残酷な描写あり
魔女と彼女
僕は学校へ行くために、今日も地下鉄のホームのこの待機列に並ぶ。
この駅に通い始め、駅のホームで立つ僕の前に来た電車がもう、何本目かと数えるのも面倒くさくなった日。
いつもの様に電車を待ちながら周りを見渡す。
他の待機列を眺めていると、パッと吸い込まれる様に少し離れた待機列に並んでいた女の子に目が留まった。
あっ.……。
僕はそのとき何故だか、彼女を魔女だと思った。
過去に会ったことも喋ったこともない、今日たまたま待機列をなんとなく見渡してた中に居ただけの彼女なのに何故だか僕は確信を持ってそう思った。
「魔女が居る..……」と。
僕の呟きに周りは一瞬反応をしたような気がした。
だけど彼女の元までは声が届かなかったようで僕の方を向くことはなく、ホッとした。
彼女の視線の先を追うと、彼女はまっすぐ壁を見ていた。
イヤホンらしきものを耳に掛けている様子には見えないし、スマホも特に触ってもない。
小学生が買ってもらったばかりのランドセルの紐を両手で持つように、彼女は背負っているうさぎのリュックの紐のそれぞれで持って、いつも僕が待機列でそうしている様に壁をまっすぐ見ていた。
僕はハッとなって視線を彼女から外した。
このまま彼女を見ていると流石に気付かれそうだったので僕も彼女と同じ様に一度、言い訳をするように視線を壁に突き刺した。
その状態でも横目でギリギリ彼女を視界に入れて観察を続けた。
彼女は前にネットで見かけたいわゆる地雷系ファッション?という服装と格好をしていた。
ブラウス部分がピンクと黒のスカートが組み合わさった様なワンピースとちょっとしたフリルの付いたソックスに底が少し厚いシューズ。
ツートンカラーのロングヘアでピンクと黒の髪には小さなリボンが着いている。
その格好にベースが黒の色々な模様が入り、ところどころ白い大きなうさぎのリュックを背負っていた。
そして黒いマスクをしていた。
その黒いマスクのせいで口元は見えないが、その黒いマスクがその部分だけ塗りつぶしているかの様に見える程に彼女の肌は白く透き通って見えた。
そんな格好をしている彼女は当然に異彩を放っていて、その空間だけ彩りが鮮やかな空間に見えた。
彼女の周りにももちろん沢山の人は居るが誰も彼女を気にする人は居らず、モノクロに見える人たちは一様に同じように待機列に並んでいるのだった。
え……?。
この光景は僕の目にだけ映っているのだろうか、僕は目をパチクリとさせた。
僕が彼女を見つけた瞬間目を奪われた。
その瞬間彼女の居る、そこだけ色彩豊かに見えるのだ。
彼女とその周りに居る人たちとを見比べる。
誰かが言っていた、恋をすると見ていたものがカラフルに色づき今まで見ていた世界とは違う世界が見える様になるのだと。
世界が動き出した様に見えるのだと――――
僕は思う。
本当にそんなことがあるのだろうか?
こんなにハッキリとどう見ても周りと違う、そういうふうに見えるものなのだろうか。
なんというかこういうのって普段色褪せて見えていた自分の目で観測するすべてが色づいて見えるとかそういう話なのではなかろうか。
どうみても彼女を中心としたそこだけ妙に鮮やかで、ちょっと視線を動かすとそれ以外はモノトーンに見える。
そこに、若干のセピア色も混ざっている気もする。
そんな風にしか見えないんだけど。
つまりこれは「恋」なのか?ひとめぼれというやつなのだろうか?
うーむ、と頭の中で唸りながら思う。
どうみてもあそこだけ世界観違うんだよなぁ。
強いて言うなら水彩画で彼女以外を単一で塗り、彼女だけは綺麗に色を重ねて鮮やかに塗ることで周囲との差を作っているような、どこか作為的なものを感じる。
要するに主役とモブもしくは引き立て役みたいな感じに見えるんだよなぁ。
なんだこれ、自分の目がおかしくなったのか。
目を少し瞑って開いてみても、目を少し擦ってみても、目を細める様に見てみてもやっぱり見え方は変わらない。
周りに居る人たち、僕の周りも彼女の周りも含めて彼女を気にする人はいない。
まるで僕だけが魔法に罹ったかの様だ。
そんな彼女の周囲だけ色鮮やかさ花々が咲いてそうな少女漫画ばりの一コマを見ている様な気分でいると不意に電車がもうすぐホームに到着するというアナウンスが流れた。
僕は思わず声の降ってくる天井へ向けて少し見上げたが、天井まで顔を上げるのを自制した。
慌てて視線から外れた彼女を探した、当然だけどさっきまで立っていた場所に変わらず居る。
だけど、真っ直ぐ一直線に壁に向かっていた彼女の視線がちょっと上がっていた。
僕と同じ様にアナウンスに反応して顔を上げたのかもしれない。
なんて思っていると、警笛を鳴らしながら電車が入ってきた。
入っくる電車に視線を取られる。
今度は目の前に来るだろうドアを凝視しながら速度を落としながらゆっくりと僕の前に停まるまで同じ速度で追いかけていた。
ゆっくりと止まったドアを見つめていると音が鳴り開く、乗る前にチラッと彼女を見たが彼女は彼女の目の前のドアを向いていた。
だけど彼女は僕を見ていた気がした。
ただの自意識過剰の勘違い野郎かもしれないなぁ笑。
なんて考えながら電車に乗った。
電車に乗り込むと幸いだと言うべきなのだろかわからないが彼女と同じ車両だった。
僕と彼女の間にはドアひとつ分の距離があり、お互いの距離よりも隣の車両との方が近い。
人が動いたり乗ったりするたび彼女は人影に隠れてしまうがそれでも彼女を見失わない程度しか人は乗り込んで来なかった。
今僕が居るところから彼女を見ていてもきっと彼女は気づかないだろう。
それほどに僕らの間には人と、距離がある。
視線も声も吐息すらもこの大衆に混じり合って、純粋な僕のものだけを掬い取って感じることは不可能だ。
そう思いながらも万が一を考え盗み見る様に彼女を見ている。
彼女はどこで降りるのだろうか。
電車で揺られている間、僕の頭の中にはそれだけがぐるぐるしていた。
駅に停まる度に彼女はここで降りるのではないかと、彼女の近くのドアに視線を向けてまだ彼女が降りないことをどこか安堵していた。
そうしていくつかの駅を通り過ぎると吊り革に掴まっていた彼女がやっと動いた。
ドアに近づいていく。
電車はまだ減速せずに走っているがもうすぐ駅に到着するというアナウンスが流れる。
それからすぐ電車は減速を始め、アナウンスされた駅が見えてきた。
電車が到着するとこれから乗ろうとする人波に逆らって空気の薄い車内からゆっくりと、空気と共に逃げる様に彼女は出ていってしまう。
ドアから足を外に踏み出して一歩目がホームを踏もうとする間際、彼女が僕を一瞥した気がした。
いや、目が合った気がした。
何故そう思ったのか、それはマスク越しで表情はわからないが「目」が笑っているように見えたからだ。
もしかしたら、見てたことに気づいてたのかもしれない。
女の子は視線に男よりも敏感にわかるよと言われたことを思い出した。
顔が赤くなるのを感じて俯いた、このときばかりはいつも苦しいばかりのマスクがあったことに感謝した。
周りの誰もが僕の恥ずかしさには気づかず通常通りの車内だ。
さっきまでとは何も変わらない、ただ僕だけがいたたまれない気持ちになっていた。
あと少しで着くはずの駅はいつもの体感時間に比べて3倍くらい遠くに感じた。
僕はその3倍くらいに伸びた体感時間のなかでさっき見た光景を頭の中で反芻していた。
彼女が電車から降りるとき、僕に微笑みかけるように降りていく姿を追いかけながらまだ残っていた左足の足元の小さく自然が咲き誇るのを見逃さなかった。
あれは、いったい何だったんだ……。
僕は自分の目で見た信じられない出来事に思考を奪われながら電車から駅へと降り立った。
たまたま向かいの電車から降りてきた友人とばったり出会い、僕はさっきの光景を忘れるふりをしてその友人と喋りながら学校へと向かった。
流石に「さっき魔女にあってさ」なんて言えば頭のおかしいヤツだと学校で吹聴されかねない。
だから僕は昨日見たテレビのネタを口にして、それに相槌を打ってくれる友人といつもの様に何もなかった日常を始めた。
この駅に通い始め、駅のホームで立つ僕の前に来た電車がもう、何本目かと数えるのも面倒くさくなった日。
いつもの様に電車を待ちながら周りを見渡す。
他の待機列を眺めていると、パッと吸い込まれる様に少し離れた待機列に並んでいた女の子に目が留まった。
あっ.……。
僕はそのとき何故だか、彼女を魔女だと思った。
過去に会ったことも喋ったこともない、今日たまたま待機列をなんとなく見渡してた中に居ただけの彼女なのに何故だか僕は確信を持ってそう思った。
「魔女が居る..……」と。
僕の呟きに周りは一瞬反応をしたような気がした。
だけど彼女の元までは声が届かなかったようで僕の方を向くことはなく、ホッとした。
彼女の視線の先を追うと、彼女はまっすぐ壁を見ていた。
イヤホンらしきものを耳に掛けている様子には見えないし、スマホも特に触ってもない。
小学生が買ってもらったばかりのランドセルの紐を両手で持つように、彼女は背負っているうさぎのリュックの紐のそれぞれで持って、いつも僕が待機列でそうしている様に壁をまっすぐ見ていた。
僕はハッとなって視線を彼女から外した。
このまま彼女を見ていると流石に気付かれそうだったので僕も彼女と同じ様に一度、言い訳をするように視線を壁に突き刺した。
その状態でも横目でギリギリ彼女を視界に入れて観察を続けた。
彼女は前にネットで見かけたいわゆる地雷系ファッション?という服装と格好をしていた。
ブラウス部分がピンクと黒のスカートが組み合わさった様なワンピースとちょっとしたフリルの付いたソックスに底が少し厚いシューズ。
ツートンカラーのロングヘアでピンクと黒の髪には小さなリボンが着いている。
その格好にベースが黒の色々な模様が入り、ところどころ白い大きなうさぎのリュックを背負っていた。
そして黒いマスクをしていた。
その黒いマスクのせいで口元は見えないが、その黒いマスクがその部分だけ塗りつぶしているかの様に見える程に彼女の肌は白く透き通って見えた。
そんな格好をしている彼女は当然に異彩を放っていて、その空間だけ彩りが鮮やかな空間に見えた。
彼女の周りにももちろん沢山の人は居るが誰も彼女を気にする人は居らず、モノクロに見える人たちは一様に同じように待機列に並んでいるのだった。
え……?。
この光景は僕の目にだけ映っているのだろうか、僕は目をパチクリとさせた。
僕が彼女を見つけた瞬間目を奪われた。
その瞬間彼女の居る、そこだけ色彩豊かに見えるのだ。
彼女とその周りに居る人たちとを見比べる。
誰かが言っていた、恋をすると見ていたものがカラフルに色づき今まで見ていた世界とは違う世界が見える様になるのだと。
世界が動き出した様に見えるのだと――――
僕は思う。
本当にそんなことがあるのだろうか?
こんなにハッキリとどう見ても周りと違う、そういうふうに見えるものなのだろうか。
なんというかこういうのって普段色褪せて見えていた自分の目で観測するすべてが色づいて見えるとかそういう話なのではなかろうか。
どうみても彼女を中心としたそこだけ妙に鮮やかで、ちょっと視線を動かすとそれ以外はモノトーンに見える。
そこに、若干のセピア色も混ざっている気もする。
そんな風にしか見えないんだけど。
つまりこれは「恋」なのか?ひとめぼれというやつなのだろうか?
うーむ、と頭の中で唸りながら思う。
どうみてもあそこだけ世界観違うんだよなぁ。
強いて言うなら水彩画で彼女以外を単一で塗り、彼女だけは綺麗に色を重ねて鮮やかに塗ることで周囲との差を作っているような、どこか作為的なものを感じる。
要するに主役とモブもしくは引き立て役みたいな感じに見えるんだよなぁ。
なんだこれ、自分の目がおかしくなったのか。
目を少し瞑って開いてみても、目を少し擦ってみても、目を細める様に見てみてもやっぱり見え方は変わらない。
周りに居る人たち、僕の周りも彼女の周りも含めて彼女を気にする人はいない。
まるで僕だけが魔法に罹ったかの様だ。
そんな彼女の周囲だけ色鮮やかさ花々が咲いてそうな少女漫画ばりの一コマを見ている様な気分でいると不意に電車がもうすぐホームに到着するというアナウンスが流れた。
僕は思わず声の降ってくる天井へ向けて少し見上げたが、天井まで顔を上げるのを自制した。
慌てて視線から外れた彼女を探した、当然だけどさっきまで立っていた場所に変わらず居る。
だけど、真っ直ぐ一直線に壁に向かっていた彼女の視線がちょっと上がっていた。
僕と同じ様にアナウンスに反応して顔を上げたのかもしれない。
なんて思っていると、警笛を鳴らしながら電車が入ってきた。
入っくる電車に視線を取られる。
今度は目の前に来るだろうドアを凝視しながら速度を落としながらゆっくりと僕の前に停まるまで同じ速度で追いかけていた。
ゆっくりと止まったドアを見つめていると音が鳴り開く、乗る前にチラッと彼女を見たが彼女は彼女の目の前のドアを向いていた。
だけど彼女は僕を見ていた気がした。
ただの自意識過剰の勘違い野郎かもしれないなぁ笑。
なんて考えながら電車に乗った。
電車に乗り込むと幸いだと言うべきなのだろかわからないが彼女と同じ車両だった。
僕と彼女の間にはドアひとつ分の距離があり、お互いの距離よりも隣の車両との方が近い。
人が動いたり乗ったりするたび彼女は人影に隠れてしまうがそれでも彼女を見失わない程度しか人は乗り込んで来なかった。
今僕が居るところから彼女を見ていてもきっと彼女は気づかないだろう。
それほどに僕らの間には人と、距離がある。
視線も声も吐息すらもこの大衆に混じり合って、純粋な僕のものだけを掬い取って感じることは不可能だ。
そう思いながらも万が一を考え盗み見る様に彼女を見ている。
彼女はどこで降りるのだろうか。
電車で揺られている間、僕の頭の中にはそれだけがぐるぐるしていた。
駅に停まる度に彼女はここで降りるのではないかと、彼女の近くのドアに視線を向けてまだ彼女が降りないことをどこか安堵していた。
そうしていくつかの駅を通り過ぎると吊り革に掴まっていた彼女がやっと動いた。
ドアに近づいていく。
電車はまだ減速せずに走っているがもうすぐ駅に到着するというアナウンスが流れる。
それからすぐ電車は減速を始め、アナウンスされた駅が見えてきた。
電車が到着するとこれから乗ろうとする人波に逆らって空気の薄い車内からゆっくりと、空気と共に逃げる様に彼女は出ていってしまう。
ドアから足を外に踏み出して一歩目がホームを踏もうとする間際、彼女が僕を一瞥した気がした。
いや、目が合った気がした。
何故そう思ったのか、それはマスク越しで表情はわからないが「目」が笑っているように見えたからだ。
もしかしたら、見てたことに気づいてたのかもしれない。
女の子は視線に男よりも敏感にわかるよと言われたことを思い出した。
顔が赤くなるのを感じて俯いた、このときばかりはいつも苦しいばかりのマスクがあったことに感謝した。
周りの誰もが僕の恥ずかしさには気づかず通常通りの車内だ。
さっきまでとは何も変わらない、ただ僕だけがいたたまれない気持ちになっていた。
あと少しで着くはずの駅はいつもの体感時間に比べて3倍くらい遠くに感じた。
僕はその3倍くらいに伸びた体感時間のなかでさっき見た光景を頭の中で反芻していた。
彼女が電車から降りるとき、僕に微笑みかけるように降りていく姿を追いかけながらまだ残っていた左足の足元の小さく自然が咲き誇るのを見逃さなかった。
あれは、いったい何だったんだ……。
僕は自分の目で見た信じられない出来事に思考を奪われながら電車から駅へと降り立った。
たまたま向かいの電車から降りてきた友人とばったり出会い、僕はさっきの光景を忘れるふりをしてその友人と喋りながら学校へと向かった。
流石に「さっき魔女にあってさ」なんて言えば頭のおかしいヤツだと学校で吹聴されかねない。
だから僕は昨日見たテレビのネタを口にして、それに相槌を打ってくれる友人といつもの様に何もなかった日常を始めた。