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作者: Ganndamu00
31話:死刑執行者④
 直後―――閃光が空を抜けた。
 メーテルリンクが得意とするアウトレンジからの長距離砲撃が空を焼きながら直線上を薙ぎ払う様に真っ直ぐ、ラスティとシャルトルーズを薙ぎ払うように放たれた。

 チャージする予備動作さえ見せなかった初手での必殺の一撃は、物質創造と並列してチャージしたものなのだろう。
 最初から最大級の魔力収束砲撃が放たれてきた。それに対応する様に、ラスティは跳躍した。
 反対に、シャルトルーズは対消滅シールドを展開し、メーテルリンクの魔力収束砲撃と同等のエネルギーをぶつけて、防いだ。

 敵の攻撃を見てから、その攻撃と同等のエネルギーを生み出す対消滅シールドの生成は、普通の人間にはできない。
 オーパーツと言われたシャルトルーズの本領発揮といったところか。

「我らの祈りを聞き届け給え。悪鬼の御霊を四つ捧げて、三代の依代へ崇め奉る。奉公の禪院、羅刹の涙、天修羅の季節、黄泉を数えて、一つ、二つ、三つ」
「追加詠唱!」

 メーテルリンクの追加詠唱により、既に放った魔力収束砲撃は、その密度と角度を変えて、ラスティとシャルトルーズに襲いかかる。

「魔力臨戦」

 しかし、やる事は変わらない。砲撃そのものを飛び越える様に、いつも通り重力を殺して大跳躍する。同時に新たな砲撃を放とうとうとするメーテルリンクへ向けて、足から物質創造魔法でショートブレードを生み出す。
 それを回転を乗せた全力で蹴りを放つ。
 ショートブレードの弾丸を射出した。即座に最高速度に乗ったそれが結果を生み出すのを確認する前に、体が下へと向かって落下して行く。が、同時に放った攻撃の影響で砲撃が切り上げられ、消えて行く。

 体が完全に落下を始める頃には砲撃が消えている。袖を振って物質創造魔法によって新たなショートブレードを生み出し、更に浮遊剣する魔力剣を複数展開する。

 落下しながらそれを一回大地へと向けて放ち、その反動で小さく浮かび上がる。結果、落下したままであれば体を貫いたであろう魔力の弾丸が足元を抜けて行った。
 それを知覚した瞬間、浮遊する魔力剣を一直線に並べて、それを足場に跳躍する。


 刹那の時間を駆け抜けて、最寄りの屋上へと鉄柵を蹴り飛ばしながらスライドして着地する。

 しかしスライドしながら体は前へと向かって走り出す。それに合わせる様にレンジを変えない為にメーテルリンクが上空へ撤退していくのが見える。
 徹底的にアウトレンジから此方を磨り潰すという意図が見えている―――実際正しい。此方が接近に失敗すれば、遠距離からの飽和攻撃で沈む。

「私の事を理解しているな……思考誘導されていても、戦闘思考は健在らしい。或いは……君こそが犯人なのかな、メーテルリンク」

 魔力で瞬間加速を行いながら跳躍し、速度を一切劣化させない等速移動で屋上から、更に高い屋上へと素早く移動する。

 その姿を追うのを止めたのか、砲撃がなくなる―――その代わりに魔力から生み出された魔力弾が追いかけてくるように正面から迫ってくる。それを目視しながら、迷う事無く屋上から飛び降り、建物の壁を蹴った。
 
 体を縮地の要領で打ち出すのと同時に、壁に引っ掛けた足で体全体を引っ張り上げる事によって一瞬だけ体を上へと持ち上げ、高度を落とすことなく落下する。故に壁を蹴り、壁を蹴り、建物と建物の合間をジグザグに壁を蹴り、跳躍しながら加速して移動する。
 人間の出せる知覚外の速度に、魔力弾が追い付けず、置いて行かれる。
 それに反応する様に放たれた砲撃は薄く―――そして広がっていた。
 広範囲殲滅型の砲撃魔法。それは足場であるビルを破壊しながら確実に飲み込む範囲に広がりながら接近してくる。

 迫ってくる光の壁に対してやれることは何もない。

「シャルトルーズ、援護射撃を頼めるか」
『肯定』

 蹴った壁で体を前へと叩きだす。そして物資創造で新しく生成した剣を投擲する。正面の光壁にぶつかりながら一点の歪みを生んだその地点へと向かって全力で拳を叩き込んで合流すれば、僅かに砲撃が揺らぐ。

「今だ」
『射撃』

 その地点を中心に、ラスティは光の壁を引き裂く。そして背後から魔力の弾丸が突き抜けた。
 広範囲殲滅型の砲撃を展開していたメーテルリンクに、その魔力の弾丸が突き刺さる。スパンと気持ち良い音と共に血が噴き出した。

「ぐ、ッッ!? ですが……まだです!」

 悪鬼の様な笑みと共に、メーテルリンクがラスティの頭上を取っていた。
 それは直接足場が下に来ない限りはどうしようもない位置で、陸戦型のラスティの弱点とも言える場所だった。つまり空戦型が陸戦型に対して得られる最大のアドバンテージ、それが頭上という足場がない限りどうしようもない位置の確保だ。正面ならまだどうにかなる、背面も対応できる。だが頭上が一番対応においては面倒が多い。
 故に、専用の対策が必要とされる―――。

「魔法展開、天輪光翼……!」
 

 魔力を集めて、光の翼を生やす。同時に投石した。屋上に着地した時、スライドしながら削った屋上の床、握りしめていたその破片を手首で反動を付ける様に投擲する。

 魔力を込めるアクションよりも一呼吸早く投擲された破片はまっすぐ、吸い込まれるようにメーテルリンクの目へと向かって飛翔し―――体を横へとズラすことによって回避された。

 その瞬間、コンマ数秒程だが、時間が生み出される。その瞬間に両袖の中から次の武器を生成する。

 二つの剣。
 翼から放たれる魔力が、推進力となって、ラスティの体を一気に空へ浮かび上がらせる。そのまま頭上で構えたメーテルリンクへと蹴りを叩きこむ。

 魔力砲撃を放つ直前の動作に回し蹴りを叩き込んでその発射先を横へと蹴り飛ばす。そのまま足をメーテルリンクの首に引っ掛け、足の筋力のみで全身を支えながら体を折るよう捩じりながら―――メーテルリンクに肉薄した。
 零距離で二つの剣を、メーテルリンクの下半身へ振り下ろす。

「シャルトルーズ!!」
『次弾生成、発射』

 遠くから乾いた銃声が響くのと同時に、ラスティに向けて魔力の籠もった拳が放たれた。

 ラスティの脇腹に突き刺さる。
 視線を喉へと向ければ、メーテルリンクは全身を魔力シールドでガードしているのが見えた。

 その合間を縫った魔力の弾丸が、メーテルリンクの体に着弾する。
 更に遠くから射撃の音が響くのと同時に、メーテルリンクの体から血が噴き出す。

 しかしメーテルリンクは止まらない。脇腹に突き刺した指に魔力が集まり、零距離からの砲撃を食らう。だがそれでも手も意識も手放すことなく、魔力ダメージによる意識の混濁を意志の力でねじ伏せながら、連続で剣を振るい、全身のシールドを削ぎ取っていく。

 一瞬も攻撃の手をブレさせる事もなく、自分の指を髪の毛に絡めるように掴み、そのまま手のひらから魔力に集めて、爆発させる。

「……流石ですね、お兄様」
「想像以上に力をつけているな、メーテルリンク」

 爆風の合間から顔を血で真っ赤に染めつつ笑うメーテルリンクが見える。

 砲音と銃声が響く。空を駆け抜ける戦闘の音に空気が震え、そして痛みが体を満たす。口の端から血を流すのを理解しつつも、前へ進み、剣を振るう。
 ラスティの背後からは魔力が飛来して、メーテルリンクを攻撃し続ける。

 そのまま十数秒間、空中で上がる事も落ちる事もなく剣を振るい続ければ、メーテルリンクの全身の魔力シールドの切れ間から、腕を裂き、赤い滴が流れる。

「お兄様! お兄様! お兄様!」
「良いじゃないか、燃えてくる」

 ラスティは自分の左腕を魔力で爆発させ、引き裂き、その大量の血液をメーテルリンク顔面に叩きつける。
 パァン! とラスティの血がメーテルリンクの顔にかかる。魔力シールドによって防がれているだろうが、視線は途切れる。そのおかげでメーテルリンクの反撃の反応が鈍い。

 故に、好機。
 左腕を即座に再生し、攻撃を再開する。合計18連撃の斬撃を食らわせ、最後に大きく蹴りを叩き込み、地面に向けて大きく吹き飛ばす。

 荒いメーテルリンクの呼吸を読み取って、縮地を使って床に傷を一つ付ける事もなく加速し、その背後へと一歩で到達する。メーテルリンクには知覚する事の出来ない動き、無意識という察知できない領域での動き。

 回り込んだ動きに対して追従する様に振り向く体とは逆方向へと進む。

 逆時計回りに踏み込む此方の体に対して反射の行動で時計回りに動くその体に対して、すり抜ける様に左手の刃で魔力シールドごと肩口から腰まで刃を斬り抜き、斬撃を刻み、その振った刃を骨に当る感触で引き戻す。

 逆の手の刃で全面でXの字を描く様に逆側の肩口から腰まで斬撃を通した。物理法則が速度に追いついて鮮血が溢れ出す。

 メーテルリンクの腹を蹴り飛ばすのと同時に、突き出された槍の様な手刀が左肩に突き刺さり、ラスティの腕の動きを奪う。


「魔法発動、大爆発」
「魔法展開、多重防御壁」

 メーテルリンクの大爆発。
 ラスティの多重防御壁。
 それがぶつかって、結果、ラスティはダメージはないものの遥か彼方へ吹き飛ばされてしまった。
 そのまま地表に落下して、建物の天井を粉砕しながら地面に叩きつけられる……直前に、天輪光翼の物理法則制御能力によって、肉体を柔らかく包みながら、地面に降り立つ。

 ラスティの体はすぐに魔力によって修復され、綺麗な状態に戻る。

「……三割の魔力が今の戦闘で消えた。やはりネックなのは魔力容量か。大空の指輪にチャージして保管しておくのも良いが、取り出して使用するのにタイムラグが命取りになるからな……対策を考える必要があるか」


 体を伸ばしながら、ラスティは自己分析をしつつ、歩き出す。そして自分の居場所を把握する為に周囲を見渡すと、ここは教会であることがわかる。

 周囲には神聖防衛隊の騎士たちが抜剣しており、穏やかな雰囲気ではない。そして何より目についたのは、衣服をズタズタにされて、血塗れの聖女がいることだった。

「聖女エミーリア」
「ラスティ……さん」

 そして、それを行ったと思われる主犯は、金色の髪をおかっぱにした若い男性だった。

「なんや、せっかくやから聖女さん嬲ろう思って来たのに、噂の新人君が教会に突っ込んで来るなんて運が悪いなぁ」
「随分と手荒な真似をしているようだ。性癖の押し付けは感心しないな」
「ちゃうよ、ちゃうちゃう。これは同意の上やねん。聖女さんは恥ずかしがり屋でなぁ、自分を傷つけめ欲しいと強請られたんよ。だから見逃してくれへん?」
「違います!」
「自分は黙っとれ」

 おかっぱ頭の若い男はグーで、エミーリアの顔面を殴った。エミーリアは怯えた表情になる。

「俺は戦ったりする野蛮なの嫌いやねん。同じ地球出身のプレイヤー同士、仲良くしようや」
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