侵略 反転 3
ため息をついた私は、ただただ右の爪先で地面をノックする。
ただそれだけで、私に向かって走ってきた猿型悪魔六体の下半身は引きちぎられていた。
猿達はその表情を変える間もなく絶命する。
「そんなバカな! 詠唱もなしで、悪魔六体を!!」
指揮官気取りの悪魔が驚きの声をあげる。
そんなに驚くことかしら?
全盛期の力を取り戻した私にとって、こんな低級悪魔、真面目に相手をするまでもない。
「次は?」
私は慌てふためく指揮官気取りに催促する。
余裕ぶっているが、正直私の追憶魔法は悪魔とは相性が悪い。
魔女はもとより、生き物には明確な時間の概念がある。あるから、その存在そのものを座標に出来るため外さない。その存在が誕生する前の追憶に飛ばせば、そのまま消滅できる。
だけど悪魔はそうはいかない。
彼ら悪魔に時間の概念は無い。
だから彼らそのものを座標に指定出来ない。
この差はかなり大きい。
必中かそうでないかは、戦闘において大切なファクターだ。
「このクソアマ! 舐めやがって!」
指揮官気取りは憤る。
おそらくコイツ自身もたいした強さではないのだろう。
本当に強い奴は沸点が高い。余裕がある。
「お前たち! やってしまえ!」
指揮官気取りの指示で前に出てきたのは、筋骨隆々の二足歩行のトカゲ。
前に戦ったキテラの魔獣そっくりな悪魔だった。
その数二十体ほど……
「今度はトカゲってことかしら?」
私は相も変わらず真っすぐ立ち、何も身構えることもなく敵の悪魔たちを眺めている。
「殺せ!」
殺せの合図と共に、二十体のトカゲたちはさっきの猿同様、一斉に私に襲い掛かる。
その迫力は中々のもので、さっきの猿に比べたら幾分か危険度は増している。
それでも、それでも足りない。私に詠唱させるだけの危険度ではない。
「だから無駄だって!」
私は再び右の爪先で地面をノックすると、二十体のトカゲたちは一体も余すことなく下半身とおさらばした。
「言ってるでしょ?」
そのまま二十体のトカゲたちは絶命する。
悪魔には時間の概念がない。だから追憶魔法の座標に出来ない。
だったら悪魔たちがいる場所、そのものの時間を、追憶に飛ばせばいい。
その空間に何もなかった時まで、時間を戻す。そうすればそこに存在しているものが物質だろうが、生き物だろうが、時間の概念がない悪魔だろうが、何の関係もなく飛ばせる。
座標は空間そのものだ!
「そんな……バカな!」
指揮官気取りは絶句する。
彼がここまでショックを受けているのも、分からないでもない。
あのトカゲたちは、その前の猿型の悪魔とは違い、低級悪魔ではない。もう少し上、中級の中でも上のほうの悪魔達だ。
四皇の魔女でも、キテラでも、私でもない、その他大勢の魔女にとって中級悪魔は基準点となる存在だ。
中級悪魔が数体いれば、並の魔女は成す術なく襲われる。
敗れる。殺される。
彼が今驚いているのはそれを知っているからだ。
私に勝てるとまでは思っていないだろうが、詠唱ぐらいはするだろうと考えていたに違いない。
「あのね、私は最後の魔女よ? ただ運が良くて生き残ってきた魔女じゃないの。ここに集まっている低級、中級悪魔程度が、どうこう出来ると思わないでくれるかしら? 殺すつもりなら一斉に来なさい」
私は、めんどくさいからとっとと全員でかかって来いと告げた。
「うるさい! 焼き殺せ!」
指揮官気取りが再び指示を出すと、私の背後、左右から魔力の反応がし始めた。
遠距離魔法で私をいたぶる気ね。
無駄なのに……
「死ね!」
左右背後、ついでに前方から、十を越える人間サイズの炎の塊が、真っすぐ私に向かって飛んでくる。
「はあ……」
私はめんどくさそうに右手を鳴らすと、私から二メートルの距離にきた炎の塊は忽然と姿を消す。
「あり得ない……」
指揮官気取りを含めた周りの悪魔たちは、呆然としていた。
「私が飛ばせるのは、命を持った者だけだと思ったのかしら? 残念だけど私の追憶魔法は無機質も飛ばすわ」
空間の時間を飛ばすのだから、生き物縛りなわけがない。
なんでも飛ばせる。どこまでも飛ばせる。
私の説明を聞いた彼らはそのまま沈黙してしまった。
さっきまでずっとギャーギャー騒いでいたのに……まるで動物ね。
「それで、どうするの? 逃げる? 逃げても良いけど、私は逃がさないわよ?」
私は満面の笑みを浮かべる。
そう。一匹たりとも逃がしはしない。
アイツらは、悪魔による魔女への復讐だとほざいていた。
冗談じゃない!
悪魔に復讐が許されるなら、魔女にだって許されて良いはずだ!
これは私による、いや、魔女による悪魔への復讐だ!
「私は全員殺す!」
私は初めて声に魔力をのっける。
私の声はここら一体に響き渡る。
これは私からの、悪魔たちに対する処刑宣告だ!
「お、お前たち! 全員でかかれ! 魔法を使う間もなく叩きのめせ!」
指揮官気取りは、ただただ数に頼った戦法を選んだ。
まあでも仕方ないか。
それしかないものね?
可哀想だけど、何をしたってお前たちが助かる未来などない!
「追憶魔法、周囲に時限式の爆弾を!」
私は初めて詠唱をする。
ちゃんと魔力を込める。
続けて……
「追憶魔法、指定ポイントの時間を巻き戻せ!」
私は二重で詠唱する。
一つ目の詠唱で、自身の周りに空間指定のトラップを断続的に張り巡らせる。
そのポイントにまで迫ってきた悪魔たちは、そこで体を引きちぎられ、大量の血を流し、次々と絶命していく。
二つ目の詠唱で遠距離から魔法を飛ばしてくる、動かない悪魔たちの空間を座標にして、その空間の時間を戻す。悪魔がそこに存在しなかった時間まで巻き戻す!
悪魔たちは半狂乱となって、なんの作戦もなく、私に踊りかかる。
ある者は、私のトラップに引っかかり体をちぎられ、またある者は、魔法を飛ばしているうちに私に座標を指定されていなくなり、それらの追憶魔法のトラップを潜り抜けてきた猛者は、私が無詠唱で行使した追憶魔法によって体が消し飛ぶ!
私を中心に血の海が出来上がる。
まるでコンパスで図ったかのように、私から一定の距離で血の線が引かれ、その外側は地獄だった。
どんどん積み重なる血と死体の山。
序盤に殺された悪魔の死体は、徐々に消えて異界に送られていく。そして消え去った死体の場所に新たな死体が追加される。
この繰り返しだ。
私の周囲は血と死体と悪魔達の悲鳴で満たされ、充満する。
凄まじい死の匂いと、確かに感じる幸福感。
自分がしっかりと復讐出来ているという気持ちよさだけが、今の私を突き動かす。
「それで……もうお仲間は全て消えてしまったけれど、貴方はどうするの?」
私は、最後まで後方で震えていた指揮官気取りに声をかける。
碌な指揮も出来ないで、最後まで後方で隠れていた卑怯者。
くだらない悪魔達の中でも、特にくだらない。
「く、来るな!」
私がゆっくりと指揮官気取りに向かって歩を進めると、彼は怯えた声を上げながら、背中を向けて逃げていく。
「ふふっ……情けないわね。本当に悪魔なの?」
私は、無様に逃げていく悪魔と一定距離を保ちながら追いかける。
「ひぃぃ~!!」
後ろを振り返り、私との距離がまったく離れていないことに気づいた指揮官気取りは、さっきまでの態度が嘘であるかのような悲鳴を上げて逃げ惑う。
「もう、いっか……」
私は途中で追いかけるのをやめて、背中を向ける。
もう飽きた。
さようなら。
私は背中を向けたまま指を鳴らすと、背後で指揮官気取りの断末魔が響き渡った。
ただそれだけで、私に向かって走ってきた猿型悪魔六体の下半身は引きちぎられていた。
猿達はその表情を変える間もなく絶命する。
「そんなバカな! 詠唱もなしで、悪魔六体を!!」
指揮官気取りの悪魔が驚きの声をあげる。
そんなに驚くことかしら?
全盛期の力を取り戻した私にとって、こんな低級悪魔、真面目に相手をするまでもない。
「次は?」
私は慌てふためく指揮官気取りに催促する。
余裕ぶっているが、正直私の追憶魔法は悪魔とは相性が悪い。
魔女はもとより、生き物には明確な時間の概念がある。あるから、その存在そのものを座標に出来るため外さない。その存在が誕生する前の追憶に飛ばせば、そのまま消滅できる。
だけど悪魔はそうはいかない。
彼ら悪魔に時間の概念は無い。
だから彼らそのものを座標に指定出来ない。
この差はかなり大きい。
必中かそうでないかは、戦闘において大切なファクターだ。
「このクソアマ! 舐めやがって!」
指揮官気取りは憤る。
おそらくコイツ自身もたいした強さではないのだろう。
本当に強い奴は沸点が高い。余裕がある。
「お前たち! やってしまえ!」
指揮官気取りの指示で前に出てきたのは、筋骨隆々の二足歩行のトカゲ。
前に戦ったキテラの魔獣そっくりな悪魔だった。
その数二十体ほど……
「今度はトカゲってことかしら?」
私は相も変わらず真っすぐ立ち、何も身構えることもなく敵の悪魔たちを眺めている。
「殺せ!」
殺せの合図と共に、二十体のトカゲたちはさっきの猿同様、一斉に私に襲い掛かる。
その迫力は中々のもので、さっきの猿に比べたら幾分か危険度は増している。
それでも、それでも足りない。私に詠唱させるだけの危険度ではない。
「だから無駄だって!」
私は再び右の爪先で地面をノックすると、二十体のトカゲたちは一体も余すことなく下半身とおさらばした。
「言ってるでしょ?」
そのまま二十体のトカゲたちは絶命する。
悪魔には時間の概念がない。だから追憶魔法の座標に出来ない。
だったら悪魔たちがいる場所、そのものの時間を、追憶に飛ばせばいい。
その空間に何もなかった時まで、時間を戻す。そうすればそこに存在しているものが物質だろうが、生き物だろうが、時間の概念がない悪魔だろうが、何の関係もなく飛ばせる。
座標は空間そのものだ!
「そんな……バカな!」
指揮官気取りは絶句する。
彼がここまでショックを受けているのも、分からないでもない。
あのトカゲたちは、その前の猿型の悪魔とは違い、低級悪魔ではない。もう少し上、中級の中でも上のほうの悪魔達だ。
四皇の魔女でも、キテラでも、私でもない、その他大勢の魔女にとって中級悪魔は基準点となる存在だ。
中級悪魔が数体いれば、並の魔女は成す術なく襲われる。
敗れる。殺される。
彼が今驚いているのはそれを知っているからだ。
私に勝てるとまでは思っていないだろうが、詠唱ぐらいはするだろうと考えていたに違いない。
「あのね、私は最後の魔女よ? ただ運が良くて生き残ってきた魔女じゃないの。ここに集まっている低級、中級悪魔程度が、どうこう出来ると思わないでくれるかしら? 殺すつもりなら一斉に来なさい」
私は、めんどくさいからとっとと全員でかかって来いと告げた。
「うるさい! 焼き殺せ!」
指揮官気取りが再び指示を出すと、私の背後、左右から魔力の反応がし始めた。
遠距離魔法で私をいたぶる気ね。
無駄なのに……
「死ね!」
左右背後、ついでに前方から、十を越える人間サイズの炎の塊が、真っすぐ私に向かって飛んでくる。
「はあ……」
私はめんどくさそうに右手を鳴らすと、私から二メートルの距離にきた炎の塊は忽然と姿を消す。
「あり得ない……」
指揮官気取りを含めた周りの悪魔たちは、呆然としていた。
「私が飛ばせるのは、命を持った者だけだと思ったのかしら? 残念だけど私の追憶魔法は無機質も飛ばすわ」
空間の時間を飛ばすのだから、生き物縛りなわけがない。
なんでも飛ばせる。どこまでも飛ばせる。
私の説明を聞いた彼らはそのまま沈黙してしまった。
さっきまでずっとギャーギャー騒いでいたのに……まるで動物ね。
「それで、どうするの? 逃げる? 逃げても良いけど、私は逃がさないわよ?」
私は満面の笑みを浮かべる。
そう。一匹たりとも逃がしはしない。
アイツらは、悪魔による魔女への復讐だとほざいていた。
冗談じゃない!
悪魔に復讐が許されるなら、魔女にだって許されて良いはずだ!
これは私による、いや、魔女による悪魔への復讐だ!
「私は全員殺す!」
私は初めて声に魔力をのっける。
私の声はここら一体に響き渡る。
これは私からの、悪魔たちに対する処刑宣告だ!
「お、お前たち! 全員でかかれ! 魔法を使う間もなく叩きのめせ!」
指揮官気取りは、ただただ数に頼った戦法を選んだ。
まあでも仕方ないか。
それしかないものね?
可哀想だけど、何をしたってお前たちが助かる未来などない!
「追憶魔法、周囲に時限式の爆弾を!」
私は初めて詠唱をする。
ちゃんと魔力を込める。
続けて……
「追憶魔法、指定ポイントの時間を巻き戻せ!」
私は二重で詠唱する。
一つ目の詠唱で、自身の周りに空間指定のトラップを断続的に張り巡らせる。
そのポイントにまで迫ってきた悪魔たちは、そこで体を引きちぎられ、大量の血を流し、次々と絶命していく。
二つ目の詠唱で遠距離から魔法を飛ばしてくる、動かない悪魔たちの空間を座標にして、その空間の時間を戻す。悪魔がそこに存在しなかった時間まで巻き戻す!
悪魔たちは半狂乱となって、なんの作戦もなく、私に踊りかかる。
ある者は、私のトラップに引っかかり体をちぎられ、またある者は、魔法を飛ばしているうちに私に座標を指定されていなくなり、それらの追憶魔法のトラップを潜り抜けてきた猛者は、私が無詠唱で行使した追憶魔法によって体が消し飛ぶ!
私を中心に血の海が出来上がる。
まるでコンパスで図ったかのように、私から一定の距離で血の線が引かれ、その外側は地獄だった。
どんどん積み重なる血と死体の山。
序盤に殺された悪魔の死体は、徐々に消えて異界に送られていく。そして消え去った死体の場所に新たな死体が追加される。
この繰り返しだ。
私の周囲は血と死体と悪魔達の悲鳴で満たされ、充満する。
凄まじい死の匂いと、確かに感じる幸福感。
自分がしっかりと復讐出来ているという気持ちよさだけが、今の私を突き動かす。
「それで……もうお仲間は全て消えてしまったけれど、貴方はどうするの?」
私は、最後まで後方で震えていた指揮官気取りに声をかける。
碌な指揮も出来ないで、最後まで後方で隠れていた卑怯者。
くだらない悪魔達の中でも、特にくだらない。
「く、来るな!」
私がゆっくりと指揮官気取りに向かって歩を進めると、彼は怯えた声を上げながら、背中を向けて逃げていく。
「ふふっ……情けないわね。本当に悪魔なの?」
私は、無様に逃げていく悪魔と一定距離を保ちながら追いかける。
「ひぃぃ~!!」
後ろを振り返り、私との距離がまったく離れていないことに気づいた指揮官気取りは、さっきまでの態度が嘘であるかのような悲鳴を上げて逃げ惑う。
「もう、いっか……」
私は途中で追いかけるのをやめて、背中を向ける。
もう飽きた。
さようなら。
私は背中を向けたまま指を鳴らすと、背後で指揮官気取りの断末魔が響き渡った。