災厄の悪魔 3
「ねえレシファー。アザゼルってどんな悪魔なの?」
「どうしたのですか急に?」
今私達は同じベットに横になっている。
場所は勿論私の部屋。
アザゼルからの果たし状を開いた後、私達はカリギュラに今後の復興について話をして作戦本部を後にした。
指定されたのは明日。場所もそこそこ距離があるため早く休もうということになった。
なったのだが、お互い心細いのか一緒のベットにいるというわけだ。
「アザゼルとはあまり話したことがないし、実際に面と向かって話すのって明日が二回目で、どんな存在なのかいまいち掴めないのよね」
アザゼルは私やレシファーがどういった性格で、どういう戦い方をするかは分かっているはずなのに、私は一切何も知らない。
その信念や考え方、そして戦い方も……
「そうですね。アザゼルはこの異界において原初の悪魔と言われています」
「原初の悪魔?」
「はい。本当のところは分かりませんが、この異界の誕生と共にあったと言われています。なので相当な年月を生きています。私なんかの数倍以上」
原初の悪魔。冠位の悪魔にして異界の発生と共に存在している悪魔。
どう考えたって弱いわけがない。
「アイツの戦い方とかは知ってる?」
私は隣で横になっているレシファーの方を向いて、一番気になる部分を聞いてみる。これを知ってるか知らないかで、明日の戦い方が変わってくる。
「いえ、それがアザゼル自身が戦っているところを見たことがないのです。この異界では誰も逆らいませんし……」
そうだった。失念していた。この異界では誰もアザゼルに挑むわけがない。だったら当然戦いもしない。つまり情報はない。
「そうよね……でも私達に果たし状なんて送ってくるぐらいだから、勝算はあるのでしょうね。あちらには」
そう口にした私をレシファーが優しく抱きしめる。
「ちょ、ちょっと!?」
「アレシア様。大丈夫です。不安になる気持ちは分かりますけど、安心してください。私がついていますから」
そう言って私を安心させようと抱きしめる彼女の体は震えていた。
そんなに震えられると説得力皆無なんだけどな……でも、その気持ちだけでも嬉しい。今の私には何よりもレシファーの存在が大きいのだ。
「はあ……強がりと分かっていても安心してしまう自分が嫌になるわね」
私はそう呟き、彼女の背中に手を回す。
不安なのは彼女も一緒。
私だけが彼女に甘えるわけにはいかない。
「明日は必ず勝って終わるわよ!」
「当然です!」
私達はお互いを鼓舞し、そのまま相手の腕の中で眠りに落ちた。
「そろそろ起きるわよ」
珍しく私がレシファーよりも早く目を覚まし、隣で丸くなっているレシファーを起こす。
おそらくこの城で朝を迎えるのはこれが最後になるだろう。
「アレシア様。今朝は早いですね」
「まあね。最後の朝だし」
「意味深ですね」
レシファーは顔をしかめる。
「勘違いしないでよ。良い意味よ。これからグレンドル平原でアザゼルを消し去り、あちらの世界に戻るのよ」
私はそう宣言し、ベットから降りて体を伸ばす。
今日が最後の戦いになることを信じるしかない。
敵の能力は分からない。情報はあちらが一方的に握っている。
こちらはその分二人だが、アザゼルが一人でいるとも限らない。
「アレシア様……」
レシファーも眠そうにしながら、ベットから這い出て私の隣に立つ。
「勝つわよ!」
「はい!」
隣に並んだレシファーにそう発破をかけ、私はレシファーと共に部屋を後にする。
ここからが正念場だ。
「ポックリ!」
私達はポックリの住処となっている地下室に向かった。
ポックリには、当然戦いから離れていてもらわなければいけないのだが、私達がアザゼルと戦っている間にやって欲しい事がある。
「なんだよ。朝っぱらから」
ポックリは今の私の声で目覚めたのか、ドアを開けると彼はまだベットの上だった。
「もうそろそろ行こうかと思って」
「い、いよいよか……」
ポックリはこれから戦う私達以上に緊張した様子だった。
これが普通の反応なのだろうな……
普通の悪魔にとってしてみれば、アザゼルはほとんど神に近い存在なのだろう。それはポックリだって例外ではない。
しかし私とレシファーは違う。
レシファーはアザゼルと同じ冠位の悪魔。彼女にとってアザゼルは畏怖の対象ではない。
私にいたっては悪魔ですらない。
私は魔女だ。”魔”を扱う女だ。
異界の住人ではない私にとってアザゼルは他所の化け物。そこに畏怖や尊敬の念は無く、代わりにあるのは膨れ上がった復讐心だけ。
よく復讐なんて何も生まないなんて言うけれど、そんなのは綺麗ごとだ。
復讐は、何かを成し遂げる時の大きな原動力になる。
それは私だけではなく、アザゼルにとっても同じだろう。
彼は彼で、私達魔女に対しての復讐心を原動力に、異界化などという壮大な計画を始めたのだから。
「それで、ポックリにはやってもらいたい事があるのよ」
「何を?」
ポックリは意外な顔をしてポカーンとしている。
そんなに意外? まあ良いか。
「私達と一緒にここを出発した後、途中で別れて、ある悪魔達をエムレオスに連れてきて欲しいの」
「ある悪魔達?」
ポックリは頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
この町の悪魔達は彼らのことを忘れてしまっているようね。
「この先の森を抜けて、湿地帯を越えた先に沼地があるわ。そこにいる貴方と同じくらいの強さの悪魔達がいるから、彼らを連れてきて欲しいのよ」
「まあ、それは構わないけどなんのために? 俺と同じ程度なら、戦力にはならないと思うけど?」
自分で言いながら悲しそうな顔をしないで欲しいのだけど……誰もポックリに戦闘能力なんか期待してないから。
「一応昨晩、アレシア様と話し合って決めました。これからアザゼルに挑む私達が勝とうが負けようが、異界からいなくなります。それは分かっていますね?」
「はい。まあ」
「そこでこの町の統治を誰に任せようかと考えた時に、沼地の悪魔達なら適役なのではという結論に至ったのです。昨日カリギュラと話をしていて確信しました。この町は、もう力による統治は望んでいない。だったら、人の痛みを誰よりも知っている彼らに任せようとなりました」
レシファーは一気に説明した。
最初彼女からこの提案を受けた時は驚いたが、それでも確かにピックルたちなら適任だと思えた。
その昔にイジメに遭い、この町から脱出を余儀なくされた彼ら沼地の悪魔達。その時に面倒を見たレシファーは、彼らを忘れてはいなかったのだ。
平和な町の統治にはその平和の象徴が相応しい。
そういった面で言えば、争いを拒んで町を出た彼らはうってつけだ。
「分かりました。そういう事でしたら……」
ポックリはどこか寂し気だ。
「大丈夫よポックリ。アザゼルを殺した暁には、当然貴方も連れてあっちの世界に帰るのだから」
「え!? 俺も行くの?」
「あたりまえです。前にも言いましたが、とっくに運命共同体です。それに貴方を連れて行かないなら、私は貴方にエムレオスを任せるつもりでしたよ?」
レシファーの言葉にポックリも私も驚く。
でも確かにポックリならなんだかんだ言って出来そうではある。
「俺にエムレオスを任せる……冗談じゃない! 俺も連れて行ってくれよ~アレシア!」
ポックリは自分に降りかかる責任の重さに恐怖し、私にしがみつく。
「だから連れて行くって言ってるでしょ!」
私はなんとかポックリを引き離し、ため息をもらす、
「いいからとっとと出かけるわよ。私達はグレンドル平原。貴方は沼地のピックルたちのところ」
「ああもう分かったよ!」
私達は先に城の入り口で待つことにして、部屋を後にする。
そしてポックリを待つこと十数分。
ポックリは寝起きの時とまったく同じ姿でやって来た。
「どうしたのですか急に?」
今私達は同じベットに横になっている。
場所は勿論私の部屋。
アザゼルからの果たし状を開いた後、私達はカリギュラに今後の復興について話をして作戦本部を後にした。
指定されたのは明日。場所もそこそこ距離があるため早く休もうということになった。
なったのだが、お互い心細いのか一緒のベットにいるというわけだ。
「アザゼルとはあまり話したことがないし、実際に面と向かって話すのって明日が二回目で、どんな存在なのかいまいち掴めないのよね」
アザゼルは私やレシファーがどういった性格で、どういう戦い方をするかは分かっているはずなのに、私は一切何も知らない。
その信念や考え方、そして戦い方も……
「そうですね。アザゼルはこの異界において原初の悪魔と言われています」
「原初の悪魔?」
「はい。本当のところは分かりませんが、この異界の誕生と共にあったと言われています。なので相当な年月を生きています。私なんかの数倍以上」
原初の悪魔。冠位の悪魔にして異界の発生と共に存在している悪魔。
どう考えたって弱いわけがない。
「アイツの戦い方とかは知ってる?」
私は隣で横になっているレシファーの方を向いて、一番気になる部分を聞いてみる。これを知ってるか知らないかで、明日の戦い方が変わってくる。
「いえ、それがアザゼル自身が戦っているところを見たことがないのです。この異界では誰も逆らいませんし……」
そうだった。失念していた。この異界では誰もアザゼルに挑むわけがない。だったら当然戦いもしない。つまり情報はない。
「そうよね……でも私達に果たし状なんて送ってくるぐらいだから、勝算はあるのでしょうね。あちらには」
そう口にした私をレシファーが優しく抱きしめる。
「ちょ、ちょっと!?」
「アレシア様。大丈夫です。不安になる気持ちは分かりますけど、安心してください。私がついていますから」
そう言って私を安心させようと抱きしめる彼女の体は震えていた。
そんなに震えられると説得力皆無なんだけどな……でも、その気持ちだけでも嬉しい。今の私には何よりもレシファーの存在が大きいのだ。
「はあ……強がりと分かっていても安心してしまう自分が嫌になるわね」
私はそう呟き、彼女の背中に手を回す。
不安なのは彼女も一緒。
私だけが彼女に甘えるわけにはいかない。
「明日は必ず勝って終わるわよ!」
「当然です!」
私達はお互いを鼓舞し、そのまま相手の腕の中で眠りに落ちた。
「そろそろ起きるわよ」
珍しく私がレシファーよりも早く目を覚まし、隣で丸くなっているレシファーを起こす。
おそらくこの城で朝を迎えるのはこれが最後になるだろう。
「アレシア様。今朝は早いですね」
「まあね。最後の朝だし」
「意味深ですね」
レシファーは顔をしかめる。
「勘違いしないでよ。良い意味よ。これからグレンドル平原でアザゼルを消し去り、あちらの世界に戻るのよ」
私はそう宣言し、ベットから降りて体を伸ばす。
今日が最後の戦いになることを信じるしかない。
敵の能力は分からない。情報はあちらが一方的に握っている。
こちらはその分二人だが、アザゼルが一人でいるとも限らない。
「アレシア様……」
レシファーも眠そうにしながら、ベットから這い出て私の隣に立つ。
「勝つわよ!」
「はい!」
隣に並んだレシファーにそう発破をかけ、私はレシファーと共に部屋を後にする。
ここからが正念場だ。
「ポックリ!」
私達はポックリの住処となっている地下室に向かった。
ポックリには、当然戦いから離れていてもらわなければいけないのだが、私達がアザゼルと戦っている間にやって欲しい事がある。
「なんだよ。朝っぱらから」
ポックリは今の私の声で目覚めたのか、ドアを開けると彼はまだベットの上だった。
「もうそろそろ行こうかと思って」
「い、いよいよか……」
ポックリはこれから戦う私達以上に緊張した様子だった。
これが普通の反応なのだろうな……
普通の悪魔にとってしてみれば、アザゼルはほとんど神に近い存在なのだろう。それはポックリだって例外ではない。
しかし私とレシファーは違う。
レシファーはアザゼルと同じ冠位の悪魔。彼女にとってアザゼルは畏怖の対象ではない。
私にいたっては悪魔ですらない。
私は魔女だ。”魔”を扱う女だ。
異界の住人ではない私にとってアザゼルは他所の化け物。そこに畏怖や尊敬の念は無く、代わりにあるのは膨れ上がった復讐心だけ。
よく復讐なんて何も生まないなんて言うけれど、そんなのは綺麗ごとだ。
復讐は、何かを成し遂げる時の大きな原動力になる。
それは私だけではなく、アザゼルにとっても同じだろう。
彼は彼で、私達魔女に対しての復讐心を原動力に、異界化などという壮大な計画を始めたのだから。
「それで、ポックリにはやってもらいたい事があるのよ」
「何を?」
ポックリは意外な顔をしてポカーンとしている。
そんなに意外? まあ良いか。
「私達と一緒にここを出発した後、途中で別れて、ある悪魔達をエムレオスに連れてきて欲しいの」
「ある悪魔達?」
ポックリは頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。
この町の悪魔達は彼らのことを忘れてしまっているようね。
「この先の森を抜けて、湿地帯を越えた先に沼地があるわ。そこにいる貴方と同じくらいの強さの悪魔達がいるから、彼らを連れてきて欲しいのよ」
「まあ、それは構わないけどなんのために? 俺と同じ程度なら、戦力にはならないと思うけど?」
自分で言いながら悲しそうな顔をしないで欲しいのだけど……誰もポックリに戦闘能力なんか期待してないから。
「一応昨晩、アレシア様と話し合って決めました。これからアザゼルに挑む私達が勝とうが負けようが、異界からいなくなります。それは分かっていますね?」
「はい。まあ」
「そこでこの町の統治を誰に任せようかと考えた時に、沼地の悪魔達なら適役なのではという結論に至ったのです。昨日カリギュラと話をしていて確信しました。この町は、もう力による統治は望んでいない。だったら、人の痛みを誰よりも知っている彼らに任せようとなりました」
レシファーは一気に説明した。
最初彼女からこの提案を受けた時は驚いたが、それでも確かにピックルたちなら適任だと思えた。
その昔にイジメに遭い、この町から脱出を余儀なくされた彼ら沼地の悪魔達。その時に面倒を見たレシファーは、彼らを忘れてはいなかったのだ。
平和な町の統治にはその平和の象徴が相応しい。
そういった面で言えば、争いを拒んで町を出た彼らはうってつけだ。
「分かりました。そういう事でしたら……」
ポックリはどこか寂し気だ。
「大丈夫よポックリ。アザゼルを殺した暁には、当然貴方も連れてあっちの世界に帰るのだから」
「え!? 俺も行くの?」
「あたりまえです。前にも言いましたが、とっくに運命共同体です。それに貴方を連れて行かないなら、私は貴方にエムレオスを任せるつもりでしたよ?」
レシファーの言葉にポックリも私も驚く。
でも確かにポックリならなんだかんだ言って出来そうではある。
「俺にエムレオスを任せる……冗談じゃない! 俺も連れて行ってくれよ~アレシア!」
ポックリは自分に降りかかる責任の重さに恐怖し、私にしがみつく。
「だから連れて行くって言ってるでしょ!」
私はなんとかポックリを引き離し、ため息をもらす、
「いいからとっとと出かけるわよ。私達はグレンドル平原。貴方は沼地のピックルたちのところ」
「ああもう分かったよ!」
私達は先に城の入り口で待つことにして、部屋を後にする。
そしてポックリを待つこと十数分。
ポックリは寝起きの時とまったく同じ姿でやって来た。