▼詳細検索を開く
作者: 甲斐てつろう
#3
『ヒーローに、ならなきゃ。』
現れたゼノメサイア。
その様子はConnect ONE本部の司令室からも確認出来ていた。

「あっ、やっぱり来た……」

陽は少し羨ましいそうにその姿をモニター越しに見ている。

「(いいな、あんな力があって……)」

見ただけでもゼノメサイアが現れただけで一気に戦況が覆った気がした。
一人でそれだけの力を持っている彼を羨む。

「羨ましいのかい?」

その羨望の眼差しに気付いた新生長官が陽に尋ねる。

「そりゃそうですよ……」

少し不貞腐れながら目を見ずに答える陽。

「ゼノメサイアには一人で戦況を変える力がある、それに今までは一人で戦ってたんですよ?僕にもそんな力があればきっと……」

「きっと……?」

優しく問う新生長官に対して陽は深呼吸をしてから答えた。

「アモンの死にも意味が生まれた。そもそもアモンは死ななかったかも知れない……」

親友の死にやはり責任を感じていたのだ。

「全部僕が弱いから、僕のせいなんです……っ」

そしてもう一度羨望の眼差しでモニターに映るゼノメサイアを見た。
その様子を見た新生長官は再度優しく声を掛ける。

「……そんなに彼が羨ましいかい?」

「はい……」

尚も羨ましいと答える陽に新生長官は自分の考えを伝える。

「果たして彼自身はどう思ってるだろうね?」

「え……?」

そして新生長官もモニターに映るゼノメサイアを見た。
一体彼自身は何を考えて戦いに臨んでいるのだろうか。





そんなモニターに映るゼノメサイアこと創快は陽の考えとは裏腹に不安で押し潰されそうだった。

『(何で飛行機のやつは居ないんだ?)』

ウィング・クロウの不在にすぐさま気付きその理由を考える。

『(前回俺を庇って大ダメージ負ったからかな?それとも……)』

どうしても嫌な方に考えてしまう癖は治らない。

『(一機くらい居なくても大丈夫だって判断したから?それだけ余裕って事か……?)』

一度そう思ってしまうともうそうとしか考えられなくなってしまう。

『(コストとかも掛かるだろうしそっちを優先したのか……っ)』

自分とは違い余裕のあるように見えたConnect ONEに対して羨望の思いを抱く。
するとニュース会見を瀬川が喜んで見ていたりした時の事を思い出す。


『ゼノメサイアの時も興奮したけどああいうサイバー的なのはもっと興奮すんだよ!』


ゼノメサイアより"もっと"期待されているのだ。

『(彼らはちゃんとした組織だから信頼されるだろうけど俺は未知の生物だ、罪獣と同じく怖がられてるかも知れない……)』

少なからず若者支援センターの良などゼノメサイアを讃えてくれる人はいた。
しかしConnect ONEほどその声を聞かないため今はそれを思い出しても焦りには勝てない。
瀬川や彼に見せられたSNSの多くの意見、それらのConnect ONEに期待する声があまりに多すぎて自分が信頼され必要とされるのは絶望的に思えてしまう。

『ダメだ、俺は必要とされてない……っ』

様々な意見が脳裏にこびりつく。

『良いなConnect ONEは必要とされて、羨ましい……っ!!』

完全に羨望の眼差しで彼らを見ている。
ルシフェルとの戦いを経て成長したがそれで快の視野が広がったせいで余計に自分の弱さに気付いたのだ。

『せっかく成長したのにそのせいで余計に俺が惨めに見えて来た……っ!』

そんな思いを抱きながらデカラビアとの戦いに臨む。
目玉から無作為に放って来るレーザービームを避けて行く。

『デヤァァァッ!』

周囲で爆発が起こりながらも怯まず突進する。
怯んでいる暇などないのだ、アドレナリンがそうさせる。
そしてデカラビアの岩のような身体にしがみ付いた。

「ギュロロロンッ……」

そのまま上空へ思い切り投げ飛ばした。
完全に無防備になってしまうデカラビア。

『これで俺を証明しなきゃ……!』

自分自身の存在意義を表すかの如くエネルギーを溜める。
そして一気に解き放った。

『ライトニング・レイ!!』

十字架のような雷は上空へと飛びデカラビアに命中。
そのまま大爆発を起こし岩のような身体を消滅させた。

『はぁ、はぁ……よしっ』

安堵しているゼノメサイア。
その様子を見ていたTWELVEの隊長である名倉は少し違和感を覚えていた。

「(焦っている……?一体何者なんだ君は……?)」

確証は無かったが何処か普通ではない雰囲気を感じ取れたのだ。



そしてConnect ONE本部司令室。
モニターで現場の様子を見ていた陽がため息を吐いた。

「やっぱりゼノメサイアは僕とは違いますよ……」

呆気なく勝利したゼノメサイアの姿を見て新生長官の言葉を信じる気は無くなった。
しかし当の新生長官はまだモニターをしっかりと見ている。

「……どうかな?」

彼がそう呟いた途端、モニター越しの現場に変化が。

「ギュルルルンッ!!!」

なんと倒したはずのデカラビアは目玉だけが残っていた。
その目玉は周囲の崩れたビルの残骸を新たな身体として掻き集め復活したのだった。

「そんな……っ」

せっかく自らの存在を証明できたと思った矢先にこの仕打ち。
絶望する快の心であった。





絶望し更に焦りながらも再度撃破しようと突っ込むゼノメサイア。
その様子を陽はしっかりとモニターで眺めていた。

『デヤァッ!!!!』

しかし形態変化したデカラビアは行動パターンも変化した。
身体とした瓦礫の一部をまるで弾丸のように放ち遠距離攻撃をしてくる。

『グホッ……⁈』

顔面や腹部にその瓦礫による砲撃を食らい思わず倒れてしまう。
危機感を覚えたTWELVEもここで行動に出ようとした。

「(くっ、砲撃をどうすべきか……)」

これでは竜司に翻弄して隙を作ってもらうという作戦も上手く行くか分からない。
そこで思い付いたのは。

「竜司、今度は俺が囮になる。逆にお前が撃ち込め!」

名倉隊長自らが注意を引く事だった。

「でも隊長はそんな機動力ないしヤバいっすよ!」

「だが耐久力なら一番だ、耐え切ってみせる……!」

その声と共に一斉に行動を開始した。
竜司はなるべく残骸の影に隠れて隙を狙う、そして名倉隊長は多連装ミサイルを放った。

「こっちだ!」

そしてデカラビアの気を引き攻撃を受けようとした。

「ギュロロロン!」

弾丸のように瓦礫を放ってくる。
なるべく被弾を避けるためにミサイルを放ち相殺していく。
しかし全ては消せず多少食らってしまった。

「ぐあっ……!」

だが流石のタフさでまだ耐えている。

「今だ竜司!」

「待ってましたぁー!」

そして竜司がデカラビアの背後から飛び出し反撃をしようとしたタイミングである事故が起こる。

「え」

『ッ⁈』

なんとゼノメサイアも隙を見て突っ込んでいたのだ。
互いに攻撃を仕掛けようとしたため彼らは衝突してしまう。

「うわっ……!!」

そのせいでデカラビアにも奇襲がバレてしまった。

「ギュルルルンッ!!」

更に攻撃を仕掛けて来る。
その瓦礫の雨を見ながらゼノメサイアは考えていた。

『(俺が邪魔しちゃったから……っ、だったら責任取らないと!!)』

何とか力を振り絞り突っ走って降って来る瓦礫を掻い潜る。
そしてもう一度雷を放った。

『ライトニング・レイっ!!』

しかし威力が落ちている。
デカラビアは目玉を背後に回し残骸の身体でその攻撃を受け切った。

『そんな、さっき撃ったから威力が……⁈』

しかしその隙を竜司は見逃さなかった。

「そのウゼェ目ん玉ぶっ潰してやる!」

また背後から飛び上がり目玉に向けて弾丸を連射した。
すると。

「ギャピィィィッ……!!」

デカラビアが明らかに今までと違う悲鳴をあげた。
そこで蘭子は気付く。

「やっぱり!コイツ目玉だけが本体だ!」

戦闘の間に分析したデータを各機体に送る。
そこには生体反応は目玉だけで後はただの残骸である事が記されていた。

「ここら辺のビルの残骸で身体作ってたんだよコイツ!」

「ならばどうする⁈目玉を狙おうにも自在に位置をずらされては……!」

そこで蘭子は思い付いた作戦を話した。

「さっき見たでしょ?ヤツは身体が破壊されて目玉だけになってる間は当然だけど位置をずらせない、そこを狙うよ!!」

しかしそれには問題が。
竜司が指摘する。

「でもどうやるってんだ、ゼノメサイアの火力は落ちてるし俺らで壊そうにも二人で隙を作って撃つなんて……」

そして蘭子はまた更に答えた。

「それなんだけどね……ちょっとあたしも不本意だな……」

「?」

何か言いたげな蘭子。
彼女は司令室への無線をオンにして新生長官に伝えた。

「新生さん!お願いがあります!!」

その声を新生長官は笑顔で聞いた。

「不本意だけど、本っっ当に不本意だけど!ウィング・クロウをよこして下さい!あの火力が必要です!!」

それはウィング・クロウ、つまり陽の出撃要請だった。

「っ……!!」

陽本人は非常に驚いている。

「さぁ、どうする陽?」

「む、無理ですよ……僕が行った所で変わらない……」

自信なさげに言う陽。

「結局ゼノメサイアとの違いって何なんですか、彼がどんな存在であれ僕が弱いのには変わらない……」

かなり卑屈になってしまっている。
彼は一体どのような決断を下すのだろうか。





つづく
つづきます
Twitter