#1
『ヒーローに、ならなきゃ。』
散々な言われようだった陽。
悔しさから深夜遅くまで一人で訓練をしていた。
コックピットに乗り仮想空間の中でダミー罪獣と戦っている。
「ぐぅっ……⁈」
レベルは少し低めに設定してあるがやはり上手く戦えない。
コックピットの窓に反射したアモンが声を掛ける。
『だから俺に代われって、お前だって本当は戦いたくないんだろ?』
「そうだけどっ、怖いけど……そのせいで君がっ!」
何やら過去を戒めに使命感を得ているようだ。
一向に譲る気はないらしい。
「僕自身の力でやらなきゃ生きてる意味がないっ!」
そうしてダミー罪獣へ攻撃を加えようとするConnect ONE実働部隊TWELVE隊員の陽・ドゥブジー。
一方で東京の高校では一人の青年が同じような想いをしていた。
「うぅっ……!!」
グラウンドで走り幅跳びをする快。
記録は前より少しずつ伸びてはいるが。
「(誰も見てくれない……)」
みんな瀬川の方ばかりを見てこちらには見向きもしなくなった。
記録係の先生すら特に何も言わない。
瀬川が参加してくれるのは嬉しい事だと思ったが逆に不安な気持ちにさせられている。
好きの反対は嫌いではなく無関心とはよく言ったものだ、今の快は非難されていた頃より圧倒的な孤独感を覚えていた。
「与方さん……」
遠くから走る愛里を見つめるが彼女も話しかけてくれる事はなくなった。
ただ以前よりも遥かにに無理をしているという感じはする。
快の発言が余計だったのだろうか。
「ほらみんなしっかりして!瀬川くんに任せっきりじゃダメだよ!」
どこか焦ったように瀬川の参加で少し気楽になっているクラスメイト達を激励する。
「みんなで掴む優勝なんだから瀬川くん一人の力で勝っても意味ないでしょ?」
しかしクラスメイト達は雰囲気を壊されたと言わんばかりに静かになる。
中には貧乏ゆすりをしている者もいた。
「ねぇ愛里」
そこで愛里の友人である咲希が立ち上がる。
「もうアイツの真似はやめな?分かったでしょ、勇山英美がどんな存在だったか」
死んだ親友である英美の真似事であると言う咲希。
どうやら愛里にとっては図星だったようで悲しませてしまった。
「そんなの信じたくないよ……っ」
そしてあまりのショックに涙を流しながら去って行く。
他のクラスメイト達は少し愛里をウザく感じているようだ。
「何なんだよアイツ、本当におかしくなっちまった……」
「でも可哀想だよな、親友が死んで間もないのに銃撃事件に巻き込まれて……無理ないよ」
野球部の委員長がフォローするが彼らにとって鬱陶しい存在であった事に変わりはない。
すると咲希がポツリと呟いた。
「さぁどうするのヒーロー?」
そう呟いた視線の先には遠くから心配そうに愛里を見つめる快の姿があった。
『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』
第8界 ウラヤマシイ
深夜の訓練をしていた陽。
あまりに夢中だったためもう何度目か分からない撃墜をされた。
流石に虚しくなりコックピットから降りるとそこにはある人物がいた。
「お疲れ、頑張ってんじゃん」
その人物とは竜司だった。
ラフな格好なので仕事は終えているのだという事が分かる。
「いつから見てたの……?」
「ついさっきだよ。最後の惜しかったなぁ」
「っ……」
他の職員たちとは違い笑顔を見せて決して責める事はない竜司に少し申し訳なくなり顔を隠す。
一番距離が近く共に前線に出る仲間だからこそ自分の不甲斐なさから余計に顔を合わせづらくなったのだ。
「恥ずかしがる事ないぜ?確実に成長してるからよ」
「でも差があり過ぎる、早く追い付かないと迷惑かけちゃうから……っ」
まるで前回の快と似たような事を言う。
そこまで彼らは似ているのだ。
「てか悩んでる事あるなら相談してくれよ、せっかくの仲間なんだからさ」
「え……?」
「実戦になると性格変わるだろ?その事とか色々教えてくれよ」
「…………っ」
アモンの事を仲間に問われてしまった。
ここは話すべきだろうか、彼は仲間だと言ってくれている。
「話したくないなら無理にとは言わないけどな、まぁ仲間の事は把握しておきたいんだよ」
そう言われて決意が固まった。
「じゃあ聞いてくれる……?僕の話」
恐る恐る竜司へ顔を向けると彼は笑っていた。
「よしきた!」
心配の必要など無かったようだ。
後は過去の話を信じてくれるかどうかである。
☆
自身の過去について語り出す陽。
アモンについても諸々説明をした。
「僕の陽・ドゥブジーって名前から分かると思うけどハーフなんだ、中東系の……」
「確かに顔も若干向こうの面影あるな」
本部の休憩室にあるベンチに座り自販機で買った缶コーヒーを啜りながら話す。
「それで十年前まで向こうに住んでた、でも紛争が起こったんだ……」
陽は当時を鮮明に思い出していた。
「十五歳だった僕は少年兵に駆り出されてそこでも今みたいに役立たずで迷惑かけてたよ、そんな時に一人だけ優しかったのがアモンだ……」
ここでアモンの名前が出て来た。
「アモン?」
当然竜司は知らない反応をする。
陽はここでアモンと初めて話した時の事を思い出していた。
『お前、戦争向いてねぇよ』
『分かってるよ……辞めたい、死にたくない』
崩れた建物の影で震える陽に手を差し伸べるアモン。
『じゃあ俺がお前を生かしてやる、死ぬんじゃねぇぞ』
ここから陽とアモンの関係が始まった。
アモンは陽を守るために戦い続けたが流れ弾を食らってしまい致命傷を負った。
『アモンっ!死ぬな!』
腹部から血が流れるアモンを抱き抱える陽。
もうアモンは死んでしまうだろう。
『無事だな?最期まで守れて良かった……』
深い傷を負っても陽の心配をしている。
『何で、何でそんなに僕を助けてくれるんだ……』
『深い理由はねぇ……ただお前の居場所はここじゃない、もっとお前に合った場所があるはずだ、戦うしか能のない俺と違ってな……』
『そんな事のために……っ⁈』
『頼む、死ぬんじゃねぇぞ……本当はもっと守ってやりたかった……』
そう言ってアモンは息絶えた。
絶望に苦しむ陽。
その話を聞いた竜司は絶句した。
「お前、そんなに辛い想いしてたのか……」
そしてそれからの事を陽は軽く説明する。
「それから少し経つと僕にアモンの人格が宿るようになった。サングラスを掛けると変わるんだ……」
証拠品のようにサングラスを見せつける。
「僕のイメージに過ぎないのか本当にアモンの魂なのかは分からない、でもアモンの遺品だったサングラスには間違いなく彼がいるよ……」
予想以上に重たい話だったため何も言えない竜司。
ただ謝る事にした。
「ごめん、軽い気持ちで聞いちまって……」
明らかに声が弱々しくなっている。
「良いんだ、結局話す事になってたと思うから……」
そして今の自分の気持ちを語り出した。
「アモンの人格が宿るようになってからこの組織に誘われて日本に来た、きっとアモンの力が認められたんだ。でも前と同じでまた迷惑掛けちゃってるよ……」
昔も今も変わらないと嘆く。
「せっかく生かされたんだ、僕が強くなって役に立たないとアモンが死んだ意味が無くなっちゃう……っ」
それが今の陽の悩める理由だと理解した竜司は何とか励まそうとした。
しかし上手い言葉が出てこない。
「ん〜っ、何て言えば良いのかな……?」
そして何とか言葉を振り絞る。
「上手く言えないけどさ、俺は支えたいと思った。だから辛い事あったら頼ってくれよ?」
「ありがとう……」
「俺も蘭子ちゃんも隊長もいきなり組織に誘われてパイロット任されてお前と似たような気持ちだろうからさ、寄り添ってやれるよ」
「うん、そうだね……」
そう返事をする陽だったが心のモヤはまだまだ晴れなかった。
一体どうすれば乗り越える事が出来るのだろうか。
つづく
悔しさから深夜遅くまで一人で訓練をしていた。
コックピットに乗り仮想空間の中でダミー罪獣と戦っている。
「ぐぅっ……⁈」
レベルは少し低めに設定してあるがやはり上手く戦えない。
コックピットの窓に反射したアモンが声を掛ける。
『だから俺に代われって、お前だって本当は戦いたくないんだろ?』
「そうだけどっ、怖いけど……そのせいで君がっ!」
何やら過去を戒めに使命感を得ているようだ。
一向に譲る気はないらしい。
「僕自身の力でやらなきゃ生きてる意味がないっ!」
そうしてダミー罪獣へ攻撃を加えようとするConnect ONE実働部隊TWELVE隊員の陽・ドゥブジー。
一方で東京の高校では一人の青年が同じような想いをしていた。
「うぅっ……!!」
グラウンドで走り幅跳びをする快。
記録は前より少しずつ伸びてはいるが。
「(誰も見てくれない……)」
みんな瀬川の方ばかりを見てこちらには見向きもしなくなった。
記録係の先生すら特に何も言わない。
瀬川が参加してくれるのは嬉しい事だと思ったが逆に不安な気持ちにさせられている。
好きの反対は嫌いではなく無関心とはよく言ったものだ、今の快は非難されていた頃より圧倒的な孤独感を覚えていた。
「与方さん……」
遠くから走る愛里を見つめるが彼女も話しかけてくれる事はなくなった。
ただ以前よりも遥かにに無理をしているという感じはする。
快の発言が余計だったのだろうか。
「ほらみんなしっかりして!瀬川くんに任せっきりじゃダメだよ!」
どこか焦ったように瀬川の参加で少し気楽になっているクラスメイト達を激励する。
「みんなで掴む優勝なんだから瀬川くん一人の力で勝っても意味ないでしょ?」
しかしクラスメイト達は雰囲気を壊されたと言わんばかりに静かになる。
中には貧乏ゆすりをしている者もいた。
「ねぇ愛里」
そこで愛里の友人である咲希が立ち上がる。
「もうアイツの真似はやめな?分かったでしょ、勇山英美がどんな存在だったか」
死んだ親友である英美の真似事であると言う咲希。
どうやら愛里にとっては図星だったようで悲しませてしまった。
「そんなの信じたくないよ……っ」
そしてあまりのショックに涙を流しながら去って行く。
他のクラスメイト達は少し愛里をウザく感じているようだ。
「何なんだよアイツ、本当におかしくなっちまった……」
「でも可哀想だよな、親友が死んで間もないのに銃撃事件に巻き込まれて……無理ないよ」
野球部の委員長がフォローするが彼らにとって鬱陶しい存在であった事に変わりはない。
すると咲希がポツリと呟いた。
「さぁどうするのヒーロー?」
そう呟いた視線の先には遠くから心配そうに愛里を見つめる快の姿があった。
『XenoMessiaN-ゼノメサイアN-』
第8界 ウラヤマシイ
深夜の訓練をしていた陽。
あまりに夢中だったためもう何度目か分からない撃墜をされた。
流石に虚しくなりコックピットから降りるとそこにはある人物がいた。
「お疲れ、頑張ってんじゃん」
その人物とは竜司だった。
ラフな格好なので仕事は終えているのだという事が分かる。
「いつから見てたの……?」
「ついさっきだよ。最後の惜しかったなぁ」
「っ……」
他の職員たちとは違い笑顔を見せて決して責める事はない竜司に少し申し訳なくなり顔を隠す。
一番距離が近く共に前線に出る仲間だからこそ自分の不甲斐なさから余計に顔を合わせづらくなったのだ。
「恥ずかしがる事ないぜ?確実に成長してるからよ」
「でも差があり過ぎる、早く追い付かないと迷惑かけちゃうから……っ」
まるで前回の快と似たような事を言う。
そこまで彼らは似ているのだ。
「てか悩んでる事あるなら相談してくれよ、せっかくの仲間なんだからさ」
「え……?」
「実戦になると性格変わるだろ?その事とか色々教えてくれよ」
「…………っ」
アモンの事を仲間に問われてしまった。
ここは話すべきだろうか、彼は仲間だと言ってくれている。
「話したくないなら無理にとは言わないけどな、まぁ仲間の事は把握しておきたいんだよ」
そう言われて決意が固まった。
「じゃあ聞いてくれる……?僕の話」
恐る恐る竜司へ顔を向けると彼は笑っていた。
「よしきた!」
心配の必要など無かったようだ。
後は過去の話を信じてくれるかどうかである。
☆
自身の過去について語り出す陽。
アモンについても諸々説明をした。
「僕の陽・ドゥブジーって名前から分かると思うけどハーフなんだ、中東系の……」
「確かに顔も若干向こうの面影あるな」
本部の休憩室にあるベンチに座り自販機で買った缶コーヒーを啜りながら話す。
「それで十年前まで向こうに住んでた、でも紛争が起こったんだ……」
陽は当時を鮮明に思い出していた。
「十五歳だった僕は少年兵に駆り出されてそこでも今みたいに役立たずで迷惑かけてたよ、そんな時に一人だけ優しかったのがアモンだ……」
ここでアモンの名前が出て来た。
「アモン?」
当然竜司は知らない反応をする。
陽はここでアモンと初めて話した時の事を思い出していた。
『お前、戦争向いてねぇよ』
『分かってるよ……辞めたい、死にたくない』
崩れた建物の影で震える陽に手を差し伸べるアモン。
『じゃあ俺がお前を生かしてやる、死ぬんじゃねぇぞ』
ここから陽とアモンの関係が始まった。
アモンは陽を守るために戦い続けたが流れ弾を食らってしまい致命傷を負った。
『アモンっ!死ぬな!』
腹部から血が流れるアモンを抱き抱える陽。
もうアモンは死んでしまうだろう。
『無事だな?最期まで守れて良かった……』
深い傷を負っても陽の心配をしている。
『何で、何でそんなに僕を助けてくれるんだ……』
『深い理由はねぇ……ただお前の居場所はここじゃない、もっとお前に合った場所があるはずだ、戦うしか能のない俺と違ってな……』
『そんな事のために……っ⁈』
『頼む、死ぬんじゃねぇぞ……本当はもっと守ってやりたかった……』
そう言ってアモンは息絶えた。
絶望に苦しむ陽。
その話を聞いた竜司は絶句した。
「お前、そんなに辛い想いしてたのか……」
そしてそれからの事を陽は軽く説明する。
「それから少し経つと僕にアモンの人格が宿るようになった。サングラスを掛けると変わるんだ……」
証拠品のようにサングラスを見せつける。
「僕のイメージに過ぎないのか本当にアモンの魂なのかは分からない、でもアモンの遺品だったサングラスには間違いなく彼がいるよ……」
予想以上に重たい話だったため何も言えない竜司。
ただ謝る事にした。
「ごめん、軽い気持ちで聞いちまって……」
明らかに声が弱々しくなっている。
「良いんだ、結局話す事になってたと思うから……」
そして今の自分の気持ちを語り出した。
「アモンの人格が宿るようになってからこの組織に誘われて日本に来た、きっとアモンの力が認められたんだ。でも前と同じでまた迷惑掛けちゃってるよ……」
昔も今も変わらないと嘆く。
「せっかく生かされたんだ、僕が強くなって役に立たないとアモンが死んだ意味が無くなっちゃう……っ」
それが今の陽の悩める理由だと理解した竜司は何とか励まそうとした。
しかし上手い言葉が出てこない。
「ん〜っ、何て言えば良いのかな……?」
そして何とか言葉を振り絞る。
「上手く言えないけどさ、俺は支えたいと思った。だから辛い事あったら頼ってくれよ?」
「ありがとう……」
「俺も蘭子ちゃんも隊長もいきなり組織に誘われてパイロット任されてお前と似たような気持ちだろうからさ、寄り添ってやれるよ」
「うん、そうだね……」
そう返事をする陽だったが心のモヤはまだまだ晴れなかった。
一体どうすれば乗り越える事が出来るのだろうか。
つづく
つづきます