残酷な描写あり
ストーカー対策しちゃいけないですか⁈ ①
季節は3月初旬。風がまだ冷たいこともあるが、昼間は暖かい風も少しは吹いてきて春の訪れが近いことを感じさせてくれる。
今は学校が終わって帰っている途中。私は誰かと帰ることはない。別に友達がいないからってわけじゃない。
まず奏お姉ちゃんは生徒会に入っているから、忙しくて一緒に帰れない。待っていてもいいのだが、奏お姉ちゃんが待たせたことを申し訳なさそうにして悲しい顔をするので、それはやらないようにしている。
あとはクラスメイトがいるが、私は帰宅部。なので、周りの部活をしている子たちと帰る時間が合わないだけだ。
まあ一人部活をしていない子はいるが、何故だか断られてしまう。悪いことしてるつもりはないんだけどなあ。
だからこうやって一人で帰っているのだ。
この隣に誰でもいいからいてくれればいいのにと思うが、いない以上は仕方がない。センチメンタルな気持ちに沈む時間にでもしてしまおう。少し寂しいが。
そんなことを考えながら、私は帰り道の住宅街を歩いていく。
スタスタスタ…………ピタッ。
人の気配がする。私は振り向く。だが誰もいない。あるのは電柱が何本かとゴミ箱のようなもの。気のせいか。私は前を向いて再び歩きだす。
だが、数歩歩くと再び人の気配がしてくる。今度は急旋回してみる。だが、何もない。誰もいない。道沿いの壁が隠れられそうになっているから、一応確認してみよう。
私はそこに向かう。着いたら壁の向こうを覗き込んでみる。だが、誰もいない。ただ人の家の庭があるだけ。人のいた痕跡もない。
おかしい。何か絶対におかしい。私の脚は恐怖で震え出した。
実はここ一週間ずっと帰り道で誰かにつけられている。なのに犯人が見つからない。気のせいかもしれないが、こんなにも誰かに尾行されてる感覚が一週間も続くだろうか。絶対にない。誰かにつけられてるに決まっている。
今この瞬間も誰かにつけられてるのかもしれない。早く帰ろうっ。早く帰って家族……琴姉に相談しよう! 私は急足で家へと向かった。
その途中も誰かにつけられてる気はしたが、気にしないように前だけを向いて帰った。
「誰かにつけられてる気がする……か」
帰ってくるなり私は早速琴姉に相談した。琴姉は相談を聞くなりパソコンを叩き出した。
「まあ手っ取り早いのは警察に相談だなあ」
警察か。私は難色を示した。確かに警察に相談するのはベストな気はする。しかし、警察に相談すると大ごとになる。そこまでのことにはしたくないって言うのが私の本音だ。
そのことを伝えると、琴姉は少し難しそうな顔をしていた。
「確かになあ。そうなると面倒だもんな。それに、犯人の目星もついてない上、証拠もないんじゃ警察も動きづらいだろうしなあ」
そう言うと琴姉は再びパソコンを打ち出した。やがて答えを見つけた琴姉はパソコンを閉じた。
「とりあえず、帰り道を変えてみるくらいじゃないかな。出来そうなのは」
帰り道を帰るか。なるほど。これなら簡単にできる。これで解決すれば警察の手を借りなくても済む。いいアイデアだ。私は琴姉に感謝した。
それで翌日。私はいつもの帰り道を大きく迂回するルートを取ってみた。結果は、なんとこれが上手くいきついてこられる気配はなかった。
なんだ簡単な話じゃん。これでこの話は終わりだ。私はそう胸を撫で下ろした。しかし、そんなに上手くいかなかった。
なんと次の日にはもう、誰かにつけられてる気配がするのだ。もうルートがバレてしまったのかと思い、次の日またルートを変えてみた。だが、これも効果がその次の日には無くなってしまった。
やはり、ルートを変えるだけでは意味がないのか。私は落胆した。こうなったら他の人にも相談してみよう。そうだ、学校のクラスメイトで親友の秋葉楓に相談してみよう。
楓は滅茶苦茶仲のいい友人だ。彼女なら親身に相談に乗ってくれるだろう。そうしよう。私は早足で帰りながら、次の相談の相手を決めた。
「なるほど……。最近つけられていると」
楓はメガネをクイっと持ち上げた。楓は高校からの友人だ。大人しく物静かな、まさに大人な女性と言うべき存在だ。
髪は黒色の三つ編みで、ザ・図書委員って感じの見た目をしている。だが顔はかなりの美人で、身長もそんなに低くはない。噂によると隠れファンが多いとか。
そんな彼女に相談した理由は口が固く、他の人に漏らしそうにないからだ。
それから、楓はすっごく真面目な女の子だ。こういう悩みも真剣に聞いて、何かいい策を出してくれそうだ。
あと純粋に仲がいいからと言うのもある。さて、楓はどんな解決法を提示してくれるのだろうか。
少し悩んだ後、楓が口を開く。
「無視すればいいんじゃないでしょうか?」
楓特有の澄んだ声で楓は言う。なんとも意外な答えだった。そんなんじゃ何も解決しなさそうだと言うと、楓は続けた。
「反応するから、面白がってストーキングしているって側面もありそうな気がします。美優羽さんが何も気にしなければ、面白く無くなって飽きて辞めるんじゃないかなと思います」
楓は真面目な顔をして言った。確かにそうかもしれない。私が振り返ったり、探したりするから、それが面白くてやっているのかもしれない。
けれど、気にしないなら気にしないでそれに付け込んで、さらに加速させてきそうな気もするのだ。
「そうかなあ……」
私はどうすればいいかがわからなくなった。
その時だった。
「美優羽ちゃーん!」
隣のクラスの奏お姉ちゃんが私のクラスの教室に入ってきた。
「美優羽ちゃん教科書ありがとうね。お陰で助かったよぉ」
そう言いながら、穏やかな顔で数学の教科書を私に返してきた。
「数学って毎日あるのに忘れるのが不思議だわ。カバンの中に入れっぱなしにしとけばいいのに」
「昨日勉強してたらつい入れ忘れちゃって……」
てへっ、と奏お姉ちゃんは舌を出して答えた。珍しくお茶目な表情をしている奏お姉ちゃん。こういう奏お姉ちゃんもアリだな。私は心の中で拳を握り締めた。
その時ふと楓を見ると何故か複雑な表情をしていた。どうしたんだろうか? 何か奏お姉ちゃんとあったのかな?
「楓、なんかすごい顔してるけどどうしたの?」
私がそう尋ねると楓は慌て出した。
「あっ、すいません。そんな顔していましたか?」
「うん。すっごいどうしようか悩んでそうな複雑な顔してた。何かお姉ちゃんとあったの?」
「いえ。ちょっと……いえ、なんでもありません」
楓は誤魔化すように言った。まあ本人が何も無いっていうなら大丈夫なんだろう。
「ふーん。そうなんだ」
私はこのことを気にしないようにすることにした。
「ところで二人はどんな話をしていたの?」
奏お姉ちゃんがにこやかな表情で聞いてきた。ストーカーされている事を素直に言っていいものだろうか。正直に言うと、奏お姉ちゃんを心配させたくない。
けれど、奏お姉ちゃんに言わずに悪化してしまったら余計に悲しませるかもしれない。仕方ない。正直に話そう。
「実は……」
そこから奏お姉ちゃんに自分が誰かにつけられている気がするという事を告げた。始めは驚いた表情を見せていたが、次第に真剣な眼差しに変わっていった。
「なるほどぉ。つけられているかぁ」
奏お姉ちゃんは顎に手をつき考え込んでいる。こんな真剣に考えてくれる奏お姉ちゃん見たことがない。いい表情が見れた。私はこの時点で相談してよかったと思った。
「それなら、一緒に帰らない?」
奏お姉ちゃんが出した提案は意外なものだった。
「一緒に帰ってどうなるの?」
「ストーカー被害がなくなるとは思わないけど、一緒に帰ってれば人数が多いから、ストーカーさんは何もしてこないと思うよぉ。それなら危なくないから安心して帰れると思うんだぁ。ただ私が生徒会で遅くなるから待たせちゃうのが申し訳ないんだけど、美優羽ちゃんに何かある方が嫌だから、こうしようかなあって思ったのぉ」
なるほど。確かにストーカー自体をどうにか無くすことは難しい。けれどこうすれば、その後何かされる心配は無い。
あと純粋に奏お姉ちゃんと合法的に一緒に帰ることができる。そう思えればいつまでも待てる。なんと素晴らしい事だろうか! 私はその考えに賛同することにした。
「いい考えだわ。じゃあ一緒に帰りましょう」
「わかったわ。それじゃあ二人ともちょっと遅くなるけどよろしくねっ」
奏お姉ちゃんは頬を緩ませていた。
「えっ? 私もですか?」
楓は少し困惑した表情を浮かべていた。
「ダメ……だったかな?」
奏お姉ちゃんが困ったように言うと、楓はフルフルと首を横に振った。
「い、いえ。大丈夫ですよ」
楓の表情は笑みへと変わった。こうして今日は奏お姉ちゃんと楓と私で帰ることになった。
今は学校が終わって帰っている途中。私は誰かと帰ることはない。別に友達がいないからってわけじゃない。
まず奏お姉ちゃんは生徒会に入っているから、忙しくて一緒に帰れない。待っていてもいいのだが、奏お姉ちゃんが待たせたことを申し訳なさそうにして悲しい顔をするので、それはやらないようにしている。
あとはクラスメイトがいるが、私は帰宅部。なので、周りの部活をしている子たちと帰る時間が合わないだけだ。
まあ一人部活をしていない子はいるが、何故だか断られてしまう。悪いことしてるつもりはないんだけどなあ。
だからこうやって一人で帰っているのだ。
この隣に誰でもいいからいてくれればいいのにと思うが、いない以上は仕方がない。センチメンタルな気持ちに沈む時間にでもしてしまおう。少し寂しいが。
そんなことを考えながら、私は帰り道の住宅街を歩いていく。
スタスタスタ…………ピタッ。
人の気配がする。私は振り向く。だが誰もいない。あるのは電柱が何本かとゴミ箱のようなもの。気のせいか。私は前を向いて再び歩きだす。
だが、数歩歩くと再び人の気配がしてくる。今度は急旋回してみる。だが、何もない。誰もいない。道沿いの壁が隠れられそうになっているから、一応確認してみよう。
私はそこに向かう。着いたら壁の向こうを覗き込んでみる。だが、誰もいない。ただ人の家の庭があるだけ。人のいた痕跡もない。
おかしい。何か絶対におかしい。私の脚は恐怖で震え出した。
実はここ一週間ずっと帰り道で誰かにつけられている。なのに犯人が見つからない。気のせいかもしれないが、こんなにも誰かに尾行されてる感覚が一週間も続くだろうか。絶対にない。誰かにつけられてるに決まっている。
今この瞬間も誰かにつけられてるのかもしれない。早く帰ろうっ。早く帰って家族……琴姉に相談しよう! 私は急足で家へと向かった。
その途中も誰かにつけられてる気はしたが、気にしないように前だけを向いて帰った。
「誰かにつけられてる気がする……か」
帰ってくるなり私は早速琴姉に相談した。琴姉は相談を聞くなりパソコンを叩き出した。
「まあ手っ取り早いのは警察に相談だなあ」
警察か。私は難色を示した。確かに警察に相談するのはベストな気はする。しかし、警察に相談すると大ごとになる。そこまでのことにはしたくないって言うのが私の本音だ。
そのことを伝えると、琴姉は少し難しそうな顔をしていた。
「確かになあ。そうなると面倒だもんな。それに、犯人の目星もついてない上、証拠もないんじゃ警察も動きづらいだろうしなあ」
そう言うと琴姉は再びパソコンを打ち出した。やがて答えを見つけた琴姉はパソコンを閉じた。
「とりあえず、帰り道を変えてみるくらいじゃないかな。出来そうなのは」
帰り道を帰るか。なるほど。これなら簡単にできる。これで解決すれば警察の手を借りなくても済む。いいアイデアだ。私は琴姉に感謝した。
それで翌日。私はいつもの帰り道を大きく迂回するルートを取ってみた。結果は、なんとこれが上手くいきついてこられる気配はなかった。
なんだ簡単な話じゃん。これでこの話は終わりだ。私はそう胸を撫で下ろした。しかし、そんなに上手くいかなかった。
なんと次の日にはもう、誰かにつけられてる気配がするのだ。もうルートがバレてしまったのかと思い、次の日またルートを変えてみた。だが、これも効果がその次の日には無くなってしまった。
やはり、ルートを変えるだけでは意味がないのか。私は落胆した。こうなったら他の人にも相談してみよう。そうだ、学校のクラスメイトで親友の秋葉楓に相談してみよう。
楓は滅茶苦茶仲のいい友人だ。彼女なら親身に相談に乗ってくれるだろう。そうしよう。私は早足で帰りながら、次の相談の相手を決めた。
「なるほど……。最近つけられていると」
楓はメガネをクイっと持ち上げた。楓は高校からの友人だ。大人しく物静かな、まさに大人な女性と言うべき存在だ。
髪は黒色の三つ編みで、ザ・図書委員って感じの見た目をしている。だが顔はかなりの美人で、身長もそんなに低くはない。噂によると隠れファンが多いとか。
そんな彼女に相談した理由は口が固く、他の人に漏らしそうにないからだ。
それから、楓はすっごく真面目な女の子だ。こういう悩みも真剣に聞いて、何かいい策を出してくれそうだ。
あと純粋に仲がいいからと言うのもある。さて、楓はどんな解決法を提示してくれるのだろうか。
少し悩んだ後、楓が口を開く。
「無視すればいいんじゃないでしょうか?」
楓特有の澄んだ声で楓は言う。なんとも意外な答えだった。そんなんじゃ何も解決しなさそうだと言うと、楓は続けた。
「反応するから、面白がってストーキングしているって側面もありそうな気がします。美優羽さんが何も気にしなければ、面白く無くなって飽きて辞めるんじゃないかなと思います」
楓は真面目な顔をして言った。確かにそうかもしれない。私が振り返ったり、探したりするから、それが面白くてやっているのかもしれない。
けれど、気にしないなら気にしないでそれに付け込んで、さらに加速させてきそうな気もするのだ。
「そうかなあ……」
私はどうすればいいかがわからなくなった。
その時だった。
「美優羽ちゃーん!」
隣のクラスの奏お姉ちゃんが私のクラスの教室に入ってきた。
「美優羽ちゃん教科書ありがとうね。お陰で助かったよぉ」
そう言いながら、穏やかな顔で数学の教科書を私に返してきた。
「数学って毎日あるのに忘れるのが不思議だわ。カバンの中に入れっぱなしにしとけばいいのに」
「昨日勉強してたらつい入れ忘れちゃって……」
てへっ、と奏お姉ちゃんは舌を出して答えた。珍しくお茶目な表情をしている奏お姉ちゃん。こういう奏お姉ちゃんもアリだな。私は心の中で拳を握り締めた。
その時ふと楓を見ると何故か複雑な表情をしていた。どうしたんだろうか? 何か奏お姉ちゃんとあったのかな?
「楓、なんかすごい顔してるけどどうしたの?」
私がそう尋ねると楓は慌て出した。
「あっ、すいません。そんな顔していましたか?」
「うん。すっごいどうしようか悩んでそうな複雑な顔してた。何かお姉ちゃんとあったの?」
「いえ。ちょっと……いえ、なんでもありません」
楓は誤魔化すように言った。まあ本人が何も無いっていうなら大丈夫なんだろう。
「ふーん。そうなんだ」
私はこのことを気にしないようにすることにした。
「ところで二人はどんな話をしていたの?」
奏お姉ちゃんがにこやかな表情で聞いてきた。ストーカーされている事を素直に言っていいものだろうか。正直に言うと、奏お姉ちゃんを心配させたくない。
けれど、奏お姉ちゃんに言わずに悪化してしまったら余計に悲しませるかもしれない。仕方ない。正直に話そう。
「実は……」
そこから奏お姉ちゃんに自分が誰かにつけられている気がするという事を告げた。始めは驚いた表情を見せていたが、次第に真剣な眼差しに変わっていった。
「なるほどぉ。つけられているかぁ」
奏お姉ちゃんは顎に手をつき考え込んでいる。こんな真剣に考えてくれる奏お姉ちゃん見たことがない。いい表情が見れた。私はこの時点で相談してよかったと思った。
「それなら、一緒に帰らない?」
奏お姉ちゃんが出した提案は意外なものだった。
「一緒に帰ってどうなるの?」
「ストーカー被害がなくなるとは思わないけど、一緒に帰ってれば人数が多いから、ストーカーさんは何もしてこないと思うよぉ。それなら危なくないから安心して帰れると思うんだぁ。ただ私が生徒会で遅くなるから待たせちゃうのが申し訳ないんだけど、美優羽ちゃんに何かある方が嫌だから、こうしようかなあって思ったのぉ」
なるほど。確かにストーカー自体をどうにか無くすことは難しい。けれどこうすれば、その後何かされる心配は無い。
あと純粋に奏お姉ちゃんと合法的に一緒に帰ることができる。そう思えればいつまでも待てる。なんと素晴らしい事だろうか! 私はその考えに賛同することにした。
「いい考えだわ。じゃあ一緒に帰りましょう」
「わかったわ。それじゃあ二人ともちょっと遅くなるけどよろしくねっ」
奏お姉ちゃんは頬を緩ませていた。
「えっ? 私もですか?」
楓は少し困惑した表情を浮かべていた。
「ダメ……だったかな?」
奏お姉ちゃんが困ったように言うと、楓はフルフルと首を横に振った。
「い、いえ。大丈夫ですよ」
楓の表情は笑みへと変わった。こうして今日は奏お姉ちゃんと楓と私で帰ることになった。