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作者: 真名鶴
10.Red requiem
 赤く濡れ。
 赤くなれ。
 あか、赤、赫――。
 真っ白な壁は息苦しい。ならば全部全部、汚してしまえ。

 死にたいと願ったことはない。
 生きていたいとも思えない。
 水中で溺れる魚のように、陸地にいるのに息もできない。
 私はきっと、何かがおかしい。何かがおかしいと分かっているのに、何がおかしいのかも分からない。
 人は何も与えられなければ枯れていく。
 別に育て方が悪いだとか、親が悪いだとか、そんなことを言うつもりもない。多分そんなことではなくて、ただただ自分がおかしいだけで。
 私はきっと、枯れていく。何も与えられないままに。

 ねえ。
 理解しなくていい。
 理解できないと思うのならば、何も言わなくていい。
 けれど今まさに息ができなくなっている私は、ここにいる。

 ねえ。
 どうか私を放っておいて私を理解して

 真っ白な壁は、赤く塗る。
 あか、赤、赫――。
 白い壁に赤い花。ただその花を眺めて佇んだのは。
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