残酷な描写あり
第13回 敵が笑う 友が呼ぶ:4-2
「セディ、王様が今日も夕飯一緒に食べたいって」
「『夕飯一緒に食べたい』って」
「余興に破魔三味でも弾くか?」
「やめてよ」
セディカは苦笑した。
「人にやらせるより、自分の演武を見せてあげたら」
「俺はいいが。国王陛下と王妃殿下と王太子殿下に手拍子をさせんのか?」
本人たちよりも、横で見ている給仕の女官たちに屈辱を感じさせそうな気がする。傷も毒も呪術も後を引いていないことを確認したいのが本音なら、今ここで舞ってみせてもよいが。
明日には発つ予定であった。やり残していることはあるかと問われて少女は頭を振る。
「何て言って献上しようかな」
例の薬を掌に載せてジョイドが呟いた。隠そうとして隠しきれていないあなたの火傷のことですが、とも本人の前では言いにくい。
「帰りに王を捕まえて渡すか」
「なあに?」
「ここでは説明しにくいから、明日ね。王様たちにあんまり質問されたくないから今日まで引っ張ったぐらいだもの」
その夜のうちに、トシュは〈連なる五つの山〉にも顔を出した。熊と野牛はいたが、虎はまだ松との詩会を続けているらしい。万一この山を越えなければならなくなった場合、詩に造詣の深い人物であれば山の支配者に気に入られるかもしれない、しかし木々の精たちには気に入られすぎるかもしれないと、宴のついでに喋った意味はありそうだ。
どうなったと熊の方からは訊かれなかったけれど、真の国王が生き返ったこと、偽の国王であった獅子を追い払ったことは掻い摘んで話した。自分たちの出立については、竹を始めとする木の妖怪たちが万一訪ねてきても、くれぐれも明日の夜まで、即ち自分たちが確実に〈錦鶏〉を離れた後まで、伝えないでほしいと頼んでおく。挨拶になど来られては堪らない。
「随分人間に入れ上げるんだな」
「人里育ちなんだよ」
未だに呑み込めないらしい野牛には苦笑した。どうもこれは理解されそうにない。
最後の最後になって、国王からマントが贈られた。輝かしい紅の、包みを開くだけで光がこぼれるような、燃える炎のようなそれは、国王も王妃も炎にはトラウマがあるわけではないのかと心配になるほど——炎のよう、だった。それとも、だから惜しみなく下賜できるのだろうか。五日で作れるとも思えないから、宝物庫にでも眠っていたのかもしれないし、季節にもあまり合っていないが、手元にある最高級品を選んだらこれになったのかもしれない。男女を問わず、背丈を問わず、使えるように工夫したらしいデザインだったけれども、本当に身にまとえる機会があるかどうかは疑問である。
「万に一つあの獅子が戻ってくるようなことがあったら、俺らが落とし前をつけに来るように、〈慈愛天女〉か〈冥府の女王〉に祈ってくださいや。気を利かせて知らせてくれるでしょう」
こちらからはそれを最後の助言に、一行は〈錦鶏集う国〉を後にした。
「『夕飯一緒に食べたい』って」
「余興に破魔三味でも弾くか?」
「やめてよ」
セディカは苦笑した。
「人にやらせるより、自分の演武を見せてあげたら」
「俺はいいが。国王陛下と王妃殿下と王太子殿下に手拍子をさせんのか?」
本人たちよりも、横で見ている給仕の女官たちに屈辱を感じさせそうな気がする。傷も毒も呪術も後を引いていないことを確認したいのが本音なら、今ここで舞ってみせてもよいが。
明日には発つ予定であった。やり残していることはあるかと問われて少女は頭を振る。
「何て言って献上しようかな」
例の薬を掌に載せてジョイドが呟いた。隠そうとして隠しきれていないあなたの火傷のことですが、とも本人の前では言いにくい。
「帰りに王を捕まえて渡すか」
「なあに?」
「ここでは説明しにくいから、明日ね。王様たちにあんまり質問されたくないから今日まで引っ張ったぐらいだもの」
その夜のうちに、トシュは〈連なる五つの山〉にも顔を出した。熊と野牛はいたが、虎はまだ松との詩会を続けているらしい。万一この山を越えなければならなくなった場合、詩に造詣の深い人物であれば山の支配者に気に入られるかもしれない、しかし木々の精たちには気に入られすぎるかもしれないと、宴のついでに喋った意味はありそうだ。
どうなったと熊の方からは訊かれなかったけれど、真の国王が生き返ったこと、偽の国王であった獅子を追い払ったことは掻い摘んで話した。自分たちの出立については、竹を始めとする木の妖怪たちが万一訪ねてきても、くれぐれも明日の夜まで、即ち自分たちが確実に〈錦鶏〉を離れた後まで、伝えないでほしいと頼んでおく。挨拶になど来られては堪らない。
「随分人間に入れ上げるんだな」
「人里育ちなんだよ」
未だに呑み込めないらしい野牛には苦笑した。どうもこれは理解されそうにない。
最後の最後になって、国王からマントが贈られた。輝かしい紅の、包みを開くだけで光がこぼれるような、燃える炎のようなそれは、国王も王妃も炎にはトラウマがあるわけではないのかと心配になるほど——炎のよう、だった。それとも、だから惜しみなく下賜できるのだろうか。五日で作れるとも思えないから、宝物庫にでも眠っていたのかもしれないし、季節にもあまり合っていないが、手元にある最高級品を選んだらこれになったのかもしれない。男女を問わず、背丈を問わず、使えるように工夫したらしいデザインだったけれども、本当に身にまとえる機会があるかどうかは疑問である。
「万に一つあの獅子が戻ってくるようなことがあったら、俺らが落とし前をつけに来るように、〈慈愛天女〉か〈冥府の女王〉に祈ってくださいや。気を利かせて知らせてくれるでしょう」
こちらからはそれを最後の助言に、一行は〈錦鶏集う国〉を後にした。