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作者: Ganndamu00
26話:起動する破滅機構②

「空想具現・極之番・顕象:理想夢物語」

 それは理想や夢を現実にするラスティの奥の手。能力は単純、ラスティの願望をそのまま現実にする。
 引き換えに膨大な魔力、生命力、体力といった生命活動に不可欠なエネルギーを消費してしまう上に、何がオリジルだったか曖昧になってしまうデメリットも存在する。

 真っ白なキャンバスに色を塗った後、真っ白なキャンバスにすることはできない、ということだ。色の上塗りはできても、新品同様のようには出来ない。必ず歪みが出てしまう。

 乱用するべきではない力だ。取り返しがつかない能力だからこそ、使い所は限るべきなのである。

「シャルトルーズの使命、世界の破滅させる行動を封印する剣を召喚」
「それは……?」

 ラスティの手に、一本の無骨な剣が現れる。それは今回の物語に幕を引くデウス・エクス・マキナの一撃。

「私のこの剣は、シャルトルーズの世界破滅を強制的に停止させる効力がある。だから一騎打ちとさせてもらいたい。不死の守護者の相手を頼めるか? エクシア、デュナメス、ネフェルト少佐」
「ええ」
「おう」
「わかったわ」
「ありがとう。感謝する。では征こう、世界を救う戦いだ!」

 頭が痛い。頭の中がガンガンする。耳鳴りがする。眩暈が終わらない。痛い、苦しい、辛い。だけど死ぬほど苦しいわけじゃない。なら余裕だ。

 一度死んだ後では何もかもが軽く感じられる。そう、何を比べても死ぬよりは良い。ならやろうとすれば出来る筈だ。我慢も、実行も。
 だから私は勝利する。
 そして踏み込む。

 封印の剣は、剛斧へと変形した。それは直径2メートルほどはあり、自分の背丈を超える程の大きさに設定して作成したものだった。

 名前を付けるなら封印の大斧とでも名付けられる。技巧もクソもない、暴力をもって振り下ろす為の巨大な武器になる。黒と赤の剛斧は片手で持ち上げられるような重量をしていない。だが魔力、そして理想夢物語で無理やり自分の体を強化した上で、肉体そのものを改造する。

 想像するのは最強の自分。武器を扱えるスペックまで。苦痛と引き換えに肉体を成長改造させる。理想夢物語なら、現実を改変して改造が可能だ。だから腕は片手で剛斧を握る。前へと踏み出す。風を感じる。同時に肌を焼くような魔力の胎動を感じる。

 だがそれに構う事無く、全速力で正面から剛斧を叩き込む。人体的にあり得ないと表現したくなるパワーでたたき込む様に踏み込めば、後方へと向かってシャルトルーズがバックステップを取りながら口を大きく開く。その口に一瞬で熱量が溜まったのが見えた。


「魔力変形・鎖縛光牢!」

 ラスティが片手を突き出すと、蛇のように唸る鎖がシャルトルーズに巻き付く。そして頭が瞬間的に下へと向けられ、ブレスとでも表現すべき一撃が大地へと向かって放たれる。

 一瞬で溶解する地面から亀裂が走り、タワーが揺れる。火山のマグマのように燃え盛れる熱量が部屋を蒸し焼きにする


「魔力変形・耐熱加工の付与」

 ラスティを含む周辺の全員に熱に耐えるように防護のシールドを付与する。横にロールする様に亀裂を回避しながら直ぐ横を、溶ける程の熱量が吹き上がるのを捉え、それを撒き散らす様にシャルトルーズが、天井を突き破り空へと飛びあがるのが見えた。

 背中からは黒い翼が生えている。

 僅かな熱が飛び散り体にかかる。それが肌を焦がすのを無視しながら武器を剛斧のまま、それを全力で投擲した。

 飛び上がったシャルトルーズの翼を打撃する様に投擲した剛斧は回転しながら翼に衝突し、飛び上がったシャルトルーズの体勢を崩す。


「……当てたものの、まだ足りないか。もっと長く、多く、大量に封印の剣をシャルトルーズに与えなければ、世界破滅をさせる行動は停止はしない。なら、追跡する槍を生成、発射」

 追撃する様に複数の封印の槍を浮かべたラスティがバランスの崩れたシャルトルーズに殺到する。だがその破壊力はシャルトルーズを貫通するには至らず、表面を傷つける程度に留まる。

「硬い……いや、要塞都市のエネルギーを防御に回しているのか」

 足の裏、靴底に魔力を集める。一つの方向へと押し出す様な魔力の爆発。まっすぐ、ブースターの様に押し上げる推進力をイメージする。そしてそれに合わせて一気に跳躍を行う。射出されるように空へと打ち上げられ、バランスの崩れたシャルトルーズへと向かって一気に飛び上がる。弾かれる剛斧を手元へと再召喚する事で持ち直しながらそのまま、飛行するシャルトルーズへと向けて剛斧を振るう。

 翼撃と剛斧が衝突し、弾かれる。後転する様に空中で後へと向かって流れ、空中で足を止める様に力を込めて―――空に足場なんてないのを思い出す。


「意識の外の展開に弱いのが、理想夢物語の弱点だ……学ぶことにしよう」

 当然の様に後ろへと吹っ飛んでいく。回転しながら。
 吐きそうだった。

「……飛行魔法展開」

 シャルトルーズへと向かって高速で飛翔する。内臓の潰れる感触に吐きそうになるが、それを無理やり整えて対応し、正面からシャルトルーズへと向かっていく。それに素早く反応するシャルトルーズが口を開き、砲撃を放ってくる。

 かいくぐる様に一度下がれば、空中でシャルトルーズの動きを止める様に、魔法の鎖が首と翼を掴んだ。動きを止めたシャルトルーズの顎の下に潜り込む様に一瞬高度を落とし、

「封印蹴り!」

 そのまま、虚空を蹴って顎の下から首を蹴り上げる様に飛び蹴りを放つ。渾身の蹴りで首が折れ曲がる様にシャルトルーズの姿がバインドを纏ったまま蹴り上げられ、それを押し出す様にサマーソルトへと連撃する。蹴りながらやや後ろへと下がって、そのまま封印剣を召喚して、突き刺さる。

 2、4、6、8、10、12。腕を交差させるように構えながら連続で切り裂き、衝突するたびに挟異音が響き、シャルトルーズの破壊衝動を削っていく。

 傷が刻まれる度に、シャルトルーズの破壊のオーラが消えていく。

 否、ほとんど吹っ飛ばすという言葉に近い。一発一発がシャルトルーズの顔面を粉砕する様な破壊力で破壊し、完全に破壊力でその体を食い散らかしていく。

「やり過ぎでは……?」

 エクシアが苦笑いをする。だがそれを無視する様に、剣が叩き込まれて食い千切った穴を穿つようにノータイムで封印砲撃を叩き込んでいく。

 封印剣が叩き込まれた箇所は、ラスティがエネルギーを喰らい破った事もあり、破壊衝動を視覚化した際の余剰出力で発生するコーティングの様なバリアが、食い散らされていた。故にその穴にラスティの封印砲撃が叩き込まれた。

 緑と青色の光が大空を駆け抜けて貫く。

 シャルトルーズの翼がそれによって根元から消し飛ばされて、片翼のシャルトルーズが魔法の鎖を引き千切って出力を引き上げる様に光が体内から溢れ出す。

 その顔面目掛けて剛斧を投げつけた。
 それを回避しながら更に光量を高めるシャルトルーズに対して避ける動きが見えた瞬間には加速して接近する。

 それでも回避しようとする姿に片手を伸ばしてボロボロの顔面を掴み、逃げられない様に手元に再召喚した武器を鎖に変形させる。

 両手へと絡みつく鎖がそのまま穴だらけのシャルトルーズへと突き刺さり、アンカーされる。その鎖にが巻き付く。

「魔力変形・雷」

 魔力が電流に変化して、鎖を通して電撃がシャルトルーズへ伝わる。
 鋼の悲鳴が轟きながらその内部を電流が蹂躙しながら破壊していく。電撃が継続するごとに勢いを増して内部から食らいついていく。
 シャルトルーズに破壊衝動をもたらす回路を破壊していき、シャルトルーズを完全破壊へと一気に導く。内部から爆発し始めるシャルトルーズのエネルギーが霧散し、恐らくは自爆へと入ろうとしていた姿を止める。

「エネルギー最大出力、封印重撃!!」
「まずい……! ラスティさん!」

 言葉と共にネフェルト少佐が頭上を取った。それと同時に多重に展開されたシールドが天蓋の様に出現し、空からのあらゆる干渉をシャットアウトする。
 その直後、空が紫色に染まった。

 一瞬にして暗雲が空を覆い、それとシールドを解るように紫電が一瞬で鋼を融解する領域まで電圧を高め、集う。

 轟く雷鳴がそのまま、光の柱となって空気を焦がしながら落ちてくる。ネフェルト少佐が多重展開したシールドで、頭上から落下して来る絶望の塊に対応する。一瞬の閃光からの守護、それをネフェルト少佐が受け止め―――その体が一気に落下し始める。即座に下に回り込み、此方も全力で落下を止める様に下から支えながらも、それでも収まることのない電撃の放流が上から押し潰しにくる。
 高度がどんどん下がって行く。

「封鎖とアーキバス、それに世界を滅ぼす遺物を纏めて始末するなら、このタイミングだと思ったわ。ロイヤルダークソサエティはやることが毎回漁夫ね」

 だからこそ今まで生き残ってきたのだろうが。
 降り注ぐ紫電は衰えない。むしろ何か、異様な力が注ぎ込まれているのか事前に準備されていたネフェルト少佐のシールドに罅を刻み込み、そのまま破壊する様に侵略して来る。ネフェルト少佐が生み出した盾が今にも壊れそうなのは見えていた。

「支援……できねぇ! 不死の守護者邪魔すぎんだろ!」
「私達は雑魚散らしに専念を! ネフェルト少佐とラスティに任しましょう!」

 デュナメスとエクシアは不死の守護者を破壊し続ける。

「ぐ、これは……!」

 ネフェルト少佐の言葉が途中で遮られる。
 ガラスの割れる様な音と共にネフェルト少佐のシールドが貫通された。
 その未来が一瞬だけ、割れるよりも早く見えた。
 目の前にいたシャルトルーズを掴み、抱き寄せ、紫電に背中を向ける様に体で包み―――背中から落ちて来る雷を全身で受け止めた



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