残酷な描写あり
R-15
第百六一話 魏冄、斉を攻める
政敵である白起が大功を立てたことで、魏冄は、自身も功績を立てようと考える。そして魏冄は斉を攻め、城邑を奪う。
同年 咸陽
丞相の魏冄は、義渠の討伐に一切関わることができず、不満を感じていた。しかし、そこだけに拘る彼ではなかった。とうに、白起の忠誠心が自分から離れていることを、彼は悟っていた。彼は、白起を亡き者とするには、義渠や板楯族の力を利用するしかないと考えていた。だがそんなものは、最早どうでもよかった。
魏冄は、斉の地を狙っていた。それは、かつて合従軍を率いて斉を襲った時、その肥沃さに心を惹かれた場所であった。
魏冄は、秦王の許可を得ずに、自身の派閥で、客卿(きゃくけい)の爵位を持つ将軍、竈(そう)に、秦兵を与えて、斉へ進軍をさせた。
最早、大国の面影もない斉は、秦兵の攻撃に為す術もなかった。
「穣候、王様に無断で兵を動かしたことを、どう釈明するおつもりですか」
「気にするな竈将軍、秦王など、小童だ」
「しかし、王様にこの剛(ごう)邑と寿(じゅ)邑を渡すでもしない限り、納得しないのでは?」
「どちらも渡しはせん。周辺の小さな村のみ、くれてやろうぞ。私は大将軍だ。戦果も十分。全くもって、問題は無い!」
魏冄が咸陽に帰還した後、朝議に参内した。秦王は激怒していた。
秦王の魏冄を見る目は、君主が臣下を見る目でも、甥が叔父を見る目でもなかった。それは、君主が、逆賊を見る目であった。
「秦の丞相ともあろう者が、秦の法を知らぬとはいわせぬ」
「無論、熟知しております、秦王様。なににお怒りなのでしょうか」
「秦の法では、兵を二百名以上動かす場合は、秦王の許可が必要である。そなたは三万の兵を無断で動かし、他国を攻めた。どう釈明するのだ」
「一つに、私は秦の大将軍。敵国を攻める好機を活かす為ならば、法を破ってでも兵を動かすべきと存じます。孫子はいいました。兵、外に在れば君命も受けざるなり。つまり、国益の為ならば、君命は絶対ではありませぬ。もし私が、兵を失い土地を得られなかったのであれば、私の罪は斬首に値します。しかし私は、損害以上の戦果を、持ち帰りました」
「土地を得たのであるな。しかし問うぞ。その土地は、秦の物か。それとも、穣候魏冄のものか!」
「無論、秦の土地にございます。少しばかりは封地として加増して頂きたく存じます。しかし、戦果は全て私の懐に入るものではありませぬ」
「その加増して欲しい土地はどこだ。そして、どこが秦王の土地となるのだ」
「それは協議し、後ほど通達致します」
「今すぐ申せ!」
「申せるはずがありませぬ。これは国の大事です。軽々には申せませぬ」
魏冄はこの日をやり過ごした。そしてじっくりと自身の派閥の兵や文官に剛邑と寿邑の地を統治させ、その支配が馴染んだ頃、民が魏冄の統治を望んでいることを理由に、秦王に両地を求めた。
秦王は、分かってはいたが、手を出せなかった。既成事実を先に作ってしまう魏冄のやり方は、最早謀反であると、秦王は腸が煮えくり返る思いであった。
丞相の魏冄は、義渠の討伐に一切関わることができず、不満を感じていた。しかし、そこだけに拘る彼ではなかった。とうに、白起の忠誠心が自分から離れていることを、彼は悟っていた。彼は、白起を亡き者とするには、義渠や板楯族の力を利用するしかないと考えていた。だがそんなものは、最早どうでもよかった。
魏冄は、斉の地を狙っていた。それは、かつて合従軍を率いて斉を襲った時、その肥沃さに心を惹かれた場所であった。
魏冄は、秦王の許可を得ずに、自身の派閥で、客卿(きゃくけい)の爵位を持つ将軍、竈(そう)に、秦兵を与えて、斉へ進軍をさせた。
最早、大国の面影もない斉は、秦兵の攻撃に為す術もなかった。
「穣候、王様に無断で兵を動かしたことを、どう釈明するおつもりですか」
「気にするな竈将軍、秦王など、小童だ」
「しかし、王様にこの剛(ごう)邑と寿(じゅ)邑を渡すでもしない限り、納得しないのでは?」
「どちらも渡しはせん。周辺の小さな村のみ、くれてやろうぞ。私は大将軍だ。戦果も十分。全くもって、問題は無い!」
魏冄が咸陽に帰還した後、朝議に参内した。秦王は激怒していた。
秦王の魏冄を見る目は、君主が臣下を見る目でも、甥が叔父を見る目でもなかった。それは、君主が、逆賊を見る目であった。
「秦の丞相ともあろう者が、秦の法を知らぬとはいわせぬ」
「無論、熟知しております、秦王様。なににお怒りなのでしょうか」
「秦の法では、兵を二百名以上動かす場合は、秦王の許可が必要である。そなたは三万の兵を無断で動かし、他国を攻めた。どう釈明するのだ」
「一つに、私は秦の大将軍。敵国を攻める好機を活かす為ならば、法を破ってでも兵を動かすべきと存じます。孫子はいいました。兵、外に在れば君命も受けざるなり。つまり、国益の為ならば、君命は絶対ではありませぬ。もし私が、兵を失い土地を得られなかったのであれば、私の罪は斬首に値します。しかし私は、損害以上の戦果を、持ち帰りました」
「土地を得たのであるな。しかし問うぞ。その土地は、秦の物か。それとも、穣候魏冄のものか!」
「無論、秦の土地にございます。少しばかりは封地として加増して頂きたく存じます。しかし、戦果は全て私の懐に入るものではありませぬ」
「その加増して欲しい土地はどこだ。そして、どこが秦王の土地となるのだ」
「それは協議し、後ほど通達致します」
「今すぐ申せ!」
「申せるはずがありませぬ。これは国の大事です。軽々には申せませぬ」
魏冄はこの日をやり過ごした。そしてじっくりと自身の派閥の兵や文官に剛邑と寿邑の地を統治させ、その支配が馴染んだ頃、民が魏冄の統治を望んでいることを理由に、秦王に両地を求めた。
秦王は、分かってはいたが、手を出せなかった。既成事実を先に作ってしまう魏冄のやり方は、最早謀反であると、秦王は腸が煮えくり返る思いであった。