第一話:自己鍛錬
現代日本から転生して貴族になった。
ラスティの家は、ミッドガル帝国の比較的田舎にある。自然に囲まれている穏やかな風景に囲まれた場所には、豪勢な屋敷がある。
その屋敷を、土地を所有しているのはこの世界の者ならば誰もが体の奥底に持つ『魔力』――それを引き出し、体に込めれば身体能力や感覚の強化、あるいは武器に流し込む事で武器の強化が出来るというその力を使って戦う騎士である『魔法戦士』を代々輩出している家系の貴族、ヴェスパー家である。
「ふっ!!」
「やあっ!!」
ヴェスパー家の屋敷の中庭では、凄まじい剣戟が繰り広げられていた。片方は嵐のような暴力的な攻撃を繰り出す少女。
美しい黒髪を背中で切り揃えた容姿端麗な少女でありながら、確かな気の強さも持つ八才の少女ことヴェスパー家の次女であるメーテルリンク。
そして、そのメーテルリンクの相手を務めるのが、黒い髪をオールバックに纏めて唇に傷のある色男にして、長男。
ラスティである。
「最近、俺の子供たちが怖くなってきたんだが……」
「そう? 将来安泰そうで良いじゃない」
二人の手合わせを見て、魔法戦士としての戦闘技術を教育しているヴェスパー家の主、男爵は娘と息子の日々高まっている実力に若干戦々恐々としている。
なにせ教え始めてたったの数年で自分の実力を超える域にまでどちらも達し始めているのだから無理も無い。
対して、彼の妻は、娘と息子の成長ぶりを見て穏やかに微笑んでいた。
『凄い……』
ヴェスパー家に仕える使用人たちなども皆、兄と妹の戦いにそれぞれ見入っていた。
「また腕を上げたな、メーテルリンク」
「はい。ありがとうございます。お兄様も強くなられました」
「ああ。日々の鍛錬の重要性を改めて実感するよ」
二人は激しく剣を交えながら、それぞれの実力を讃え合う。
ラスティとメーテルリンクの戦い方はそれぞれ相対している。
メーテルリンクの剣技は言わば、才能やセンスに溢れたものを感じさせる剣技であり、対してラスティの剣技は基礎を積み重ねたものである。
メーテルリンクが鋭く冴え渡ったものであるなら、ラスティのは堅実にして臨機応変。
それが故に戦いの状況は拮抗状態。
「準備運動は終わりでよろしいでしょうか?
「構わない。本気で来い、メーテルリンク」
「参ります!!」
そうして、二人は共に『魔力』を練り上げ、用いる事で魔剣士としての本領を発揮し始めたのだった。
◆
今日も妹であるメーテルリンクとの夕暮れまで決着のつかない手合わせをし、風呂に入り身を清め、食事を取り、ラスティは勉学のために書庫に入る。
ラスティは転生者だ。
ラスティは前世の記憶を持ち越しつつ、新しい世界に興味を持ち、この異世界に適応するために勉学に励んでいた。
『魔力』や『魔法剣士』、『貴族』という何もかもが転生前とは違った世界に適応できるように努力している。
この世界において『魔力』は武侠物の『気功』のような概念だったのでその方向性での使い方と制御の訓練をし、剣、それに格闘術そのものはとにかく基礎を追求。
そうしてこの世界での情報を掴む事も含め、書物を読み込む。
方針としては『ノブレスオブリージュ』。
持つ者の義務。恵まれたものは自分より劣るものを守り、育てる。そういう方針だ。
「気になるワードがいくつかあるが……さて」
生活をし、勉学している中で気になる事は纏めているラスティだが、この世界の重要そうな要素として『歩く地獄』、それを退治した『人間、エルフ、獣人の三人の勇者』、『非在化』、『ロイヤルダークソサエティ』などがあるのが気になった。
もう少し自由に行動できるようになれば調べてみたりするつもりだ。
「失礼します」
「どうした、メーテルリンク」
「相変わらず、勉強家ですね。お兄様は」
ラスティが自分の考えに耽っていると、妹のメーテルリンクが声をかけてきた。そして机の近くには夜食が置かれている。
わざわざ、持ってきてくれたのだ。
「おお、ありがとう」
「どういたしまして……頑張るのは良いですが、根を詰め過ぎては駄目ですよ」
「そうだな、気をつけよう。体を壊してしまっては元も子もないからな」
長男であるラスティは家督を継ぐ必要がある。実務面でいえばメーテルリンクのほうが貴族として優秀で風格もあるが、しかし、明確に劣っているわけでも特別な理由があるわけでもない。
魔法剣士としての実力もラスティとメーテルリンクは同等だ。
ただしラスティは体の奥底で魔力を圧縮と爆発を高速に繰り返して人体の外殻の強靭度を上げているし、魔力を蓄積させ強固に練り続けながら溜め込み続けていることで、自身の負荷をかけている。
日中の鍛錬中使える魔力は制限状態あり、引き分け続けている。
「お兄様〜、お兄様〜、私だけのお兄様」
照れながらも微笑み、メーテルリンクはラスティを抱き締めてきた。ラスティは微笑みを返して、抱きしめる。
「ねぇお兄様。お兄様は私にとって、自慢のお兄様ですよ。それだけは覚えてくださいね」
「ありがとう。私としても、メーテルリンクが妹で自慢さ」
「ふふ……それじゃあ、夜更かしは程々にしてちゃんと寝てくださいね。睡眠は大切ですから」
「勿論だとも」
『魔力』を上手く用いれば体の回復力も増幅出来るので睡眠も少ない時間で済むように出来る。
一分ほどの睡眠で、八時間ほどの休憩になるのだ。
そうしてラスティは削った睡眠時間を鍛錬や勉学という自己研鑽につぎ込む。
ラスティの家は、ミッドガル帝国の比較的田舎にある。自然に囲まれている穏やかな風景に囲まれた場所には、豪勢な屋敷がある。
その屋敷を、土地を所有しているのはこの世界の者ならば誰もが体の奥底に持つ『魔力』――それを引き出し、体に込めれば身体能力や感覚の強化、あるいは武器に流し込む事で武器の強化が出来るというその力を使って戦う騎士である『魔法戦士』を代々輩出している家系の貴族、ヴェスパー家である。
「ふっ!!」
「やあっ!!」
ヴェスパー家の屋敷の中庭では、凄まじい剣戟が繰り広げられていた。片方は嵐のような暴力的な攻撃を繰り出す少女。
美しい黒髪を背中で切り揃えた容姿端麗な少女でありながら、確かな気の強さも持つ八才の少女ことヴェスパー家の次女であるメーテルリンク。
そして、そのメーテルリンクの相手を務めるのが、黒い髪をオールバックに纏めて唇に傷のある色男にして、長男。
ラスティである。
「最近、俺の子供たちが怖くなってきたんだが……」
「そう? 将来安泰そうで良いじゃない」
二人の手合わせを見て、魔法戦士としての戦闘技術を教育しているヴェスパー家の主、男爵は娘と息子の日々高まっている実力に若干戦々恐々としている。
なにせ教え始めてたったの数年で自分の実力を超える域にまでどちらも達し始めているのだから無理も無い。
対して、彼の妻は、娘と息子の成長ぶりを見て穏やかに微笑んでいた。
『凄い……』
ヴェスパー家に仕える使用人たちなども皆、兄と妹の戦いにそれぞれ見入っていた。
「また腕を上げたな、メーテルリンク」
「はい。ありがとうございます。お兄様も強くなられました」
「ああ。日々の鍛錬の重要性を改めて実感するよ」
二人は激しく剣を交えながら、それぞれの実力を讃え合う。
ラスティとメーテルリンクの戦い方はそれぞれ相対している。
メーテルリンクの剣技は言わば、才能やセンスに溢れたものを感じさせる剣技であり、対してラスティの剣技は基礎を積み重ねたものである。
メーテルリンクが鋭く冴え渡ったものであるなら、ラスティのは堅実にして臨機応変。
それが故に戦いの状況は拮抗状態。
「準備運動は終わりでよろしいでしょうか?
「構わない。本気で来い、メーテルリンク」
「参ります!!」
そうして、二人は共に『魔力』を練り上げ、用いる事で魔剣士としての本領を発揮し始めたのだった。
◆
今日も妹であるメーテルリンクとの夕暮れまで決着のつかない手合わせをし、風呂に入り身を清め、食事を取り、ラスティは勉学のために書庫に入る。
ラスティは転生者だ。
ラスティは前世の記憶を持ち越しつつ、新しい世界に興味を持ち、この異世界に適応するために勉学に励んでいた。
『魔力』や『魔法剣士』、『貴族』という何もかもが転生前とは違った世界に適応できるように努力している。
この世界において『魔力』は武侠物の『気功』のような概念だったのでその方向性での使い方と制御の訓練をし、剣、それに格闘術そのものはとにかく基礎を追求。
そうしてこの世界での情報を掴む事も含め、書物を読み込む。
方針としては『ノブレスオブリージュ』。
持つ者の義務。恵まれたものは自分より劣るものを守り、育てる。そういう方針だ。
「気になるワードがいくつかあるが……さて」
生活をし、勉学している中で気になる事は纏めているラスティだが、この世界の重要そうな要素として『歩く地獄』、それを退治した『人間、エルフ、獣人の三人の勇者』、『非在化』、『ロイヤルダークソサエティ』などがあるのが気になった。
もう少し自由に行動できるようになれば調べてみたりするつもりだ。
「失礼します」
「どうした、メーテルリンク」
「相変わらず、勉強家ですね。お兄様は」
ラスティが自分の考えに耽っていると、妹のメーテルリンクが声をかけてきた。そして机の近くには夜食が置かれている。
わざわざ、持ってきてくれたのだ。
「おお、ありがとう」
「どういたしまして……頑張るのは良いですが、根を詰め過ぎては駄目ですよ」
「そうだな、気をつけよう。体を壊してしまっては元も子もないからな」
長男であるラスティは家督を継ぐ必要がある。実務面でいえばメーテルリンクのほうが貴族として優秀で風格もあるが、しかし、明確に劣っているわけでも特別な理由があるわけでもない。
魔法剣士としての実力もラスティとメーテルリンクは同等だ。
ただしラスティは体の奥底で魔力を圧縮と爆発を高速に繰り返して人体の外殻の強靭度を上げているし、魔力を蓄積させ強固に練り続けながら溜め込み続けていることで、自身の負荷をかけている。
日中の鍛錬中使える魔力は制限状態あり、引き分け続けている。
「お兄様〜、お兄様〜、私だけのお兄様」
照れながらも微笑み、メーテルリンクはラスティを抱き締めてきた。ラスティは微笑みを返して、抱きしめる。
「ねぇお兄様。お兄様は私にとって、自慢のお兄様ですよ。それだけは覚えてくださいね」
「ありがとう。私としても、メーテルリンクが妹で自慢さ」
「ふふ……それじゃあ、夜更かしは程々にしてちゃんと寝てくださいね。睡眠は大切ですから」
「勿論だとも」
『魔力』を上手く用いれば体の回復力も増幅出来るので睡眠も少ない時間で済むように出来る。
一分ほどの睡眠で、八時間ほどの休憩になるのだ。
そうしてラスティは削った睡眠時間を鍛錬や勉学という自己研鑽につぎ込む。