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作者: 甲斐てつろう
#2
『ヒーローに、ならなきゃ。』
陽と竜司が深夜に訓練室で話していたタイミングで本部中のサイレンが鳴り響く。
ヴーッ!ヴーッ!
と耳をつん裂くような不快な音である。

「まさか罪獣……⁈」

「こんな時にっ!」

慌てて立ち上がる陽と竜司。
走って司令室まで行き指示を貰おうとするが竜司は陽が心配だった。

「てか陽、お前大丈夫かそんな状態で?」

先程までピリピリしながら訓練していたため今の精神状態を確かめる。

「っ……」

振り返ると陽は少し震えていた。
拳を握り締めながら何か自分に言い聞かせているようだ。

「大丈夫、強くならなきゃいけないからこんな所で休んでられないよ」

その口調に少し違和感を覚える竜司だったが今はその正体を突き止めている余裕はないため了承するしかなかった。

「よし、じゃあ行こうか」

こうして二人は司令室へ向かった。



司令室へ入ると新生長官が既に笑顔で待っていた。

「やぁ。こんな遅くにすまないね、でも罪獣は待ってはくれないみたいだ」

するといつもツンツンしている蘭子が新生長官には笑顔を見せて言った。

「大丈夫ですよ、新生さんが指揮してくれるなら頑張れますっ!」

「ははは、頼もしいね」

そして新生長官はモニターを見せて言う。
そこには深夜の街に現れた罪獣の姿が。

「今回現れたのは第五ノ罪獣。空中に浮遊している岩みたいだね」

そして作戦の説明をする。

「この手の相手にはライド・スネークのスピードで翻弄するのが良いだろうね、そこをタンク・タイタンと現れるだろうゼノメサイアの火力で押し切る感じかな」

簡易的に作戦を説明する。
しかしこの内容に違和感を覚えた隊員がいた。

「新生さん。僕は、ウィング・クロウはどうすれば良いんですか……?」

今の作戦説明の中にウィング・クロウの名は無かった。
それが違和感だったのだ。
まさか自分は不要だと言うのかと思ってしまう。

「陽、すまないけどね……」

次の言葉に陽は絶句する事となる。

「君は今回は休むんだ」

なんと出撃停止命令だった。

「……え?」

「今の君は不安定だ、隊の和を乱しかねない」

突然の命令に絶句してしまう。

「本当にすまないけど大切な仕事なんだ」

「で、でも……っ」

反論しようとするがそこで蘭子が注意する。

「新生さんの命令が聞けないの⁈いい機会だから頭冷やしな!」

そう言って出撃しようとする蘭子に竜司は言った。

「蘭子ちゃん、そんな言い方……っ!」

しかし竜司も完璧なフォローは出来ない。

「ごめん陽……」

陽の肩に手を置いて苦しそうな顔をしながら蘭子の後を追った。

「待って蘭子ちゃーん!」

そしてその場には新生と陽、そして難しそうな表情をしている名倉隊長が残された。

「っ……」

何か言いたげな名倉隊長だが何も言葉が出て来ない。

「何かな?」

「あ、あの……」

何とか声を振り絞り新生長官に気付いてもらう。
しかし肝心の言葉がやはり出て来ない。
それでも新生長官は言いたい事を理解してくれたようで。

「気持ちは分かるよ、陽も頑張ってるから認めてあげたいんだよね。君の気持ちは伝わってると思うよ」

新生長官の優しい言葉にコミュ障の名倉隊長も少し照れるがそれ以上に気まずそうにしている。

「かたじけない……」

そして出撃するために司令室を出ようとして陽の隣に立つ。
その間も何か言いたそうだったが結局何も言えないまま出撃していった。

「〜〜っ」

新生長官と二人残された陽は彼の目を見つめながら何かを訴えかけようとしていた。

「今は反省の時だ、そして答えを見つけて欲しい」

「くっ……」

冷静に言われてしまい歯を食いしばる陽であった。





Connect ONE本部兵器格納庫では科学主任の参謀である時止が出撃のナビゲートをしていた。

「よぉーし、今日もしっかりナビゲートするぞー!」

一人張り切っている時止だが周りの職員たちは嫌いなTWELVEの隊員たちのサポートをしなければならないという事にテンションが下がっていた。
更に陽の問題もあるため余計に気が乗らない。

「頼むぞお前ら。ただでさえこんな状況だ、気合入れてかなきゃだぞ!」

一人の背中を叩いて激励するがその叩かれた男は嫌そうな顔をしていた。
その彼の顔を見て時止は言葉とは裏腹に危機感を覚えた。

「(まぁただでさえピリついてんのに陽の状態がアレじゃな……)」

そしてどんどん機体の出撃準備が進んでいく。

『コックピット装填完了、カタパルトへの移動を開始します』

ライド・スネーク、タンク・タイタン、キャリー・マザーは出撃準備は完了だ。
その様子を見て時止は感じる事があった。

「ウィング・クロウが無いの、何か寂しいな」

静かにそう呟きながら出撃していく三機の姿を見つめていたのだった。





街へ行くとそこは既に第五ノ罪獣デカラビアが蹂躙しており焼け野原となっていた。

「ギュルッ……ギュルルッ……!」

デカラビアは岩のような図体にまるでマグネットのような目玉がくっ付いている風貌だ。
その目玉をスライドさせて自在に動かしながらやって来たTWELVEをギロリと睨む。

「(ゼノメサイアはまだ来ていないようだな……)」

名倉隊長は言葉にこそしなかったが疑問を抱いていた。

「(何かすぐ来れない理由でもあるのか?)」

彼はゼノメサイアの事が気になるらしい。
しかし今は目の前に罪獣がいるため指揮を取らなければならない。

「ライド・スネークは指示通り翻弄!俺が砲撃するっ!」

その掛け声と共にキャリー・マザーから切り離された二機がそれぞれ行動を開始する。

「蘭子ちゃん!アンチ・グラビティだ!」

「いちいち言わなくて良いから!」

キャリー・マザー内で素早くキーボードを打ち込む蘭子。
その効果でライド・スネークのアンチ・グラビティが起動、壁などを自在に走り翻弄に長けた形態へと化した。

「おらおらこっちだー!」

翻弄するようにデカラビアの周囲を走っていると相手も行動に出る。

「ピュィィイイインッ!!」

なんとマグネットのように動く目玉からレーザービームを放ったのだ。

「うぉっ⁈やべぇ威力!」

当たりこそしなかったが周囲で大爆発が起きたため食らっていたら大変な事になっていたと冷や汗を流す竜司。

「でもそんなんじゃ当たらねぇぜ〜⁈」

そのまま避け続けて翻弄する竜司。
完全に注意を引いている。

「今だ隊長ー!」

その隙に名倉隊長のタンク・タイタンが目玉のついている所から回り込み背後に立った。

「よし、多連装ミサイル発射!」

背後から隙だらけの背中にミサイルを発射する。
これは確実に命中した、そう思った。

「ギュルルルンッ」

しかしデカラビアはその目玉を滑らすように体表の背中部分に移したのだ。
そしてレーザービームを思い切り放ちミサイルを全て撃墜したのだ。

「なっ⁈」

そしてその爆風はタンク・タイタンをも吹き飛ばした。
何とか着地は出来たが凄まじい衝撃が全身に伝わる。

「ぅぐっ……⁈」

「隊長!」

無事ではあるものの攻略法が分からなくなってしまった。

「ギュルッ、ギュルルンッ」

尚もデカラビアは目玉を全身に滑らすように移動させている。
これでは何処からレーザービームが来るか分からない。

「ピュゥゥゥ……」

そしてもう一度タンク・タイタンの方を狙い撃ち抜こうとしたその時。

「ドリャアッ!!」

そのタイミングでゼノメサイアが上空から現れ飛び蹴りを食らわせた。

「あっ」

「ゼノメサイアかっ、なぜ遅れた……?」

ようやく現れたゼノメサイア。
その遅れた理由は。

『(普通に寝てたよ……!)』

夜も深いため学生の身である快は既に眠りについていたのだ。
陸上競技大会練習の疲れもあってかかなり深く眠っていたのである。
しかし彼が人間である事、ましてや学生である事などTWELVEは知る由も無いため何故遅れたのか疑問を抱くのだった。

『あぁ、寝てる間にこんな……俺って本当にヒーローなのか?』

自分がもっと早く気付いてきていれば街はこのような惨状になっていなかったのではと責任を感じる。

『Connect ONEは来てるってのに……』

ここでもまた組織との差を感じてしまう快であった。





つづく
つづきます
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