残酷な描写あり
R-15
敵勢攻撃・第二陣③
――ぶつかり合う二つの凶器が火花を散らす。
絶えることなく続く剣戟の響き。炸裂する金属音が、目に追えない戦いの激しさを物語っている。
音速を容易く置き去りにして交錯する刃と刃。人間の域では到底不可能な衛士の技。
前時代的な闘争であるにも関わらず、両者の戦いはまさしく兵器の領域。共に人の条理を逸脱している。
それこそが衛士の戦い。デストロイヤー戦争における闘争代行手段。魔力が齎したする超常の存在たち。
再現されるその武闘は戦場の花に相応しい。
であるならばその戦いは互角であるのか――答えは、否である。
「っ――――!」
この場における優劣は明らか。
振るわれる刃を刃が受ける。受けて、流して、防いで、その繰り返し。
傍目にも明確に、高白は流星に対して劣勢を強いられていた。
元よりアストラ級のパワーを持った衛士。
高城は白兵戦を得手とする身ではあるが、相対する彼女の力量はそれを凌駕していた。
その速度、その威力、その技巧、どれも自らより数段上。
事実、繰り出される戦術機による攻撃を、高城は捌ききれていない。
それほどに流星の攻撃は苛烈で、凄まじく、一切の容赦がなかった
「お姉様、これ」
「入れない、横槍を入れたら必ずこちらがやられる」
「かといって逃走もできない、あれから逃げることは不可能です」
周囲のデストロイヤーを殲滅した真昼達は二人の戦闘を見て、どうするか迷う。
「おおおおお!!」
雄叫びを上げながら、渾身の力を込めた一撃が振り下ろされる。
隙の有無などお構いなしに繰り出される暴力は、これまでの心眼では推し量れない。
一切の行動を放棄して回避に専念。その衝撃は触れていないにも関わらず肉を斬り裂き血を流させた。
あまりにも性質が変わりすぎている。安定した走りを見せる高速車両が、突如として暴走列車に変貌したかのような切り替り。
これが流星の本性か。先ほどまでは偽りか。いいや否だ、どちらも流星の持つ技量の一端である。
容赦なく攻撃を繰り出す流星であるが、彼女は決して勝負を急いではいない。
これほどの激戦を演じながら流星の頭にあるのはどこまでも試練なのだ。相手が倒されるよりも反撃こそを期待している。
つまりは試しているのだ。己の繰り出す一撃を相手がいかに攻略するか、その雄々しい姿を熱望して待っている。
愛する者が、自分の愛に応えてくれるか待っている。
それはまるで恋する乙女が如く。
「ああ、美味しい!! 高城ちゃんのその真剣な瞳が美味しい! 血の味が美味しい! 焦る心がおいしい。幸せよ、高城ちゃん! こんなにも愛してあえるなんて!!」
本来それは驕りとも言い換えられる。己は試す側、つまり相手よりも上だと無条件で豪語しているのだから。
そうしたものは通常、戦いにおいて隙となるものなのだが、今流星それは極めて畸形である。
仮に、必殺を期した一撃を防がれたとする。
その時に感じるものとは何か。多くの場合、それは相手の力量に対する驚愕か、誇りに泥を塗られたことへの怒りだろう。
だが今流星の場合、それは期待に応えてくれた相手への歓喜と、自らを向上させようとする奮起となる。
よくぞ防いだ素晴らしい。ならば己もより強く在らねば、と。
「流星! 目を覚まして!!」
常識を外れた思考回路は、しかし戦闘に臨む心として一つの理想に到達している。
なにせこれ、折れることを知らない。如何なる反撃を受けようと怯まず、奮い立って更なる反撃を繰り出すのだから。
課す試練には手加減というものがない。生半可な攻勢では試練となり得ないと感じており、結果として隙がなくなる。
勝負を急いでいないからと、その現状に甘えようものならば即座に戦術を切り替える。緩むことを相手に許さない。
そして苛烈がすぎるその試練に付いてこれなくなった者に待つのは、ただ無残な敗北である。
「くっ――――!」
漏れた苦悶は狂わされた計算へ向けたものか。
もはや先までの予測は通用しない。今の今流星の力は高城の能力を超えている。
であるなら、先程よりも高城は追い詰められているのかといえば、それも異なる。
技も戦術もなく振るわれる暴力は、まさに狂戦士のそれ。
全てを力に割り振った一撃は凄まじい。だが引き換えにそれまでの洗練された技の冴えは失われている。
突破口はある。暴れまわる狂戦士ならば、そのようにいなせば良い。すでに隙は見出している。
そう、隙は存在しているのだ――見え透いているほどに。
洞察している、これは誘いだと。
忘れてはならない。今流星は狂化の檻に囚われているわけではない。あくまで理性的な判断の下、自らの戦略に従って手法を変えているのだ。
突破可能な隙を自ら作り、敵にそこを攻撃するよう誘導する。他ならぬ高城自身が用いていた戦術だ。
ならば誘いに乗らなければ、というのは甘い見通しだ。今流星の暴威は強力無比。迂闊な攻め口ならば容易く叩き潰される。
目に見えた突破口は、裏を返せばそれ以外の道が存在しないことを意味している。反撃を考えれば、結局はそこしかない。
危険であると経験は告げる。
しかしこのまま徒に消耗を強いられるのも得策ではない。
進むか、退くか。迫られる決断に高城の意思が揺れる。
その時だった。
無数の炸裂音が響き渡り、二人を周囲の地形ごと破壊した。
「何だ!?」
「何!?」
真昼と時雨は困惑の声を出す。
そして、空から漆黒のユニコーンが降ってきた。黒い肢体に金色の一本角が装着されたパワーアシストアタッチメントを纏っている。
「目標、今流星の変異デストロイヤー。対象を捕縛します」
「貴方は?」
「GE.HE.NA.ユニコーン型C戦術機使用強化衛士特殊部隊所属、松村優珂」
「私と、高城ちゃんの逢瀬を邪魔して、タダで済むと思ってないわよね」
「デストロイモード起動」
「貴方は邪魔なの!」
「対象を完全沈黙させます」
松村優珂。
彼女は真昼はよく知っていた。しかしこのタイミングで現れる意図がわからない。まるで、最初から今流星が暴走するのが分かっていたかのようじゃないか。
更に捕縛用にパワーアシストアタッチメントまで用意している。
誰かの意思が働いているのを真昼は感じた。
まさしくそれは災禍の光景だった。
穿たれた大地を覆うのは炎。空には黒煙が立ち上って視界を閉ざす。
突き立っていた無数の建物は悉くが砕かれて、無残な残骸の姿を晒している。
作られた世界の上に刻まれた破壊跡。目にすればあの激突がどれほどの規模であった理解できた。
状況はほとんど把握できていない。
激突の瞬間は目を閉じていたし耳も塞いでいた。まともに受けていたらどちらの感覚も破壊されていただろう。
それでも確かに言えるのは、お互いはまだ健在だということだけだ。
たとえ何も分からない中であっても、魔力の波動だけは常に確認している。
お互いにまだ通じている。
そんな梨璃の予想を肯定するように、黒煙の中から二人が姿を現した。
さすがに無傷でない。
「ごふっ、ごはっ、あああっが!?」
今流星は血を吐いて膝を膝をつく。
「……ユニコーンタイプの中でも、この二号機バンシィは対衛士に特化した機体。衛士ならば勝てる見込みがあった。それに突然変異は体に大きな負担をかける。貴方は既に負けているのよ」
その言葉はまさに正しく、今流星に多大な出血を敷いていた。
「高城ちゃん、高城ちゃん、高城ちゃん、高城ちゃん、高城ちゃん」
こちらの思考に応えたように、黒煙の中から声が声がする。
今度は彼女も、無傷では済まなかった。
身体のいたる箇所に刃の痕を残し、血を流している。
だがこちらを讃える言葉を口にする彼に、自らの負傷を気にしている様子は微塵もなかった。
「愛して、る」
ぐしゃり、と地面に倒れた。
優珂は告げる。
「この場にいる全ての衛士に告げます。貴方達は横浜基地に来てもらいます。そして説明と検査を受けてもらいます」
戦いは終わった。だが、それでもまだ考えなければならないことは山積みだった。
GE.HE.NA.を掌握していると思っていた真昼ですら知らないことが起きてる。
絶えることなく続く剣戟の響き。炸裂する金属音が、目に追えない戦いの激しさを物語っている。
音速を容易く置き去りにして交錯する刃と刃。人間の域では到底不可能な衛士の技。
前時代的な闘争であるにも関わらず、両者の戦いはまさしく兵器の領域。共に人の条理を逸脱している。
それこそが衛士の戦い。デストロイヤー戦争における闘争代行手段。魔力が齎したする超常の存在たち。
再現されるその武闘は戦場の花に相応しい。
であるならばその戦いは互角であるのか――答えは、否である。
「っ――――!」
この場における優劣は明らか。
振るわれる刃を刃が受ける。受けて、流して、防いで、その繰り返し。
傍目にも明確に、高白は流星に対して劣勢を強いられていた。
元よりアストラ級のパワーを持った衛士。
高城は白兵戦を得手とする身ではあるが、相対する彼女の力量はそれを凌駕していた。
その速度、その威力、その技巧、どれも自らより数段上。
事実、繰り出される戦術機による攻撃を、高城は捌ききれていない。
それほどに流星の攻撃は苛烈で、凄まじく、一切の容赦がなかった
「お姉様、これ」
「入れない、横槍を入れたら必ずこちらがやられる」
「かといって逃走もできない、あれから逃げることは不可能です」
周囲のデストロイヤーを殲滅した真昼達は二人の戦闘を見て、どうするか迷う。
「おおおおお!!」
雄叫びを上げながら、渾身の力を込めた一撃が振り下ろされる。
隙の有無などお構いなしに繰り出される暴力は、これまでの心眼では推し量れない。
一切の行動を放棄して回避に専念。その衝撃は触れていないにも関わらず肉を斬り裂き血を流させた。
あまりにも性質が変わりすぎている。安定した走りを見せる高速車両が、突如として暴走列車に変貌したかのような切り替り。
これが流星の本性か。先ほどまでは偽りか。いいや否だ、どちらも流星の持つ技量の一端である。
容赦なく攻撃を繰り出す流星であるが、彼女は決して勝負を急いではいない。
これほどの激戦を演じながら流星の頭にあるのはどこまでも試練なのだ。相手が倒されるよりも反撃こそを期待している。
つまりは試しているのだ。己の繰り出す一撃を相手がいかに攻略するか、その雄々しい姿を熱望して待っている。
愛する者が、自分の愛に応えてくれるか待っている。
それはまるで恋する乙女が如く。
「ああ、美味しい!! 高城ちゃんのその真剣な瞳が美味しい! 血の味が美味しい! 焦る心がおいしい。幸せよ、高城ちゃん! こんなにも愛してあえるなんて!!」
本来それは驕りとも言い換えられる。己は試す側、つまり相手よりも上だと無条件で豪語しているのだから。
そうしたものは通常、戦いにおいて隙となるものなのだが、今流星それは極めて畸形である。
仮に、必殺を期した一撃を防がれたとする。
その時に感じるものとは何か。多くの場合、それは相手の力量に対する驚愕か、誇りに泥を塗られたことへの怒りだろう。
だが今流星の場合、それは期待に応えてくれた相手への歓喜と、自らを向上させようとする奮起となる。
よくぞ防いだ素晴らしい。ならば己もより強く在らねば、と。
「流星! 目を覚まして!!」
常識を外れた思考回路は、しかし戦闘に臨む心として一つの理想に到達している。
なにせこれ、折れることを知らない。如何なる反撃を受けようと怯まず、奮い立って更なる反撃を繰り出すのだから。
課す試練には手加減というものがない。生半可な攻勢では試練となり得ないと感じており、結果として隙がなくなる。
勝負を急いでいないからと、その現状に甘えようものならば即座に戦術を切り替える。緩むことを相手に許さない。
そして苛烈がすぎるその試練に付いてこれなくなった者に待つのは、ただ無残な敗北である。
「くっ――――!」
漏れた苦悶は狂わされた計算へ向けたものか。
もはや先までの予測は通用しない。今の今流星の力は高城の能力を超えている。
であるなら、先程よりも高城は追い詰められているのかといえば、それも異なる。
技も戦術もなく振るわれる暴力は、まさに狂戦士のそれ。
全てを力に割り振った一撃は凄まじい。だが引き換えにそれまでの洗練された技の冴えは失われている。
突破口はある。暴れまわる狂戦士ならば、そのようにいなせば良い。すでに隙は見出している。
そう、隙は存在しているのだ――見え透いているほどに。
洞察している、これは誘いだと。
忘れてはならない。今流星は狂化の檻に囚われているわけではない。あくまで理性的な判断の下、自らの戦略に従って手法を変えているのだ。
突破可能な隙を自ら作り、敵にそこを攻撃するよう誘導する。他ならぬ高城自身が用いていた戦術だ。
ならば誘いに乗らなければ、というのは甘い見通しだ。今流星の暴威は強力無比。迂闊な攻め口ならば容易く叩き潰される。
目に見えた突破口は、裏を返せばそれ以外の道が存在しないことを意味している。反撃を考えれば、結局はそこしかない。
危険であると経験は告げる。
しかしこのまま徒に消耗を強いられるのも得策ではない。
進むか、退くか。迫られる決断に高城の意思が揺れる。
その時だった。
無数の炸裂音が響き渡り、二人を周囲の地形ごと破壊した。
「何だ!?」
「何!?」
真昼と時雨は困惑の声を出す。
そして、空から漆黒のユニコーンが降ってきた。黒い肢体に金色の一本角が装着されたパワーアシストアタッチメントを纏っている。
「目標、今流星の変異デストロイヤー。対象を捕縛します」
「貴方は?」
「GE.HE.NA.ユニコーン型C戦術機使用強化衛士特殊部隊所属、松村優珂」
「私と、高城ちゃんの逢瀬を邪魔して、タダで済むと思ってないわよね」
「デストロイモード起動」
「貴方は邪魔なの!」
「対象を完全沈黙させます」
松村優珂。
彼女は真昼はよく知っていた。しかしこのタイミングで現れる意図がわからない。まるで、最初から今流星が暴走するのが分かっていたかのようじゃないか。
更に捕縛用にパワーアシストアタッチメントまで用意している。
誰かの意思が働いているのを真昼は感じた。
まさしくそれは災禍の光景だった。
穿たれた大地を覆うのは炎。空には黒煙が立ち上って視界を閉ざす。
突き立っていた無数の建物は悉くが砕かれて、無残な残骸の姿を晒している。
作られた世界の上に刻まれた破壊跡。目にすればあの激突がどれほどの規模であった理解できた。
状況はほとんど把握できていない。
激突の瞬間は目を閉じていたし耳も塞いでいた。まともに受けていたらどちらの感覚も破壊されていただろう。
それでも確かに言えるのは、お互いはまだ健在だということだけだ。
たとえ何も分からない中であっても、魔力の波動だけは常に確認している。
お互いにまだ通じている。
そんな梨璃の予想を肯定するように、黒煙の中から二人が姿を現した。
さすがに無傷でない。
「ごふっ、ごはっ、あああっが!?」
今流星は血を吐いて膝を膝をつく。
「……ユニコーンタイプの中でも、この二号機バンシィは対衛士に特化した機体。衛士ならば勝てる見込みがあった。それに突然変異は体に大きな負担をかける。貴方は既に負けているのよ」
その言葉はまさに正しく、今流星に多大な出血を敷いていた。
「高城ちゃん、高城ちゃん、高城ちゃん、高城ちゃん、高城ちゃん」
こちらの思考に応えたように、黒煙の中から声が声がする。
今度は彼女も、無傷では済まなかった。
身体のいたる箇所に刃の痕を残し、血を流している。
だがこちらを讃える言葉を口にする彼に、自らの負傷を気にしている様子は微塵もなかった。
「愛して、る」
ぐしゃり、と地面に倒れた。
優珂は告げる。
「この場にいる全ての衛士に告げます。貴方達は横浜基地に来てもらいます。そして説明と検査を受けてもらいます」
戦いは終わった。だが、それでもまだ考えなければならないことは山積みだった。
GE.HE.NA.を掌握していると思っていた真昼ですら知らないことが起きてる。