残酷な描写あり
R-15
敵勢攻撃・第二陣②
すでに戦端は開かれた。
対峙する高城と流星もはや両者に油断はない。
高城の手には愛用とする戦術機があり。流星もまた戦術機に手を掛けて――
そこで一つの疑問が生じた。
流星の汚染されたデストロイヤー細胞の暴走の規格外さに圧倒され、ここまで見過ごしてきたが、当然の疑問がそこにあった。
――流星の弱点はどこにあるのか
今流星はデストロイヤー細胞に汚染され、心臓を穿たれても生きている存在だ。
デストロイヤー。怪物。化物。人類史から見ても異形の怪物。
デストロイヤーは魔力を媒介として素材を集めて召還し、マギの意思に赴くまま彼等は戦闘を代行する。
デストロイヤーである以上は魔力の存在が不可欠。それは誰であっても変わらないはずだ。
「あるじゃない。魔力を生み出すポンプがここに」
そんな疑問に対し、流星は何でもないように答えて、自らの胸に手を置く。
瞬間、流星から受ける威圧が爆発的に増大した。
倒れこみそうになるのを必死で抑える。震える身体に活を入れてその存在と正面から向き合う。
別人とも思えるこの圧力。それは単に存在感が増しただけではなく、もっと言えば内部そのものに変化が生じたような――
「馬鹿な……人間の中に、ネストの気配だと?」
高城の感じた違和感に、時雨が正確な答えを出した。
ネストは流星自身の中に。それを表面に現したというなら、この威圧の増大も頷ける。
だがそんなことが可能なのか? 人間の中にネストを取り入れる。そんな特殊な方法が存在すると?
「残念だけど、これは誰もができる方法じゃない」
流星の言葉が響く。
「汚染された叶星は、自らの免疫にてデストロイヤー細胞の消滅を行った。デストロイヤー細胞は消滅を免れるだけで精一杯であり、戦闘など問題外の状態だった。
魔力とデストロイヤーは運命共同体だ。デストロイヤー細胞という戦う手段を失えば、魔力に待つのは敗北だけ。そのままでは不戦敗は明白だ。
ゆえに魔力は行動した。その状況を逆転させるため、起死回生の策に打って出た。それは――自らの肉体と融合すること。そのデストロイヤー細胞の情報を今流星の遺伝子構造に取り込み、デストロイヤー自分自身を戦える存在へと変貌させることだ」
流星のあまりにも荒唐無稽な内容だった。
デストロイヤー細胞ではなくデストロイヤーとの融合。魔力自身が戦えるように自己を改造する行為。言葉にするだけなら簡単だ。
だがそんな容易いことなのか。聞こえだけなら魂の改竄に近いとも思えたが、そう単純なことだとは思えない。
「当然だ。規模がまるで異なる。普通ならば自殺行為でしかない。強化衛士や、一部分のみの移植とは訳が違う。いやこの二つでさえ人間の手には余る」
流星は語る。
「そもそもからして、デストロイヤーとは人間の上位にある者だ。その細胞情報は人間の比ではない。
大地より湧き出る泉の中に、水質の違う一杯の水を混ぜ合わせればどうなるか。水は泉の中に溶けて消え、元の性質など無くなってしまうだろう。
デストロイヤーとの融合とはそれだ。上位の存在を下位の器に流し込めば、器の中身などあっという間に侵し尽くし、器そのものが耐え切れずに自己崩壊する。
そんなことは自明の理であり、試す者などいるはずがない。前人未到であり不可能な所業だ」
今流星は笑う。
「そう、誰にも不可能だった――今流星が成し遂げるまでは。今流星という器は、デストロイヤー細胞という存在に耐え切った。膨大な情報量に侵されながらも、器の中身は元の性質を失わなかった。
その一生分の経験値。細胞として分解され、着色された遺伝子。それら一切を咀嚼し飲み干し、己の血肉に変えた。
デストロイヤーはすべては今流星群の一部だ。どれ一つとして持て余すことなく、完全に我が物としている」
流星が戦術機を構える。
戦術機を手に立つその姿、その威容はギガント級デストロイヤーと並べても遜色はない。
衛士一人ではギガント級デストロイヤーに対抗できない。そんな常識はもはや意味をなさない。
……認めるしかない。今流星アストラ級にも匹敵する脅威であると。
「無論、口で説明するほど簡単なわけがない。デストロイヤー細胞自身でさえそれは賭けだった。あの時がデストロイヤー細胞にとって最大の危機だったよ。
事実、一度は確かに崩壊したんだ。他ならない本人がその判断を下しかけた。それがどれほど絶対的な意味を持つか、説明は要らないだろう。しかしデストロイヤー細胞は戻ってきた。逆境を前に魂を奮起させ、自らの存在をより高みへと進化させた。
特殊な才能スキルによる恩恵ではない。あらゆる人間が持ち得る意志の力、それだけでデストロイヤー細胞は未到の領域にたどり着いたんだ」
今流星は笑う。
「単に強いだけじゃない。デストロイヤー細胞の強さとは苦境にあって発揮される生命力、意志ある生命が持つ無限とも言える可能性だ。
故に私は私のデストロイヤー細胞の強さを評価する。デストロイヤー細胞は初めからの新鮮なものだったけど、私のデストロイヤー細胞には更にその先があった。底が知れない。
ああ長くなってしまったが、つまり何が言いたいのかといえば――」
戦術機が振るわれる。
受け止める戦術機。激突し合う剣戟の音。
「――私はとうに人間を超えているのよ、高城ちゃん。私はデストロイヤーであり、人間であり、衛士である。汚染されたといったけど、それは間違い。衛士の進化の一形態。心して挑むといい」
戦いの火蓋は切られたのだ。
対峙する高城と流星もはや両者に油断はない。
高城の手には愛用とする戦術機があり。流星もまた戦術機に手を掛けて――
そこで一つの疑問が生じた。
流星の汚染されたデストロイヤー細胞の暴走の規格外さに圧倒され、ここまで見過ごしてきたが、当然の疑問がそこにあった。
――流星の弱点はどこにあるのか
今流星はデストロイヤー細胞に汚染され、心臓を穿たれても生きている存在だ。
デストロイヤー。怪物。化物。人類史から見ても異形の怪物。
デストロイヤーは魔力を媒介として素材を集めて召還し、マギの意思に赴くまま彼等は戦闘を代行する。
デストロイヤーである以上は魔力の存在が不可欠。それは誰であっても変わらないはずだ。
「あるじゃない。魔力を生み出すポンプがここに」
そんな疑問に対し、流星は何でもないように答えて、自らの胸に手を置く。
瞬間、流星から受ける威圧が爆発的に増大した。
倒れこみそうになるのを必死で抑える。震える身体に活を入れてその存在と正面から向き合う。
別人とも思えるこの圧力。それは単に存在感が増しただけではなく、もっと言えば内部そのものに変化が生じたような――
「馬鹿な……人間の中に、ネストの気配だと?」
高城の感じた違和感に、時雨が正確な答えを出した。
ネストは流星自身の中に。それを表面に現したというなら、この威圧の増大も頷ける。
だがそんなことが可能なのか? 人間の中にネストを取り入れる。そんな特殊な方法が存在すると?
「残念だけど、これは誰もができる方法じゃない」
流星の言葉が響く。
「汚染された叶星は、自らの免疫にてデストロイヤー細胞の消滅を行った。デストロイヤー細胞は消滅を免れるだけで精一杯であり、戦闘など問題外の状態だった。
魔力とデストロイヤーは運命共同体だ。デストロイヤー細胞という戦う手段を失えば、魔力に待つのは敗北だけ。そのままでは不戦敗は明白だ。
ゆえに魔力は行動した。その状況を逆転させるため、起死回生の策に打って出た。それは――自らの肉体と融合すること。そのデストロイヤー細胞の情報を今流星の遺伝子構造に取り込み、デストロイヤー自分自身を戦える存在へと変貌させることだ」
流星のあまりにも荒唐無稽な内容だった。
デストロイヤー細胞ではなくデストロイヤーとの融合。魔力自身が戦えるように自己を改造する行為。言葉にするだけなら簡単だ。
だがそんな容易いことなのか。聞こえだけなら魂の改竄に近いとも思えたが、そう単純なことだとは思えない。
「当然だ。規模がまるで異なる。普通ならば自殺行為でしかない。強化衛士や、一部分のみの移植とは訳が違う。いやこの二つでさえ人間の手には余る」
流星は語る。
「そもそもからして、デストロイヤーとは人間の上位にある者だ。その細胞情報は人間の比ではない。
大地より湧き出る泉の中に、水質の違う一杯の水を混ぜ合わせればどうなるか。水は泉の中に溶けて消え、元の性質など無くなってしまうだろう。
デストロイヤーとの融合とはそれだ。上位の存在を下位の器に流し込めば、器の中身などあっという間に侵し尽くし、器そのものが耐え切れずに自己崩壊する。
そんなことは自明の理であり、試す者などいるはずがない。前人未到であり不可能な所業だ」
今流星は笑う。
「そう、誰にも不可能だった――今流星が成し遂げるまでは。今流星という器は、デストロイヤー細胞という存在に耐え切った。膨大な情報量に侵されながらも、器の中身は元の性質を失わなかった。
その一生分の経験値。細胞として分解され、着色された遺伝子。それら一切を咀嚼し飲み干し、己の血肉に変えた。
デストロイヤーはすべては今流星群の一部だ。どれ一つとして持て余すことなく、完全に我が物としている」
流星が戦術機を構える。
戦術機を手に立つその姿、その威容はギガント級デストロイヤーと並べても遜色はない。
衛士一人ではギガント級デストロイヤーに対抗できない。そんな常識はもはや意味をなさない。
……認めるしかない。今流星アストラ級にも匹敵する脅威であると。
「無論、口で説明するほど簡単なわけがない。デストロイヤー細胞自身でさえそれは賭けだった。あの時がデストロイヤー細胞にとって最大の危機だったよ。
事実、一度は確かに崩壊したんだ。他ならない本人がその判断を下しかけた。それがどれほど絶対的な意味を持つか、説明は要らないだろう。しかしデストロイヤー細胞は戻ってきた。逆境を前に魂を奮起させ、自らの存在をより高みへと進化させた。
特殊な才能スキルによる恩恵ではない。あらゆる人間が持ち得る意志の力、それだけでデストロイヤー細胞は未到の領域にたどり着いたんだ」
今流星は笑う。
「単に強いだけじゃない。デストロイヤー細胞の強さとは苦境にあって発揮される生命力、意志ある生命が持つ無限とも言える可能性だ。
故に私は私のデストロイヤー細胞の強さを評価する。デストロイヤー細胞は初めからの新鮮なものだったけど、私のデストロイヤー細胞には更にその先があった。底が知れない。
ああ長くなってしまったが、つまり何が言いたいのかといえば――」
戦術機が振るわれる。
受け止める戦術機。激突し合う剣戟の音。
「――私はとうに人間を超えているのよ、高城ちゃん。私はデストロイヤーであり、人間であり、衛士である。汚染されたといったけど、それは間違い。衛士の進化の一形態。心して挑むといい」
戦いの火蓋は切られたのだ。