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作者: 古今いずこ
残酷な描写あり
第12回 狼の奮迅 青年の意地:4-1
「じゃあ、これの意味はあったんだ」

 首飾りの玉の一つにジョイドは触れた。

「これに邪魔されたから、首や口に手が届かなかったんじゃないかな。それで諦めたんだと思う」

 獣の爪をき出してのどに突きつけるようなことができなかったわけだ。なるほど人質にはしにくかっただろう。

「ジョイドはもう大丈夫なの」

「うん、平気。護符を書きまくった甲斐があった」

 護符と聞いて、セディカは反射的に手元へ視線を落とす。トシュが去り際に渡していったのは〈慈しみの君〉の護符だった。ジョイドが言うには髪の毛を変えただけのもので、力を込めて書きつけるという工程を経ていないから、護符としての効果はあまりないのだとか。純粋に目印だったということだ。

 偽国王が引き返してくる様子はなかった。ジョイドを除いて誰にも経緯を追えない一騎打ちの決着を待つ間に、セディカは本物と偽物を取り違えて斬りかかろうとした将軍に謝られ、反応に窮してジョイドに助けを求めたり、将軍を咎めないでほしいと国王に頼んだり、した。別に将軍は大袈裟な謝罪で同情を引こうとしたわけでも、当てつけにしたわけでもなかったが。

 太子の姿はなくなっていた。ジョイドが招き寄せて、国王の生還を王妃に伝えるよう耳打ちしたのだ。偽物に成り変わられていたこと、本物は殺されていたことを、王妃もなまじいに知ってしまっているわけだから。

「ちょっとショックだなあ。見分けられなかったなんて」

 目と鼻には自信があったんだけど、と鷹の息子にして犬の孫は溜め息をいた。軽い口調ではあるが、口調が主張しているよりも、実際のショックは大きそうだ。

「思ってたより、強い?」

「トシュが勝てないほどじゃないよ」

 質問の裏を的確に読み取って励ましてから、ふと空中へ目を転じる。

「でも、切り傷ぐらいは作るかもしれないから。片づいたら、迎えには行ってやろうか」

 はるか彼方で血が流れたことを犬の鼻が感じ取っていたとしても、そのことは少女に伝えられなかった。それでも少女はその言いように不安を覚えて、握り締めて皺になった形だけの護符を胸に当て、トシュをお守りくださいと〈慈しみの君〉に祈りを捧げた。


 ——ちょうど、同刻。


「勝負あったな、狼の小僧」

 大地に手足を投げ出して、トシュは荒い息を吐きながら目の前を睨みつけた。こちらも肩で息をしながらにやりと笑う青獅子が、四つの脚でその手足を押さえつけていた。
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