残酷な描写あり
魔女と水族館デート
デート当日――
僕は彼女と一度学校で会う約束をしている。
いつものように電車に乗って、学校へ向かう。
時刻はもうすぐ昼休みになる。
今日は普通に学校のある日。
だからこそ二人でデートしていても、他の生徒に見られることもない。
いつもの場所で、いつものように。
それが僕たちなのだ。
学校に着き、そのままいつもの場所へ向かった。
ちょっとしたいたずら心で、彼女に見つからないようにちょっとだけ顔を出して彼女を盗み見た。
いつものように彼女は居るが、いつものようにただ座って待っているのではなく、忙しそうに座ったり立ったり、少し歩いたり、また座ったりしていた。
なんだかその姿がおかしくて笑ってしまい、その笑いで彼女に見つかってしまった。
「あっ」と僕と目が合うなり彼女は声が出てしまったみたいで、少し恥ずかしそうに顔を赤らめた後いつも通り座りなおして。
「遅かったわね」とすました顔で言い放つ。
「待たせたな」
僕は彼女に乗ってあげることにした。
「行きましょうか」
彼女はさっきの自らの醜態をなかったことにして立ち上がった。
「今日もサボりかー、あははは」
「なんだか青春みたいで良いじゃない」
そんな会話をしながらチャイムの鳴る学校を後にした。
水族館までは駅からバスが出ていた。
二人でそのバスに乗る。
彼女を窓際の席に座らせて、僕はその隣に座った。
少し狭いバスの座席から少しだけはみ出した太ももが僕の足にちょっとだけくっつく。
この運転手と僕たちしかいない空間が水族館へとただ向かっていく。
特に道中彼女とは会話がない、彼女は窓をただ眺めていて、僕はその横顔に見蕩れる。
こんな距離で彼女の横顔を見たことがなかったから、新鮮な思いで眺めた。
彼女は僕を見ることなく、着くまで窓の外を見る。
彼女はその間ずっとハミングをしていた。
そのどこか心に残るメロディに心地よさを抱いた。
水族館に着くと僕が二人分のチケット買って彼女に手渡す。
それを少し嬉しそうに受け取り、二人でゲートまで歩き入口にいるおねぇさんに見せて入る。
ゲートの少し奥には『ようこそ水族館へ』と書かれた大きなアーチがある。
僕らはそのゲートをくぐると、ちゃんと来たんだなという感慨を得た。
入るとすぐ暗い室内にライトアップされた水槽が順に並んでいる。
あの有名なチンアナゴもその中に居た。
ひとつひとつにはちょっとだけ足を止めて、彼女が魚ごとの感想を述べて僕が聞く。
道中の中で僕の心に残ったのは縦に筒状になった水槽を泳ぐ、クラゲたち。
いろいろとりどりのライトに照らされる、綺麗なクラゲたちに見蕩れた。
僕が思わず立ち止まり、そこへ足が釘付けになる。
何故かこのクラゲたちに吸い込まれるように視線を奪られる。
彼女からの「綺麗だね」という言葉が投げかけられて、我に返った。
なんだか意識がどこか違うところへ行っていた気がする。
僕は気を取り直すと彼女と次のフロアへと進んだ。
次のフロアは前面に大きな水槽のある、いわゆるザ・水族館みたいな空間。
サメや大きな魚たち、イワシの群れが泳いでいた。
「イワシの群れなんて珍しいね」
彼女が目を輝かせながら僕に語る。
「イワシの群れって外敵がいないとこうやって、まとまらないんだって。でも、ちょっとずつ減っていって結構すぐにいなくなるんだって。だからこんなにきれいな群れっを見られるのってラッキーなんだよ」
彼女のイワシ語りを聞きながら、僕は昔学校の教科書で見た物語を思い出していた。
タイトルは思い出せないけど、外敵に群れで立ち向かう話があったなぁと思いつつ彼女の話を聞きながらイワシの群れの動きを目で追う。
イワシの大群を目で追っていると彼女は「こんなにたくさんのイワシが居るのに、一週間くらいでほとんど居なくなるんだよ。すごいよね、こんなに居てもちょっとずつ削られて居なくなるんだから」と僕に語る。
一通りイワシの群れに興奮し終わったのか彼女に次に行こうと促される。
すると館内案内が流れる。
もうすぐイルカショーが始まるみたいだ。
「せっかくだからイルカショーに行こうよ」
僕が彼女を促すと「いいね、どうせなら濡れるくらい近い席に座りましょ」と嬉しそうに笑う。
僕らは道順から少し外れて、イルカショーの開催場所へ向かった。
イルカショーの会場にはまばらに人が座っている。
最前列は案の定スカスカで誰も座っていない。
「あの特等席だぁ~れも座ってない、私たちで席巻よ!!」
「二人しかいないんだけどね!!」
僕はお思わず突っ込む。
彼女は嬉しそうに、最前列に向けて駆ける。
僕はそんなに慌てなくても誰も行かないって、と彼女の後姿に声を掛けるがそれを振り切って行ってしまった。
彼女に追いつくと二人で最前列のど真ん中のベンチに座る。
楽しみね~、なんてのんきに笑う彼女と帰りどうするんだ……と呆れながら座る。
少し待つとイルカの調教師が出てくる。
まずイルカたちと触れ合い餌をあげる。
少し戯れた後僕らの前に出てきた女性のうちの一人が僕らの前に立つ。
観客に向かってイルカへの注意事項をまず話すと、次に僕らへ濡れるからと薄手のレインコートを持ってきて手渡してくれる。
受け取ったレインコートを着ると、イルカのおねぇさんはイルカたちへ指示を出しイルカのパフォーマンスが始まる。
イルカが飛んだり、跳ねたり、おねぇさんと共にパフォーマンスをする。
あえて水槽ギリギリでパフォーマンスし、水しぶきを立てる。
僕らの頭上に雨だったり、バケツで掛けられるようだったりと水が降り注ぐ。
そのたびに僕ら二人は声を上げた。
イルカのパフォーマンスが終わると、おねぇさんたちは会場から居なくなり観客も館内へと戻っていく。
僕らも館内へ戻ろうとしたところ……。
「靴の中がぐしょぐしょなんだけど……」
「それは僕もだよ……」
レインコートのおかげで服やズボンは濡れずに済んだけど、隠れなかった靴だけは上から思い切り水を浴びた。
二人でぐじゅぐじゅと靴の中で音をさせながら、残りの水槽も見て歩いた。
正直途中から二人とも水槽の中身の魚よりも、靴の中の気持ち悪さに辟易とした。
僕らは水族館の隣にある砂浜で靴と足を乾かすことにした。
二人して両手で一足ずつ靴を持ち、砂浜をギュッギュッと音を鳴らしながら歩く。
「今日の水族館楽しかったねー」
彼女を僕に言うというよりも海の向こう側にいる誰かに届くように、波にも負けない声だった。
「いわしの群れしか結局覚えてないけどなー」
僕もそれに応戦するように返す。
僕らは叫び終わった後、お互いに顔を見合わせ笑いあった。
「あははははは、またこよーよ。たまに二人で学校をサボってさ」
彼女は笑っていう。
「しょうがないなぁー」
なんて僕も返すが内心では先にセリフ取られたなーなんて思っていた。
僕らは歩く、時折バシャバシャと波を蹴りながら。
しばらくなんてことないことを言い合いながら、波を蹴り飛ばして相手にぶつけるなんて繰り返す。
当然靴が乾ききることはなく、半乾きの靴をはだしで履くのだった。
一歩一歩、歩くごとに少しの不快感を感じながらも、彼女といる時間はそれを無いものにしてくれた。
空がオレンジ色になってきて、僕らは来た時と同じようにバスに乗って来た道を戻ることにした。
窓から差し込むオレンジの光に照らされた、彼女の顔はなんだか愁いを帯びている様に感じた。
最寄りのバス停に着くと僕らはそこで解散した。
「「また、学校の昼休みにあの場所で」」そうお互いに言い合って別れた。
別れて少し歩いて振り返ると、彼女も同じように僕を振り返っていた。
僕はなんだか今までの時間が唐突に終わるようでもったいない気持ちになった。
だけど、僕らは前を向いて歩き出した。
また会えるのだからと自分たちの胸に言い聞かせる。
僕は彼女と一度学校で会う約束をしている。
いつものように電車に乗って、学校へ向かう。
時刻はもうすぐ昼休みになる。
今日は普通に学校のある日。
だからこそ二人でデートしていても、他の生徒に見られることもない。
いつもの場所で、いつものように。
それが僕たちなのだ。
学校に着き、そのままいつもの場所へ向かった。
ちょっとしたいたずら心で、彼女に見つからないようにちょっとだけ顔を出して彼女を盗み見た。
いつものように彼女は居るが、いつものようにただ座って待っているのではなく、忙しそうに座ったり立ったり、少し歩いたり、また座ったりしていた。
なんだかその姿がおかしくて笑ってしまい、その笑いで彼女に見つかってしまった。
「あっ」と僕と目が合うなり彼女は声が出てしまったみたいで、少し恥ずかしそうに顔を赤らめた後いつも通り座りなおして。
「遅かったわね」とすました顔で言い放つ。
「待たせたな」
僕は彼女に乗ってあげることにした。
「行きましょうか」
彼女はさっきの自らの醜態をなかったことにして立ち上がった。
「今日もサボりかー、あははは」
「なんだか青春みたいで良いじゃない」
そんな会話をしながらチャイムの鳴る学校を後にした。
水族館までは駅からバスが出ていた。
二人でそのバスに乗る。
彼女を窓際の席に座らせて、僕はその隣に座った。
少し狭いバスの座席から少しだけはみ出した太ももが僕の足にちょっとだけくっつく。
この運転手と僕たちしかいない空間が水族館へとただ向かっていく。
特に道中彼女とは会話がない、彼女は窓をただ眺めていて、僕はその横顔に見蕩れる。
こんな距離で彼女の横顔を見たことがなかったから、新鮮な思いで眺めた。
彼女は僕を見ることなく、着くまで窓の外を見る。
彼女はその間ずっとハミングをしていた。
そのどこか心に残るメロディに心地よさを抱いた。
水族館に着くと僕が二人分のチケット買って彼女に手渡す。
それを少し嬉しそうに受け取り、二人でゲートまで歩き入口にいるおねぇさんに見せて入る。
ゲートの少し奥には『ようこそ水族館へ』と書かれた大きなアーチがある。
僕らはそのゲートをくぐると、ちゃんと来たんだなという感慨を得た。
入るとすぐ暗い室内にライトアップされた水槽が順に並んでいる。
あの有名なチンアナゴもその中に居た。
ひとつひとつにはちょっとだけ足を止めて、彼女が魚ごとの感想を述べて僕が聞く。
道中の中で僕の心に残ったのは縦に筒状になった水槽を泳ぐ、クラゲたち。
いろいろとりどりのライトに照らされる、綺麗なクラゲたちに見蕩れた。
僕が思わず立ち止まり、そこへ足が釘付けになる。
何故かこのクラゲたちに吸い込まれるように視線を奪られる。
彼女からの「綺麗だね」という言葉が投げかけられて、我に返った。
なんだか意識がどこか違うところへ行っていた気がする。
僕は気を取り直すと彼女と次のフロアへと進んだ。
次のフロアは前面に大きな水槽のある、いわゆるザ・水族館みたいな空間。
サメや大きな魚たち、イワシの群れが泳いでいた。
「イワシの群れなんて珍しいね」
彼女が目を輝かせながら僕に語る。
「イワシの群れって外敵がいないとこうやって、まとまらないんだって。でも、ちょっとずつ減っていって結構すぐにいなくなるんだって。だからこんなにきれいな群れっを見られるのってラッキーなんだよ」
彼女のイワシ語りを聞きながら、僕は昔学校の教科書で見た物語を思い出していた。
タイトルは思い出せないけど、外敵に群れで立ち向かう話があったなぁと思いつつ彼女の話を聞きながらイワシの群れの動きを目で追う。
イワシの大群を目で追っていると彼女は「こんなにたくさんのイワシが居るのに、一週間くらいでほとんど居なくなるんだよ。すごいよね、こんなに居てもちょっとずつ削られて居なくなるんだから」と僕に語る。
一通りイワシの群れに興奮し終わったのか彼女に次に行こうと促される。
すると館内案内が流れる。
もうすぐイルカショーが始まるみたいだ。
「せっかくだからイルカショーに行こうよ」
僕が彼女を促すと「いいね、どうせなら濡れるくらい近い席に座りましょ」と嬉しそうに笑う。
僕らは道順から少し外れて、イルカショーの開催場所へ向かった。
イルカショーの会場にはまばらに人が座っている。
最前列は案の定スカスカで誰も座っていない。
「あの特等席だぁ~れも座ってない、私たちで席巻よ!!」
「二人しかいないんだけどね!!」
僕はお思わず突っ込む。
彼女は嬉しそうに、最前列に向けて駆ける。
僕はそんなに慌てなくても誰も行かないって、と彼女の後姿に声を掛けるがそれを振り切って行ってしまった。
彼女に追いつくと二人で最前列のど真ん中のベンチに座る。
楽しみね~、なんてのんきに笑う彼女と帰りどうするんだ……と呆れながら座る。
少し待つとイルカの調教師が出てくる。
まずイルカたちと触れ合い餌をあげる。
少し戯れた後僕らの前に出てきた女性のうちの一人が僕らの前に立つ。
観客に向かってイルカへの注意事項をまず話すと、次に僕らへ濡れるからと薄手のレインコートを持ってきて手渡してくれる。
受け取ったレインコートを着ると、イルカのおねぇさんはイルカたちへ指示を出しイルカのパフォーマンスが始まる。
イルカが飛んだり、跳ねたり、おねぇさんと共にパフォーマンスをする。
あえて水槽ギリギリでパフォーマンスし、水しぶきを立てる。
僕らの頭上に雨だったり、バケツで掛けられるようだったりと水が降り注ぐ。
そのたびに僕ら二人は声を上げた。
イルカのパフォーマンスが終わると、おねぇさんたちは会場から居なくなり観客も館内へと戻っていく。
僕らも館内へ戻ろうとしたところ……。
「靴の中がぐしょぐしょなんだけど……」
「それは僕もだよ……」
レインコートのおかげで服やズボンは濡れずに済んだけど、隠れなかった靴だけは上から思い切り水を浴びた。
二人でぐじゅぐじゅと靴の中で音をさせながら、残りの水槽も見て歩いた。
正直途中から二人とも水槽の中身の魚よりも、靴の中の気持ち悪さに辟易とした。
僕らは水族館の隣にある砂浜で靴と足を乾かすことにした。
二人して両手で一足ずつ靴を持ち、砂浜をギュッギュッと音を鳴らしながら歩く。
「今日の水族館楽しかったねー」
彼女を僕に言うというよりも海の向こう側にいる誰かに届くように、波にも負けない声だった。
「いわしの群れしか結局覚えてないけどなー」
僕もそれに応戦するように返す。
僕らは叫び終わった後、お互いに顔を見合わせ笑いあった。
「あははははは、またこよーよ。たまに二人で学校をサボってさ」
彼女は笑っていう。
「しょうがないなぁー」
なんて僕も返すが内心では先にセリフ取られたなーなんて思っていた。
僕らは歩く、時折バシャバシャと波を蹴りながら。
しばらくなんてことないことを言い合いながら、波を蹴り飛ばして相手にぶつけるなんて繰り返す。
当然靴が乾ききることはなく、半乾きの靴をはだしで履くのだった。
一歩一歩、歩くごとに少しの不快感を感じながらも、彼女といる時間はそれを無いものにしてくれた。
空がオレンジ色になってきて、僕らは来た時と同じようにバスに乗って来た道を戻ることにした。
窓から差し込むオレンジの光に照らされた、彼女の顔はなんだか愁いを帯びている様に感じた。
最寄りのバス停に着くと僕らはそこで解散した。
「「また、学校の昼休みにあの場所で」」そうお互いに言い合って別れた。
別れて少し歩いて振り返ると、彼女も同じように僕を振り返っていた。
僕はなんだか今までの時間が唐突に終わるようでもったいない気持ちになった。
だけど、僕らは前を向いて歩き出した。
また会えるのだからと自分たちの胸に言い聞かせる。