残酷な描写あり
魔女と最後のデート回
今日は買い物デートの約束の日。
待ち合わせで決めた駅で彼女を待っている。
今回は電車で移動して駅前にあるブティックが多く入ったお店を巡ることになっている。
スマホを見ると約束までまだ10分ある。
スマホで最近のトピックスとかを流し見して時間を潰す。
「ごめん、お待たせ」
僕が付いてから5分もしないうちに彼女は僕の目の前に現れた。
彼女の服装を見て、別にちづらの様な地雷系ファッションではないんだけど、どことなく似たファッション性を感じる服装だった。
「初めて私服見たな、なんか新鮮」
「そう?じゃあ今のうちにしっかりと堪能しておくことね」
そういうと彼女はその場でクルクルと回り始めた。
「もう、いいから行こうよ」
僕がクルクル回る彼女に言うと、ちょっとだけ不満げに「わかったー」と言って駅の改札に向かう。
改札でICカードを二人ともタッチして「ピッ」という音と共に中に入る。
今日は地下鉄での移動ではないので、空が眩しい。
目的の駅に向かうために、目の前で止まった電車に乗った。
目的の駅に着き、改札を出ると雑居ビルが立ち並ぶビル街に出た。
「ビルばっかりで、ファッションブランドっぽいの無いぞ」
僕が彼女に疑問をぶつける。
「よく見て見なさい、女の子があちこちに居るでしょ。それにブランドはこれらの雑居ビルの中にあるのよ」
僕はもっとショッピングモールの様に華やかな場所に固まってある場所に行くのだと思っていたのに、期待が外れてしまった。
確かに周囲を見渡すと女の子たちはまばらにだけど居る。
だたファッションは王道とは言い難く、奇抜とまではいかないが少し個性的な感は否めない。
「ちょっと変わったファッションしてる気がするんだけど」
「まぁ、確かにこの周辺にあるお店は個性的なファッションを扱ってるのが多いかも」
彼女はそう言いつつ、なかなかこういうところって一人で来にくかったから、誰かと来れて嬉しいわと言った。
僕は普段見ることもない、彼女の変わった一面が見られるのかなーっとちょっと期待していた。
とりあえず、目の前の雑居ビルに入る。
一回にあるエレベーターに乗ると彼女は各フロアのお店を見て、三階のボタンを押す。
三階に着くと、目の前には二つ扉がありそれぞれのドアにはお店の名前が書かれていた。
そのお店のうち左側のドアを開けた。
中に入るとスーッと透き通るような香りがする。
中には色とりどりの、普段あまり目にすることが少ないような系統のファッションがズラリと上下に分かれて服が掛けられている。
彼女はそのうちの一つを手に取る。
「うーん、これも可愛いなぁ」
そう言いながら違う服も手に取る。
それから次々に五着くらい手に取ると試着室へと向かった。
僕を試着室の前で待たせ、着替えるからと言ってカーテンを閉める。
モゾモゾとカーテンの奥から服を脱ぐ音が聞こえ、カーテンの隙間から脱いだ服が見える。
僕は少しドキッとする、この手を伸ばせば届く距離で女の子が着替えていると思うと。
しばらく衣擦れの音をさせて、カーテンが開く。
彼女が試着に選んだのは少しダークめの緑のワンピーズ、ただベルトがクロスして二本と通っておりちょっと普通のものよりかっこいいなぁと思った。
彼女はどうかなっと言いながら試着室でクルリと回って見せた。
「いいじゃん」
僕がそう言うと他のも着てみる、といってまたカーテンを閉める。
服を着替えてはファッションショーをするのを何度か繰り返す。
ここのファッションは少しかっこいい系に依った服がメインのお店なのかな。
彼女の繰り返す、ファッションショーの中でそういう毛色が強いなと感じたからだ。
彼女は結局どれもお気に召さなかったのか、何も買わずに店を出る。
二件目はガーリーチックなファッションがメインのお店。
この店は僕からしても彼女の雰囲気に合ってる気がしたけれど、いくつかの服でファッションショーをして出てきてしまった。
彼女が今日着てきた服もどちらかと言えばガーリーっぽいし、ファッションの開拓でもしたいのかなと付き合いながら思った。
三件目は、お店に入るとふわふわとした甘い香りに包まれた感じがした。
香りもだけど、お店自体が少しファンシーな内装と、甘めなロリータっぽいファッションをメインで扱っているお店だった。
ロリータのファッションを眺めていると、思わずちづらを思い浮かべた。
彼女は好んでよくこういう服を着ているけど、もしかして彼女もこの店に来ているのかも、なんて考えながら見渡していると。
「いま、女のことを考えているわね」
と彼女はズイッと僕の顔に顔を寄せる。
なんて鋭いんだ。
「こういう服を着る知り合いでも居るのかしら?」
彼女にそう尋ねられ。
「最近こういう服装がなんとなく目に入ることがあったから思わずね、あとこういう服は女しか着ないだろ」
彼女は「あっ」という表情を一瞬して「デート中に他の女の子を考えてる方が悪い」といって脇腹に肘を打ち込む。
「う゛っ」と痛みに悶えると「ちょっといろいろ探してくる―」と言い残して僕から離れていった。
地味に痛いんだけど。
少しして彼女に呼ばれるとまた試着室で次々に着替えては僕に見せる。
僕は何故か前の二件では思わなかったの既視感の様なものを感じた。
モヤモヤとする気持ちを抱きながら、彼女のファッションショーに付き合った。
気が付くと1時を少し過ぎていたので、僕らは遅めの昼食を取ることにした。
「今日の着た中だと、どれが良かった?」
彼女は頼んだパスタを食べながら質問する。
「んー、やっぱり似合うのは二件目かなぁ、一件目も良いとは思った。ちょっとカッコいい系なのも好きだなぁって思ったよ」
「三件目はどうかなぁ?」
「ロリータっぽいファッションかぁ」
僕は三件目でのファッションショーを思い浮かべる。
「似合ってなかった訳じゃないけど、選んだ服は僕の好みではなかったかなぁ」
「どんな服が好きなの?」
「んー、改めて聞かれると困るなぁ。あまり甘々すぎるのは苦手かも」
僕の答えに彼女は人差し指を顎先に当てながら「だから一件目も良いって言ったのね」
彼女はどこか納得していた。
僕は注文したオムライスとコーンスープを飲み終えると、彼女は食後のコーヒーを楽しいでいた。
「あと、何件か行くか。さっきの店のうちのどこかにもう一回行くかどっちがいい」
「三件目はさ、甘々系ばっかりだからちょっと違う系統を試してみるとかどうかな?」
僕は三件目に再度行く提案をしてみた。
出来るならもう一度行って確かめたいこともあった。
「良いよ、じゃあ今度はあなたが選んでね。あなたのセンスを試してあげる」
「上からだなぁ、別に良いけどさ。じゃあ店出たらまた三件目に行こう」
少し腹ごなしにゆっくりして、それからさっきのお店に戻った。
店に入るとまたふわふわとした甘い香りに包まれた。
少し店内を歩き、彼女が着ていたような地雷系に近いものを探す。
「さっきとは違うこういう系統はどう?」
そういって地雷系のファッションをチョイスして見せる。
「ふーん、君はそういう感じの女の子が好きなのね。へー」
少しジトっとした目で僕を見る。
が、彼女はまぁ着てみると言って試着室に向かった。
僕が選んだものに着替えるとカーテンを開けた。
「どうかしら?」と試着室の中でクルッと回る。
僕はどうしてもちづらと重なる錯覚を覚えた。
四着目に着替えたところで、おぉーっと思わず声が出た。
「これが良かった?」
「それが僕の中で今日一番かな」
「そっか、分かった」
そう言うと服を着替えずに試着室を出た。
僕がちょっとっと言ったところで、近くの店員に声を掛ける。
「今着ているのが欲しいのですが、出来ればこのまま着たいんですけど」
そう店員に言うと、こちらへどうぞと店員に促されレジのある方へ向かう。
僕は慌てて試着室の中に残された彼女の服を拾う。
彼女の体温がまだ少し残っていて、どことなく生暖かった。
考えないように彼女の服を抱えて、彼女のところまで行く。
彼女はレジで首元に着いたタグを切ってもらっているところだった。
僕が着くと店員から貰ったらしいお店のロゴの入った袋を渡される。
「これにそれらを入れといて」
彼女に言われて服を畳んで入れる。
僕らは店員のありがとうございましたという言葉を受けてお店から出る。
「よかったの、それ買って?あんまり好みではないんだと思ったんだけど」
「良いのよ、気分転換したかったし。折角あなたが良いって言ってくれたものだもの」
彼女は隣で歩きながら、鼻唄交じりに歩く。
それから僕らはまた少しだっけウインドウショッピングを続けた、隣では地雷系のファッションを纏う彼女がいるせいか、なんとなく周りから視線を向けられている気がした。
夕方頃になって帰ろうとすると、突然雨に見舞われた。
雨のかからない、少し薄暗い路地に二人で避難する。
「急な雨ね、最悪」
「せっかく服買ったのに、ついてないよな」
僕らは二人でため息を吐く。
同時に二人して少し笑いが出た。
二人同時にため息を吐いたのが、なんだかおかしかった。
二人で顔を見合わせているその瞬間に。
――彼女の首を斬った。
僕の手には剣が握られている。
彼女の首を居合切りするように、瞬間的に剣を顕現させて斬ったのだ。
斬られた彼女の首は落ち、彼女の両手に包まれる。
「やっぱりかぁ……、お前はちづらだったんだな」
斬られた首と手に持った頭部から血がとめどなく溢れる。
いくら雨で血を流そうとも、薄まるだけで血の色までは消せない。
「なんで、それをココで出せるの?」
僕の剣を指してそういった。
「彼の剣の顕現条件にそもそもあの箱は関係なかったんだろ?あの病院に居る老人たちに意味があっただけで」
僕がそう言うと、少しびっくりしたようにした。
「それでもあの中じゃないと権限は相当難しいはず、私の血も与えてないのに」
「確かにな、でも僕は彼と同質のものを持ってるんだろ。それに今僕の中には彼も居るんだ、出来ない訳がないじゃないか」
僕の答えに少し呆れるかのようにしながら次いで聞く。
「そもそもなぜ、私だとわかったんだ?もし違ったらどうしてたんだ?」
僕も決して確証があったわけではなかったから、正解で自分自身がちょっとびっくりしたくらいだ。
「だってこの前スマホを僕の前で取り出した時、スマホにストラップ付けてただろ?」
「まさかそれだけで……」
「それだけじゃないけど、ね」
僕はそう言いながら彼女を、彼女の服を指さす。
「その系統の服を着たとき、なんだか君を思い浮かべた。それでそれが確信に変わるかどうかもう一度あの店に行ったんだよ。まさか買うとは思わなかったけど」
新しく買った服は今、彼女自身の血でドロドロになってしまっているけれど。
彼女の衣服も、手も、そして地面も何度も何度も雨が洗い流すが、そのたびに新たな血の跡が出来る。
「ストラップと服でかぁ、服は一応気にしたんだけどなぁ。君とのデートで舞い上がっちゃったね」
手に抱えられた頭がそう言って笑う。
今の光景は不気味さや異様さが際立っているはずなのに、なぜか抱えられている頭部と目お合わせるとそれらの異様さに意識が行かない。
「私はこのままじゃ死なないよ、さぁ心臓を刺すのよ」
そう言うと顔をおへその位置に置く。
僕はおそらく最後のチャンスだろうと思い、彼女の心臓めがけて走り出す。
バシャバシャ――
赤くなった水の塊を音を立てて踏み歩く。
「うぉぉぉぉぉぉ」
叫びながら彼女の心臓に剣を突き立てようと切っ先が彼女の胸に刺さり、刃先を伝って血の雫が落ちる。
剣はそれより先にはいかなかった。
いくら手に力を入れても、彼女には切っ先以上の部分が刺さらない。
「何故だ、何故今度は邪魔をするんだ……」
僕は自分の中に居る、彼へと言った。
彼は答えないが、力を入れても動かないこの腕が答えか。
僕は無理やりに力を入れる。
腕中の血管が浮き出る。
少しだけさらに刺さったが、でもすぐに止まる。
押し込むと首から血がドッと溢れる。
ビチャッと血が雨跡に打ち付けられる。
刺さった剣が震えながら彼女から抜けていく。
「お前が止めなければやれたかもしれないのに……」
僕は完全に力を抜いて、剣を手放した。
途端に切っ先の刺さっただけの剣は抜け落ち、光の粒子となって霧散した。
彼女の頭部は悲しそうに、涙を流した。
立ち尽くし、濡れ続ける僕らは彼女の前で立ち尽くしてうなだれる。
彼女は首を元の位置に戻すと「ごめんね」と言った。
それから彼女は僕の足元に落ちていた彼女のの服が入った袋を手に取って「バイバイ」と言って僕の前から立ち去った。
「――――」
僕は彼女の背中に向かって声にならない叫びをした。
しばらく濡れるままにそこに立ち尽くして。
「僕にどうしろって言うんだよ……」
雨に流すようにただただ独りごちた。
待ち合わせで決めた駅で彼女を待っている。
今回は電車で移動して駅前にあるブティックが多く入ったお店を巡ることになっている。
スマホを見ると約束までまだ10分ある。
スマホで最近のトピックスとかを流し見して時間を潰す。
「ごめん、お待たせ」
僕が付いてから5分もしないうちに彼女は僕の目の前に現れた。
彼女の服装を見て、別にちづらの様な地雷系ファッションではないんだけど、どことなく似たファッション性を感じる服装だった。
「初めて私服見たな、なんか新鮮」
「そう?じゃあ今のうちにしっかりと堪能しておくことね」
そういうと彼女はその場でクルクルと回り始めた。
「もう、いいから行こうよ」
僕がクルクル回る彼女に言うと、ちょっとだけ不満げに「わかったー」と言って駅の改札に向かう。
改札でICカードを二人ともタッチして「ピッ」という音と共に中に入る。
今日は地下鉄での移動ではないので、空が眩しい。
目的の駅に向かうために、目の前で止まった電車に乗った。
目的の駅に着き、改札を出ると雑居ビルが立ち並ぶビル街に出た。
「ビルばっかりで、ファッションブランドっぽいの無いぞ」
僕が彼女に疑問をぶつける。
「よく見て見なさい、女の子があちこちに居るでしょ。それにブランドはこれらの雑居ビルの中にあるのよ」
僕はもっとショッピングモールの様に華やかな場所に固まってある場所に行くのだと思っていたのに、期待が外れてしまった。
確かに周囲を見渡すと女の子たちはまばらにだけど居る。
だたファッションは王道とは言い難く、奇抜とまではいかないが少し個性的な感は否めない。
「ちょっと変わったファッションしてる気がするんだけど」
「まぁ、確かにこの周辺にあるお店は個性的なファッションを扱ってるのが多いかも」
彼女はそう言いつつ、なかなかこういうところって一人で来にくかったから、誰かと来れて嬉しいわと言った。
僕は普段見ることもない、彼女の変わった一面が見られるのかなーっとちょっと期待していた。
とりあえず、目の前の雑居ビルに入る。
一回にあるエレベーターに乗ると彼女は各フロアのお店を見て、三階のボタンを押す。
三階に着くと、目の前には二つ扉がありそれぞれのドアにはお店の名前が書かれていた。
そのお店のうち左側のドアを開けた。
中に入るとスーッと透き通るような香りがする。
中には色とりどりの、普段あまり目にすることが少ないような系統のファッションがズラリと上下に分かれて服が掛けられている。
彼女はそのうちの一つを手に取る。
「うーん、これも可愛いなぁ」
そう言いながら違う服も手に取る。
それから次々に五着くらい手に取ると試着室へと向かった。
僕を試着室の前で待たせ、着替えるからと言ってカーテンを閉める。
モゾモゾとカーテンの奥から服を脱ぐ音が聞こえ、カーテンの隙間から脱いだ服が見える。
僕は少しドキッとする、この手を伸ばせば届く距離で女の子が着替えていると思うと。
しばらく衣擦れの音をさせて、カーテンが開く。
彼女が試着に選んだのは少しダークめの緑のワンピーズ、ただベルトがクロスして二本と通っておりちょっと普通のものよりかっこいいなぁと思った。
彼女はどうかなっと言いながら試着室でクルリと回って見せた。
「いいじゃん」
僕がそう言うと他のも着てみる、といってまたカーテンを閉める。
服を着替えてはファッションショーをするのを何度か繰り返す。
ここのファッションは少しかっこいい系に依った服がメインのお店なのかな。
彼女の繰り返す、ファッションショーの中でそういう毛色が強いなと感じたからだ。
彼女は結局どれもお気に召さなかったのか、何も買わずに店を出る。
二件目はガーリーチックなファッションがメインのお店。
この店は僕からしても彼女の雰囲気に合ってる気がしたけれど、いくつかの服でファッションショーをして出てきてしまった。
彼女が今日着てきた服もどちらかと言えばガーリーっぽいし、ファッションの開拓でもしたいのかなと付き合いながら思った。
三件目は、お店に入るとふわふわとした甘い香りに包まれた感じがした。
香りもだけど、お店自体が少しファンシーな内装と、甘めなロリータっぽいファッションをメインで扱っているお店だった。
ロリータのファッションを眺めていると、思わずちづらを思い浮かべた。
彼女は好んでよくこういう服を着ているけど、もしかして彼女もこの店に来ているのかも、なんて考えながら見渡していると。
「いま、女のことを考えているわね」
と彼女はズイッと僕の顔に顔を寄せる。
なんて鋭いんだ。
「こういう服を着る知り合いでも居るのかしら?」
彼女にそう尋ねられ。
「最近こういう服装がなんとなく目に入ることがあったから思わずね、あとこういう服は女しか着ないだろ」
彼女は「あっ」という表情を一瞬して「デート中に他の女の子を考えてる方が悪い」といって脇腹に肘を打ち込む。
「う゛っ」と痛みに悶えると「ちょっといろいろ探してくる―」と言い残して僕から離れていった。
地味に痛いんだけど。
少しして彼女に呼ばれるとまた試着室で次々に着替えては僕に見せる。
僕は何故か前の二件では思わなかったの既視感の様なものを感じた。
モヤモヤとする気持ちを抱きながら、彼女のファッションショーに付き合った。
気が付くと1時を少し過ぎていたので、僕らは遅めの昼食を取ることにした。
「今日の着た中だと、どれが良かった?」
彼女は頼んだパスタを食べながら質問する。
「んー、やっぱり似合うのは二件目かなぁ、一件目も良いとは思った。ちょっとカッコいい系なのも好きだなぁって思ったよ」
「三件目はどうかなぁ?」
「ロリータっぽいファッションかぁ」
僕は三件目でのファッションショーを思い浮かべる。
「似合ってなかった訳じゃないけど、選んだ服は僕の好みではなかったかなぁ」
「どんな服が好きなの?」
「んー、改めて聞かれると困るなぁ。あまり甘々すぎるのは苦手かも」
僕の答えに彼女は人差し指を顎先に当てながら「だから一件目も良いって言ったのね」
彼女はどこか納得していた。
僕は注文したオムライスとコーンスープを飲み終えると、彼女は食後のコーヒーを楽しいでいた。
「あと、何件か行くか。さっきの店のうちのどこかにもう一回行くかどっちがいい」
「三件目はさ、甘々系ばっかりだからちょっと違う系統を試してみるとかどうかな?」
僕は三件目に再度行く提案をしてみた。
出来るならもう一度行って確かめたいこともあった。
「良いよ、じゃあ今度はあなたが選んでね。あなたのセンスを試してあげる」
「上からだなぁ、別に良いけどさ。じゃあ店出たらまた三件目に行こう」
少し腹ごなしにゆっくりして、それからさっきのお店に戻った。
店に入るとまたふわふわとした甘い香りに包まれた。
少し店内を歩き、彼女が着ていたような地雷系に近いものを探す。
「さっきとは違うこういう系統はどう?」
そういって地雷系のファッションをチョイスして見せる。
「ふーん、君はそういう感じの女の子が好きなのね。へー」
少しジトっとした目で僕を見る。
が、彼女はまぁ着てみると言って試着室に向かった。
僕が選んだものに着替えるとカーテンを開けた。
「どうかしら?」と試着室の中でクルッと回る。
僕はどうしてもちづらと重なる錯覚を覚えた。
四着目に着替えたところで、おぉーっと思わず声が出た。
「これが良かった?」
「それが僕の中で今日一番かな」
「そっか、分かった」
そう言うと服を着替えずに試着室を出た。
僕がちょっとっと言ったところで、近くの店員に声を掛ける。
「今着ているのが欲しいのですが、出来ればこのまま着たいんですけど」
そう店員に言うと、こちらへどうぞと店員に促されレジのある方へ向かう。
僕は慌てて試着室の中に残された彼女の服を拾う。
彼女の体温がまだ少し残っていて、どことなく生暖かった。
考えないように彼女の服を抱えて、彼女のところまで行く。
彼女はレジで首元に着いたタグを切ってもらっているところだった。
僕が着くと店員から貰ったらしいお店のロゴの入った袋を渡される。
「これにそれらを入れといて」
彼女に言われて服を畳んで入れる。
僕らは店員のありがとうございましたという言葉を受けてお店から出る。
「よかったの、それ買って?あんまり好みではないんだと思ったんだけど」
「良いのよ、気分転換したかったし。折角あなたが良いって言ってくれたものだもの」
彼女は隣で歩きながら、鼻唄交じりに歩く。
それから僕らはまた少しだっけウインドウショッピングを続けた、隣では地雷系のファッションを纏う彼女がいるせいか、なんとなく周りから視線を向けられている気がした。
夕方頃になって帰ろうとすると、突然雨に見舞われた。
雨のかからない、少し薄暗い路地に二人で避難する。
「急な雨ね、最悪」
「せっかく服買ったのに、ついてないよな」
僕らは二人でため息を吐く。
同時に二人して少し笑いが出た。
二人同時にため息を吐いたのが、なんだかおかしかった。
二人で顔を見合わせているその瞬間に。
――彼女の首を斬った。
僕の手には剣が握られている。
彼女の首を居合切りするように、瞬間的に剣を顕現させて斬ったのだ。
斬られた彼女の首は落ち、彼女の両手に包まれる。
「やっぱりかぁ……、お前はちづらだったんだな」
斬られた首と手に持った頭部から血がとめどなく溢れる。
いくら雨で血を流そうとも、薄まるだけで血の色までは消せない。
「なんで、それをココで出せるの?」
僕の剣を指してそういった。
「彼の剣の顕現条件にそもそもあの箱は関係なかったんだろ?あの病院に居る老人たちに意味があっただけで」
僕がそう言うと、少しびっくりしたようにした。
「それでもあの中じゃないと権限は相当難しいはず、私の血も与えてないのに」
「確かにな、でも僕は彼と同質のものを持ってるんだろ。それに今僕の中には彼も居るんだ、出来ない訳がないじゃないか」
僕の答えに少し呆れるかのようにしながら次いで聞く。
「そもそもなぜ、私だとわかったんだ?もし違ったらどうしてたんだ?」
僕も決して確証があったわけではなかったから、正解で自分自身がちょっとびっくりしたくらいだ。
「だってこの前スマホを僕の前で取り出した時、スマホにストラップ付けてただろ?」
「まさかそれだけで……」
「それだけじゃないけど、ね」
僕はそう言いながら彼女を、彼女の服を指さす。
「その系統の服を着たとき、なんだか君を思い浮かべた。それでそれが確信に変わるかどうかもう一度あの店に行ったんだよ。まさか買うとは思わなかったけど」
新しく買った服は今、彼女自身の血でドロドロになってしまっているけれど。
彼女の衣服も、手も、そして地面も何度も何度も雨が洗い流すが、そのたびに新たな血の跡が出来る。
「ストラップと服でかぁ、服は一応気にしたんだけどなぁ。君とのデートで舞い上がっちゃったね」
手に抱えられた頭がそう言って笑う。
今の光景は不気味さや異様さが際立っているはずなのに、なぜか抱えられている頭部と目お合わせるとそれらの異様さに意識が行かない。
「私はこのままじゃ死なないよ、さぁ心臓を刺すのよ」
そう言うと顔をおへその位置に置く。
僕はおそらく最後のチャンスだろうと思い、彼女の心臓めがけて走り出す。
バシャバシャ――
赤くなった水の塊を音を立てて踏み歩く。
「うぉぉぉぉぉぉ」
叫びながら彼女の心臓に剣を突き立てようと切っ先が彼女の胸に刺さり、刃先を伝って血の雫が落ちる。
剣はそれより先にはいかなかった。
いくら手に力を入れても、彼女には切っ先以上の部分が刺さらない。
「何故だ、何故今度は邪魔をするんだ……」
僕は自分の中に居る、彼へと言った。
彼は答えないが、力を入れても動かないこの腕が答えか。
僕は無理やりに力を入れる。
腕中の血管が浮き出る。
少しだけさらに刺さったが、でもすぐに止まる。
押し込むと首から血がドッと溢れる。
ビチャッと血が雨跡に打ち付けられる。
刺さった剣が震えながら彼女から抜けていく。
「お前が止めなければやれたかもしれないのに……」
僕は完全に力を抜いて、剣を手放した。
途端に切っ先の刺さっただけの剣は抜け落ち、光の粒子となって霧散した。
彼女の頭部は悲しそうに、涙を流した。
立ち尽くし、濡れ続ける僕らは彼女の前で立ち尽くしてうなだれる。
彼女は首を元の位置に戻すと「ごめんね」と言った。
それから彼女は僕の足元に落ちていた彼女のの服が入った袋を手に取って「バイバイ」と言って僕の前から立ち去った。
「――――」
僕は彼女の背中に向かって声にならない叫びをした。
しばらく濡れるままにそこに立ち尽くして。
「僕にどうしろって言うんだよ……」
雨に流すようにただただ独りごちた。