#3
『ヒーローに、ならなきゃ。』
一方ここは創家。
どうやら快は出かける準備をしているようだ。
手に持ったスマホには瀬川とのLINEトーク画面が開かれている。
『ごめん、俺が誘ったばかりに……』
文面で快が今回の事件に巻き込まれたのは自分が高円寺に誘ったせいだと言うような事が書かれている。
それに対し快は簡単に「お前のせいじゃない」とだけ返した。
そして玄関に向かいスマホをポケットにしまう。
「え、どこ行くの……?」
玄関で靴を履いていると姉である美宇が心配そうに声を掛けて来た。
「与方さんのお見舞い……」
快は撃たれた事により入院した愛里のお見舞いに向かうのだ。
しかし美宇は止めようとして来る。
「割と病院遠いでしょ、どうしても行かなきゃダメ……?」
何故こんな風に止めるのか分からなかった。
「だって俺のせいで怪我させちゃったんだ、意識戻ったみたいだし謝りたい……」
しかし美宇も退かない。
「快が外出る度に事件に巻き込まれるから心配なのっ、一人で待ってる間どんだけ怖いと思ってるの……?」
そして本音をぶつける。
「父さんと母さんが殺された時一人で家で待ってた時を思い出すの、お願いだから心配かけないで……?」
美宇はかつての自分を思い出していた。
一人で家で待っていて中々家族が帰って来ないので心配になっていた所に警察から電話が。
訃報を知らされた時に絶望、一人で待っている事が怖くなったのだ。
「〜〜っ」
しかし快にも秘めた想いがある。
どうしても美宇が鬱陶しく感じてしまう。
「俺だってヒーローになれずにもどかしいままでいるのは嫌なんだ、何もしないでいられない……っ!!」
そう言って腕を掴んで来る美宇の手を無理やり離し家を出る。
「待って……!!」
玄関には髪の乱れた美宇が一人へたり込んでいた。
☆
何とか美宇を振り切った快は一人で愛里の入院する病院へ来ていた。
エレベーターに乗りLINEで送られて来た番号の病室へ向かう。
「(707号室か……)」
その病室の前までやって来ると中から話し声が聞こえた。
愛里の声ともう一人分の女性の声。
これは咲希のものだろうか。
「え⁈じゃあ創のこと庇って撃たれたって事⁈」
驚くような咲希の声が聞こえる。
「アイツ、ヒーローになりたいとか言っておきながら……」
それを聞いた快は思わずドアノブに掛けようとした手を止めてしまう。
「そこまで言わないであげてよ、快くんだって選ばされて辛かったろうし……」
愛里は庇ってくれていたが。
しかし"また"庇ってもらったという事実に余計に胸が苦しくなる。
「え、ていうか快くんの夢知ってるの?」
愛里は快が直接話してくれるまで知らなかった。
全く二人が話している様子を見ていなかったため咲希が知っているのは驚きだったのだ。
「一応小学校のころ同級生でさ、アイツ高々と"ヒーローになる"とか宣言してたのよ」
咲希はかつての荒れていた快の様子を思い出した。
「その割にしょっちゅう問題起こしてさ、ヒーローの器じゃないと思ってたんだけど……」
咲希には咲希なりの思う事がある、彼女にとって愛里と快の能力は何よりも大切だから。
しかしそんな事情を知る由もない快はただただ自分が悪く言われたと感じ最悪な気分になった。
「〜〜っ」
そのまま病室には入らずその場を後にした。
早歩きで病院の廊下を歩き去ろうとする。
「はぁ、はぁ……」
その道中に動悸が激しくなる、パニック発作がこんな時に起こってしまったのだ。
一息ついて動悸を抑えるために快は病院内の自販機で缶コーラを買い入口前のベンチの腰掛けた。
するとそこである人物が。
「……アンタ何してんの?」
その人物とは先程まで愛里の病室にいた咲希だった。
どうやら丁度帰る所らしい。
「あ、河島さん……」
鋭い瞳で快の顔を見て来る咲希に少し恐怖を感じてしまう。
先程聞いてしまった会話の内容もあってか何と話せば良いか分からなかった。
「愛里のお見舞い来たの?」
「あ、うん……そのつもりなんだけど何かどんな顔して会えばいいのか分からなくて……」
上手く呂律が回らずに言葉を伝えられたか分からない。
しかしその心配はいらず咲希には伝えたい意図が伝わったようだ。
「……行くなら早く行ってあげな?愛里も待ってると思うし」
そう言う咲希だが快は悪い癖で卑屈になってしまう。
「本当に待ってくれてるのかな……?俺のせいで怪我させちゃったし、せっかくヒーローになること応援してくれた矢先にこれじゃ……」
そんなネガティブ発言をする快に咲希は呆れる。
「はぁ、アンタもアンタで色々面倒だね」
「どういう事……?」
「こっちの話」
そこから咲希は少しアドバイスをした。
「あのさ、ここで行かなきゃ本当にヒーロー失格だよ?責任も果たせないようなヤツが真のヒーローになれると思う?」
その言葉を聞いて快は少し考える。
元々責任を感じていたからここに来たという事を思い出した。
「……分かったよ」
重い腰を何とか持ち上げて快は病院の中へ戻って行った。
☆
愛里の入院している707号室の前に戻って来た快。
恐る恐る扉をノックするといつもの彼女の声が聞こえた。
「はーい」
元気そうな事に安心したがやはりドアを開ける事には緊張してしまう。
ゆっくりと非常に重たく感じる扉を開けるとそこにはベッドに横たわった病院服姿の愛里がいた。
「快くん!来てくれたの?」
「うん……」
優しい笑顔を見せる愛里に喜んでくれているのだと少し安心した。
ベッドの横の椅子に腰掛け何から話そうかと考える。
すると。
「あ……」
机や棚の上にお見舞いで持って来られたであろうお菓子や果物が置いてあるのを見て何も用意していない事に気付く。
「ごめん、見舞いの品とか考えてなかった……」
とにかく責任やヒーローとして相応しいのかという事ばかり考えてしまっていたためだ。
「いいのいいの、快くんだって大変だったのに来てくれただけで嬉しい!」
しかし愛里は明るい笑顔を見せながら答えてくれた。
その笑った表情を見て快は胸が打たれる。
「凄いな与方さんは、あんな事があったのに笑顔でいられてさ」
羨ましいとすら思ってしまう。
「俺なんかずっとあの日のこと考えっぱなしで……」
ずっと後悔し続けてしまい思考が止まらない自分と愛里との差も感じてしまっていた。
「そっか、やっぱり辛いよね……」
すると愛里は同情するように言う。
「実は私も無理してるだけなんだ、みんなに心配掛けたくなくて……」
少し笑顔を崩して悲しそうな目になった。
「英美ちゃんの事も思い出しちゃって辛かった、こんなこと話せるの快くんとかさっちゃんだけだから来てくれて嬉しい」
そう言ってくれるのは非常に嬉しい。
少し快の心の枷も緩くなった気がした。
「快くんはあれからどうやって助かったの?」
「俺はゼノメサイアが助けてくれて……」
少しでも自分の他の姿での株を上げようと言ってみる。
「そっか、ゼノメサイアも危なかったみたいだよね〜」
「っ……」
「何か凄い組織みたいなの来たんでしょ?一緒に守ってくれる仲間がやってきてみんなもきっと安心できるよね」
何の悪気もなく言う愛里だからこそ余計に快は胸が苦しくなってしまう。
心の枷が軽くなった矢先の言葉だったため余計にダメージが大きかった。
「(違う、俺は要らないって証明されちまったんだ……!!)」
新たな戦闘組織の登場により自分は要らない、価値などないと改めて実感させられてしまう。
「俺はヒーローになれなかった……」
小さく呟くと愛里は一瞬何の事か分からないような素振りを見せる。
「……?」
しかしすぐに快の心情は理解し慰めるための言葉を放つ。
「ううん、快くんだって頑張ってくれたじゃん」
「え……?」
「純希くんと一緒に助けてくれたでしょ?私二人ともに感謝してる!」
そう言われてルシフェルに選択を迫られた時の事を思い出す。
「いや何も出来てないよ……結局俺は選べなくて純希が全部やってくれた、んで結局与方さんも撃たれちゃったじゃん……」
また卑屈な考えが止まらなくなってしまう。
せっかく愛里が励ましてくれたというのにこれでは申し訳が立たない。
「そんな事っ……」
否定しようとする愛里だがここでただ綺麗事を言うのは違うと思い言いとどまった。
「ごめん、俺帰るね……」
最悪の気分だった、せっかく責任を果たそうとしたというのに自分の事ばかり考えてしまった。
愛里も静止しようとするがそれすらやめて快が病室を小さな背中を見せながら出て行くのをジッと見つめていた。
「純希も愛されるヒーローだ……」
病室を出たすぐの壁に寄りかかり苦しそうにそう呟いた。
つづく
どうやら快は出かける準備をしているようだ。
手に持ったスマホには瀬川とのLINEトーク画面が開かれている。
『ごめん、俺が誘ったばかりに……』
文面で快が今回の事件に巻き込まれたのは自分が高円寺に誘ったせいだと言うような事が書かれている。
それに対し快は簡単に「お前のせいじゃない」とだけ返した。
そして玄関に向かいスマホをポケットにしまう。
「え、どこ行くの……?」
玄関で靴を履いていると姉である美宇が心配そうに声を掛けて来た。
「与方さんのお見舞い……」
快は撃たれた事により入院した愛里のお見舞いに向かうのだ。
しかし美宇は止めようとして来る。
「割と病院遠いでしょ、どうしても行かなきゃダメ……?」
何故こんな風に止めるのか分からなかった。
「だって俺のせいで怪我させちゃったんだ、意識戻ったみたいだし謝りたい……」
しかし美宇も退かない。
「快が外出る度に事件に巻き込まれるから心配なのっ、一人で待ってる間どんだけ怖いと思ってるの……?」
そして本音をぶつける。
「父さんと母さんが殺された時一人で家で待ってた時を思い出すの、お願いだから心配かけないで……?」
美宇はかつての自分を思い出していた。
一人で家で待っていて中々家族が帰って来ないので心配になっていた所に警察から電話が。
訃報を知らされた時に絶望、一人で待っている事が怖くなったのだ。
「〜〜っ」
しかし快にも秘めた想いがある。
どうしても美宇が鬱陶しく感じてしまう。
「俺だってヒーローになれずにもどかしいままでいるのは嫌なんだ、何もしないでいられない……っ!!」
そう言って腕を掴んで来る美宇の手を無理やり離し家を出る。
「待って……!!」
玄関には髪の乱れた美宇が一人へたり込んでいた。
☆
何とか美宇を振り切った快は一人で愛里の入院する病院へ来ていた。
エレベーターに乗りLINEで送られて来た番号の病室へ向かう。
「(707号室か……)」
その病室の前までやって来ると中から話し声が聞こえた。
愛里の声ともう一人分の女性の声。
これは咲希のものだろうか。
「え⁈じゃあ創のこと庇って撃たれたって事⁈」
驚くような咲希の声が聞こえる。
「アイツ、ヒーローになりたいとか言っておきながら……」
それを聞いた快は思わずドアノブに掛けようとした手を止めてしまう。
「そこまで言わないであげてよ、快くんだって選ばされて辛かったろうし……」
愛里は庇ってくれていたが。
しかし"また"庇ってもらったという事実に余計に胸が苦しくなる。
「え、ていうか快くんの夢知ってるの?」
愛里は快が直接話してくれるまで知らなかった。
全く二人が話している様子を見ていなかったため咲希が知っているのは驚きだったのだ。
「一応小学校のころ同級生でさ、アイツ高々と"ヒーローになる"とか宣言してたのよ」
咲希はかつての荒れていた快の様子を思い出した。
「その割にしょっちゅう問題起こしてさ、ヒーローの器じゃないと思ってたんだけど……」
咲希には咲希なりの思う事がある、彼女にとって愛里と快の能力は何よりも大切だから。
しかしそんな事情を知る由もない快はただただ自分が悪く言われたと感じ最悪な気分になった。
「〜〜っ」
そのまま病室には入らずその場を後にした。
早歩きで病院の廊下を歩き去ろうとする。
「はぁ、はぁ……」
その道中に動悸が激しくなる、パニック発作がこんな時に起こってしまったのだ。
一息ついて動悸を抑えるために快は病院内の自販機で缶コーラを買い入口前のベンチの腰掛けた。
するとそこである人物が。
「……アンタ何してんの?」
その人物とは先程まで愛里の病室にいた咲希だった。
どうやら丁度帰る所らしい。
「あ、河島さん……」
鋭い瞳で快の顔を見て来る咲希に少し恐怖を感じてしまう。
先程聞いてしまった会話の内容もあってか何と話せば良いか分からなかった。
「愛里のお見舞い来たの?」
「あ、うん……そのつもりなんだけど何かどんな顔して会えばいいのか分からなくて……」
上手く呂律が回らずに言葉を伝えられたか分からない。
しかしその心配はいらず咲希には伝えたい意図が伝わったようだ。
「……行くなら早く行ってあげな?愛里も待ってると思うし」
そう言う咲希だが快は悪い癖で卑屈になってしまう。
「本当に待ってくれてるのかな……?俺のせいで怪我させちゃったし、せっかくヒーローになること応援してくれた矢先にこれじゃ……」
そんなネガティブ発言をする快に咲希は呆れる。
「はぁ、アンタもアンタで色々面倒だね」
「どういう事……?」
「こっちの話」
そこから咲希は少しアドバイスをした。
「あのさ、ここで行かなきゃ本当にヒーロー失格だよ?責任も果たせないようなヤツが真のヒーローになれると思う?」
その言葉を聞いて快は少し考える。
元々責任を感じていたからここに来たという事を思い出した。
「……分かったよ」
重い腰を何とか持ち上げて快は病院の中へ戻って行った。
☆
愛里の入院している707号室の前に戻って来た快。
恐る恐る扉をノックするといつもの彼女の声が聞こえた。
「はーい」
元気そうな事に安心したがやはりドアを開ける事には緊張してしまう。
ゆっくりと非常に重たく感じる扉を開けるとそこにはベッドに横たわった病院服姿の愛里がいた。
「快くん!来てくれたの?」
「うん……」
優しい笑顔を見せる愛里に喜んでくれているのだと少し安心した。
ベッドの横の椅子に腰掛け何から話そうかと考える。
すると。
「あ……」
机や棚の上にお見舞いで持って来られたであろうお菓子や果物が置いてあるのを見て何も用意していない事に気付く。
「ごめん、見舞いの品とか考えてなかった……」
とにかく責任やヒーローとして相応しいのかという事ばかり考えてしまっていたためだ。
「いいのいいの、快くんだって大変だったのに来てくれただけで嬉しい!」
しかし愛里は明るい笑顔を見せながら答えてくれた。
その笑った表情を見て快は胸が打たれる。
「凄いな与方さんは、あんな事があったのに笑顔でいられてさ」
羨ましいとすら思ってしまう。
「俺なんかずっとあの日のこと考えっぱなしで……」
ずっと後悔し続けてしまい思考が止まらない自分と愛里との差も感じてしまっていた。
「そっか、やっぱり辛いよね……」
すると愛里は同情するように言う。
「実は私も無理してるだけなんだ、みんなに心配掛けたくなくて……」
少し笑顔を崩して悲しそうな目になった。
「英美ちゃんの事も思い出しちゃって辛かった、こんなこと話せるの快くんとかさっちゃんだけだから来てくれて嬉しい」
そう言ってくれるのは非常に嬉しい。
少し快の心の枷も緩くなった気がした。
「快くんはあれからどうやって助かったの?」
「俺はゼノメサイアが助けてくれて……」
少しでも自分の他の姿での株を上げようと言ってみる。
「そっか、ゼノメサイアも危なかったみたいだよね〜」
「っ……」
「何か凄い組織みたいなの来たんでしょ?一緒に守ってくれる仲間がやってきてみんなもきっと安心できるよね」
何の悪気もなく言う愛里だからこそ余計に快は胸が苦しくなってしまう。
心の枷が軽くなった矢先の言葉だったため余計にダメージが大きかった。
「(違う、俺は要らないって証明されちまったんだ……!!)」
新たな戦闘組織の登場により自分は要らない、価値などないと改めて実感させられてしまう。
「俺はヒーローになれなかった……」
小さく呟くと愛里は一瞬何の事か分からないような素振りを見せる。
「……?」
しかしすぐに快の心情は理解し慰めるための言葉を放つ。
「ううん、快くんだって頑張ってくれたじゃん」
「え……?」
「純希くんと一緒に助けてくれたでしょ?私二人ともに感謝してる!」
そう言われてルシフェルに選択を迫られた時の事を思い出す。
「いや何も出来てないよ……結局俺は選べなくて純希が全部やってくれた、んで結局与方さんも撃たれちゃったじゃん……」
また卑屈な考えが止まらなくなってしまう。
せっかく愛里が励ましてくれたというのにこれでは申し訳が立たない。
「そんな事っ……」
否定しようとする愛里だがここでただ綺麗事を言うのは違うと思い言いとどまった。
「ごめん、俺帰るね……」
最悪の気分だった、せっかく責任を果たそうとしたというのに自分の事ばかり考えてしまった。
愛里も静止しようとするがそれすらやめて快が病室を小さな背中を見せながら出て行くのをジッと見つめていた。
「純希も愛されるヒーローだ……」
病室を出たすぐの壁に寄りかかり苦しそうにそう呟いた。
つづく
つづきます