▼詳細検索を開く
作者: Ganndamu00
残酷な描写あり R-15
63話:東京首都防衛戦⑥
 休眠状態のエヴォルヴ相手に、作戦司令部は衛士爆弾の第二波の投入を決定した。人造衛士を積んだ爆撃機が空を舞う。
 その時、特型デストロイヤー・エヴォルヴを監視していた司令部のオペレーターの一人が突然叫んだ。

「目標内部に高エネルギー反応!」
「は!?」

 オペレーターの言葉に一変して驚く司令官。机から身を乗り出してパネルを見た。
 次々に変形していくデストロイヤー。
 形が強大な口を形成ふると、現れそこに光が集まり、高エネルギーの荷電粒子砲を発射した。
 発射された荷電粒子砲は、爆撃機を貫き、そのまま防衛陣地に光の刃を振り下ろして爆発を起こした。

「防衛陣地の一割が消滅!」
『一部防衛システムに不具合発生!』
「復旧、急いで」
 
 攻撃を終えたデストロイヤーは形を変えて再び眠りについた。
 
「予想以上の威力ね」
「どうします? これでは衛士もアーマードコアⅡ出せませんよ」
 
 XM3強化手術を終えた衛士達を引き戻す最中、複数のウィンドウを開いて殲滅に向けた作戦会議を行い始めた。そこには真昼や他の衛士の姿も揃っている。
 
「現在目標は新宿を中心に休眠状態にあります」
「狙いは恐らく自己進化。では各部署の分析結果を報告して」
「先の戦闘データから、目標は一定距離内の外敵を排除するものと推察されます。また、受け身であるため向こうからは攻撃しないでしょう」
 
 男性職員がパソコンに出したデータを見ながら報告する。デストロイヤーは一定範囲内の物体を敵と認識すれば攻撃してくるが、何もしないと襲ってこないのだ。
 
「衛士による間接戦闘は無理という事か。魔力リフレクターは?」
「健在です。おまけに位相パターンが常時変化しているため、外形も安定せず中和作業は困難を極めます」
「分子演算機による計算では、目標の魔力リフレクターをノインヴェルト戦術による攻撃方法で貫くには新宿ごとごと破壊する分量が必要との結果が出ています」

 司令部は眼鏡を掛けてデータの書かれた紙をめくる。
 
「遠距離戦もダメ。近接戦もダメ。八方塞がりか・・・・・・」
「白旗でもあげますか?」
「まさか。確か高出力砲があったわよね」
「ええ……まぁ」
「アレを使うわ」

 そしてその連絡は真昼が行う事になった。

「もしもし百由ちゃん?」
『聞こえてるわよ、アンタ。色々やからしてるみたいね。人造衛士爆弾とか聞いてないんだけど』
「黙ってたからね。レギオンのみんなの反応はどう?」
『うーん、わかんない。こっちでもデストロイヤーが活発化して忙しいのよね。それで、何の用?』
「百由ちゃんが前に使った高出力砲……あれのグレードアップ版が欲しいな」
『なんでそんな事知ってるの?』
「横浜衛士訓練校から本作戦に使えないか、って情報共有があったから」

 すると百由は苦々しいものを含む声を出した。

『うわぁ、バレてたのか。でもアレ欠陥品よ? 運用するには魔力も電力も全然足りないわ。机上の空論みたいなものよ』
「それはどうにかするから、ちょっと欲しいんだよね。そっちに輸送機飛ばしてあるから」
「まぁ、なら別に良いけど。用意しとくわね」
「ありがとう」

 通信が終わった。

「持ってかれます」
「わかった。てはこちらも準備を急ごう」
 
 そうして高出力を迎え入れる準備が始まった。補欠衛士を使った準備がされて、衛士達は仮眠をする事になっていた。
 そんな中で船田香純は呟く。

「また無茶な作戦ですこと」
「そうかしら、残り9時間以内で実現可能、おまけに最も確実なものよ?」
 
 船田初春は純を諌めるように言う。
 
「ヤシマ作戦」
「ヤシマ作戦!?」
「日本全土から電力を接収、人造衛士を搭載した魔力銃弾を使用。真島百由が提唱した理論とプロトタイプを大出力陽電子ハイパービールマグナム砲を設置。未完成で自律調整できない部分は衛士を使って精密狙撃させる」
「なんか聞いたことある!?」

 二人は資材が運び込まれて作り上げていく鋼鉄の銃砲をみる。
 
「人道的ではない作戦ですが、これしかない」
 
 そして2人は高台に上ると湖の向こうに見えるエヴォルヴの姿を捉えた。本作戦はこの場所から決行される予定になっていた。
 高台からはこちらに向かってくる車や列車が光の列になって動いている。
 
 初春はその光景を見てつぶやく。
 
「蛇の道は蛇……ということなのでしょう」
 
『今夜、午前0分より未明にかけて全国で大規模な停電があります。皆様のご協力をお願いします。繰り返します。午前0分より未明にかけて、全国で大規模な停電があります。皆様のご協力をお願いします』

 太陽が完全に沈みかけた頃、デストロイヤーは未だ眠って自己進化を続けていた。
 一方、ヤシマ作戦の準備は着々と進められている。膨大な資材と人が投入され、作戦本拠地周辺は異様な熱気に包まれていた。金と権力の力は偉大である。
 
「こちら前線本部、エネルギーシステムの見通しは?」
 
 軍用車両に設けられた仮設の部屋で司令官が状況を確認する。仮設と言っても、大量のモニターとパソコンが配備され、かなりしっかりとした作りになっている。
 
『電力系統は、新御殿場変電所と予備2箇所から直接配電させます』
『現在、引き込み用超伝導ケーブルを下二子山に向けて敷設中。変圧システム込みで・・・・・本日22時50分には全線通電の予定です』
 
 作戦司令本部に残っているオペレーター達の通信が次々と流れ込んでくる。
 
「狙撃システムの進捗状況は?」
「組立作業に問題なし。作戦開始時刻までにはなんとかします」
「狙撃手の装備状況は?」

 司令官は素早く振り返り、次々と指揮を執っていく。優秀は部下達なので思うように仕事が進むのだ。

「現在狙撃専用の装備に換装中。あと2時間で形に出来ます」
「後は衛士だけか。そろそろ起こして」

 仮説休憩室で寝ていた衛士達は通信で起こされた。

『明日の午前0時より発動されるオデッサ作戦のスケジュールを伝えます。一ノ瀬真昼、ルチア、船田香純、金色一葉、今流星は、本日1930に第2要塞に到着。以降は別命あるまで待機。明日、日付変更とともに作戦行動開始」
 
 完全に日が落ちた東京市では、エヴォルヴがサーチライトの光で照らされていた。
 それは巨大なモニュメントのように街の上空に浮かび上がっていた。もしこれが使徒ではなかったら、第3新東京市の観光スポットになっていたかもしれない。

『西箱根新線及び、南塔ノ沢架空3号線の通電完了』
 
 連結したディーゼル列車に乗せられて大量の変電設備が運び込まれる。また、陸路で輸送を行っているトラックが次々と到着する。
 
『現在、第16バンク変電設備は、設置工事を続行中』
『50万ボルト通常変圧器の設置開始は予定通り。タイムシートに変更なし』
『第28トランス群は5分遅延にて到着。担当者は結線作業を急いでください』
 
 街中の電源を集めるための変圧器が郡をなしてしてひしめき合っている。渋滞が発生するのも仕方ない。日本中の電力をここに集める準備をしているのだから。
 
『全SMESの設置完了。第2収束系統より動作確認を順次開始』
『全超伝導・超々高圧最終変圧器集団の開閉チェック完了。問題なし』
 
 真昼が射撃を行う場所に高出力砲がクレーンで運び込まれる。

『では、本作戦における各担当を伝達します』
 
 作戦司令部から通信で衛士に指示を出す。
 
『一ノ瀬真昼』
「はい」
『高出力の狙撃手を担当』
「わかりました」
『他の四人は寄ってくると予想されるヒュージや敵の魔力ビームを魔力リフレクターで守って』
『了解』

 全員の返事の後で司令部がより詳細な指示を説明する。
 
『今回はより精度の高いオペレーションが求められる。そこで真昼さんのラプラスで魔力を支配して成功度をあげる。それが鷹の目を持つ者が狙撃手じゃない理由だ』
「どこを狙えば良いんですか?」
『目標内部に超高密度の物体がある。そこがコアと推測されます。狙撃位置の特定と射撃誘導への諸元は全てこちらで入力するから。君はテキスト通りにやって。最後に真ん中のマークが揃ったタイミングでスイッチを押せばいいの。あとは機械がやってくれる』
 
 真昼達の背後で高出力砲が完成されていく。
 
『ただし、狙撃用大電力の最終放電集束ポイントはあそこの一点のみ。ゆえに一ノ瀬真昼は狙撃位置から移動できません』
 
 狙撃ポジションは1箇所しか作れないので撃って移動はできないと言っている。それはつまり――
 
「それはつまり逃げられない、というわけですね」
『ああ』
「……わかりました」

 そこで前に出たのほ船田香純だった。

「安心してくださいまし。このわたくしが守るんです。指一つつけさせまんわ」

 真昼は笑った。

「ありがとう。信用してる」
Twitter