残酷な描写あり
第9回 謎に躓く 秘密を明かす:3-1
作中よりも過去における死ネタが含まれます。苦手な方はご注意ください。
無言でこくこくと頷いて、セディカは下がった。幼い頃のように、母の陰に隠れたい気持ちだ。
本堂に安置された亡骸は、昨夜の夢に現れた人物に違いなかった。死に装束には僧侶たちが着替えさせたのだろう。見覚えのある黄金色の衣装や、花の模様のある靴も近くに置いてあった——夢の記憶とは違って、ぐっしょりと濡れている。
「どういうことです」
院主が問うのは当然であった。否、もっと動転するのが当然であるところを、努めて冷静になろうとしているようだった。我が国の王の亡骸などを持ち込まれては、驚くや慌てるでは済まないのではないかと思うのだが。
大騒ぎだとトシュは言ったが、実際にはまだ、院主を含めて数人しか知らされていないらしい。とはいえ、亡骸を清めたり着替えさせたりするためには、院主の他にも数人に知らせないわけにはいかなかっただろう。
「お嬢様の夢を通して、王様が告げられたんですよ。三年前に殺されたと」
「三年前ですと?」
「鵜呑みにもできんが知らん顔もできんし、根拠が夢じゃあ相談もしにくくてな。言っていいもんかね、犯人も」
「言うなら全部言うべきでしょ。聞いた話にすぎないけど、筋は通るし。殺すだけならともかく、成り済ます、なんて誰にでもできることじゃない」
前置きを挟んで、ジョイドは院主に目を向ける。
「五年前に雨を降らせて旱を終わらせ、三年前に姿を消した方士がいるそうですね。彼が王様を殺したと——俺らは聞いただけですが」
「俺らは納得したが、あんたにとってはどうだ。信憑性のある話か?」
反応を待たずにトシュが重ねた。
しばし、院主は沈黙した。
「ハックどのが仰った通り、筋は通りますな。まだ王宮には知らせるなと止められたのもわかります。しかし——このお姿はとても、三年前に薨られたようには」
無論、明らかに、それは不自然なことだった。大体、トシュが怪しまれてもおかしくないところだし、何ならトシュに同調するジョイドやセディカまで怪しまれかねないところだ。そうなっても青年たちは、よく回る舌先と華麗な連携で丸め込んでしまったかもしれないけれど。
だが、嘘にしてはあまりにも信憑性がない、という面もある。方士に罪をなすりつけようという意図があったとしても、だ。院主としては困惑もするだろう。
「それで俺も戸惑ってんだ。小人の野郎もこういうときに出てくりゃいいのに」
「あ、それなんだけどね。箱が消えた」
「あ?」
「小人の箱が。見当たんないのよ。王様が発見されたから満足したんじゃないかな」
「勝手に満足してんじゃねえよ。こんな大問題を放ったらかして」
どさくさに紛れて小人の存在を片づけてから、トシュは頭を掻き毟った。
「三年だぜ? ミイラ化したとかいうならともかく、こうもそのままだなんてありかよ」
「方士といえば、尸解を思い出しますが。殺された方がなるものではないでしょうな」
院主が呟く。きょとんとするセディカに、死んだように見せかけて仙人になる方法ですよ、とジョイドが教えた。亡骸がずっと温かく柔らかく生きているかのようで、尸解仙になったのだろうと噂された、という話があるらしい。
それから、幾分自信がないのか、反応を窺うようにトシュを見やった。
本堂に安置された亡骸は、昨夜の夢に現れた人物に違いなかった。死に装束には僧侶たちが着替えさせたのだろう。見覚えのある黄金色の衣装や、花の模様のある靴も近くに置いてあった——夢の記憶とは違って、ぐっしょりと濡れている。
「どういうことです」
院主が問うのは当然であった。否、もっと動転するのが当然であるところを、努めて冷静になろうとしているようだった。我が国の王の亡骸などを持ち込まれては、驚くや慌てるでは済まないのではないかと思うのだが。
大騒ぎだとトシュは言ったが、実際にはまだ、院主を含めて数人しか知らされていないらしい。とはいえ、亡骸を清めたり着替えさせたりするためには、院主の他にも数人に知らせないわけにはいかなかっただろう。
「お嬢様の夢を通して、王様が告げられたんですよ。三年前に殺されたと」
「三年前ですと?」
「鵜呑みにもできんが知らん顔もできんし、根拠が夢じゃあ相談もしにくくてな。言っていいもんかね、犯人も」
「言うなら全部言うべきでしょ。聞いた話にすぎないけど、筋は通るし。殺すだけならともかく、成り済ます、なんて誰にでもできることじゃない」
前置きを挟んで、ジョイドは院主に目を向ける。
「五年前に雨を降らせて旱を終わらせ、三年前に姿を消した方士がいるそうですね。彼が王様を殺したと——俺らは聞いただけですが」
「俺らは納得したが、あんたにとってはどうだ。信憑性のある話か?」
反応を待たずにトシュが重ねた。
しばし、院主は沈黙した。
「ハックどのが仰った通り、筋は通りますな。まだ王宮には知らせるなと止められたのもわかります。しかし——このお姿はとても、三年前に薨られたようには」
無論、明らかに、それは不自然なことだった。大体、トシュが怪しまれてもおかしくないところだし、何ならトシュに同調するジョイドやセディカまで怪しまれかねないところだ。そうなっても青年たちは、よく回る舌先と華麗な連携で丸め込んでしまったかもしれないけれど。
だが、嘘にしてはあまりにも信憑性がない、という面もある。方士に罪をなすりつけようという意図があったとしても、だ。院主としては困惑もするだろう。
「それで俺も戸惑ってんだ。小人の野郎もこういうときに出てくりゃいいのに」
「あ、それなんだけどね。箱が消えた」
「あ?」
「小人の箱が。見当たんないのよ。王様が発見されたから満足したんじゃないかな」
「勝手に満足してんじゃねえよ。こんな大問題を放ったらかして」
どさくさに紛れて小人の存在を片づけてから、トシュは頭を掻き毟った。
「三年だぜ? ミイラ化したとかいうならともかく、こうもそのままだなんてありかよ」
「方士といえば、尸解を思い出しますが。殺された方がなるものではないでしょうな」
院主が呟く。きょとんとするセディカに、死んだように見せかけて仙人になる方法ですよ、とジョイドが教えた。亡骸がずっと温かく柔らかく生きているかのようで、尸解仙になったのだろうと噂された、という話があるらしい。
それから、幾分自信がないのか、反応を窺うようにトシュを見やった。