一合を弾き、反転して、白起の馬を斬りつけた。
白起は落馬した。
槍を両手で握りしめ、混戦の中で敵と刃を交える白起は、過去を思い起こしていた。だがもう逃げることはない。ここで板楯族の戦士を皆殺しにし、復讐を果たす。その硬い決心が、白起の老いた体を柔軟にさせ、疲労を忘れて、敵を斬らせた。
白起は敵を薙ぎ倒しながら、賊将の馬まで駆け寄り、斬りつけた。落馬した賊将は素早く立ち上がり、白起を睨みつけた。
その一瞬のよそ見を、王翦は見逃さなかった。
血走った目で王翦は馬の腹を蹴り、馬は跳躍した。
西日の光を遮り、黒い影が、白起と賊将を覆った。
それに気づき、振り返る賊将を、鬼神の如き一振で、王翦は斬り倒した。
王翦は、叫んだ。
「賊将、討ち取ったり! !」
秦兵は勝鬨の声を上げ、白起もまた、槍を天高く掲げ! 叫んだ。
しかし、白起が危惧したのは城を攻めることについてではなかった。
「司馬靳見えるか、あの群れが」
「あれが……板楯族ですか……!」
そこには、義渠涼の様に、動物の毛皮をまとった集団が、およそ三万、武霊城へ向かっていた。
「武安君殿、どの様に布陣しましょう。幸い、我が軍の騎兵は揃っています。抗う力はあります」
「そうだ。だが正面で板楯族を迎え打てば、武霊城の義渠の兵に背後を襲われる」
「少数の歩兵で、城と騎馬のあいだの壁になりましょう。幸い、歩兵は続々と到着しています!」
「そうだな。退けば、次に武霊城を下す時には、兵の損害が増えることは火を見るより明らかだ」
白起は騎兵二万を率いて、突撃の陣を敷いた。一方司馬靳もまた、歩兵五千で迎撃の陣を敷き、命懸けで白起の背後を守ることに徹した。
板楯族は意気揚々と、甲高い奇声を上げ、秦兵の士気を削いだ。同時にその奇声は、自らの士気を上げ、彼らを強くした。
白起は、司馬靳を信用していた。後方から義渠の兵に襲われることはないだろうと信じていた。それは、司馬靳が確かに将として、力をつけていることだけでなく、蒙驁や蒙武も、背を守ってくれているからであった。
今この戦いだけは、秦軍の頭である総帥としてでもなく、宮廷の重鎮である武安君としてでもなく、ただ一人の将軍として、板楯族を撃ち破るつもりでいた。
白起は、独り言を呟いた。草を戦(そよ)がせる風が、血が滾る体に当たり、気持ちよかった。
「私は秦将白起だ。秦人にとって、貴様らは不倶戴天の敵である。この戦いで、私は秦兵の信用を取り戻す。私は秦将として、ここに立っているのだ! 哀れな少年起ではなく、秦将として、そなたの首を討ってやる!」
睨み合いの中、先に軍を動かしたのは、白起であった。
「突撃だ! トサカの賊将を討ち取れい! !」
秦兵は意気揚々と、統率の取れた動きで吶喊した。その動きに呼応して、遠くの方で、板楯族も吶喊を始めた。
両軍の騎馬が動きだし、全面衝突した。斬っては斬られを繰り返し、両軍の兵は倒れていった。
白起は、王と記された旗が、トサカの男がいる敵本陣まで迫っているのを確認した。
しかし白起のすぐ側まで、敵が迫っているのも分かっていた。
親衛隊長は叫んだ。
「国尉様! お下がりください!」
「下がれぬ! 大将が背を向けて逃げれば、瓦解する!」
白起は自らも槍を手に取り、馬上で敵と斬り合っていた。将軍となってから、武器を手に取り敵と戦うことは、初めてであった。
「戦略から考えれば、実力が互角では敗ける! 押すのだ! 押すのだ!」
白起の親衛隊は白起を囲みながら、白起の意向に従って、白や秦と記された旗を掲げながら、先陣を切って突撃した。
突撃した白起は、王の旗を掲げる部隊が、本陣まで攻め入っている姿が見えた。
「あともう少しだ! 全軍! 奮起せよ! !」
白起は馬の腹を蹴り、敵軍本陣まで突撃した。
本陣の中は敵味方が入り乱れる混戦だが、見覚えのある男が、トサカの男と懸命に斬り合う姿が見えた。
その瞬間、白起は叫んだ。
「王翦! 私も行くぞ!」
白起はトサカの賊将の背後まで進み、賊将の横腹を刺した。しかし、賊将は尚も力強く剣を振るい、王翦の一合を弾き、反転して、白起の馬を斬りつけた。
白起は落馬した。
槍を両手で握りしめ、混戦の中で敵と刃を交える白起は、過去を思い起こしていた。だがもう逃げることはない。ここで板楯族の戦士を皆殺しにし、復讐を果たす。その硬い決心が、白起の老いた体を柔軟にさせ、疲労を忘れて、敵を斬らせた。
白起は敵を薙ぎ倒しながら、賊将の馬まで駆け寄り、斬りつけた。落馬した賊将は素早く立ち上がり、白起を睨みつけた。
その一瞬のよそ見を、王翦は見逃さなかった。
血走った目で王翦は馬の腹を蹴り、馬は跳躍した。
西日の光を遮り、黒い影が、白起と賊将を覆った。
それに気づき、振り返る賊将を、鬼神の如き一振で、王翦は斬り倒した。
王翦は、叫んだ。
「賊将、討ち取ったり! !」
秦兵は勝鬨の声を上げ、白起もまた、槍を天高く掲げ! 叫んだ。