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作者: 神無城 衛
*3*
 ギルド艦隊はヨトゥンヘイム要塞を囲む艦隊に向けて前進を開始した。

 命令によって要塞から掃き出されるように出撃した傭兵団の艦隊は正規軍の後ろに戦列を並べた。目標はアンチドライブシステムで減速したボレアスにプラズマ、実体弾問わず全火力をぶつけて打ち砕くことだが、叩き出された要因は軍規に従わない傭兵団を上が煙たがっていたために、支払った金に見合う仕事ぶりを見せろということだと傭兵団も前線の正規軍も認識しており、この状況も相まって艦隊の正規軍も傭兵団も士気が上がらない。
傭兵団の艦隊が正規軍艦隊の後ろにつけると対岸にちらちらと迫ってくるギルド艦隊が見えてきた、さらに後ろにはチェレンコフ光による青い閃光を放ちながら出てくるやけに大きさのある何かが見える。正規軍がまさかと思いつつ望遠レンズで確認したところ、それはボレアスよりも遥かに大きい、望遠レンズで確認できるほどの大きさの小惑星…ボレアスではない。

“それ”はチェレンコフ光を振り切り、通常空間に展開するギルド艦隊に並び、友軍を追い越して高速でこちらに近づいてくる。
 熱源反応によると、岩石をくりぬいて戦闘艦のエンジンを付けたものだということまでは分かった。もしこれが艦隊を突破しヨトゥンヘイム要塞に直撃すれば反乱軍はひとたまりもない。
 慌てふためく正規軍にあってはさらに状況が悪化した。
「ヨトゥンヘイム要塞ハシリウス二緊急ワープヲ行ウ」
 反乱軍の使用する暗号通信で全艦隊に向けて情報が発信された。発信元がヨトゥンヘイム要塞としか分からないこの暗号に正規軍も傭兵団も、ヨトゥンヘイム要塞に立て籠もる司令官たちもどよめいた。
 上層部はそのような命令は出していないし、前線に動きがあったことを知らされたばかりで小惑星が迫っていることもついさっき正規軍艦隊から知らされたばかりだ、一方で傭兵団はすぐに艦隊を戻そうとして格納庫に殺到し、先を急いだために誘導も規律や順序もなく船を押し込もうとして船と船がぶつかり合って出入口を塞ぎ、正規軍は次なる指示を待って眼前に迫る敵艦隊に攻撃を加えることもできない。

 ヨトゥンヘイム要塞から偽情報を流したのはエックハルトが置き忘れた携帯通信端末だった。諜報部はこの端末から残された船の通信システムに潜り込み、それを足掛かりにヨトゥンヘイム要塞の指揮システムに進入して偽情報を流したのだ。

「ギルド艦隊から砲撃来ます…、うわぁ…」
 艦隊司令は上層部の指令を待たず、艦隊に各個に砲撃を加えるよう指令を出したが、艦隊が逃げるのか要塞への攻撃を防ぐのかも決まらないまま、傭兵団が抜けて薄くなった単横陣をニガヨモギを中心に両舷から迫る2つの紡錘陣で攻めてきたギルド艦隊によって端から沈められていく。その状況下にあってもヨトゥンヘイム要塞は混乱が収まらず、艦隊への指揮どころか援護射撃すらできない。さらに、ギルド艦隊が両翼に引けていくと中央から音速を超えた“ニガヨモギ”が迫り、抵抗すらままならないヨトゥンヘイム要塞に着撃した。
空間に大きな衝撃波が走り、指揮機能を失った反乱軍はすべての攻撃行動を止めた。
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