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作者: 結城貴美
残酷な描写あり R-15
049 公園
 食料品の買い物を済ませて宿へと戻った。フォスターが部屋で鎧を脱いでいるとコーシェルが立て掛けてある盾に気付いた。

「手首の格納石ストライトって本当はこれを仕舞っとくんじゃったよな?」
「だからもう一つ欲しいんだよ」
「荷物の袋にわざわざつけたんか……荷物多いのう」

 コーシェルが格納石ストライトから出した荷物の大袋を見て言った。着替え、タオル、寝具、料理用の道具や皿類、他の生活用品、食糧、水筒、神の石など一度ビスタークからも文句を言われたくらいの多さだ。
 
「……何でもたくさん入るからあれもこれもと欲張ったのは認める」
「まあ便利だからなあ、これ。俺たちも一つずつ持ってるぜ」
「土産もたくさん買ったからのう」
「これを貸しちゃうと俺たちが困るしなあ。この石、もっと買っておけばよかったなあ」

 謝るようにウォルシフがそう言った。

「? なんじゃこの盾、前は裏側にこんなごちゃごちゃとついて無かったと思うが」

 コーシェルが盾に折り畳んで仕舞われた操縦桿の部品を見ながらそう言って触り始めた。元々は神殿に保管されていたのでコーシェル達には馴染みの物である。

「ああそうか、言ってなかったな」

 フォスターは盾を組み立ててその場で乗り浮いてみせた。

「なんじゃそれ!?」
「うわっ! すげえ!」

 コーシェルとウォルシフが目を輝かせて大きな声でそう言った。

「乗ってみたい! どうせカイルが作ったんだろ?」
「ここでやるなよ。貸すから公園で乗ってくれ。くれぐれも壊さないでくれよ。だから速度は抑えて乗ってくれ」
「「わかった!」」

 操縦の仕方をフォスターから興奮気味に聞いている兄弟の反応にリューナが呟く。

「男の人って子どもみたいなところあるよね……」


 コーシェル達が公園へ行っている間、フォスター達は食堂で仕込みの仕事をしていた。店が開くのは昼の時間である水の刻からだが、その半刻前から仕事を始めていた。店員達は既に仕事中だったが、まあ飛び入りの手伝いなどそんなものだろうと思い、早速指示された仕事を始めた。とりあえずフォスターは窓拭きとテーブル拭き、リューナは茹で卵の殻むきと芋の皮剥きをすることになっていた。

 フォスターは手早く終わらせてリューナを手伝おうと厨房へ戻ると、店員達にリューナが囲まれていた。何事かと慌てて状況を見ると、どうやら目の見えないリューナが刃物を持って皮を剥くのをハラハラしながら見守っているようだった。目が見えないので当然なのだが、顔の位置が手元を見るような感じでも別の方向を向いていても関係無いので、店員たちの方を向いて皮むきをするリューナを見てギョッとしたらしい。

「大丈夫ですよ。いつもやってましたから」
「そうなんだろうけど……見えないのにすごいな」
「触って確かめるから少し時間はかかりますけどね」

 店員達が優しく見守ってくれていることにほっとした。これなら不審者が入ってきてもすぐに対処してもらえそうである。



 フォスターとリューナの兄妹が食堂で仕事をしている間、神官兄弟は公園で盾に乗って遊んでいた。このような乗り物など今まで存在していなかったので、当然人目を引いている。フォスターはリューナが狙われていることもあり目立つことを避けていたので人前では乗らなかったのだが、コーシェル達はそんなことを気にせず好きなように乗りまわしていた。ひとしきり遊んだ後その場で休憩していると、小さい子どもが近づいてきた。

「ぼくものせてほしいな……だめ?」

 おそるおそる、といった様子でコーシェルに聞いてきた。母親と思われる女性が慌ててやってきた。

「すみません! ほら、お兄さん困ってるでしょ。あっちで遊ぼう」

 恐縮している若い母親に謝られた。コーシェルはそれを軽く笑って流し、子どもに目線を合わせてこう言った。

「乗ってもええよ。ただ一人じゃ危ないからの、わしと一緒に乗るってことでもええか?」
「うん!」
「す、すみません、ありがとうございます!」

 コーシェルは子どもを自分の後ろに乗せて足にしがみつかせた。公園の池の周りを一周して元いた場所に戻ってくると、子ども達が集まって列を作っていた。

「なんじゃこれ」
「みんな乗りたいんだって。だから順番待ちの列を作っといた」
「……途中でお前と交代するからの」

 コーシェルは勝手にことを運んだウォルシフを睨みながら子ども達を乗せ続けた。学校入学前の子どもばかりだ。今日がもし学校の休みの日だったら、もっとたくさんの子どもに乗せろとせがまれていたに違いない。学校のある日で良かったと思った。
 途中でウォルシフと交代し、木に寄りかかって座り子ども達の相手をしていると見覚えのある男がこちらへ近づいてくるのが見えた。コーシェルは咄嗟にとある仕掛けをし、向かってくる男を待ち構えた。男は昨日食堂で隣の席に座っていたジェルクと呼ばれていた男だった。

「良い物持ってるじゃないか」

 ジェルクは子ども達を押し退けながら人を見下したような態度でそう言った。

「ボクが高く買ってあげよう。二十万レヴリスくらいでどうだい?」
「売らんよ」
「じゃあ五十万」
「全然足らんな」

 昨日ジェルクは金が無いと言っていたが、コーシェルはあえて何も聞かなかった。そんなやり取りをしているうちにウォルシフが戻ってきた。次の子が乗ろうとするとジェルクが邪魔をした。

「金なら払うからボクに乗らせろ」
「なんだこいつ」
「そんな金額じゃあ全然足りんと言っとるじゃろ」
「ちっ、がめつい貧乏人め。いくらいるんだ」
「そうじゃな、神話の時代の代物を使った発明品で一品物じゃからな。五億くらいいくんじゃないかのう」
「ごっ……!?」

 そんなやり取りをしているのをウォルシフは無視して次の子を乗せて走り出した。

「あっ、くそっ!」

 舌打ちしたのを見てコーシェルは鼻で笑う。馬鹿にされたと思ったジェルクは忌々しげに言葉を放つ。

「……そうか、宙に浮いてるし、お前ら飛翔神の町リフェイオスの奴らだな?」
「だったらなんじゃ」
「罰を受けた神のくせに」
「まだそんな三千年も昔のこと言ってる奴おるんか」
「田舎者のくせにさっきから生意気なことばかり言いやがって。ボクを誰だと思ってるんだ」

 それを聞いてコーシェルは内心ほくそえんだ。

「知らんよ。誰なんじゃ」
「レプロベート商会の跡取りのジェルクだぞ!」

 コーシェルは気付かれないようほんの少しニヤリと笑って聞き返す。

「ほー、ではあの選挙に出ている対立候補の?」
「そうだ。次期町長の息子だぞ!」

 落ちることを考えていないのか誇らしげである。喋っているうちにウォルシフが戻ってきて次の子どもを乗せて行ったことにも気がついていないようだった。ウォルシフは子ども達に何か言ったらしく、残りの子ども達は別のところで待機することにしたようだ。もう残りは二人くらいだったが。

「次期町長の息子だったらどうなるんじゃ?」
「そんなこともわからないのか。お前らをこの町から追い出して出入り禁止にしてやるのさ。ボクのための町にするんだ」

 コーシェルは呆れた。この男がここまで馬鹿だとは思わなかった。町長は別に独裁者ではない。学校の授業でも教わるはずであるが、大神官との二頭政治だということを知らないのだろうか。町長とはあくまでも一般人の代表であり、民衆の代弁者であり、神殿の神官達に不審な点が無いか外部の目を入れるための者である。相当甘やかされて学校も疎かにしてきたのだろうと推測した。

「選挙に落ちることは考えておらんのか?」
「ふん、そんなものは色々協力を頼んであるから大丈夫さ。後で泣いて詫びる姿を楽しみにしているよ」
「そうじゃな、楽しみにしておるよ」

 最後の子どもが乗ったのを確認してコーシェルは立ち上がった。それを見たジェルクの言葉を聞いて、コーシェルは手加減しないことに決めた。

「覚えてろよ、チビ!」
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