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作者: 古今いずこ
残酷な描写あり
第9回 謎に躓く 秘密を明かす:2-2
作中よりも過去における死ネタ、殺害方法への言及が含まれます。苦手な方はご注意ください。
 次々に襲ってきた猛獣たちと、狼の正体を現したトシュと、トシュのいる外へ凄い顔をして飛び出していったジョイドとに、おびえさせられた記憶のあるセディカは、何だか随分なことを白状されたような気がした。が、心配ないと——危ないことはないと——大丈夫だというのなら、それに越したことはない。

「それなら、いいけど」

「なんか新鮮だなあ。俺らを知ってる人は、大丈夫だってわかってる分、ろくに心配してくれないんだよね」

 ジョイドは頬杖をついてにこにこした。

「……笑わないでよ」

「ああごめん、おかしいんじゃないのよ。普通に嬉しい。俺の身内なんて元々、トシュは父親に似て乱暴者だと思ってるのが多いし」

 あ、と声を立てたのは、それですとんと了解されたからだ。父が悪く言う祖母の破魔三味を、神琴の師匠に褒められたときのような——そういう微笑みであると。

「あいつが本当に乱暴者だったら、俺が今まで無事に相棒やってられるわけないと思うんだけどなあ。本気でぶつかったら絶対敵わないもの」

 そうも付け加えたのは、明日のことは心配しなくてよいと繰り返したのでもあり、その強さがこちらを虐げるために振るわれることはない、と安心させるためでもあったかもしれない。

 そんな風に少し話した後で、ジョイドも用事があったようだし、引き上げるべきかとセディカは考えた。頭がそう判断する一方で、けれども、心はちゅうちょする。向こうの部屋にはつい昨日、亡霊が現れたのだということが、夜の闇が濃くなるに比例してより強く意識されてきたので。

 と、せっかくだから読んでみる? と本の片方を差し出された。〈錦鶏集う国〉の歴史書だという。つまりはもうしばらくここにいてよいという許可で、躊躇したことは勿論、その理由も見抜かれていそうである。ありがたいものの、複雑ではあった。

 開いてみれば、冒頭を飾っている散文詩は、断片的に聞いていた建国物語であった。リズミカルで、読み進めやすい。遠き国の若き公子が、跡目争いの末に焼き討ちに遭い、錦鶏に救われて逃げ延びたこと。旅の途中、若き公女を、やはり火事から救い出したこと。畏れ多き女王の膝元に至ったこと——〈冥府の女王〉即ち〈黄泉の君〉の寺院を指すのだろう。国を建て、錦鶏の名をつけたこと。公子と公女は国王と王妃になったこと——。

「ジョー、ちょっといいか。様子がおかしいんだわ」

 現実に引き戻されて、セディカは反射的に本を閉じた。無意識に想像していたよりも早く帰ってきたトシュが、来い、とドアのところから指先で命じている。ジョイドがひょいと立ち上がって寄っていき、声をひそめて話し始めたので、セディカは所在ない気持ちでその様子を眺めたり、目を泳がせたりした。

 やがてジョイドが振り向いた。

「セディ、王様は三年前に亡くなったんだよね?」

「そうおっしゃったけど……」

「それが、とてもそうは見えねえんだよ。体が傷んでもいなけりゃ、肌がふやけてすらいねえ。冷たいっちゃ冷たいが、生きてるやつの低体温レベルだ」

 トシュがいぶかしげに眉を寄せている。

「……え、あの」

「王様を連れてきたんだよ。今は本堂?」

「ああ。大騒ぎだ」

「だろうね」

 セディカは絶句した。連れて……連れてきた? 国王を?

 埋められた井戸、芭蕉の下の井戸を、トシュなら掘り起こせてもおかしくない。そう、芭蕉という目印があるのだ。それは人目を避けるだろう……日が暮れるまで取りかかれないだろう!

「とにかく、見せられねえような状態じゃないわけだ。セダ、夢に出てきたのが本当に王だったか確認できるか」

「え……あ……ええ」

 呆然と答えて、答えたことで頭が幾らか動き出す。

「……連れてきたって」

「今の王が偽物だっつう証拠がいるだろ。本物をつきつけんのが一番早い」

 それはそうかもしれないが。

 乱暴すぎる、と。トシュに対して、初めて思った。
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