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作者: 神無城 衛
*3*
海賊船に移乗したクルーによると船内は数十名の乗組員がいたほかは人質もおらず、内装はかなり汚かった他は特筆するべきことはなかったそうだ。
 内装の様子から察するにこの界隈に長くはびこる海賊の一派だったのだろう。
 乗組員は宇宙服を身に着けておらず、プラズマ弾の炸裂で全員が気を失っていたため抵抗はなく拘束するのは簡単だったそうだ。
 縛り上げた海賊は治安維持局に引き渡すため船倉に閉じ込めておくとして、助けた乗客について考えなければならない。装載艇から移す際に格納庫でボディチェックを行い、問題ないことを確認してひとまず食堂に通した。途中廊下でウェバー博士とすれ違ったときに乗客の一人だった赤毛の若い女性を見て博士は何かを言いかけたのを飲み込んで視線を逸らしてすれ違ったのも気になる。
 食堂の席にそれぞれが腰かけるとユカが大人には温かいコーヒーを、3人の子供と私には温かいココアを出してくれた。
「さて、あなた方について確認しなければなりません。貴方がたはなぜあのような場所にいたのですか」
セシリアのひと言に大人たちは緊張感が高まるのを感じた。子供たちはよくわかっていないらしい。
「私から説明します」
 最初に言葉を発したのは赤毛の若い女性だった。見たところ歳は私と同じくらいだろうか。
彼女の言うには救難信号の船は木星にあるアダルヘイムの兵器廠からシリウスに向かう民間の輸送船で、彼女(ルイーサと名乗った)はアダルヘイムの関係者で、アダルヘイムの技術廠からシリウスに亡命するところを運悪く海賊に襲撃されたそうだ。子供たちは孤児で、アダルヘイムの新CEOによる非人道的かつ国際法違反の禁止兵器の被検体として連れてこられたところを保護し、共に亡命するところだったという。機関部の男はアウレリオと名乗り、元々学に触れる機会がなかったことからかろうじて文字の読み書きと簡単な計算ができる程度(ルイーサが教えたらしい)だという。
この手の海賊は初めに一隻の船を襲うとその船の救難信号を餌にして救助に来た船を襲うのがセオリーで、彼女らも三日ほど前に襲われてから、ライフラインが機能するギリギリの状態の中、携行食糧で食いつなぎながらなんとか助かったらしい。
「なるほど、まだ十分には話をできていませんが、あなた方に必要なのはまずは食事と安心して休める環境でしょう。ユカ、あとはお願い」
久しぶりの来客とあって高揚しているユカに後を任せてセシリアは船倉へ向かった。

船倉に降りると海賊の親玉と部下がそろって縛り上げられている。今後も何があるか分からないので治安管理局に引き渡すまで監視を続けるように指示した。
「けっ、小娘にやられるようじゃ俺もヤキが回ったな。ついてねぇぜ」
「あなたの運は関係ありません。バートランド商会の、私の家族クルーを甘く見たのがそもそもの間違いだったのです、反省会の続きは地球政府の裁判所でどうぞ」
特に異常はなかったようなので一度艦橋に戻り、外縁の治安維持軍に連絡した。
「以上により拘束した海賊を引き渡したく、よろしくお願いします」
「承知しました、それでは3時間でそちらに向かいます。待機してください」

 船倉の監視から連絡が入ったのはこの無線の40分後だった。
 駆けつけると監視のクルーが二人に増え、縛られている海賊の親玉が目に青あざを作ってさらにぼろぼろになっていた。
 監視のクルーによると、監視の目を盗んで靴に仕込んだ小さな刃物で縛から抜け出し、抵抗したところを制圧してさらに頑丈に縛りなおしたとのことで、捕虜に不要な暴行を加えたわけでないことを証言してほしいとのことだった。
 念のため船倉の監視カメラを確認し、その顛末が事実であることを確認して治安維持軍に提出する書類データに添付した。

 治安維持軍の護送船が到着し、海賊を引き渡すとナイアガラ号は夜間シフトの航行に戻った。人質だったルイーサたちも部屋をあてがって休んでもらっている。
『あとのことは休んでから考えよう』
 海賊の引き渡しを済ませ、治安維持軍の去った後の隔壁を眺めながらセシリアは伸びをして緊張をほぐし、船長室に戻って休むことにした。
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