残酷な描写あり
魔女のあしあと
あの日から僕の変わらない日常の中の、ただ駅のホームで立っているだけだった時間が変わった。
駅のホームで毎日彼女を探す日常に。
彼女を見つけてから1週間くらい、彼女は駅には現れなかった。
次に彼女を見つけたのはその1週間後の火曜日。
その日は学校の授業が昼からなので少し早い電車に乗ろうとホームで待っていた。
いつもの朝とは比べ物にならないほどに人の居ないホームに彼女は立っていた。
僕と彼女の距離は、前と同じ。
違うのは人混みに視線を紛れさせられないこと。
彼女は相変わらず線路の向こう側の壁を見ている。
姿も前と変わらない気がするけど、色とかちょっとしたところは違うかも......?
今日はゴスロリチックなベレー帽を被ってる。
彼女の為にある様な、とても様になっていた。
そういえば、前はこんな帽子被って無かったよなぁ。
魔女の帽子か・・・・・・。
あとは魔法のステッキでもあれば完璧だなとか考えていると思わず苦笑してしまった。
ただでさえ人の居ないホームで彼女からも視界を人に遮られることのない状態。
そんな状態で思わず笑ってしまったせいで、彼女はとうとう僕を一瞥した。
したけど...彼女は僕を一瞬だけ見るとまた正面の壁を向いた。
壁を向いた彼女の横顔を見ているとホームに電車がもうすぐ来るアナウンスが流れる。
僕も彼女と同じ様に壁を向いて電車を待った。
それからすぐに電車は僕らの前に来て、停まると大きく口を開いて待ってる人が飲み込まれるかの様に、その口の中へと入っていった。
今日は時間帯がいつもより少し遅いせいか人はほとんど乗っていない。
彼女はドア近くの席に座った。
僕が彼女が自然に視界に入る位置に座ると、電車は大きく開けた口をプシューッという音とともに閉めると走り始めた。
僕らを揺らし、運び始めた電車はたった二人しか居ない箱を運んでいく。
じーっと窓を見つめる彼女の顔を眺めながら電車は次の駅、そのまた次の駅へと向かっていく。
今日は人が全く僕らの乗る車両には乗って来なかった。
珍しいこともあるなぁと思いながら座っていると、次の駅に到着するアナウンスが車内に流れる。
彼女は立つとドアの前に立つ。
そして駅に着き、プシューッと音をさせるとその大きな口を開ける。
降りる瞬間、彼女は僕を見た......。
そんな感覚を覚えた。
彼女が降りる瞬間足元には小さな植物が咲き誇った様に見えた。
彼女は多分前と同じ駅で降りた。
僕からはその駅の名前はハッキリとは見えなかった。
僕は彼女が降りると僕しか居ない車内を見渡してからおもむろにスマホをポケットから取りだした。
メモ帳アプリを開くとこう書いた。
『魔女の活動時間は昼からみたいだ』
その日以降も朝のホームで彼女に出会うことはなかった。
すこし時間をずらすと必ずホームに彼女は来た。
あれから4度目、彼女を横目に見ている僕。
もう明らかなストーカーな気がするなと思いふと笑いが込み上げてきた。
ホームに電車が来るアナウンスがながれるとすこしして電車は僕らの前に停まった。
僕らは別々のドアから電車に今日も乗る。
お互いにチラッと見合える位置に座り。
彼女はジーッと前を見つめている。
その顔をなんともなしに眺めながら、彼女が降りる駅まで過ごす。
それが最近の僕の楽しみ。
今日は良いことがあったなと一日を始められる。
彼女以外が今の僕の目には入らなかった。
〈次は――、次は――〉
彼女はいつもの駅に着くアナウンスが流れるとさっとドアの前に立ち、電車が停まりドアが開くとそそくさと降りていった。
僕は今日も彼女を見送った。
今日はなんとなく、いつもよりも早く目が覚めた。
枕元に置いたスマホに手を伸ばす。
スマホの画面を見ると5:48を表示していた。
こんな時間に目が覚めたのはここに引っ越した日と、初めてあの魔女を見た次の日くらいだった。
眠気はないけれど今起きると授業中に必ず寝てしまう。
もう一度寝ようと手に持ったスマホを元の位置に戻して布団を被った。
一生懸命目を瞑って寝ようとしたが結局上手く眠れず、布団から顔を出した。
それから頭の後ろで手を組み、天井をぼんやり眺めた。
だんだんと暗闇に目が慣れて、天井に付いた照明の形がくっきりとしてくる。
部屋の照明をぼんやり眺めながら彼女のことを考えていた。
いつも自分と同じ駅から乗るけど家は近いのだろうか、いつも決まって降りる駅にはいったい何があるのだろうか。
気になるとどうしてもそのことが頭から離れなくなる。
「よし、今日いつも彼女が降りる駅で降りてみるか」
まだ夜が明けきらない部屋に、そう独り言が漂う。
それからなんともなしに天井を見上げていると、だんだんと部屋の暗闇と漂う独り言を掻き消す様に薄っすらとした明るさが闇を襲う。
スマホをまた手に取ると画面には6:27と表示されていた。
すこし時間は早いけど、準備して行くかと心の中で決め、これくらい早ければ彼女とも鉢合わせすることもないだろうと思った。
朝食を手早く済ませ、いつもの駅へ行くために部屋を出た。
今日は普段朝イチで学校へ行く時間よりも早いせいか少しだけ人は少なかった。
けど、それでもこの時間から会社や学校へ向かう人は居るみたいでこんな時間からでも乗る人居るんだなぁとなんともなしに思った。
それからふといつもと違う時間だから居るかもしれないと思い周りを見渡した。
しかし、彼女は居なかった。
これだけ人が少なくてパッと目に入らなかったのならそりゃ居るわけもないか。
ひとりで残念な気持ちになったり、納得して立ち直ったり忙しくしていると電車がホームに入ってきた。
僕の目の前に停まった大きく開いた口に吸い込まれる様に乗った。
〈次は――、次は――〉
と、車掌による車内アナウンスが流れた
僕はこの駅だと思いドアの前に立つと、駅に到着する瞬間に胸が踊るようだった。
電車から駅へ一歩踏み出し、ホームに片足を付いた瞬間ものすごく変な感じがした。
言葉では形容し難いそんな感覚。
だけどそれも刹那のことだったので気のせいかと思いそのままホームに降り立つ。
降り立った僕はホームを見渡すがそこは無人駅だった。
僕以外他に誰も降りてくる様子はなく、僕の背中でプシューッと音をさせるとそのまま電車は行ってしまった。
無人駅の改札を通って外へ出るとTHE・田舎みたいな風景が広がっていた。
畑と田んぼと平屋、それと山、山、山。
何処か懐かしい気持ちになりながらしばらく歩いてみることにした。
しばらく歩くと道路標識があった。
標識にはかろうじて読める程度に「病院」と書かれていた。
その標識が指す方向は山だった。
その山には上へと続くコンクリートで舗装とまでは言えないけど、ならしはした様な不格好な道が上まで続いていた。
こんなところに病院があったんだと思いはしたが、別に登ってみるまではしなかった。
もう少し周りを歩くとコンビニがあったので、そこで昼ごはんを買うと駅に戻ることにした。
道中で彼女はあの病院へ通っているのだろうかと考えていると駅に着いた。
ホームで電車を待ちながら、次に彼女と乗り合わせたら尾行してどこに行くのか探ろうなんて考えていた。
もはやどう言い訳したところでストーカーと化している。
次いつ彼女に会えるだろうかとぼんやり考えながら電車の居ない線路を眺めていたら、ホームへ電車が来るアナウンスが流れた。
とりあえずこれに乗って学校へ行こう。
遠くから少しずつ近づく電車の顔を見ながら、僕の目の前に停まるのを待った。
電車が停まり、丁度僕の目の前にドアが来る。
ドアが開くと突然衝撃に襲われ、息が出来なくなった。
「ここまで来た勇気に免じて、君にご褒美をあげよう」
僕の口を塞いだ真っ赤な唇がそう言った。
駅のホームで毎日彼女を探す日常に。
彼女を見つけてから1週間くらい、彼女は駅には現れなかった。
次に彼女を見つけたのはその1週間後の火曜日。
その日は学校の授業が昼からなので少し早い電車に乗ろうとホームで待っていた。
いつもの朝とは比べ物にならないほどに人の居ないホームに彼女は立っていた。
僕と彼女の距離は、前と同じ。
違うのは人混みに視線を紛れさせられないこと。
彼女は相変わらず線路の向こう側の壁を見ている。
姿も前と変わらない気がするけど、色とかちょっとしたところは違うかも......?
今日はゴスロリチックなベレー帽を被ってる。
彼女の為にある様な、とても様になっていた。
そういえば、前はこんな帽子被って無かったよなぁ。
魔女の帽子か・・・・・・。
あとは魔法のステッキでもあれば完璧だなとか考えていると思わず苦笑してしまった。
ただでさえ人の居ないホームで彼女からも視界を人に遮られることのない状態。
そんな状態で思わず笑ってしまったせいで、彼女はとうとう僕を一瞥した。
したけど...彼女は僕を一瞬だけ見るとまた正面の壁を向いた。
壁を向いた彼女の横顔を見ているとホームに電車がもうすぐ来るアナウンスが流れる。
僕も彼女と同じ様に壁を向いて電車を待った。
それからすぐに電車は僕らの前に来て、停まると大きく口を開いて待ってる人が飲み込まれるかの様に、その口の中へと入っていった。
今日は時間帯がいつもより少し遅いせいか人はほとんど乗っていない。
彼女はドア近くの席に座った。
僕が彼女が自然に視界に入る位置に座ると、電車は大きく開けた口をプシューッという音とともに閉めると走り始めた。
僕らを揺らし、運び始めた電車はたった二人しか居ない箱を運んでいく。
じーっと窓を見つめる彼女の顔を眺めながら電車は次の駅、そのまた次の駅へと向かっていく。
今日は人が全く僕らの乗る車両には乗って来なかった。
珍しいこともあるなぁと思いながら座っていると、次の駅に到着するアナウンスが車内に流れる。
彼女は立つとドアの前に立つ。
そして駅に着き、プシューッと音をさせるとその大きな口を開ける。
降りる瞬間、彼女は僕を見た......。
そんな感覚を覚えた。
彼女が降りる瞬間足元には小さな植物が咲き誇った様に見えた。
彼女は多分前と同じ駅で降りた。
僕からはその駅の名前はハッキリとは見えなかった。
僕は彼女が降りると僕しか居ない車内を見渡してからおもむろにスマホをポケットから取りだした。
メモ帳アプリを開くとこう書いた。
『魔女の活動時間は昼からみたいだ』
その日以降も朝のホームで彼女に出会うことはなかった。
すこし時間をずらすと必ずホームに彼女は来た。
あれから4度目、彼女を横目に見ている僕。
もう明らかなストーカーな気がするなと思いふと笑いが込み上げてきた。
ホームに電車が来るアナウンスがながれるとすこしして電車は僕らの前に停まった。
僕らは別々のドアから電車に今日も乗る。
お互いにチラッと見合える位置に座り。
彼女はジーッと前を見つめている。
その顔をなんともなしに眺めながら、彼女が降りる駅まで過ごす。
それが最近の僕の楽しみ。
今日は良いことがあったなと一日を始められる。
彼女以外が今の僕の目には入らなかった。
〈次は――、次は――〉
彼女はいつもの駅に着くアナウンスが流れるとさっとドアの前に立ち、電車が停まりドアが開くとそそくさと降りていった。
僕は今日も彼女を見送った。
今日はなんとなく、いつもよりも早く目が覚めた。
枕元に置いたスマホに手を伸ばす。
スマホの画面を見ると5:48を表示していた。
こんな時間に目が覚めたのはここに引っ越した日と、初めてあの魔女を見た次の日くらいだった。
眠気はないけれど今起きると授業中に必ず寝てしまう。
もう一度寝ようと手に持ったスマホを元の位置に戻して布団を被った。
一生懸命目を瞑って寝ようとしたが結局上手く眠れず、布団から顔を出した。
それから頭の後ろで手を組み、天井をぼんやり眺めた。
だんだんと暗闇に目が慣れて、天井に付いた照明の形がくっきりとしてくる。
部屋の照明をぼんやり眺めながら彼女のことを考えていた。
いつも自分と同じ駅から乗るけど家は近いのだろうか、いつも決まって降りる駅にはいったい何があるのだろうか。
気になるとどうしてもそのことが頭から離れなくなる。
「よし、今日いつも彼女が降りる駅で降りてみるか」
まだ夜が明けきらない部屋に、そう独り言が漂う。
それからなんともなしに天井を見上げていると、だんだんと部屋の暗闇と漂う独り言を掻き消す様に薄っすらとした明るさが闇を襲う。
スマホをまた手に取ると画面には6:27と表示されていた。
すこし時間は早いけど、準備して行くかと心の中で決め、これくらい早ければ彼女とも鉢合わせすることもないだろうと思った。
朝食を手早く済ませ、いつもの駅へ行くために部屋を出た。
今日は普段朝イチで学校へ行く時間よりも早いせいか少しだけ人は少なかった。
けど、それでもこの時間から会社や学校へ向かう人は居るみたいでこんな時間からでも乗る人居るんだなぁとなんともなしに思った。
それからふといつもと違う時間だから居るかもしれないと思い周りを見渡した。
しかし、彼女は居なかった。
これだけ人が少なくてパッと目に入らなかったのならそりゃ居るわけもないか。
ひとりで残念な気持ちになったり、納得して立ち直ったり忙しくしていると電車がホームに入ってきた。
僕の目の前に停まった大きく開いた口に吸い込まれる様に乗った。
〈次は――、次は――〉
と、車掌による車内アナウンスが流れた
僕はこの駅だと思いドアの前に立つと、駅に到着する瞬間に胸が踊るようだった。
電車から駅へ一歩踏み出し、ホームに片足を付いた瞬間ものすごく変な感じがした。
言葉では形容し難いそんな感覚。
だけどそれも刹那のことだったので気のせいかと思いそのままホームに降り立つ。
降り立った僕はホームを見渡すがそこは無人駅だった。
僕以外他に誰も降りてくる様子はなく、僕の背中でプシューッと音をさせるとそのまま電車は行ってしまった。
無人駅の改札を通って外へ出るとTHE・田舎みたいな風景が広がっていた。
畑と田んぼと平屋、それと山、山、山。
何処か懐かしい気持ちになりながらしばらく歩いてみることにした。
しばらく歩くと道路標識があった。
標識にはかろうじて読める程度に「病院」と書かれていた。
その標識が指す方向は山だった。
その山には上へと続くコンクリートで舗装とまでは言えないけど、ならしはした様な不格好な道が上まで続いていた。
こんなところに病院があったんだと思いはしたが、別に登ってみるまではしなかった。
もう少し周りを歩くとコンビニがあったので、そこで昼ごはんを買うと駅に戻ることにした。
道中で彼女はあの病院へ通っているのだろうかと考えていると駅に着いた。
ホームで電車を待ちながら、次に彼女と乗り合わせたら尾行してどこに行くのか探ろうなんて考えていた。
もはやどう言い訳したところでストーカーと化している。
次いつ彼女に会えるだろうかとぼんやり考えながら電車の居ない線路を眺めていたら、ホームへ電車が来るアナウンスが流れた。
とりあえずこれに乗って学校へ行こう。
遠くから少しずつ近づく電車の顔を見ながら、僕の目の前に停まるのを待った。
電車が停まり、丁度僕の目の前にドアが来る。
ドアが開くと突然衝撃に襲われ、息が出来なくなった。
「ここまで来た勇気に免じて、君にご褒美をあげよう」
僕の口を塞いだ真っ赤な唇がそう言った。